王国の彼是

紗華

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剣術大会

201:剣術大会前日〜仕上がり エイデン

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荷物係として同行したのは、貴族街の王城にほど近い場所に位置する、王都唯一の軍服の仕立て屋。

学園から来る時は、ドレスショップの並ぶ通りを王城に向かって進まなければならない為、非常に居た堪れない。

令嬢2人の絵姿や小説の話を聞くともなく聞きながら歩き続け、目に入った看板に小さく安堵の息を吐く。

『忠誠、礼節、愛の店』…

「この看板を見る度に、入るのを躊躇うのよね…」

「騎士道って、文字にすると何だか怪しく感じますね…」

「でしょう?扉の向こうで待つ、美麗な男性に、色々な奉仕を…なんて想像しちゃうんだけど…」

ーーカンカンッ…ココン…

「いらっしゃいませ」

「お待ちしておりました」

迎えてくれるのは、筋骨隆々の厳つい兼業軍人達…

苦笑いの俺達に、不思議そうな顔をする店主が案内してくれたのは、作業場奥の階段を上がった2階。

磨かれた木の床を遮る置物はなく、片面の壁に、樽に入った数本の模擬剣と、木偶人形が寄せて置いてあるだけ。
反対側の壁は一面の鏡張りになっている。

「店の2階が、簡易の訓練場になっているのですね…」

「軍服を扱っているのでね。着心地や、動作に支障がないかを此処で確認しても頂くんですよ。私達や仲間は、手が空いた時間に此処で鍛えたりもしています」

兼業軍人は、王城で訓練を受けるが毎日ではない。その為、各々で時間を作って鍛錬を積んでいるのだと説明してくれた。

ーーブンッ…ヒュッ…

「本当に、見事な舞ですね…」

「目の前で見れるのは、役得ですね」

「私達の作った衣装で…感動するな…」

決して広くはない部屋の中で、エレノア嬢とクロエ嬢が舞う姿を眺めながら、店主達が感心の溜め息を吐く。

これまでの動作確認では、裁縫師達の目は衣装に向けられ、メモを取りながらの観察作業だったそうだが、今日はその手にメモもなく、純粋に舞を見て感動している。

扇と剣を自在に操り、重力を感じさせない蝶の様に舞う姿は、いつまででも見ていたい…

ーータタンッ……タンッ…

「いかがですか?」

最後のステップを踏み、笑顔で振り返った2人に、店主が声をかける。

「飛んでも跳ねても、カラーが浮き上がってこない…動き易いわ!」

「回転した時の裾の広がりも、とても綺麗…」

裁縫師から水を受け取り、息を整えたエレノア嬢とクロエ嬢が、目を輝かせながら、その場でクルリと回転した。

「その言葉を聞いて、私達も安心しました…」

「注文ばかりで、大変でしたでしょう?ありがとうございます」

「ハハッ…それが仕事ですから…裾の広がりは苦労しましたがね…」

遠い目をした店主達は、自分達でスカート部分を作って、実際に履いて確認しながら裾部分の布の量を測っていたという。

仕事熱心なのは感心だが、あまり想像はしたくない…

「カラーは、持ち上がらない様に肩で留めているんです。肩の上下の動きに影響がないか心配でしたが、問題なさそうですね」

「全く問題ないわ!顔に被ってきた時は、どうなる事かと思ったけれど…これなら気にせず動けるわ!」

「ご満足頂けた様で、安心しました…」

「大満足です。本当にありがとうございます…大会の一回だけなんて、もったいないくらーー」

袖を撫でながら微笑むクロエ嬢の手が、ピクリと動いて止まり、話していた口を閉じて考え込んでしまった。

「クロエ?どうしたの?」

「な、何か問題でも…?」

不安気な店主と、名前を呼ぶエレノア嬢にも反応はなく、袖を撫でていた手を顎に添え、俯き加減に考え込んでいる。

睫毛が長いな…

紺青の軍服に白金の髪が映える。見慣れた制服姿もいいけど、こっちも捨て難い。

夜会のドレス……俺じゃない誰かの色だったら、嫌だな…

クロエ嬢を見つめながら、そんな事を考える俺は、クロエ嬢に友人以上の好意を寄せているんだろう。

3人の存在感が大き過ぎて、気に留める事もなかったクロエ嬢とは、放課後に付き合わされる、お茶会という名の雑談の場でも話した事はなく、演習場で顔を合わせても挨拶を交わす程度の、顔見知り位の仲だった。


『エイデン様、仕掛けを探しながら帰りませんか?』

『時間切れです!フフッ…エイデン様?激辛ジュースをどうぞ?』

『ふっ……飴…ひゃらくて…くひが…っひらひ……っ…』


探さずとも、棟の其処彼処に存在していた仕掛けは、学園の七不思議の問題を解かないと出られない部屋や、限られた時間で出て来ないと、罰ゲームを課せられる迷路部屋、飾られた肖像画の人物と、目が合い続ける廊下に、ある段を踏むと動き出す階段…

驚いたり、笑ったり、飴の辛さに涙を流したり…コロコロ変わる表情は、抱いていた大人しいという印象を良い意味で裏切り、適度な距離感には心地良さを覚えた。

単純と言われればそれまでだが、あの時から、俺はーー

「スナイデルの森に建てるサロンで、この軍服ドレスを使えませんか?」

不意に上げられた顔と、サロンという言葉にドキリとする。

「クロエ?どういう事?」

「【軍服の下に隠された秘密~恋~】です!小説のヒロインは軍服でしたけど、このドレスで擬似体験しながら、お紅茶を楽しめたらと…」

令嬢達は、こういう発想を俺達に求めていたのか…?…無理だろ……

男性の意見も取り入れたいと恋愛小説を読まされ、もどかしい主人公達の遣り取りに、ジャンやソーマと脳内補完しながら完読したが、そんな不埒な俺達に、まともな案が出せる筈もなく…

早々に戦力外通告を出されている。

「…滾るわね……そういう事で、皆さん、これからもよろしくお願いします」

「「「「「…はい?」」」」」

「オレリアとヨランダの屋敷に鷹を飛ばさないと…クロエ、エイデン様、お先に失礼するわ!衣装は私が馬車で持って帰るから!」

「エレノア様?!待ってっ…私とエイデン様は?!」

「エイデン様の馬で帰ればいいでしょう?エイデン様、クロエをお願いしてもいいかしら?いい?ありがとう!皆さん、衣装を馬車に運んで下さい、急いで!」

「「「「はっ、はい!」」」」

返事をする間もなかったな…

「あの、お騒がせしました…」

「いやいや…ハハッ…新しいサロンに協力出来る事があればお手伝いしますと、お伝え下さい。近衛や王宮騎士団の軍服ドレスも、作りますよ。各団長との交渉はお任せしますがね」

「フフッ…ありがとうございます」

「またのお越しをお待ちしております」

「私達も…明日の会場で、お待ちしておりますね」

ーーカンカンッ…ココン…

「「………」」

どうする?俺…











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