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灘の酒「剣 菱」
しおりを挟む「瀬良さん、ちょっと待ってください。あの八階の情報企画部の飯塚審議役ですよね・・・私も存じ上げてますけど、あの方は早稲田OBのはずでは・・」
佳奈子がテーブルのビールグラスに両手のひらを軽く添えて、斜め正面に座る瀬良にスッと目を流しそう言った。
「そうだよ、十二年うえのネ。しかし、あんなふうだから、俺はもう先輩だなんて思っちゃいないんだよなぁ」
それを聞いて佳奈子は(あらら)という表情をした。
そして気を利かせて、話題を変えるべく、(あっ そうそう・・・)と言いい
「東郷さん、スマホでわたし検索したんですけど、ここの店は日本酒の銘柄が多いとか・・どうします・・次は」
そう聞いて彰司は、
「ん、そうだな・・、俺も瀬良もビールはもう二杯のんでいるから、そっちに変えようか」「瀬良君、銘柄を選びなよ」
「あ、ありがとうございます・・・じやぁ、灘の酒『剣菱』それを冷で二合」
それを聞いた佳奈子がすかさず言った
「ええ・・・?四合いけちゃいますよ、すぐに。ね、東郷さん」
「飲むだろう間違いなく。オーケーだよ。じゃあ頼んでくれるかい」そう言う東郷の声に
「わかりました」と、
障子を半分ほどあけて、佳奈子は右手をあげて店に伝えた。
(すいません、あのぉお願いします)と。
「あいよっ。お飲物?」
自称 中洲の岩田剛典(ガンちゃん)こと、店のオーナーである福井剛二郎がにっこり笑ってカウンター越しに佳奈子に応えた。
この日は、食事の方は、七時スタートで三名分、大将自慢のコース料理を頼んでいた。
「次の焼き物はもうすぐに出ますからねッ。はーい三番さんお飲物のご注文・・よろしくぅ」
その声で、赤い博多織ふうの甚平を着たこの店の看板娘のミナミが、フットワーク軽く飛んできた。そして、動きもかろやかに剣菱の二合徳利を二本と、お猪口を三つ、彰司たちの前に並べた。
「瀬良君、まあひとつ・・」
彰司は早速すすめた。
目の前の生ジョッキをとうに飲み干していて、その後やや手持無沙汰だった瀬良は、お猪口を手に取るや、急に正座にすわり直し「ありがとうございます」と盃を右手で差し出した。
「いれようか・・」
佳奈子へもすすめた。
「あ、すみません。ありがとうございます・・・・・・ととっ」
そう言って彰司から注いでもらった剣菱の冷(ひや)を半分だけ「つっ」と飲んで、そして手元のお箸の横にそれを置いた。
そんなしぐさにおいて、彰司は佳奈子の横顔が好きだった。
よく言われるハリウッドラインに沿った、きれいな顔立ちをしている。
女性の横顔を見る機会は結構多い。そうしたなかでも、佳奈子のそれには時々はっとさせられることがあるのだった。
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