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送別会の席
しおりを挟む「ラーメン屋さんの話題・・・・・?」
「まあ、いいから いいから。大学にはだいたいその近くに、男子学生に人気のラーメン屋が必ず一つはあるものだからね、その話で盛り上がっていただけだよ」
瀬良が軽くそうイナして、三人の話題は今日の仕事の「あれは勘弁してほしかった」とか「どうも別のあの部署がやらかしたみたいで・・・・・知ってました?」などの話に移って行った。
そうこうするうちに、話は数分前の飯塚副支店長の件に戻ってきた。
瀬良は、入行三年目から、新庄支店で融資案件を新規開拓する営業の仕事をやっていた。
これについては、東郷彰司も同じ仕事を高谷支店でやっていたので、その内容や大変さは分かっていた。
新庄支店では瀬良を含む合計五名がその担当をしていた。
このチームの出来・不出来により、その期の支店の収益は大きく変動した。よっておのずと支店長も、三日と置かずに彼らの行動と実績をチェックしていた。
そしてその彼らの日々の実績を統括するのが副支店長の飯塚だった。
その飯塚が、それから一年後に本部に転勤となった。情報企画部 審議役へと栄転だった。
日々の業務の中で、先ほどの瀬良が言うように、飯塚は事あるごとに小言や不満を行員に対して言うタイプの人間だった。なんと、最後の送別会の席でもそれをぶちまけていたという。
「飯塚副支店長。いや、飯塚審議役、これからもよろしくお願いします!」
送別会の座敷の、ひな壇に座っている飯塚に対して、営業担当を始め、内務の融資や預金窓口の担当者まで、ビール瓶を抱えてお祝いの言葉を述べに本人の前に来ていた。
瀬良は乗り気では無かったが、仕事のうえでの儀礼と割り切って、ちょうど人が途切れた時を見計らって飯塚に寄っていった。
「一年と三か月でしたが、副支店長、お世話になりました」
「こちらこそ実に世話になったな・・」
さらに瀬良は、失礼にならない程度の型どおりの挨拶を付け足した。
しかし、ものの一分もしない内に、飯塚が口にする話は、これまでの瀬良の営業成果や、仕事への姿勢に対する嫌味めいたものに変わった。
発端は瀬良の次の言葉だった。
「私も自分のやるべき全ての営業項目を達成することは無理でしたが・・・なんとか、昔からの取引会社さん数社から、これまで以上にウチからの借入れ額を増やしてもらいました」
すると、
「違うだろう。何を言っているんだ!」続けて
「その取引先は遺産だろう。おまえは遺産で食っているだけだろう」
瀬良はきょとんとした。
飯塚は続けた、説教口調で。それもじめっと・・
「そんなことは、なぁ、当たり前なんだよ!当たり前のことをしただけなんだよ・・昔からの取引先への融資をただ増やすって事は。な、そうだろう。『やりました』と公言することじゃないぜ」
「はあ・・・」
瀬良はそう返答するしかなかった。
まだ続いた
「それがお前の本当の仕事じゃないのは、分かってるの?新規だよ、新規先の開拓だ。今までウチに取引がなかった会社や病院から、融資の案件を取ってくるのが君の一番の仕事のはずだろ」さらに
「実績を上げることにもっと執念を持ってホンキで取り組まなきゃだめだよ。それをやれたか?やれてなかっただろう。じゃないと、次の昇格なんてないよ、分かってる?」
この、分かってる?は飯塚の口癖で、営業担当一同、誰しもが聞きたくない言葉だった。
「おっしゃる通りです。すいません。がんばります・・これからも宜しくお願いします・・・」
そう言って瀬良は自分の元の席にそそと戻って行った。
そんな送別会だった・・・・。
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