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今日の佳奈子

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「ところで西村さんは・・、結婚の予定はまだないの?」続けて
「ひょっとして、まだしばらくはユックリしたいとか・・・・もしくは決まった人がいるのだけど、ダンマリを通しているとか?」
「ええーっ。セクハラよ、それってセクハラ~ッ」
佳奈子は瀬良を指さして、眉間(みけん)に若干しわを寄せ、半分笑いながらそう言った。

今日の佳奈子の装いは、光沢のある辛子色の七分袖のブラウス、ボトムは白のパンツ、そして黒のベルトだった。いつも通りの、さりげないなかでの洒落た感じだった。

「天は、西村さんには二物(にぶつ)をならぬ三物を与えていますよ、それって自分で意識してる?」さらに
「特に横をむいた顔なんか、誰もがうっとり見入っちゃうんじゃない・・・そう他から言われたことは無いの」
彰司は
(瀬良も同じことを思うんだなあ)
と心でつぶやいた。

一方佳奈子は口を少しとがらせて、二人を交互にチラッと見ながら
「もう、うるさいですー」
三人は、はははっと笑い、また更に場が和んでいった。

 話はクルッと回って、先ほどの斉藤木材の件に戻った。
「さっき話した松田部長って、はっきり言って、斉藤木材に出入りしている銀行の営業マンに、威張り散らすのが仕事と思っているんですよ」
「といいますと・・・」
「『君の所の融資の際の書類は、他銀行に比べて多い!効率化できないのかね。印鑑を押すこちらが疲れる!』とか『こちらからの依頼ごとを、支店に持って帰って処理をするのはイイのだが、すべてこちらに持ってくるのが遅い!』あるいは『融資の際の条件がウルサイなぁ。そんなの必要か』みたいな感じなんだ・・」
「うるさ型だな」
「そうなんすよ。結局はあの人は常々、社長に『私は銀行のことは全てわかりますから』と言い、一方で、それが社長の『おまかせします、宜しく頼みますよ』という信頼になっていたんですよ」
「で、実際の、その部長の会社での財務管理や資金計画は?」
「杜撰(ずさん)のひと言っすよ」

彰司と佳奈子は、ふう~んと言う顔でそれを聞いていた。

「それがこの後、尾を引いちゃってね・・」

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