俺様な極道の御曹司とまったりイチャイチャ溺愛生活

二人のなれそめ編

こころのありか【後編】

朝のちょっとしたハプニング？のせいで、彰吾は機嫌が悪かった。
一緒に昼ご飯を食べている最中も、むっつりとしていた。
しかし、ただ機嫌が悪かったわけではない。
この代償を柚子にどうやって払わせるか、考えていたのだ。
そして柚子をデパートに連れて行く。
「新しい服を買え」
彰吾は柚子に命令した。
「えっ!大丈夫です!今持ってる服で充分ですから」
「何言ってる。クローゼット、ガラガラだったじゃねえか」
「クローゼットが大きすぎるんです！ていうか、覗かないでください、セクハラです!!」
「あの家の所有者は俺だ。俺が何を見ようが俺の自由だ。どうせこれから横にもデカくなるんだから、新しいの買っとけ」
「太るって決めつけないでください!」
彰吾は嫌がる柚子を引っ張り、ファッションフロアに連れて行く。
とはいえ、彰吾に女子大学生の今の流行など知る由もない。
店員に言われるがままに柚子に試着させ、似合うと思った服を次々と買い与えようとする。
しかし、今回は柚子も負けていなかった。
「丈が短い」「女の子っぽ過ぎる」「自分の好みじゃない」とハッキリ言い、抵抗した。
そのたびに、彰吾は不機嫌になり、店員に新しい服を持ってこさせる。
不幸なのは店員である。
二人の意見が食い違うと、服を探しにフロアを右往左往しなければならなかった。
お互いがなんとか折り合いをつけ、買い物が終わった頃には、既に日が暮れていた。

案の定、これだけで終わるわけではない。
彰吾は柚子を焼肉屋に連れて行く。

「遠慮しないで食えよ」
「食べてます。それより槇村様、さっきから赤身のお肉ばっかり食べてませんか？」
「俺はいいんだよ。お前が食え」
「カルビも食べてください。お若いんですから」
「…お前、アカラサマに言うようになったな」
最近胃もたれが、と言える状態ではない。彰吾は言われた通りカルビに箸をつける。
柚子はにっこりと笑い、自分もカルビを口に入れた。
柚子はマイペースにそして美味しそうに食べる。その姿は見ていて気持ちがよかった。
「あのう…」
「なんだ」
「私の顔に何かついてますか？」
「…別に」
柚子の食べっぷりに見とれていたのを誤魔化すように、彰吾は網で煙を上げている肉を口に放り込んだ。
熱い脂が口いっぱいに広がり、慌ててウーロン茶を飲む。
「お前、もっと食べろよ」
「た、食べてます。もうお腹いっぱいです」
柚子はふう、とため息をついた。
「まだ残ってるだろ」
彰吾はトングで、肉を柚子の皿に次々とのせていく。
「これ以上食べたら、さっき買った服が入らなくなります！槇村様が食べてください！」
仕返しとばかりに、柚子も自分の皿にのせられた肉を彰吾の皿にのせようとするが、彰吾は素早く皿をどかせた。
「自分で食え。というか、お前、毎日ちゃんと飯食ってるか？冷蔵庫の中ほとんど空だったぞ」
「また、勝手に！毎日ちゃんと食べてます！というか、あの冷蔵庫も大きすぎるんですっ!」
柚子は少しむくれて、肉を口に含んだ。
腹が一杯と言いながらも、残さず食べている。
彰吾はふと思った。
「おい」
「なんですか？」
「いい加減、俺を『槇村様』って呼ぶな」
そう言って、彰吾は少し焦げた野菜を食べる。
「どうしてですか？」
「俺が変な目で見られるんだよ。さっきのデパートの店員にも怪しまれたんだぞ」
「じゃあ、槇村さん、と呼べばいいですか？」
彰吾は首を振る。
「彰吾、って呼べ」
途端に柚子の箸が止まる。
「よ、呼べませんよ！そ、そんな…」
「俺が呼べって言ってるんだ。今日、散々迷惑かけたんだから、それぐらいいうこと聞け。呼ばないと、また肉を追加するぞ」
彰吾の命令に柚子は慌てた。これ以上、流石に食べられない。
「よ、呼びます！呼びますから！でも、さん付けでお願いします！」
「まあいいだろう。早く呼べ」
「そ、そのう...彰吾さん」
柚子は顔を真っ赤にしながら言った。彰吾はにんまりと笑いたいのを、必死でこらえる。
「よし。じゃあタン塩追加で許してやる」
「えぇっ！もう本当に無理ですって！」
「お前に拒否権は無い」
柚子の泣き事を無視し、彰吾は新たに肉を注文した。

我ながら、ガキみたいだ。彰吾は思った。
たかが名前を呼ばれたくらいで、こんなに嬉しいなんて。