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20 竜石と消えた令嬢①
しおりを挟む「えっ? 誰とって、それは見てのとおり、この竜と話しているのですが……」
「竜と!?」
私の言葉に竜王様だけじゃなく、そこにいた全員が驚きの声を出し、ざわつき始めた。しかも騎士たちは「竜と話せるなんてできるのか?」「ちょっと信じられないな」と言い始め、なんだか肩身が狭くなってくる。
「あの、みなさん竜人だから、竜の言葉がわかるんじゃないんですか?」
『わからないよ』
「えっ?」
竜王様たちに質問したはずが、隣にいる竜のほうが答えてしまった。私が振り向くと『かわいい~』と言って、しっぽをブンブン振っている。
「みんな、あなたたちの言葉がわからないの? 私だけ?」
『うん! 君だけ! だから僕と――』
「リコ! 本当に竜の話していることが、わかるのか?」
竜王様は目の前の竜の言葉を遮るように言うと、私の肩を揺さぶった。
「は、はい。もしかして竜王様もわからないのですか?」
「ああ、竜たちは俺の言うことを理解しているようだが、人の言葉は話していない。今、リコが会話をしていた時も、鳴き声にしか聞こえなかったぞ」
「えっ! 鳴き声?」
どうやらこちらの竜と竜人は、日本でいうと飼っている犬との関係に似ているみたいだ。飼い主の言うことを理解しているし、行動や仕草で彼らの気持ちはわかるけど、「会話」はできない。
『でも竜気が弱い人の言葉はわかりづらいよ。その点、竜王様は特別! すっごく竜気が強いし、みんなの憧れなんだ!』
「そうなんだ……」
するとその竜はクルルと甘えた声を出し、私の腕とワキの間に自分の頭を差し込んできた。この行動、居候していた家でお世話をしていたワンちゃんもやってた気がする。しかしその甘えた態度をしている竜のしっぽを、もう一頭の竜が引っ張って止めさせようとしていた。
『おい! キール! 恥ずかしいから人前でそんなことするな!』
『うるさいな~! 本当はヒューゴだってしたいくせに!』
「コラコラ、喧嘩しちゃダメよ」
二頭がギャウギャウと吠えながら喧嘩し始めたので、私はあわてて止めに入った。しかし騎士たちは、そんな私たちの様子を目を丸くして見ている。
「気性の荒い竜が、初対面の女性にあんなに懐くとは!」
「では本当に、迷い人様には、竜の言葉がわかるのか?」
「う~ん、リコが演技をしているようには見えませんから、竜たちが何を言っているのか知りたいですね」
最後にシリルさんがそう言うと、まわりも同意するようにうなずいた。どうやら騎士だけじゃなく、竜王様たちもまだ半信半疑で、戸惑っているようだ。
(当然よね。私だって日本にいて、いきなり犬と会話できますよって誰かに言われても、すぐには信じられないもの……)
しかしそれならどうやって証明しようか? なにかいいアイデアはないかな? そう悩んでいると、私に甘えているキールという名の竜が、ある提案をしてきた。
『それなら、僕と相棒しか知らない秘密を、バラしちゃえばいいよ!』
「相棒の秘密をバラす?」
『おまえ……けっこうひどいな』
秘密をバラすとはちょっと不穏じゃないかな? そう私が戸惑っていると、もう一頭のヒューゴという名の竜も呆れたようにため息を吐いていた。しかしキールの言葉に一番反応したのは、騎士たちだ。
「相棒の秘密って、俺たち竜騎士の秘密か?」
「あの竜は、キールだろう? じゃあ、相棒ならゲイリーだな」
「えええ! お、俺の秘密をバラすってキールが言ったのか? その前にあいつ正気に戻ってるのか?」
一気に騎士たちの顔色が変わり、ざわつき始めた。なにか後ろ暗いことでもあるのだろうか? すると一人の体格の良い騎士が前に出てきて、騒いでいる仲間たちを叱り始めた。
「おい! おまえら! なぜ一歩下がるんだ! 相棒の言葉が聞けるチャンスなんだぞ!」
「団長、そう言いましても……」
「まったくおまえらは……。しかしその前に迷い人様には、二つの事件を解決するご協力をお願いしなければ」
「二つの事件、ですか?」
そこで初めて知ったのは、あの最終試合でキールくんに薬を盛られた可能性があるということだった。あの異常な暴れっぷりの原因が薬だったとは。しかも飲まされたものも、はっきりわかっていないらしい。
「なので、キールが何を飲まされたのか。また飲ませた犯人を覚えているのかをお聞きしたいのです。ご協力お願いできますか?」
「もちろんです!」
今は元気にしているけど、そんな怪しい薬を飲まされていたら、今後後遺症が出てくることだってあるかもしれない。早くその薬を特定して、安全か確かめてあげなくちゃ!
(なんせキールくんが助けてくれなかったら、私は死んでたはずだもの)
そう思うとやる気が出てくる。しかし私がキールくんに話しかけようとすると、竜王様が私の手を引っ張り、自分の方に引き寄せた。
「リコ、その前におまえが空中に投げ出された時に気づいたことがあれば、教えてほしい。観客席からあの場所まで吹き飛ばされ停止しているのは、普通の力じゃない。竜気の使い手だ。それもかなりのな。誰か怪しい人物を見ていないか?」
「怪しい人物……」
その言葉に私は一気に気持ちが落ち込んでしまった。その様子を見て竜王様が「思い出すのがつらいなら、ゆっくりでいいぞ」と言っているけど、私の頭にははっきりとある女性の姿が思い出されていた。
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