24 / 41
23話 爆発の原因
「やあ! 迎えに来たよ!」
「シモン様!? 一体どうしたのですか?」
明るい声で出迎えたシモン様が、私をぎゅっと強く抱きしめた。私は彼の大きな胸の中にすっぽり収まり、身動きができない。
なんとか顔だけ上げると、目の前のシモン様は誰もが憧れるおとぎ話の王子様といった様子で私を見つめている。金色の髪をサラリとなびかせ極上の微笑みを浮かべる姿は、本当に私の婚約者なのかと疑ってしまうほどだ。
「早速、君が男を撃退した気配を感じてね。急いで迎えに来たんだ」
そう言ってにっこり笑うと、私の頭のヴェールを取った。シモン様の青い瞳はイタズラが成功した少年のように、キラキラと輝いている。
「え? 男を撃退……? じゃあ、あれは本当にわたくしがしたのですか?」
「う~ん。正確には私が君の舌につけた『契約の魔術』が発動したんだけどね」
「契約の魔術……さっきの、えっと、アレでしょうか……?」
(婚約の口づけをした時に痛みが走って気絶したけど、たしかあの時にシモン様は「婚約の契約をした」と言っていたわ)
あの時のキスを思い出すと、少し気恥ずかしい。しかし当のシモン様は得意げな表情で笑うと、私の唇にトンと指を置いた。
「そう、あの時のキスだよ。君に乱暴を働く者は、私が施した魔術で吹き飛ばしたんだ。ちなみに威力はどうだったかい?」
その言葉にギクリと肩を震わす。結果として暴力から逃れられたから良かったけど、壁に穴を開けたのはやりすぎよね……。私が気まずい顔で黙っていると、シモン様はアハハと快活に笑った。
「どうやら凄かったようだね! まあ、でも気に病むことはない。あれはスカーレットに向けられた攻撃を倍にして返すものだから、自業自得というやつだ。そんなことより、いったい何があったの?」
「何があった?」と問いかけるその声は、妙に凄みがあって私の背中をゾクッと震わせる。どうやら彼は敵と味方がハッキリしているようだ。味方だと思った人にはとことん優しいけど、敵には容赦しないのだろう。
私がぽつぽつとさっきあった事を彼に話すと、やはり彼の端正な顔立ちが冷たい表情に変わっていった。
「はあ……予想していた以上に、教会は腐っていたようだね。教会内だけで過ごすと世間に疎くなるものだが、その教育係は愚かすぎるだろう」
呆れ返るようにそう言うと、シモン様は私のスカートの上に自分の上着をかけてくれた。すっかり忘れていたけど、被害者を装うためにスカートを破いていたから、座ると太ももが丸見えだ。私は今さらながらもじもじと膝を突き合わせた。
「そうですね。彼は王族よりも司教様が偉いと考えていました。今回乱暴しようとしたことも私への『しつけ』だと思っていたはずです。聖女になった頃は鞭で叩かれたこともありましたし」
(まったく、今になって昔の記憶がよみがえってくるわ! 小さな子供にあの男は本当になんてことしたのかしら!)
