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二人のなれそめ編
借り【後編】
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「その人は、高校時代の先生で…その、昔、付き合ってたんです」
柚子の言葉に、彰吾は苛立ちを感じた。
ばからしい。こいつにだって付き合っていた奴ぐらいいただろう。
「で、そいつに、いや、言いたくないなら…」
「いいえ、ちゃんとお話します。その人が突然現れて、私、驚いて、逃げたんです」
「…そんなに会いたくない奴だっのか」
「はい、二度と。別れてから一度も連絡してません。それなのに…」
柚子は両手を握り合わせ、うつむいた。
付き合っていたとはいえ、これほど嫌がるとは、よっぽどのことがあったのだろう。
彰吾の苛立ちは更に強くなった。
彰吾はマグカップをテーブルに置き、立ち上がる。
「話はもういい。今からお前のアパートに行くぞ」
彰吾が突然言った。
「えっ」
「さすがにその男、今はいないだろう。直ぐ着替えてくる。お前も準備しろ」
驚いている柚子を残し、彰吾は寝室に向かった。
二人が車に乗り込むと柚子が聞く。
「な、何をする気ですか」
「決まってるだろ。お前の引っ越しだ」
「引っ越し?そ、そんな急に」
「その男がまた現れるかわからないんだぞ。悠長にしてられるか」
「でも引っ越し先なんて…」
「お前は心配するな」
十数分後、柚子のアパート前に着くと、部屋から必要なものだけを段ボールに詰め、20分もしないうちにそこを後にした。
「で、どこに行くんですか?」
「俺の家だ」
彰吾が言うと、柚子は目を丸くした。
「ええっ!ちょっとまってください!何で、槇村様の家に?!」
「心配するな、俺と一緒に住めって言ってるわけじゃねえよ。
俺が持ってる、別のマンションだ。広くはないが、まあ一人暮らしには十分だろう」
到着したマンションは、柚子が住んでいた部屋の何倍もの広さがあり、冷蔵庫や洗濯機などの家電は、最新のものが完備されていた。
柚子は荷物を持ったまま、あんぐりと口を開ける。
「ここはオートロック完備だ。駅から近いし人通りも多い。お前の学校からも電車で数分で行けるだろう。ほとぼりが冷めるまでここで暮らせ」
「は、はい…」
彰吾の説明にも上の空で柚子は答える。
「あ、あの、槇村様、ありがとうございます。でも、どうしてここまでしてくれるんですか?」
柚子の戸惑いがありありと伝わってくる。
彰吾は柚子の荷物を床に置き、ニヤリと笑った。
「礼は俺じゃなくて、お前の父親に言え。やっと借りが返せる」
彰吾の一番の目的、それは柚子の父、高地隆成から昔受けた恩を柚子の返すこと。
それが今回の事でやっと返せることになった。
柚子は彰吾に詰め寄った。
「それがホントの目的だったんですか?そ、それとこれはとは別です!」
「お前が助けを求めてきた時点で、契約は成立してるんだ。四の五の言うな」
彰吾が容赦なく言うと、柚子はむっつりと押し黙った。
父親の件に関しては、相変わらず頑固だ。
「お前も、この状況で意地張ってる場合じゃないってのはわかってるだろ。
それとも、自分のアパートで怯えて過ごすか?」
彰吾の問いに、柚子は俯きながらもゆっくりと頭を振った。
「で、でも!やっぱり、お言葉に甘える訳にはいきません!家賃は払います!
足りないかもしれませんが、受け取ってください!」
柚子は彰吾に懇願する。
彰吾は苦笑しつつ考えた。
「家賃はいらない」
「そんな!」
「代わりに、他で払ってもらう」
「ほか?私、これ以上、物なんてありませんが…」
「あるだろう?金以上に価値のあるものが」
柚子は首をかしげる。
彰吾はそんな柚子を見て、意味ありげに笑った。
柚子の言葉に、彰吾は苛立ちを感じた。
ばからしい。こいつにだって付き合っていた奴ぐらいいただろう。
「で、そいつに、いや、言いたくないなら…」
「いいえ、ちゃんとお話します。その人が突然現れて、私、驚いて、逃げたんです」
「…そんなに会いたくない奴だっのか」
「はい、二度と。別れてから一度も連絡してません。それなのに…」
柚子は両手を握り合わせ、うつむいた。
付き合っていたとはいえ、これほど嫌がるとは、よっぽどのことがあったのだろう。
彰吾の苛立ちは更に強くなった。
彰吾はマグカップをテーブルに置き、立ち上がる。
「話はもういい。今からお前のアパートに行くぞ」
彰吾が突然言った。
「えっ」
「さすがにその男、今はいないだろう。直ぐ着替えてくる。お前も準備しろ」
驚いている柚子を残し、彰吾は寝室に向かった。
二人が車に乗り込むと柚子が聞く。
「な、何をする気ですか」
「決まってるだろ。お前の引っ越しだ」
「引っ越し?そ、そんな急に」
「その男がまた現れるかわからないんだぞ。悠長にしてられるか」
「でも引っ越し先なんて…」
「お前は心配するな」
十数分後、柚子のアパート前に着くと、部屋から必要なものだけを段ボールに詰め、20分もしないうちにそこを後にした。
「で、どこに行くんですか?」
「俺の家だ」
彰吾が言うと、柚子は目を丸くした。
「ええっ!ちょっとまってください!何で、槇村様の家に?!」
「心配するな、俺と一緒に住めって言ってるわけじゃねえよ。
俺が持ってる、別のマンションだ。広くはないが、まあ一人暮らしには十分だろう」
到着したマンションは、柚子が住んでいた部屋の何倍もの広さがあり、冷蔵庫や洗濯機などの家電は、最新のものが完備されていた。
柚子は荷物を持ったまま、あんぐりと口を開ける。
「ここはオートロック完備だ。駅から近いし人通りも多い。お前の学校からも電車で数分で行けるだろう。ほとぼりが冷めるまでここで暮らせ」
「は、はい…」
彰吾の説明にも上の空で柚子は答える。
「あ、あの、槇村様、ありがとうございます。でも、どうしてここまでしてくれるんですか?」
柚子の戸惑いがありありと伝わってくる。
彰吾は柚子の荷物を床に置き、ニヤリと笑った。
「礼は俺じゃなくて、お前の父親に言え。やっと借りが返せる」
彰吾の一番の目的、それは柚子の父、高地隆成から昔受けた恩を柚子の返すこと。
それが今回の事でやっと返せることになった。
柚子は彰吾に詰め寄った。
「それがホントの目的だったんですか?そ、それとこれはとは別です!」
「お前が助けを求めてきた時点で、契約は成立してるんだ。四の五の言うな」
彰吾が容赦なく言うと、柚子はむっつりと押し黙った。
父親の件に関しては、相変わらず頑固だ。
「お前も、この状況で意地張ってる場合じゃないってのはわかってるだろ。
それとも、自分のアパートで怯えて過ごすか?」
彰吾の問いに、柚子は俯きながらもゆっくりと頭を振った。
「で、でも!やっぱり、お言葉に甘える訳にはいきません!家賃は払います!
足りないかもしれませんが、受け取ってください!」
柚子は彰吾に懇願する。
彰吾は苦笑しつつ考えた。
「家賃はいらない」
「そんな!」
「代わりに、他で払ってもらう」
「ほか?私、これ以上、物なんてありませんが…」
「あるだろう?金以上に価値のあるものが」
柚子は首をかしげる。
彰吾はそんな柚子を見て、意味ありげに笑った。
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