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03. 30年後の未来
しおりを挟む「ど、どなたでしょう?」
足元にいる男をよく見てみると、髪は見事な金色でお父様より年上に見えるから40歳くらいだろうか。でも若い頃はさぞ美男子だったことだろう。なんだか雰囲気は陛下に似てるわなんて思っていると、その男は私を見て涙を流し始めた
「僕だ! エドワードだよ!」
「エ、エドワード様?」
そんなはずはない。私は死んだはずだし、私の知っているエドワード様は15歳だ。
「でもエドワード様はそんな年齢では…」
死んだ後に知らない場所で起きて、元婚約者だと名乗る別人に出会うなんて。何がなんだかわからず、オロオロしてしまう。
するとエドワード様(仮)は立ち上がり、綺麗な青い目で優しく微笑んできた。その目は、エドワード様が癇癪を起こした私にするのと同じで、少し心が落ち着いてくる。
「君が死んでしまった事は理解している?」
「え? ええ、わかっております」
「そうか」
自分から聞いたのに、エドワード様はなんだか苦しそうな複雑な顔をしている。
「サラ、落ち着いて聞いてほしい」
「はい」
「君が死んでから30年経っていて、僕は今45歳だ」
「30年? 45歳! そんなに経っているのですか?」
私1人だったらすぐには信じられなかったけど、目の前にいるエドワード様(45歳)には確かに面影が残っている。それに嘘をついているようにも見えない。とりあえずこのままエドワード様だと信じてみようかしら。
それにしてもここはどこなの? 30年も経っていればエドワード様は王位を継いでいるでしょうから、ここは魔術の研究部屋か何か?
ぐるりと部屋の中を見回してみたが、エドワード様の身分とこの場所は合っていない様に感じる。調度品は王族が使うには品質がやや劣っているし、なにより部屋全体が質素で窓も小さい。そして一番の違和感は窓に格子がはまっていることだ。
まるで閉じ込められてるような……
「あの、エドワード様。ここはいったい?」
「サラ、昔みたいにエドと呼んでほしい」
「え!?」
私にとってはつい最近の事だけど、30年も経っていたらもう御結婚されて即位されていることだろう。こんな状況とはいえ、伯爵令嬢の私が馴れ馴れしい態度を取って良い相手ではない。なによりエドワード様の特別だと勘違いして傷ついた事を思い出すと、とても愛称で呼ぶ気にはなれない。
「でも、死んだ身ですがエドワード様にはソフィア様がいらっしゃるのですから、ケジメはつけた方が良いと思います」
「え? ソフィア? 誰のこと?」
「マリス王国のソフィア様です! 婚約破棄したいとエドワード様が私に告げた時、隣にソフィア様がいて……」
あら? そういえば紹介されただけで、次の婚約者だとは言ってなかったような……?
いえ! でもあの状況はいかにもです!
「ああ! ソフィア王妃のことか!」
ソフィア王妃!
もうわかっていた事なのに、やっぱり2人が御結婚された事を知るとグサリと胸に突き刺さる。しょうがないわよね。エドワード様にとって結婚したのが30年前の事でも、私にとっては今知った事なんだから。
「そ、そうです! お2人が御結婚されているのですから、私は元婚約者とはいえ馴れ馴れしくするわけにはいきません! いえ元婚約者だからこそ適切な距離でお話しなくては。私は生きてはいませんが、大事な事です」
なんだか変に早口になってしまったけど、きっぱり言えて良かった。死んだ後でまで勘違いして傷つくのは遠慮したいもの。ホッと一息つくと、なぜかエドワード様はニコニコしてこちらを見ている。
「サラ、それなら気にしなくていい。僕は誰とも結婚してないし、ソフィア王妃が結婚したのは僕の弟だよ。王位を継いだのは、僕ではなく弟だ」
「ええ!?」
エドワード様が王位を継いでない? それならエドワード様は、今ここで何をしているのだろう?
「あの日の事から話したいから、座らないか?」
混乱して黙ってしまった私に、エドワード様は優雅にソファーをすすめてきた。あまりにも自然に勧めてくるので何も考えずにエドワード様の後をついてきたけど、私ソファーに座れるの? そういえば私の体はどうなってるの!? 慌てて自分自身の体を見てみると、半透明に透けていた。
「わ、私透けてます!」
「そうだね」
こっちはものすごく混乱しているのに、エドワード様はずっとニコニコして私を見ている。なんだか1人で慌ててるのが馬鹿みたいだけど、自分の体が透けているのだからしょうがない。
「それにしても、私透けているのに座れるのでしょうか?」
そう言って試しにソファーの背もたれに手を置いてみると、感触は無いが手がすり抜けることはなかった。どうやら座れそうだ。
「座れそうですね。ちなみに人間のエドワード様を触ることができるか試してみても?」
魔術の実験をしている気分で気楽に聞いたのに、エドワード様は目を見開いて驚いている。
「え? サラが僕に? そ、それはちょっと心の準備が!」
「実験に心の準備なんて必要ないでしょう」
なんだかわからないけどさっきと立場が逆転して私の方が落ち着いて、エドワード様が慌てている。気にせずズンズンと近づいて、エドワード様の手を握る。
しかし握ったつもりなのに、手がスカっとすり抜けてしまった。
「人間は触れないようですね。命が無い物同士なら触れるのかも」
そう言ってエドワード様を見上げると、苦しそうに顔を歪めている。そんな泣きそうな顔しないでほしい。私達は死ぬ前も、エスコートの時しか繋がなかったじゃないの。
2人ともがしゅんとした雰囲気になってしまった。それでもエドワード様が死んだ後の出来事を話し始めると、ショックの連続でそんな切ない気持ちは吹き飛んでしまうのだった。
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