王国の彼是

紗華

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穏やかでない日常

136:乱打戦

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「何をやっているんだ?あの4人は…」

訓練場の中央で対峙するのは、訓練着のナシェルと制服姿の令嬢達、豊熟の代の4人。
何に盛り上がっているのか、歓喜の声を上げた3人が、ジリジリとナシェルに詰め寄っている。

「随分と話し込んでるな」

「若者同士、気が合うんだろ?」

「ネイト殿と私はともかく、フラン様とユーリは大して変わらないでしょうよ…」

「俺からしたら、カインとネイトも変わらんがな。お前は気にし過ぎだ、カイン」

「……今は関係ないでしょう…」

「それじゃあ、後でゆっくり話をするか?」

「………」

「ジーク…その位にしてやれ」

夫人と6歳離れている叔父上からしたら、カインとエレノアの7年の歳の差も、さしたる事はないのだろう。

不敵に微笑む叔父上を呆れ顔で止めるイアン団長と、その横で、気まずそうに顔を背けたカインだが、エレノアに対して小言を言うばかりで、淡白過ぎる程に感情を示す事がないのは、観察、分析、考察をした結果、年の差という壁に素直になれずに、拗らせているからなのか…?

これは…面白過ぎる。

「カイン…お前ーー」

「フラン様、お願いがございます」

「?!リア…?ん…?レインは?」

「レイン様とはこの後ゆっくり…なので、皆様に手合わせをお願いしたいのです」

「「「「「………は?」」」」」

「………」

ネイトとユーリは目を見開き、イアン団長と叔父上は顔を見合わせ、カインは溜め息を吐いて後ろに下がって行った。
訓練場に見学に来ている待機番の騎士達は、巻き込まれまいと少しずつ距離を空けて行くが、その面々を逃すまいと、ヨランダ嬢が騎士達を見回しながら口を開いた。

「あまり時間がありませんので、纏めてお願いします」

「レイン様が戻られる前に終わらせなければなりませんの」

「あの、私達がお相手を…?」

「はあぁぁっ!ネイト様の口からお相手だなんて…」

「一体、何のお相手をっ…想像しただけで、心臓が破裂しそう…ゔっ…ぐっ…」

「何のお相手って…手合わせだろ…」

「ネイト1人で充分だな…」

叔父上の意見には大いに同意する。
胸を押さえて蹲るヨランダ嬢とエレノアに、これで終わりでいいのではと思っていると、ユーリが徐に前に進み出てヨランダ嬢に手を差し伸べた。

「ベル…?私の前で他の男に頬を染めるなんて…尻軽ですね」

「「「「……尻軽…?」」」」

「?!ユーリッ!!お前は黙ってろっ!それと、その、愛称っ!やめろと言ってるだろっ!」

かける言葉と行動が乖離し過ぎだろ!

ヨランダ嬢の指先に口付けながら、尻軽などと言って陥れるユーリの馬鹿さ加減に眩暈がする。
そんなユーリに頬を染めるヨランダ嬢もどうかと思うが、ユーリを怒鳴り散らすイアン団長は、やはり、という愛称には物申していたらしい。

「…令嬢方、本日はレインと手合わせで参られたのでは…?」

「イアン団長様?物事に変事は付き物。そして女心は常に蜜を求めて羽を動かしているのです」

「レイン様が甘い蜜を持つ花と知った今、私達は全力で蜜を取りに参ります」

その甘い蜜であるナシェルは何処へ行ったのか…

あの場で何を話し込んでいたのかは知らないが、レインとの手合わせは、いつの間にやらこの場にいる騎士達との乱打戦に転換している。
助けを求める様にこちらを向くイアン団長だが、果たしてどう言い聞かせるか…

「ベル、君が身体に傷を負って血を流す事になるのは本意ではありません。その身が流す血は、私の楔が穿つ破瓜のーー」

「「「?!」」」

「~~ッユーリッ!!誰か!こいつを今すぐに摘み出せっ!!」

「?!ネイト様の尊い手が?!わ、私の…耳に…」

「イアン団長酷いですね…って、ジーク副団長っ!耳をっ…引っ張らないで…」

「誰でもいい。こいつを裏の森に捨ててこい…」

「何?!カイン様?何で目隠し?!」

ヨランダ嬢は本当にこの馬鹿でいいのか…?

焦ったネイトが、ヨランダ嬢の後ろに回って耳を塞ぎ、カインは動揺しているのか、耳を塞ぐのではなく、何故か手に持った手巾でエレノアの目を塞いでいる。

「あ、あの…フラン様…」

かく言う俺も、動揺してオレリアの頭ごと抱え込んでしまっている…腕の中で小さく身じろぎしたオレリアの真っ赤な顔は、ユーリの台詞のせいではないと思いたい。

「すまない…とりあえず、何だかよく分からんが…この場にいる全員で掛かっていいのか?」

「はい」

「っおい、フラン、何をーー」

「問題ない、こちらが問題ある位だ…」

俺とオレリアの会話を聞いたネイトが、焦って止めに入るのを叔父上が手で制し、イアン団長に目配せした。
溜め息を吐いたイアン団長が片手を挙げると、待機番の騎士達が模擬剣を持って訓練場の中央へ向かう。

「どうなっても知らないぞ…」

「怪我が治りかけのフランは見学な」

ネイトとユーリも模擬剣の具合を確かめながら訓練場の中央へと進み出た。
騎士達に囲まれた3人は背中合わせに立ち、その手に持った扇を同時に広げたのを合図に騎士達が攻め込む。

ーーズサッ…パシッ!

「?!早いっ…」

「なんだ?!っこの動きは…」 

ーーゴッ…ギンッー

「ちょっ、嘘だろ?!」

「上っ!!いや、下からっ…ぐっ…」

麗しい3人の令嬢は、蜜を求めて花の間を飛び回る蝶の様に、剣を躱し、時にいなして急所を突いていく。

振り上げた扇に騎士が構えると、反対の手が空いた胴に掌底を喰らわす。
振り下ろされた剣を、回転して躱しながら距離を詰め、騎士の眼前で扇を開いて目隠しをすると、手首に手刀を入れて手から落ちた剣を蹴り上げる。
背中に目が付いているのか…背後から振り下ろされた剣を頭上に掲げた扇で受け取り、振り返った勢いのまま騎士の巨体を蹴り飛ばす。

「アミとユラの比じゃない…」

「規則性がないから動きが読めない。果敢な攻めに怯んだところを叩かれる。回避と攻撃にマナを振れるあの3人は、マナの量が少ない平民のアミとユラとは桁違いなのさ…」

「そこまでっ!!!」

イアン団長の号令と共に動きが止まる。が、砂埃が引いた先に立っているのは、扇で砂埃を払う令嬢3人と、肩で息をするネイトとユーリに、数人の騎士のみで、その殆どが呻きながら急所を押さえて、膝を着いている。

「ま…参りました」

「…防御で精一杯です…」

「これが、デュバルの女傑…」

「…どんだけ強いんだ…?」

「本当に…危うくこちらが破瓜…フゴッ…フェヒト?!」

「黙れっ!この節操無しが!!」

「ネイト様とユーリ様のもつれ合う姿…眼福だわ」

「どうしましょう…新しい扉がーー」

「エレノア、ヨランダ…その扉は開かないでちょうだい…」
























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