ウイスの回顧録 その1

リチャード・ウイス

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「タモリ」について(後編)

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 対談では、吹奏楽部時代の、あれやこれやが笑い話として紹介された。そうしたなか、ビデオレターの途中で、数人の仲間と共に舞台上でパフォーマンスをやっている写真が出された。タモリら数人はお揃いのブルゾンを着ていた。音楽にのせてEXILEのようなことをやっていたようだ・・・よく目をこらしてみると、おそろいの衣装の背中には『フォード』の文字が・・・。
「ん?フォードって背中に書いてあるね・・・これは何で?」
対談のMCが聞いた。
「いや~これはねぇ、なにか衣装をそろえなきゃと思っていたところに、近所の知り合いのクルマ屋さんから借りてきたフォードの宣伝用のジャンパーなんだよ。これは確か『よせんかい』の時の一コマだ・・」
そう言ってタモリは笑った。
なかなか聞かないこの『予餞会』と言う言葉だが、調べてみると『大学入試を前にした三年生を送別するはなむけの会』とある。
具体的には二月~三月のころ、三年生を送り出す目的で開催される全生徒参加の学校行事だ。
母校では下級生による自主企画の出し物、吹奏楽部による校歌演奏、応援団によるエールなどが行われた。出し物には抱腹絶倒のコントなんかも盛り込まれていた。
このようなことは、案外、各地の高校でもやっていたのではないだろうか。

若手芸能人やお笑い芸人が周りにごろごろいて、彼らからは常に持ち上げられ、すでに高視聴率を保持するテレビ番組もやっているタモリであったが、母校の吹奏楽部と、先の行事の演出・企画は特別なものとして今でも良い思い出のようだった。

 一方で昨年(平成二十二年)の夏、東京在住の、高校同期の太田君からスマホの方に写メールが届いた。筑紫丘高校の東京での同窓会の内容を伝えてくれたものだった。そこには彼とタモリがツーショットで仲良く映っていた。
場所は二次会、ふらっと来たらしい。おそらくタモリの同級生あたりが「そろそろ出てこいよ」とでも言ったのだろう。

 我が家で娘と一緒にテレビを見ながら夕食をとっている時に、タモリがたまたま画面に映ることがある。「ほら、おまえの『吹奏楽部の直系の』先輩が出ているよ」私がそうつぶやいても娘はちらりと見るだけで、特にお箸を止めることなくモグモグと・・毎回のパターンではある。

 私の倅は大学入試で一旦は国立N大学に合格した。しかし「いかないよ(笑)」と。
国立ゆえ学費は安く、最近はノーベル賞学者も出た所だったので、親としてはそこに決めればよいと思った。しかし彼は頑としてゆずらなかった。東京に行きたいと。

 倅は西東京市の病院で生まれている。
生まれた川の匂いを探し、故郷の川を遡上する魚たちのように、東京生まれの何かがそうさせるのだろうか。今では葛飾区にある理科大にいたって満足そうに通っている。そこは、かつての小学校時代の友人が住む街や自転車を特訓した校庭につづいている・・・さぞ居心地が良いのだろう。

タモリの場合は逆に、郷里の福岡や博多との距離が近年は縮まっているような感がある。
先のビデオレター出演や同窓会への顔出しもそうだが、テレビで見た彼の「博多の町散策」番組などなど・・・そんなふうに映る。

 ふと思う。私の郷里・筑紫野はそんなに魅力的な街ではない。くまなく散策しても、文人墨客が愛する武蔵野のような趣があるわけでもない。しかし、何と言うか、生活の節々で何か「ほっ」とさせられる。
山紫水明、それに加えてあったかい温泉の湯煙も周囲にはある。それはまるで、長年使っている自分の匂いがする布団にくるまっているような感覚に近い。

 我が家の子供たちもそのうちに大学を卒業し、社会にでて、さらに東へ西へいろいろな処に居を構えるだろうし、ここに果たして帰って来るかもわからない。
しかし、それはそれ。ただ、この郷里を今の美しいままで、穏やかなままで、次の子供たち世代に受け渡すのが私たちの役目ではないかと真に思っている。  (終わり)




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