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斉藤木材
しおりを挟む佳奈子の横顔から魅せられるその思いをかき消して、彰司はさっきの話に戻した。
「栄転祝いの送別会なのに、それはちょっとひどいな」そして
「まあ、あの人は、思ったことを心にためておくことができずに、思わず何でも口に出しちゃう・・そういう性格の人だから・・」
彰司は自分のお猪口にも酒を注ぎながらそう言った。
「まったくですよ。“あの人も四十をこしたいい年して・・・いい加減、やめてくれないかな”なんてみんな思っていましたよ」
やや不満をあらわにそう言った。
そこで、瀬良は佳奈子と目が合った。
瀬良には、彼女の目が(彼からすればひとつ年下ではあるが)なにかしら、柔らかな表情で『まあまあ、おさえて瀬良さん』と・・・言っている様に見えた。
「ところで今日お聞きしたかったのは」
そう佳奈子が切り出した。
彼女は今日が単なる食事会ではなく、勉強会であることはちゃんと心得ていた。そんな、きちんとした性格であるところも東郷は気に入っていた。
「ん?最近気になった記事や案件はあるの?」
彰司からのその問いに
「ええ、先月のネットの記事でしたか、こんなのがちょっと気になって・・」
そう彼女が言うのは
『今回の事件の野際産業は、取り込み詐欺をはたらいた疑いもあり、愛知県警は余罪を追及している・・・』
と言うものだった。
「時々出てきますよね、例えば『地面師詐欺』とか『地上げ屋事件』とか・・。それと同じような、昭和の時代の遺物のようなネーミングの・・・さっき言った『取り込み詐欺』って何なのかなあって。今後もあるんでしょうかね。それとも、令和の今じゃあ、あまり起こりえない事なのかしら」
彰司は答えた。
「今後も、起きる話だよ」
「と言う事は、ウチのお取引先にも起こりうるって・・・こと?」
お酒がすすむと、時々、佳奈子は東郷に対してタメ口になった。
「もちろんだ」彰司はそう言った。
「ただ、これまでオレの担当先ではこの手のゴタゴタは無かったね」
「じゃあ・・・この種の件を実際に経験されたことは・・・瀬良さんは?」
しばらく考えて、東郷は自分の正面にいる瀬良に目をやり、そして言った。
「瀬良・・・あの時の新庄支店での斉藤木材の件って・・・こんなんじゃなかったか?」
瀬良は、しばし記憶をたどるしぐさを見せてそして言った。
「ありました。まさにそれですよ」
その事件は、瀬良が担当の、福岡市西区にある斉藤木材で数年前に起きていた。そして後始末に走り回ったのも瀬良自身だった。
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