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斉藤木材(2)
しおりを挟む「じゃあ次は斉藤木材だ」
そう言われて、車の助手席に座っていた瀬良は、
「はい、お願いします」と先輩の坂本に応えた。
瀬良が融資先開拓の業務に移ってからは、しばらくはこのような業務引き継ぎ訪問が続いた。坂本はこの業務を新庄支店で五年やっていたが、先日の担当先の入れ替えで今までの地区を瀬良に持たせて、自分は支店の取引先の中でも核となる病院や事業会社を担当することとなっていた。
「松田と言う経理部長さんがあそこにはいて、ちょっと癖があるから注意だよ」
坂本が言うにはその松田部長は、宮崎県にある宮崎総合銀行から転籍でこの会社に入っていた。
宮崎の銀行から「福岡市内に本店がある木材会社に人が来る」というのも変な話だが、
「もう亡くなられたが、今の斉藤木材の社長のお爺さんに当たる創業者が、なにやら宮崎出身らしく、創業時に結構世話になったということらしい。本社が三十年前に福岡市に移ってからは銀行取引はウチがトップだが、過去のしがらみをひきずって、そうなっているみたいだ」
「へえ、そうなんですね」瀬良は続けて、
「ま、金融機関出身の方なら、同じ環境で仕事をされてきたかたでしょうから、私とも仲良くやっていけるでしょう」
そう応えたところ、坂本は
「それがちょっと違うんだよ・・・あの部長は。ま、会えばわかるよ」
そう意味深なことを言った。
二人のクルマは国道を左折したのちしばらく走り、斉藤木材の本社に着いた。
敷地は三十メートル四方は有にあり随分と広かった。ここには本社建物と製材所、および木製品のストックヤードも見られた。
敷地内ではフォークリフトが忙(せわ)しなく動き回り、丸太を切る大型の電気のこぎりの音も響いていた。
「ずいぶん広いですね、さすが木材卸屋さんだ・・」
「支店で資料を見たらわかるが、ここの土地・建物にはみんなウチの根抵当権が付いている」
「そうなんですか」
瀬良はふむふむとうなずいた。
坂本と瀬良は本社一階の入り口のドアを開いた。
「こんにちは、西都銀行です。」
元気よく二人は入っていった。
社長の斉藤良子が席を立ち笑顔で迎えてくれた。
良子は年齢が五十歳半ばくらい。創業者の孫にあたるらしかった。
「どうも、さ、こちらへ」
そう言われて坂本達二人は応接室に通された。
「こんにちは!おっつ、今日は二名でいらっしゃいましたか。ははは・・」
部長の松田がそう言いつつ、少し遅れて入ってきた。そして、必要以上に股を広げて瀬良の前にドカンと座った。
その眼は笑っていなかった。そして瀬良のつま先から頭のてっぺんまでをなめる様に見た。
「あなたが、今度ウチを担当してくれる瀬良さんだな、宜しくお願いしますよ。私、松田と言います。経理部長をやっています」そう言って大様(おおよう)に名刺を出した。
瀬良は、この数十秒の間に、この松田と言う人物が少々クセがあるなと感じ取った。
(坂本さんがさっき言っていた意味はこれか・・・人間性に難ありかぁ?)
よくある挨拶が五分ほど交互になされた後、社長から
「今の木材業界は、ご存知のように不況が続いていますからね。なにかと無理を言いますがよろしくお願いします。それで銀行さんとはこれまで通りに、松田部長が窓口になりますので・・」
との言葉があった。
それからは、松田の銀行時代の自慢話を始め、独演会じみた話が十五分ほど続いたのだった・・・。
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