当時のことを思い出すと、眉間にシワが寄ってしまう。ふうっと息を吐き心を落ち着かせていると、突然ふわりと体が浮いた。
「えっ! な、なにを!」
「少しだけ、きつく抱きしめさせてくれ」
気づけば私はシモン様に抱き上げられ、彼の膝に座っていた。
(ち、近い近い近い……! ううう……)
私の頭を抱え込むように抱きしめ、シモン様の頭が私の首元に埋まる。ふわっと彼の香りが鼻をくすぐり、ドクンドクンと脈を打つように体温が熱くなっていくのがわかった。
それでも、不思議と抵抗感はない。彼に抱きしめられていると、まるで子供の頃に戻ったような安心感さえ生まれてくる。
(きっと今、シモン様が抱いて慰めているのは、子供の頃の私なんだわ……)
王宮でオーエン様に体をくっつけられた時は、恋愛未経験の私でも「女」として見られているのがわかった。でもシモン様は違う。これは、この先の関係を求める抱擁じゃない。
私の背中をポンポンと叩き、まるで泣いている子供をあやしているみたいだ。
(ありがとうございます。シモン様。なんだか本当に幼い私が慰められてるみたいだわ……)
しかしそのまましばらく抱きしめられた後、ふとシモン様が何かを思い出したように顔を上げた。
「そうだ。大事なことを言うのを忘れていた。これから王宮に行って、そのままカリエント国に帰ることになったぞ」
「え……えええ!」
パクパクと口を開け何か言おうとするけど、驚きすぎて言葉が浮かばない。さっきまでの穏やかな空気は一気に消え、今はもうパニックになっていた。それなのにシモン様はそんな私を見て「スカーレットは身一つで行けばいい」と笑っている。
「わ、笑い事じゃないのですけど! いったいなぜそんな急展開に?」
たしかに妹やオーエン様たちの行動が早まるから用意しておこうと話をしたけど、それをしたのは今朝なのに! それに王宮に行った後に、シモン様の国に一緒に行くということよね。なにも荷造りしていないけど、いいのかしら?
混乱して何から質問するべきかわからない。するとシモン様は私の頭をなでながら、少し困ったように話し始めた。
「実はスカーレットが教会に行ってすぐに、王宮から使者が来たんだ」
「そ、そんなに早く? シモン様が対応したのですか?」
「いや、館の主である、君の叔母上が話したよ。ちょうど話が終わったところに来たから、私も話を聞かせてもらったのだが……。少し予想外の人物がいてね」
「予想外の人物というのは、もしかして……」
考えられるのは一人しかいない。私は一気にあの夜の気持ち悪さを思い出し、身構えるように体をさする。
「ああ、使者として来たのは、オーエン殿下だったんだ」
あなたにおすすめの小説
十六歳の妹の誕生日、私はこの世を去る。
あいみ
恋愛
碌に手入れもされていない赤毛の伯爵令嬢、スカーレット。
宝石のように澄んだ青い髪をした伯爵令嬢、ルビア。
対極のような二人は姉妹。母親の違う。
お世辞にも美しいと言えない前妻の子供であるスカーレットは誰からも愛されない。
そばかすだらけで、笑顔が苦手な醜い姉。
天使のように愛らしく、誰からも好かれる可愛い妹。
生まれつき体の弱いルビアは長くは生きられないと宣告されていた。
両親の必死に看病や、“婚約者の献身的なサポート”のおかげで、日常生活が送れるようになるまで回復した。
だが……。運命とは残酷である。
ルビアの元に死神から知らせが届く。
十六歳の誕生日、ルビアの魂は天に還る、と。
美しい愛しているルビア。
失いたくない。殺されてなるものか。
それぞれのルビアを大切に思う想いが、一つの選択をさせた。
生まれてくる価値のなかった、醜いスカーレットを代わりに殺そう、と。
これは彼女が死ぬ前と死んだ後の、少しの物語。
繰り返しのその先は
みなせ
ファンタジー
婚約者がある女性をそばに置くようになってから、
私は悪女と呼ばれるようになった。
私が声を上げると、彼女は涙を流す。
そのたびに私の居場所はなくなっていく。
そして、とうとう命を落とした。
そう、死んでしまったはずだった。
なのに死んだと思ったのに、目を覚ます。
婚約が決まったあの日の朝に。
あなたの幸せを祈ってる
あんど もあ
ファンタジー
ルイーゼは、双子の妹ローゼリアが病弱に生まれたために、「お前は丈夫だから」と15年間あらゆる事を我慢させられて来た。……のだが、本人は我慢させられていると言う自覚が全く無い。とうとう我慢のしすぎで命の危機となってしまい、意図せぬざまぁを招くのだった。
