王国の彼是

紗華

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儀式と夜会

72:ライバル?

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「フランよ、レオンには朕から話すか?」

急転直下の解決に思考が追いつかない…が、この場を設けた立場として、このまま教皇に丸投げする訳にはいかない。

「……夜会の後に時間を頂けますでしょうか?私も同席します」

「構わん」

「ありがとうございます。ルシアン殿とオリヴィエ皇女はダリアの滞在を延長という事で、ローザに遣いを出しますがよろしいですか?」

「過分な待遇に感謝します」

訪問国の滞在延長や、周辺国の外遊等の予定変更は、多忙を極める王皇族はあまりしないが、義姉夫妻も滞在を延長することになっている。
聖皇国への移住という選択肢を与えられた2人が、亡命の道を選択する事はおそらくないが、人生の転機となる決断には考える時間が必要な筈。

「カトレヤの皇太子夫妻も、帰省を兼ねて暫く滞在されるそうですから、滞在中に時間を設けましょう」

「カトレヤの皇太子妃はダリアの第一王女でしたね」

「ええ、私の従姉妹に当たります。気さくで朗らかな人なので大丈夫ですよ」

「他国の王皇族方との交流は皆無だったもので…」

「私も同じです。数ヶ月前までは騎士でしたから」

「そうでしたね…卒なくこなしているのでその様に感じませんでした」

「王太子教育は受けていたので、それっぽく見えるだけでしょう」

「その様な事はありません。ダンスもとても踊りやすくて楽しめました…こんなに素敵な夜会は初めて、ね?ルシアン」

「光栄です。まだ始まったばかりですから終宴まで楽しんで下さい」

「フラン殿、不躾なお願いではありますが…オレリア嬢と一曲踊らせて頂いてもよろしいですか?」

「ルシアン?!貴方、あんな告白の後で図々しいわよ」

「ちゃんと不躾だと断りを入れただろう」 

「勿論です。このまま参りましょうか」

盛大な告白を聞いた身としては、全力で断ってやりたいところだが、これも外交の一つ。今日一番の笑みを貼り付けソファから立ち上がる。

「ご歓談中失礼致します。フラン様、残念なお知らせです」

「…残念?」

「彼方です」

「………また?」

カインが王皇族の会話を遮るなど、不敬とも取れる行動に出るからには余程の事と、カインの示す先に目を向けると、2が舌戦を繰り広げている。

周りの人間は気付いていないのか、それとも気にしていないのか…敢えて気付かない振りをしているのかもしれない…不自然な空間が出来ている。

義姉上、オレリア、アリーシャとエルデは何事もない顔で談笑しているが、セリアズ殿とアレン殿は彫像の様に固まり、ネイトは2人に挟まれて護衛の役目を果たしていない。

「公爵令嬢ともあろうお方が、夜会のマナーをお忘れになってしまったのかしら?心配だわ…冷たい山風に晒されて脳が凍ってしまったのではなくて?」

「礼儀に則りご挨拶をさせて頂いただけなのですが…エレノア様こそ、潮風に当たり過ぎて脳が塩漬けになってしまったのでは?屋敷に戻って、一刻も早く水分を補給する事をお勧めするわ」

「ヨランダ様も、その様な寒々しいお姿で鳥肌まで立てられて…屋敷でホットワインに浸かって、存分に温まれた方がよろしいのでは?」

「そういえば…エレノア様の本日の装いはいつもと違って保守的ですわね。南国からフルーツを取り寄せたと仰ってましたが…食べ過ぎてしまったのかしら?」

「…っ何ですって…」

今日はエレノアの分が些か悪い様だが、ここで剣を収める彼女ではない。

「誰だ?!2させたのは?!」

「すっかり猛獣扱いですね」

「カイン行ってこい。安心しろ、骨は拾ってやる」

「何を仰います。ここは主催者であるフラン様の出番でしょう?」

だ。俺の順番は終えている」

「っく…ならここは、剣帯しているウィル殿にーー」

「女性の戦いの場に横入る事はに反します」

「そんな団規は聞いた事もありませんが…やはりここは地位の高い順に…という事で、フラン様」

「地位で言えば教皇だろ?!」

「朕が?!ゾマ、行け」

「は?私は自衛しか出来ませんっ。こんな時こそ教皇のありがたい説法の出番でしょう」

「いつもは老害と抜かしておるじゃろ!それに朕の身に何かあったらどうしてくれるんじゃ!」

「どうにかなる前に、次代の教皇の指名だけしておいて下さい」

「っく…ルシアンよ、これも交流の一つじゃ。行け」

「あの場に私の望む交流はありませんが?!」

「交流も様々じゃ、選り抜きしていては生き残れん」

「尤もらしい事を仰いますが、皇族の地位は捨てる所存ですので、不要な交流術まで身に付けるつもりはありません」

「其方らには老いを労わる心はないのか?」

「あれだけ踊っといて、都合のいい時だけ老人振るのはやめて下さい」

「くぅっ…なんでゾマを連れて来たのじゃ…」

「明日の迎えはフォルですから、安心して下さい」

「お待ち下さい」

ゾマ殿に腕を取られテラス席から連行される教皇に、ウィルが声をかけて階下に目を向けた。

先程とは形勢が変わって、向い合っていたエレノアとヨランダ嬢2人が並び、アリーシャ様がネイトを庇う様に立っているが…ネイトはいつから護衛される側になったんだ…?

「貴女達、いい加減になさいな…醜いわよ」

「先程の控室でもそうでしたが、お姉様も随分と大人しくなられましたわね…それとも、お義兄様の前だからと大きな猫を被っていらっしゃるのかしら?」

「新鮮な魚を食べて、猫の育ちもよろしい様で」

「王都暮らしの貴女達の猫は、骨を強くする必要があるわね」

「王都では骨より五感を育てなければ、怯弱な私達など直ぐに淘汰されてしまいますわ」

「お姉様に於いては、普段は平穏な地で過ごされますし、些末事などお気にならない様ですが…」

「それは…勘が鈍ったとでも言いたいのかしら?」

「まさか!?お姉様の事は敬慕しております」

「ええ!アリーシャ様に見倣って、日々研鑽しております」

「研鑽ねぇ…貴女達は一体何を磨いているのかしら?場も弁えず、粗を探し回る姿は餌を強請る雛鳥の様だわ。磨くのなら囀る嘴ではなく、羽ばたく羽を磨きなさい。まあ、カイン様やエリック様がと言うのなら止めはしませんけど?」

「「………」」

アリーシャ・ファン・セイド=デュバル。山と海を征する女傑。









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