196 / 206
剣術大会
194:剣術大会6日前〜義姉 オレリア
しおりを挟む
「ーー休み明けに、皆さんの元気な顔を見れる事を楽しみにしています」
学園長の挨拶で締め括られた前期の終業式後から始まった長期休暇。
「オレリアッ!卒業試験の免除の交渉をありがとう!絶対に成功させようねっ!」
「我々も…剣術だけでなく、剣舞でも見せ場を整えて頂けて感謝します。当日は、観客を大いに沸かせましょう!」
「ありがとう皆んな…怪我のない様に練習してね?」
「了解!また通し稽古でね!」
「お気を付けてお帰り下さい」
私の我儘な一言で始まった騒動に巻き込まれたのに、見返りは充分にあるから気にするなと笑ってくれた騎士生達と魔術生達は、当日まで寮に残って剣技と魔法の練習をするのだと、肩を並べて演習場へと向かって行った。
皆んなの優しさに涙が出そうになるのを、瞬きで誤魔化しながら馬車寄せへと歩を進めて行くと、馬車に荷物を積んでいく御者の横で、迎えに来た家族と抱擁を交わす生徒達の姿が目に入る。
「オレリアッ!」
「お義姉様…?」
曇天の空の下、眩く光る金の髪が乱れるのも気にせず、車窓から身を乗り出して手招きをする義姉と、危ないですと声をかけながら、チラチラと助けを求める様に視線を向けてくる護衛騎士を見て、思わず口端が上がってしまう。
「久し振りね、オレリア!貴女がエイラね?いつも義妹がお世話になってます。ありがとう」
「初めまして、若奥様。エイラ・ファン・ゲイルと申します。暫くの間、お世話になります」
エイラは専属侍女として、長期休暇の間もデュバルの屋敷へ付いて来てくれる。
ゲイル男爵も調査から戻って来ているのに、特舎へ帰らなくていいのかと尋ねたら、執務棟に缶詰になっているから大丈夫だと微笑まれてしまった。
「エイラの部屋はオレリアの向かいに用意してあるわ、これまで通りオレリアのお世話をお願いね。分からない事があったらクララに聞いて?」
「初めまして、ゲイル夫人。クララと申します、宜しくお願いします」
「初めまして、クララさん。エイラで結構ですよ?それにしても…エルデさんといい、クララさんといい、デュバル家の侍女の方達は皆さん本当に綺麗なのね…」
「…オレリア様、エイラさんは無自覚なのですか?」
「……その様ね…」
自身が大人な美人だという自覚がないらしいエイラは、気後れしちゃうわと頬に手を当て、悩ましげな溜め息を吐いている。
夜会以来の再会に話は尽きないまま戻った屋敷で、可愛い甥っ子達に迎えられ、存分に癒され、その後に向かった衣装室では、2着のドレスを見せられた。
「このドレスは……」
紺青のスレンダーラインのドレスは、同色の糸で全身に波の刺繍が入っている。
フレンチスリーブに紺青のロンググローブ、台の上にはチョーカーと金扇。
スツールの前にはドレスと同じ生地のヒールが置かれている。
「レイダ妃のドレスにそっくりでしょう?」
そっくりも何も、本屋敷の宝物庫に飾られているレイダ妃のドレスを持ち出して来たのかと思ってしまった。
「…もしかして…ヨランダからですか?」
「…学園の事は自分達で…それでもデュバルを貶されたとあっては黙っていられないからね」
「申し訳ありません…」
「違うのよっ!誰もオレリアを責めてはいないわ。こちらにも明かせない事はあれど、誰が国の平和を守ったか、誰の犠牲の上に平和があるのか…今もだって、誰が命を懸けて国を守っているのか…私達は覇権ではなく、臣民の笑顔を守る為にいる…それを、スッカスカの軽石の様な頭に叩き込んでやらないとね!」
「お義姉様…軽石って…フッ…フフ…」
衣装の雨曝し事件の話をヨランダとエレノアから聞いたお義姉様は、三科合作の剣舞を提案し、超特急で本屋敷で飾られているレイダ妃が纏っていたドレスと同じ物を作らせたという。
「私も、それなりに苦労したから…」
アレンには内緒よと言って眉を下げて微笑む義姉は、私よりずっと風当たりが強かった筈。
中央に戻ったばかりのデュバル、その後継者である兄は常に注目されてきた。
デュバルの歴史に眉を顰める貴族達も、兄の美しさと優秀さに口を閉じ、令嬢達は頬を染めたと聞いている。
母がいなかった事もあり、ナシェル様と婚約するまで、お茶会に顔を出さなかった私と違って、幼少の頃から兄の婚約者という立場で、お茶会に参加していた義姉は心無い言葉をかけられた事もあっただろう。
学園時代はきっともっと…そんな苦労を、兄は分かっているのだろうか…?
