王国の彼是

紗華

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儀式と夜会

71:兄妹の行末 フラン&ルシアン

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夜会会場を見下ろせるテラス席に、ルシアン殿とオリヴィエ皇女を案内させ、伯父上の元へ向かう。

「陛下、少しの間席を外します」

「先程ローザの皇女と踊っておったが…何かあったか?」

「何かあったという訳ではありませんが…話をしたいと申し出を受たので、テラス席に案内しています」

誰もが利用出来る休憩室と違って、テラス席は王族の許可を得た者しか上がれない為、話をするには適所だろうと伝えると、伯父上は顎髭を撫でながら、眉を寄せた。

「…皇位継承は放棄していると聞いていたが、腹に一物を抱えてるか…?」

「それはまだ何とも…」

「余も同席した方がーー」

「朕が行こう」

「…教皇?」

額に汗を滲ませてホールから戻ってきた教皇は、ファーストダンスこそルシアン殿と踊っていたが、その後は客人の王女や令嬢達とダンスを存分に楽しんでいる。

あれ程言っていたのに、妻はいいのか…?

「王と太子が席を外す訳にはいかんじゃろう?朕も少々疲れたしな」

「年甲斐もなくはしゃぎ過ぎなんですよ。大人しくしていて下さい」

「朕が座してるだけでは皆が気を遣って楽しめんじゃろう」

「屁理屈を並べてないで行きますよ」

「……ゾマはここにーー」

「私はお目付け役です」

ゾマ殿は、とうとう護衛からお目付け役に切り替えたらしい。
見回した会場は常の夜会と同じ空気で、こちらに意識を向ける者はいない。
オレリア達に目を向けると、義姉上とセリアズ殿が加わって談笑している。アミに目で合図を送り、オレリア達の元へ戻ったのを確認して、教皇とテラス席へ向かう。

「ようやく一息つけるな」

「フラン殿に…教皇?!」

思わぬ人物の登場にルシアン殿が驚いた様子で立ち上がった。オリヴィエ皇女もカップをもったまま目を丸くしている。

「其方らのマナが乱れていたのでな、何か抱えておるのだろう?」

「千里眼とは恐ろしいですね…フラン殿も、オリヴィエから聞きました。私が男色でないといつお気付きに?」

「ルシアン殿の視線です…貴殿の男色の話しを伺っていたので、初めは私に向けられたものだと思っていましたが、オレリアと別行動を取ってからは全く感じなくなった」

「ハハッ…私も詰めが甘いな。……教皇のご質問にお答えしていませんでしたね…私達兄妹は亡命を望んでいます。ダリアで受け入れては頂けませんか?」

「「「……亡命?!」」」

「いい反応ですね、息も合ってる」

想像の斜め上を突き抜けた要求に、カインだけでなくウィルまで声を上げたが、皇族の亡命など聞いた事もない。

「っ失礼、致しました」

「いや、驚いて当然です。フラン殿は私達と同齢でしたね」

「ええ…21です」

同じ21年でもフラン殿と俺の人生は雲泥の差…

気兼ねなく食事をしたい、心ゆくまで眠りたい、友という存在と笑い合いたい…

領土拡大しか頭にない父と、皇位継承しか頭にない兄弟達は今回の招待を断るつもりでいたが、友好国の招待を断るのは悪手と説き伏せ、ダリアに来る権利を得た。

「フラン殿下の仰る通り、男色はです。側妃だ婿だと言っていたのは、自国の侍女や騎士達に疑われない様にする為…彼等も信用出来ませんからね。ローザでは子を成せる者は狙われる…覇権を求めているのは、兄弟だけではありません。貴族達も等しく同じなのです。実力主義の帝国では母の出自など些末事で、皇子達はより強い後ろ盾を得る為、貴族達は傀儡にする皇子を得る為に、常に目を光らせ、隙を狙っています。継承権を放棄しても担ぎ出されてしまえば意味がない…貴族達の目を逸らす為、子供の頃の浅知恵で思い付いたのが男色です。理想の男性像を掲げて喧伝し、それらしく振る舞い、誰からも男色を疑われずにここまで生き延びてこれました。まあ、オレリア嬢を目にして瓦解しましたけどね…」

フラン殿の隣に立つオレリア嬢を見た時、産まれて初めて美しいという言葉の意味を知った。
触れたいけど、触れてはいけない。
目に映す事さえ烏滸がましいと思いながら、彼女から目を離す事が出来なかった…

「朕とのダンスをしている間も気も漫ろじゃったな」

「それは…申し訳ございません」

「ルシアン殿がオレリアを求めるのは、加護者だからではないと?」

「まさか!契約や加護など些末事。オレリア嬢の光を帯びた艶やかな銀の髪、凪いだ水底を覗いている様な意志固い白藍の瞳…幸福の音を奏でる唇で私の名を呼ばれたら…どれだけ幸せだろう…」

「ルシアン…やめて恥ずかしい」

「…随分と、情熱的じゃな…」

「フラン様には一生かかっても持ち得ない情緒と表現力ですね」

「…黙れカイン」

「話が逸れてしまいましたね。今回の私達兄妹の目的は亡命を受け入れてくれる国を探す事です。皇族の亡命など国際問題に発展しかねないですが、ダリアやカトレヤ程の大国であればローザも強くは出られない筈。刺客が付き纏う日々を送る事になったとしてもローザで後継争いに巻き込まれるよりは余程いい。手前勝手を充分承知の上で申し出ました。断って頂いても禍根は残しませんのでご安心下さい」

「私の一存で決められる事ではありません。陛下ともーー」

「ならば、聖皇国に来るが良い。出自の貴賤を問うてないからな、王皇族であっても問題ない」

「?!で、ですが…私達は聖職者ではありません」

「聖皇国は聖職者だけの国ではないぞ。普通の民もおる。祈ってるだけでは腹が満たされんからな。ただ、これまでの様な皇族の生活は出来んというだけじゃ」

「…私達は名ばかりの皇族です。産まれて直ぐに母に捨て置かれ、皇位継承を放棄したにも関わらず皇帝の血を引くというだけで兄弟達に命を脅かされながら生きてきました。身に着ける物は立派でも生活は真逆でした…出される料理は毒まみれ、寝込みを襲われない様ベッドで眠る事もありませんでしたから…」

踊り子だった母を持つ俺達は、無駄に容姿が整っている事が災いして貴族達からの秋波が耐えなかった。男色と喧伝する様になった俺はいくらか過ごし易くなったが、オリヴィエは常に狙われていた。

成人してからは兄弟達までもオリヴィエを狙う様になり、オリヴィエの心も限界を迎えてきている。

「なら決まりじゃな。リンデンに向かう前にローザに寄るか?」

「いえ…ローザには何の未練もありません。が…本当によろしいのですか?」

「その言葉そのまま返すぞ。朕は明日帰国するが、ゾマは暫くダリアに残る。其方らの人生に関わる事じゃ。よく考え、決心が着いたならゾマと共に来るといい」

「「ありがとうございます」」

「さて、朕はもう一踊りして帰るかの」

まだ踊るのか…


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