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第一章
予想外の提案
セラは身支度を整え、若い侍女に準備ができたと告げた。時を置かずして、皇太子マルセルが姿を現す。
「お会いできて光栄です、叔母上」
深紅の外套に金糸の刺繍を施した礼服。長身の体を引き立てるその装いに、陽光を受けて輝く金髪――それは現聖女である妹と同じ艶やかさを持っていた。端正な顔には二十五歳の若者らしい柔らかさと、王族としての威厳が同居している。
マルセルは厳かに微笑み、形式通りに深く礼をした。
「珍しいことね。あなたが私に用があるなんて。妹の側にいなくてもいいの?」
「いえ、それは後でもできます」
わずかに言葉を濁す様子に、小さな違和感が走る。椅子をすすめて向かい合うと、マルセルは一瞬だけ視線を泳がせ、やがて真剣な眼差しを向けてきた。
「叔母上――一人の王女として、聞いていただきたい」
「何かしら」
「叔母上には、隣国カルディアの国王エドモンド陛下の后になっていただきたいのです」
その言葉は、重い鐘の音のように耳を打った。
「……冗談でしょう?」
「冗談ではありません」
低く揺らぎのない声に、セラは思わず手を膝の上で組み、指先に力を込める。
「私は六十歳よ。聖女ではなくなったからといって――」
思わず笑ってみせたが、甥の真剣な表情がその望みを断ち切る。笑い声はむなしく消え、祝宴の喧騒だけが遠くから響いていた。
最後までお読みいただきありがとうございます。
※面白いと感じていただけましたら、ブックマークや評価で応援していただけると嬉しいです。
「お会いできて光栄です、叔母上」
深紅の外套に金糸の刺繍を施した礼服。長身の体を引き立てるその装いに、陽光を受けて輝く金髪――それは現聖女である妹と同じ艶やかさを持っていた。端正な顔には二十五歳の若者らしい柔らかさと、王族としての威厳が同居している。
マルセルは厳かに微笑み、形式通りに深く礼をした。
「珍しいことね。あなたが私に用があるなんて。妹の側にいなくてもいいの?」
「いえ、それは後でもできます」
わずかに言葉を濁す様子に、小さな違和感が走る。椅子をすすめて向かい合うと、マルセルは一瞬だけ視線を泳がせ、やがて真剣な眼差しを向けてきた。
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低く揺らぎのない声に、セラは思わず手を膝の上で組み、指先に力を込める。
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思わず笑ってみせたが、甥の真剣な表情がその望みを断ち切る。笑い声はむなしく消え、祝宴の喧騒だけが遠くから響いていた。
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