「剣舞ではこれを着て、華麗に舞ってちょうだい?それと、こっちはアレンから、剣術大会の夜会のドレスよ」
「…お義姉様のでは、ないのですか…?」
「やっぱり…シスコン炸裂のドレスで……引いちゃった…?」
引いたなんてものではない。
これは私の…いや、兄の色…?
「お、お義姉様…?この、お兄様の色とも、私の色ともつかないドレスでは、恥ずか…っいえ…め、目立ち過ぎてしまうのでは…」
恥ずかしいって言いそうになって、慌てて言葉を訂正したけれど、裾に向かって白藍から紺へとグラデーションされた生地には、銀の刺繍が銀河の様に流れ、螺鈿の星が散りばめられている。
兄妹どころか、デュバルを全面に押し出したドレスに眩暈がしてきた…
「フフッ…フフフ…フハッ…コルセットが…苦しっ…」
「…わ、笑わないで下さいっ…」
吹き出した義姉に頬が膨らむが、ドレスが恥ずかしいのか、取り乱した自分が恥ずかしいのか分からなくなって、両手で顔を覆う。
幼い子供なら、自分の色でも兄の色でも喜んで着ただろう。
けれど、デビュタントも終えて婚約者もいる身で、自身の色を見に纏う令嬢なんて見た事ないわ!第一、フラン様の色が何処にもーー
「フラン様っ?!…お義姉様、アクセサリーはフラン様がご用意して下さると…」
「大丈夫よ…殿下はブルーパールで用意して下さってるから…ック…フフッ…どうしよう…ククッ…止まらない…フハッ…」
「お義姉様…」
そんなに笑わないで…
学園長の挨拶で締め括られた前期の終業式後から始まった長期休暇。
「オレリアッ!卒業試験の免除の交渉をありがとう!絶対に成功させようねっ!」
「我々も…剣術だけでなく、剣舞でも見せ場を整えて頂けて感謝します。当日は、観客を大いに沸かせましょう!」
「ありがとう皆んな…怪我のない様に練習してね?」
「了解!また通し稽古でね!」
「お気を付けてお帰り下さい」
私の我儘な一言で始まった騒動に巻き込まれたのに、見返りは充分にあるから気にするなと笑ってくれた騎士生達と魔術生達は、当日まで寮に残って剣技と魔法の練習をするのだと、肩を並べて演習場へと向かって行った。
皆んなの優しさに涙が出そうになるのを、瞬きで誤魔化しながら馬車寄せへと歩を進めて行くと、馬車に荷物を積んでいく御者の横で、迎えに来た家族と抱擁を交わす生徒達の姿が目に入る。
「オレリアッ!」
「お義姉様…?」
曇天の空の下、眩く光る金の髪が乱れるのも気にせず、車窓から身を乗り出して手招きをする義姉と、危ないですと声をかけながら、チラチラと助けを求める様に視線を向けてくる護衛騎士を見て、思わず口端が上がってしまう。
「久し振りね、オレリア!貴女がエイラね?いつも義妹がお世話になってます。ありがとう」
「初めまして、若奥様。エイラ・ファン・ゲイルと申します。暫くの間、お世話になります」
エイラは専属侍女として、長期休暇の間もデュバルの屋敷へ付いて来てくれる。
ゲイル男爵も調査から戻って来ているのに、特舎へ帰らなくていいのかと尋ねたら、執務棟に缶詰になっているから大丈夫だと微笑まれてしまった。
「エイラの部屋はオレリアの向かいに用意してあるわ、これまで通りオレリアのお世話をお願いね。分からない事があったらクララに聞いて?」
「初めまして、ゲイル夫人。クララと申します、宜しくお願いします」
「初めまして、クララさん。エイラで結構ですよ?それにしても…エルデさんといい、クララさんといい、デュバル家の侍女の方達は皆さん本当に綺麗なのね…」
「…オレリア様、エイラさんは無自覚なのですか?」
「……その様ね…」
自身が大人な美人だという自覚がないらしいエイラは、気後れしちゃうわと頬に手を当て、悩ましげな溜め息を吐いている。
夜会以来の再会に話は尽きないまま戻った屋敷で、可愛い甥っ子達に迎えられ、存分に癒され、その後に向かった衣装室では、2着のドレスを見せられた。
「このドレスは……」
紺青のスレンダーラインのドレスは、同色の糸で全身に波の刺繍が入っている。
フレンチスリーブに紺青のロンググローブ、台の上にはチョーカーと金扇。
スツールの前にはドレスと同じ生地のヒールが置かれている。
「レイダ妃のドレスにそっくりでしょう?」
そっくりも何も、本屋敷の宝物庫に飾られているレイダ妃のドレスを持ち出して来たのかと思ってしまった。
「…もしかして…ヨランダからですか?」
「…学園の事は自分達で…それでもデュバルを貶されたとあっては黙っていられないからね」
「申し訳ありません…」
