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04. 私が死んだ後のこと
しおりを挟む「じゃあ始めから説明しようか」
そうしてエドワード様が話してくれたことによると、私は魔獣を召喚していなかったらしい。あの日部屋の結界を解き扉を開けると、私が魔力枯渇状態ですでに息絶えていたという。
とりあえず魔獣に食べられている場面を見せたり、誰か死んでなくて良かった。他の人に迷惑をかけていなかった事を知って、ホッと一息つく。この部分が気になっていたので、あとは知りたい事をどんどん聞いていくことにした。
「それでどうやって、私の魂を呼び寄せたのです?」
どうして呼び寄せたのか? なんのために私を? という理由も気になるけど、魔術が大好きな私はまずここが先に知りたい。ものすごく高度な魔術だろうし、そもそもこんな魔術あったのだろうか?
「君が残した魔石を利用したんだ」
「私の魔力を吸い取った、あの魔石ですか?」
「ああ、形見分けとして君の父である、オルレアン伯爵から譲ってもらったんだ」
そう言ってエドワード様はポケットから私の魔力を吸い取ったあの魔石を取り出し、大事そうに手のひらで包んで見せてくれた。
「もちろん最初オルレアン伯爵は魔石を譲らなかったし、顔も見たくないと言われたよ。当然だ。しかし君が死んで10年経った頃だろうか。僕が爵位を剥奪されこの部屋に幽閉された頃、オルレアン伯爵が手紙と一緒に魔石を送ってくれてね」
エドワード様が何気ないふうに話すから聞き流してしまいそうだったが、「爵位を剥奪」と「幽閉」の言葉にギョッとして話を止める。
「ちょっと待ってください!爵位を剥奪されて、ここに幽閉されているのですか?」
「ああ、恥ずかしい事だが君がなんとか僕のもとに戻ってこないかと魔術の研究ばかりして、王族としての努めを果たしていなかったんだ。それでまあ、いわゆる、僕が狂ってしまったのだろうという事でここに入れられたんだ」
そんな……さっきは他人に被害が無くて良かったと安心していたところだったのに、まさかエドワード様が爵位剥奪のうえ幽閉されていたなんて。私があんな馬鹿なことをしたせいだ。
謝ることさえ白々しく聞こえそうで、言葉が出てこない。そんな沈んだ私を気づかせるため、エドワード様がテーブルを指でトントンと叩いた。
「それでも今は君の魂を呼び戻す事にして良かったと思う」
「そんなわけありません!」
「違うんだ。君はあのままだったら、生まれ変わる事ができなかったと思う」
「え?」
生まれ変わり? 突然なんだろう? 確かにこの国では死んだ後はまた生まれ変わると言われてるけど、私の魂を呼び戻す事と何か関係あるのだろうか?
ほんの少し魔術が関係する話題になるだけで、気が紛れて心が落ち着いてくる。それを知っているエドワード様はニコリと笑い、近くの本棚から古い一冊の本と羊皮紙を持ってきて魔石の横に置いた。
「実は師匠にこの魔石を見てもらった時、魔石に魔力だけじゃない何かが入っていると言われたんだ。その時に君が死んだ後、光が出たか聞かれて光っていないと答えた」
たしか魔力持ちが死ぬ時は、体が一瞬光ってその後もほんのり光り続けると習った。それなのに私は死んだ後、光っていなかったということ?
「この文献によると光る理由は魔力と魂が切り離されるか、魔力と肉体が切り離されるかのどちらかだと言われていた」
エドワード様はさっき持ってきた古い本をパラパラとめくり、説明していく。
「それで僕と師匠が出した結論は、君の魂まで魔石に入ってしまったのではないか? ということだった」
そこからエドワード様の怒涛の魔術談義に入ってしまったが、まとめるとこうだ。
魔力持ちの私が死んだのに光らなかったという事は、「魔力」が「魂」もしくは「肉体」と切り離されていないということ。しかし私は魔力をすべて魔石に吸い取られてしまって、肉体と切り離されたのに光らなかった。ということは、魔力と魂が切り離された時に光る可能性が高いことになる。
この説明の後も「それでも文献で2つの理由が考えられていただけで、光る理由はそれだけじゃないかも」だの「魔力持ちが死ぬと光も天に登っていくから行き詰まった」やら「でも体にほとんどの魔力が残っていて」と語りが止まらない。
「というわけで、師匠は魔力とつながっているのは魂だとわかり、新発見だと大喜びしていたよ」
そう言うエドワード様の顔も実験が成功した15歳の顔つきになっている。なんだか人体実験されているようでエドワード様をじろりと睨むと、あわててキリっとした顔つきになり話を続ける。
「そ、それで師匠と2人で、魔石から魂だけを取り除く魔術を考え始めたんだ」
なにそれ、楽しそう。自分の死に関してなのに魔術のことになるとすぐこれだわ。どうしてもワクワクしてしまう。ちなみに師匠は10年前に亡くなっていた。弟子として先に死ぬなんて失格だと落ちこむと、エドワード様が励ましてくれた。
「あの人は変わってたから。こんな面白い事を残してくれるなんて死んでも師匠孝行だなんて、ワクワクしてこの魔石をいじってたよ」
他人が聞いたら気を使って言ってるのねと思うかもしれないが、師匠は本当にこういう人だ。デリカシーのかけらもないし、実際にこの魂入り魔石を作った私に感謝すらしていたはず。でもここまできたなら私だって魔術の研究を楽しんだ方が気が紛れそうだ。
「それで魔法陣はどうやって書いたのですか?見せてください」
「ああ、魔法陣はこれだ」
広げられた魔法陣をじっくり見ながら「ここはなんでこの書き方なのですか?」とか「この呪文は弱すぎませんか?」などエドワード様を質問攻めにする。
魔法陣の説明に夢中になっているエドワード様(45歳)をちらりと見上げると、まるで15歳の2人に戻ったような気持ちになって鼻の奥がツンとしてくる。魔法陣ではなく自分をじっと見ている私に気づいたエドワード様は、「うわ!」と叫んで驚いて顔をふせた。
「サラ! 顔が近いよ!」
「近いですけど、私はスケスケですから息はかかりませんよ?」
「そういう事じゃ無いんだけど……」
エドワード様は耳まで真っ赤になって、まだ顔を手で隠している。しばらく顔を伏せながら何かブツブツと言っていたが、いきなり顔を上げこちらを振り向いた。
「魔術のことを話してる場合じゃなかった! あの日のことを謝りたいんだ」
そう言ってエドワード様がポケットから出した物を見て、思わず息を呑む。テーブルに置かれたのは、あの日私が書いた恨みつらみが書かれた手紙だった。
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