ウイスの回顧録 その1

リチャード・ウイス

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「勝 新太郎(座頭市)」について  (前編)

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*この回顧録は平成二十年に書き著されたものである。登場人物のそれ以降の履歴については、読者もあらあらご存知と思われるので省略しています。(リチャード ウイス)



 「ゴジラ」を知らない人はあまりいない。長年愛され続けている怪獣キャラクターである。
私が初めてゴジラ映画を見たのは、電力会社に勤める父の転勤先の唐津(からつ)でのことである。当時まだ小学校一年生だった。

私が幼少期を過ごしたこの街は、福岡市から海岸線を西へクルマで三十分走った場所にある、玄界灘に面した実に風光明媚な城下町である。
色々と言わなくても、佐賀早稲田高校の街、もしくはアニメのファンにとっては、
「ユーリ!!!on ICE」の舞台となっている街と言えば早いだろう。

 その唐津でも、かのボーリングブームにはまだ時があり、日本映画が庶民の娯楽として幅を利かせていた。事実、父に連れられて、もう「加山雄三の若大将シリーズ」「クレイジーキャッツシリーズ」を見に行っていた。

しかし子供だった自分は、怪獣映画の方が好きで、映画館前のウインドウにある名場面を紹介するひとコマひとコマの怪獣の写真に「かっこいい」と言いながら見入っていたものである。
子供用としてはゴジラの他にガメラ、サイボーグ009、大巨獣ガッパ、黄金バットなどがあった。
そのような映画館も、夏休みや冬休み以外は大人向けの映画を上映していた。

 ある日のこと、何気なく通りかかった映画館の看板とウインドウには、純真な子ども心にはぞっとする写真があった。太平洋戦争の頃の軍隊の制服を、それもきたなく汚れ、破れた軍服を着た短髪のお兄さんが、手にピストルや刃物を持って喧嘩している映画のワンカットであった。
メインに写っている人物(主人公)は、ややずんぐりとして、頭は角刈り・・・そう、勝 新太郎、映画は「兵隊やくざ」だった。
ゴジラの時代は同時に、大映をはじめとする映画各社が、この手の作品を結構作成していた時代でもあった。

 さて、勝新太郎であるが、人柄は、豪放磊落ながら人を楽しませる術にたけた明るいものであった。ファンに対するサービスはとりわけ旺盛で、サインや握手へのリクエストにはほぼ応えていたという。
しかし、私の母も「彼の遊びぶりはすごいらしい」と、子供の私にも語ったことがあったのだが、「俺から遊びを取ったら何にも残らないんだよな・・」と言い、映画スタッフを引き連れた派手な飲みっぷりや高級な持ち物は、その後、伴侶の中村玉緒が頭を抱えるほどの借金を築いていった。
今のようなヤフーニュースもない昭和なかばの時代の、一介の家庭の主婦の耳にも入るほどだから、それはそれは相当大したものだったのだろう。

 その勝新太郎と私が偶然に出会ったのが、バブル経済が最高潮だった1990年ころ、場所は白金(港区)にあるクラブだった。
私が大学時代から交友があった、飲食店や不動産業を手広く営む社長J氏と、たまたまそのクラブに飲みに行った時の事であった。

J氏はそのクラブへの出資者で、いわゆるオーナーのうちの一人。オーナーとしては、当然、その店のお客の入り具合を観察する必要もあるわけで、運よくその日は
「一緒に行く?連れて行ってやろうか」と、誘いの言葉をもらっていた。
          (後編に続く)

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