ドアマットだと自覚してないドアマット令嬢のお話。
「今更、あなたの娘のふりなどできません」〜ずっと支えていた手を、そっと引っ込めただけです〜
まさき
恋愛
父が死んだ日から、私は屋敷の「異物」になった。
継母は新しい夫に夢中で、義姉たちは私を使用人のように扱い、継父は三年経っても私の名前を覚えない。
気づいていなかったのだ、あの人たちは。
私の「静寂の手」がずっと、この家を守り続けていたことを。
ある夜、私は静かに荷物をまとめた。
怒りもなく、涙もなく、別れの言葉すら残さずに。
三ヶ月後、屋敷に原因不明の病が広がり始める。
「リーナを探せ」
今更、ですか。
私はもう、別の場所で別の名前で——ちゃんと生きています。
お望み通り、消えてさしあげますわ
梨丸
恋愛
一国の次期王妃と言われていた子爵令嬢アマリリス。
王太子との結婚前夜、彼女は自ら火を放ち、死んだ。
国民達は彼女の死を特に気にもしなかった。それどころか、彼女の死を喜ぶ者もいた。彼女の有していた聖女の力は大したものではなかったし、優れているのは外見だけの“役立たずの聖女”だと噂されるほどだったから。
彼女の死後、すぐさま後釜として皆に好かれていた聖女が次期王妃に召し上げられた。
この国はより豊かになる、皆はそう確信した。
だが、“役立たずの聖女”アマリリスの死後──着実に崩壊は始まっていた。
※投稿してから、誤字脱字などの修正やわかりにくい部分の補足をすることがあります。(話の筋は変わらないのでご安心ください。)
※この調子だと短編になりそうです。
元侯爵令嬢は冷遇を満喫する
cyaru
恋愛
第三王子の不貞による婚約解消で王様に拝み倒され、渋々嫁いだ侯爵令嬢のエレイン。
しかし教会で結婚式を挙げた後、夫の口から開口一番に出た言葉は
「王命だから君を娶っただけだ。愛してもらえるとは思わないでくれ」
夫となったパトリックの側には長年の恋人であるリリシア。
自分もだけど、向こうだってわたくしの事は見たくも無いはず!っと早々の別居宣言。
お互いで交わす契約書にほっとするパトリックとエレイン。ほくそ笑む愛人リリシア。
本宅からは屋根すら見えない別邸に引きこもりお1人様生活を満喫する予定が・・。
※専門用語は出来るだけ注釈をつけますが、作者が専門用語だと思ってない専門用語がある場合があります
※作者都合のご都合主義です。
※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。
※架空のお話です。現実世界の話ではありません。
※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。
ローザリンデの第二の人生
梨丸
恋愛
伯爵令嬢、ローザリンデの夫はいつも彼女より仕事を優先させ、彼女を無碍にしている。
彼には今はもういない想い人がいた。
私と結婚したことにいい思いをしていないことは知っていた。
けれど、私の命が懸かっていた時でさえも、彼の精神は変わらなかった。
あなたが愛してくれないのなら、私は勝手に幸せになります。
吹っ切れたローザリンデは自分自身の幸せのために動くことにした。
※投稿してから、誤字脱字などの修正やわかりにくい部分の補足をすることがあります。(話の筋は変わらないのでご安心ください。)
1/10 HOTランキング1位、小説、恋愛3位ありがとうございます。
3/31 【第十九回恋愛小説大賞にて、奨励賞をいただきました!】
【完結】次期聖女として育てられてきましたが、異父妹の出現で全てが終わりました。史上最高の聖女を追放した代償は高くつきます!
林 真帆
恋愛
マリアは聖女の血を受け継ぐ家系に生まれ、次期聖女として大切に育てられてきた。
マリア自身も、自分が聖女になり、全てを国と民に捧げるものと信じて疑わなかった。
そんなマリアの前に、異父妹のカタリナが突然現れる。
そして、カタリナが現れたことで、マリアの生活は一変する。
どうやら現聖女である母親のエリザベートが、マリアを追い出し、カタリナを次期聖女にしようと企んでいるようで……。
2022.6.22 第一章完結しました。
2022.7.5 第二章完結しました。
第一章は、主人公が理不尽な目に遭い、追放されるまでのお話です。
第二章は、主人公が国を追放された後の生活。まだまだ不幸は続きます。
第三章から徐々に主人公が報われる展開となる予定です。