8 / 26
7
斉藤木材(2)
しおりを挟む「じゃあ次は斉藤木材だ」
そう言われて、車の助手席に座っていた瀬良は、
「はい、お願いします」と先輩の坂本に応えた。
瀬良が融資先開拓の業務に移ってからは、しばらくはこのような業務引き継ぎ訪問が続いた。坂本はこの業務を新庄支店で五年やっていたが、先日の担当先の入れ替えで今までの地区を瀬良に持たせて、自分は支店の取引先の中でも核となる病院や事業会社を担当することとなっていた。
「松田と言う経理部長さんがあそこにはいて、ちょっと癖があるから注意だよ」
坂本が言うにはその松田部長は、宮崎県にある宮崎総合銀行から転籍でこの会社に入っていた。
宮崎の銀行から「福岡市内に本店がある木材会社に人が来る」というのも変な話だが、
「もう亡くなられたが、今の斉藤木材の社長のお爺さんに当たる創業者が、なにやら宮崎出身らしく、創業時に結構世話になったということらしい。本社が三十年前に福岡市に移ってからは銀行取引はウチがトップだが、過去のしがらみをひきずって、そうなっているみたいだ」
「へえ、そうなんですね」瀬良は続けて、
「ま、金融機関出身の方なら、同じ環境で仕事をされてきたかたでしょうから、私とも仲良くやっていけるでしょう」
そう応えたところ、坂本は
「それがちょっと違うんだよ・・・あの部長は。ま、会えばわかるよ」
そう意味深なことを言った。
二人のクルマは国道を左折したのちしばらく走り、斉藤木材の本社に着いた。
敷地は三十メートル四方は有にあり随分と広かった。ここには本社建物と製材所、および木製品のストックヤードも見られた。
敷地内ではフォークリフトが忙(せわ)しなく動き回り、丸太を切る大型の電気のこぎりの音も響いていた。
「ずいぶん広いですね、さすが木材卸屋さんだ・・」
「支店で資料を見たらわかるが、ここの土地・建物にはみんなウチの根抵当権が付いている」
「そうなんですか」
瀬良はふむふむとうなずいた。
坂本と瀬良は本社一階の入り口のドアを開いた。
「こんにちは、西都銀行です。」
元気よく二人は入っていった。
社長の斉藤良子が席を立ち笑顔で迎えてくれた。
良子は年齢が五十歳半ばくらい。創業者の孫にあたるらしかった。
「どうも、さ、こちらへ」
そう言われて坂本達二人は応接室に通された。
「こんにちは!おっつ、今日は二名でいらっしゃいましたか。ははは・・」
部長の松田がそう言いつつ、少し遅れて入ってきた。そして、必要以上に股を広げて瀬良の前にドカンと座った。
その眼は笑っていなかった。そして瀬良のつま先から頭のてっぺんまでをなめる様に見た。
「あなたが、今度ウチを担当してくれる瀬良さんだな、宜しくお願いしますよ。私、松田と言います。経理部長をやっています」そう言って大様(おおよう)に名刺を出した。
瀬良は、この数十秒の間に、この松田と言う人物が少々クセがあるなと感じ取った。
(坂本さんがさっき言っていた意味はこれか・・・人間性に難ありかぁ?)
よくある挨拶が五分ほど交互になされた後、社長から
「今の木材業界は、ご存知のように不況が続いていますからね。なにかと無理を言いますがよろしくお願いします。それで銀行さんとはこれまで通りに、松田部長が窓口になりますので・・」
との言葉があった。
それからは、松田の銀行時代の自慢話を始め、独演会じみた話が十五分ほど続いたのだった・・・。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし
かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし
長屋シリーズ一作目。
第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。
十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。
頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。
一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります>
政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる