王国の彼是

紗華

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剣術大会

194:剣術大会6日前〜義姉 オレリア

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「ーー休み明けに、皆さんの元気な顔を見れる事を楽しみにしています」

学園長の挨拶で締め括られた前期の終業式後から始まった長期休暇。

「オレリアッ!卒業試験の免除の交渉をありがとう!絶対に成功させようねっ!」

「我々も…剣術だけでなく、剣舞でも見せ場を整えて頂けて感謝します。当日は、観客を大いに沸かせましょう!」

「ありがとう皆んな…怪我のない様に練習してね?」

「了解!また通し稽古でね!」

「お気を付けてお帰り下さい」

私の我儘な一言で始まった騒動に巻き込まれたのに、見返りは充分にあるから気にするなと笑ってくれた騎士生達と魔術生達は、当日まで寮に残って剣技と魔法の練習をするのだと、肩を並べて演習場へと向かって行った。

皆んなの優しさに涙が出そうになるのを、瞬きで誤魔化しながら馬車寄せへと歩を進めて行くと、馬車に荷物を積んでいく御者の横で、迎えに来た家族と抱擁を交わす生徒達の姿が目に入る。

「オレリアッ!」

「お義姉様…?」

曇天の空の下、眩く光る金の髪が乱れるのも気にせず、車窓から身を乗り出して手招きをする義姉と、危ないですと声をかけながら、チラチラと助けを求める様に視線を向けてくる護衛騎士を見て、思わず口端が上がってしまう。

「久し振りね、オレリア!貴女がエイラね?いつも義妹がお世話になってます。ありがとう」

「初めまして、若奥様。エイラ・ファン・ゲイルと申します。暫くの間、お世話になります」

エイラは専属侍女として、長期休暇の間もデュバルの屋敷へ付いて来てくれる。
ゲイル男爵も調査から戻って来ているのに、特舎へ帰らなくていいのかと尋ねたら、執務棟に缶詰になっているから大丈夫だと微笑まれてしまった。

「エイラの部屋はオレリアの向かいに用意してあるわ、これまで通りオレリアのお世話をお願いね。分からない事があったらクララに聞いて?」

「初めまして、ゲイル夫人。クララと申します、宜しくお願いします」

「初めまして、クララさん。エイラで結構ですよ?それにしても…エルデさんといい、クララさんといい、デュバル家の侍女の方達は皆さん本当に綺麗なのね…」

「…オレリア様、エイラさんは無自覚なのですか?」

「……その様ね…」

自身が大人な美人だという自覚がないらしいエイラは、気後れしちゃうわと頬に手を当て、悩ましげな溜め息を吐いている。

夜会以来の再会に話は尽きないまま戻った屋敷で、可愛い甥っ子達に迎えられ、存分に癒され、その後に向かった衣装室では、2着のドレスを見せられた。

「このドレスは……」

紺青のスレンダーラインのドレスは、同色の糸で全身に波の刺繍が入っている。
フレンチスリーブに紺青のロンググローブ、台の上にはチョーカーと金扇。
スツールの前にはドレスと同じ生地のヒールが置かれている。

「レイダ妃のドレスにそっくりでしょう?」

そっくりも何も、本屋敷の宝物庫に飾られているレイダ妃のドレスを持ち出して来たのかと思ってしまった。

「…もしかして…ヨランダからですか?」

「…学園の事は自分達で…それでもデュバルを貶されたとあっては黙っていられないからね」

「申し訳ありません…」

「違うのよっ!誰もオレリアを責めてはいないわ。こちらにも明かせない事はあれど、誰が国の平和を守ったか、誰の犠牲の上に平和があるのか…今もだって、誰が命を懸けて国を守っているのか…私達は覇権ではなく、臣民の笑顔を守る為にいる…それを、スッカスカの軽石の様な頭に叩き込んでやらないとね!」

「お義姉様…軽石って…フッ…フフ…」

衣装の雨曝し事件の話をヨランダとエレノアから聞いたお義姉様は、三科合作の剣舞を提案し、超特急で本屋敷で飾られているレイダ妃が纏っていたドレスと同じ物を作らせたという。

「私も、それなりに苦労したから…」

アレンには内緒よと言って眉を下げて微笑む義姉は、私よりずっと風当たりが強かった筈。

中央に戻ったばかりのデュバル、その後継者である兄は常に注目されてきた。
デュバルの歴史に眉を顰める貴族達も、兄の美しさと優秀さに口を閉じ、令嬢達は頬を染めたと聞いている。
母がいなかった事もあり、ナシェル様と婚約するまで、お茶会に顔を出さなかった私と違って、幼少の頃から兄の婚約者という立場で、お茶会に参加していた義姉は心無い言葉をかけられた事もあっただろう。

学園時代はきっともっと…そんな苦労を、兄は分かっているのだろうか…?

「剣舞ではこれを着て、華麗に舞ってちょうだい?それと、こっちはアレンから、剣術大会の夜会のドレスよ」

「…お義姉様のでは、ないのですか…?」

「やっぱり…シスコン炸裂のドレスで……引いちゃった…?」

引いたなんてものではない。
これは私の…いや、兄の色…?

「お、お義姉様…?この、お兄様の色とも、私の色ともつかないドレスでは、恥ずか…っいえ…め、目立ち過ぎてしまうのでは…」

恥ずかしいって言いそうになって、慌てて言葉を訂正したけれど、裾に向かって白藍から紺へとグラデーションされた生地には、銀の刺繍が銀河の様に流れ、螺鈿の星が散りばめられている。

兄妹どころか、デュバルを全面に押し出したドレスに眩暈がしてきた…

「フフッ…フフフ…フハッ…コルセットが…苦しっ…」

「…わ、笑わないで下さいっ…」

吹き出した義姉に頬が膨らむが、ドレスが恥ずかしいのか、取り乱した自分が恥ずかしいのか分からなくなって、両手で顔を覆う。

幼い子供なら、自分の色でも兄の色でも喜んで着ただろう。
けれど、デビュタントも終えて婚約者もいる身で、自身の色を見に纏う令嬢なんて見た事ないわ!第一、フラン様の色が何処にもーー

「フラン様っ?!…お義姉様、アクセサリーはフラン様がご用意して下さると…」

「大丈夫よ…殿下はブルーパールで用意して下さってるから…ック…フフッ…どうしよう…ククッ…止まらない…フハッ…」

「お義姉様…」

そんなに笑わないで…








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