「違うのよっ!誰もオレリアを責めてはいないわ。こちらにも明かせない事はあれど、誰が国の平和を守ったか、誰の犠牲の上に平和があるのか…今もだって、誰が命を懸けて国を守っているのか…私達は覇権ではなく、臣民の笑顔を守る為にいる…それを、スッカスカの軽石の様な頭に叩き込んでやらないとね!」
「お義姉様…軽石って…フッ…フフ…」
衣装の雨曝し事件の話をヨランダとエレノアから聞いたお義姉様は、三科合作の剣舞を提案し、超特急で本屋敷で飾られているレイダ妃が纏っていたドレスと同じ物を作らせたという。
「私も、それなりに苦労したから…」
アレンには内緒よと言って眉を下げて微笑む義姉は、私よりずっと風当たりが強かった筈。
中央に戻ったばかりのデュバル、その後継者である兄は常に注目されてきた。
デュバルの歴史に眉を顰める貴族達も、兄の美しさと優秀さに口を閉じ、令嬢達は頬を染めたと聞いている。
母がいなかった事もあり、ナシェル様と婚約するまで、お茶会に顔を出さなかった私と違って、幼少の頃から兄の婚約者という立場で、お茶会に参加していた義姉は心無い言葉をかけられた事もあっただろう。
学園時代はきっともっと…そんな苦労を、兄は分かっているのだろうか…?
「剣舞ではこれを着て、華麗に舞ってちょうだい?それと、こっちはアレンから、剣術大会の夜会のドレスよ」
「…お義姉様のでは、ないのですか…?」
「やっぱり…シスコン炸裂のドレスで……引いちゃった…?」
引いたなんてものではない。
これは私の…いや、兄の色…?
「お、お義姉様…?この、お兄様の色とも、私の色ともつかないドレスでは、恥ずか…っいえ…め、目立ち過ぎてしまうのでは…」
恥ずかしいって言いそうになって、慌てて言葉を訂正したけれど、裾に向かって白藍から紺へとグラデーションされた生地には、銀の刺繍が銀河の様に流れ、螺鈿の星が散りばめられている。
兄妹どころか、デュバルを全面に押し出したドレスに眩暈がしてきた…
「フフッ…フフフ…フハッ…コルセットが…苦しっ…」
「…わ、笑わないで下さいっ…」
吹き出した義姉に頬が膨らむが、ドレスが恥ずかしいのか、取り乱した自分が恥ずかしいのか分からなくなって、両手で顔を覆う。
幼い子供なら、自分の色でも兄の色でも喜んで着ただろう。
けれど、デビュタントも終えて婚約者もいる身で、自身の色を見に纏う令嬢なんて見た事ないわ!第一、フラン様の色が何処にもーー
「フラン様っ?!…お義姉様、アクセサリーはフラン様がご用意して下さると…」
「大丈夫よ…殿下はブルーパールで用意して下さってるから…ック…フフッ…どうしよう…ククッ…止まらない…フハッ…」
「お義姉様…」
そんなに笑わないで…
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
借金まみれで高級娼館で働くことになった子爵令嬢、密かに好きだった幼馴染に買われる
しおの
恋愛
乙女ゲームの世界に転生した主人公。しかしゲームにはほぼ登場しないモブだった。
いつの間にか父がこさえた借金を返すため、高級娼館で働くことに……
しかしそこに現れたのは幼馴染で……?
英雄の番が名乗るまで
長野 雪
恋愛
突然発生した魔物の大侵攻。西の果てから始まったそれは、いくつもの集落どころか国すら飲みこみ、世界中の国々が人種・宗教を越えて協力し、とうとう終息を迎えた。魔物の駆逐・殲滅に目覚ましい活躍を見せた5人は吟遊詩人によって「五英傑」と謳われ、これから彼らの活躍は英雄譚として広く知られていくのであろう。
大侵攻の終息を祝う宴の最中、己の番《つがい》の気配を感じた五英傑の一人、竜人フィルは見つけ出した途端、気を失ってしまった彼女に対し、番の誓約を行おうとするが失敗に終わる。番と己の寿命を等しくするため、何より番を手元に置き続けるためにフィルにとっては重要な誓約がどうして失敗したのか分からないものの、とにかく庇護したいフィルと、ぐいぐい溺愛モードに入ろうとする彼に一歩距離を置いてしまう番の女性との一進一退のおはなし。
※小説家になろうにも投稿
家出したとある辺境夫人の話
あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
『突然ではございますが、私はあなたと離縁し、このお屋敷を去ることにいたしました』
これは、一通の置き手紙からはじまった一組の心通わぬ夫婦のお語。
※ちゃんとハッピーエンドです。ただし、主人公にとっては。
※他サイトでも掲載します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる