上 下
4 / 26

串焼き 福二郎

しおりを挟む
「遅くなりました、すいませーん」

 西村佳奈子は約束の七時に、今日の勉強会の場である『福二郎』に着いた。そして二人がすでに入っていた個室の障子を静かにスーツと開け、にっこり笑いながら、その場で会釈と共に瀬良に挨拶をした。
 
「瀬良さんすごいお久しぶりです。お元気でしたか」
「ああ西村さん、どうもどうも、ご無沙汰しています。いやぁ嬉しいなぁ、一緒にご飯を食べるのは初めてですね。今日はお邪魔します」
「おお、時間丁度だね」
そう言って彰司は佳奈子を自分の横の席に促した。

「いつもは東郷さんとばかりだったので、今日は瀬良さんの話も聞けて勉強になりそう」
「先に瀬良君と飲(や)っていたよ、悪かったね」
「かまいませんよぉ。でも、まさかお二人で、すでに『私の個人的な話』で盛り上がっていませんでしたかぁ!?・・・欠席裁判なんて嫌ですよ」
そう冗談半分に佳奈子は笑った。
たちまち、席が和やかになった。
「そんな失礼なことはしませんよ。僕らは一応、『紳士!』なんだから(笑)。あ、早速だけど西村さん飲み物は何にするの」
そう言って瀬良は、自分の右側に立てかけてあった飲み物のメニューをさりげなく渡した。 

「そうですね、まずは・・・やっぱり生(なま)お願いしようかな」
「オーケー」そう言って瀬良は店の人に(キリンの生、ひとつ追加ね・・・至急で)と注文を入れた。

 この店は西都銀行竹尾支店のお取引先の串焼き屋で、ウリはバラエティ豊かな創作串に加えて、全国から取り寄せた二十種類以上の日本酒を手ごろな値段で出していたことだ。 
「いいお店。ここを選んだのはどちら?」
「瀬良君だ」
「いやあ、すいません・・。皆さんに是非ここの味を楽しんでもらいたくて、自分でさっさと決めちゃいました」
「俺は基本的に好きだよ、こういう串焼き料理って」
「私もですよ」と佳奈子も応えた。

「それで・・、早速、何の話をしていたんですか、お二人で」
佳奈子は手元に運ばれてきた生ビールに手をかけて東郷に聞いた。
「まあまあ、いいからとりあえず・・」
そしてすかさず瀬良が
「乾杯っすね東郷さん」

その声を受けて「乾杯っ、おつかれさま」と、今日のお互いの仕事の疲れを慰労した。

「ん?で、何の話をしていたかって・・東京のラーメン屋の話さ。そして、その次は五年前の俺たち二人の支店での営業の時の話だよ」
「ラーメン屋さん・・・・・ですか」
佳奈子は『はあ?』と言うような顔をした。

しおりを挟む

処理中です...