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09. 浮かれまくるエド
しおりを挟むその日王家の庭では隣国キース国の王子を歓迎するパーティーが開かれていた。その場にいた私、ローズ・アヴェーヌはキース国の王子にもパーティーにも興味がもてず、美しい庭を散策し始めてしまった。
「わあ! 綺麗なお庭……!」
自分の腰くらいの高さの花畑を見た私は、ワクワクした気持ちで走り出す。しかしすぐに足元の何かに躓き、転んでしまった。
「きゃあ!」
「うわっ!」
男の人の声がして驚いて振り向いた瞬間、もっと驚く事が起こった。
エドだ! 目の前にエドがいる!
一瞬にして全てを思い出した私ローズの意識は、サラの意識に変わってしまった。エドも私の目を見た瞬間に思い出した様で、無言でこちらを食い入るように見ている。
「サラ! やっと会えた!」
エドが大きな声でそう叫んだ瞬間、私は淑女の笑顔を顔に貼り付け逃げようとする。それなのにエドには簡単に感付かれてしまい、手を捕まれ逃げられない。
「まったく! サラはそんな作り物の笑顔で、僕を騙せると思ってるの?」
呆れた顔で言うエド、いえ、フィリップ殿下は、掴んだ手を離そうとしない。今の私の体は10歳の伯爵令嬢で今までの記憶もあるから、エドがこの国の第3王子だというのはわかっていた。
「あの、フィリップ殿下、手を離していただけませんか?」
どこに誰がいるかわからない場所だ。城内とはいえ護衛や従者が近くにいるはず。そう思ってエドの名前を言わなかったのに、エドはあからさまに悲しい顔をしている。
「今は2人だから、エドって呼んでほしい」
「誰かに聞かれたら、大変なことになりますよ」
キョロキョロと周りを見回すと、たしかに誰もいないように思える。だけど、油断ならないわ。とりあえず落ち着いて話したいと思っていると、「殿下! 殿下どこですか?」と人を探す声が聞こえてきた。「もう来たか」とエドが呟いたところを見ると、エドを探している声なのだろう。
「もしかしてサボってたの?」
「違うよ。早めに終わったから、ここで休憩していただけ」
「それをサボってたというんじゃ」
「違うってば」
コソコソと喋っていたが人の気配を感じたのだろう、「ここでしたか」と従者が駆け寄ってきた。私は「今だわ!」と思い、サッと握られていた手を引き抜いた。エドの冷たい視線を感じるけど、無視をする。
「あれ? 殿下、こちらの御令嬢は?」
「ああ、ここで休憩していたら僕の足に引っかかって、彼女が転んでしまってね」
「うわ! 殿下、ご令嬢のドレスが泥だらけじゃないですか!」
そう言われて初めて自分のドレスを見ると、白い綺麗なレースのドレスは泥まみれだった。このドレスはローズのお気に入りだ。私自身は何も思わなかったが、心の奥から悲しみが湧いてきてしゅんとしてしまう。
なんだか私サラとローズの意識は混ざっているみたい。しばらくすると私の中にも「せっかくお父様が買ってくださったのに」と、ガッカリする気持ちが遅れてやってくる。
可憐な10歳の令嬢が白いドレスを泥だらけにして落ち込んでいる姿は、従者の目にもかわいそうに映ったのだろう。エドに目配せをしていている。それに気づいたエドがにっこりと微笑んで、わざとらしく提案をしてきた。
「そうだ! 君のドレスを汚してパーティーに出られなくなったお詫びをしなくてはいけないね! ぜひお茶に招待させてほしい。マルク! 空いている日を見つけて、招待状を送ってくれ。すまない、まだ名前を聞いていなかったね」
そういえばそうだった。私は改めてカーテシーで挨拶をする。
「名前も名乗らず、申し訳ございません。私、アヴェーヌ伯爵家の娘、ローズと申します」
私が挨拶をするとエドは「それもいい名前だ」とニコニコしている。従者のマルクさんに変に思われるから「それも」とかつけないで欲しい。しかしマルクさんは全く気にせず、次の授業にエドを送り届ける事で頭がいっぱいのようだ。
「殿下、次の先生がお待ちですので行きましょう。ローズ様、とりあえずこのままでは帰れないでしょうから、どうぞ城の方へ」
こんなに汚れたままでは、さすがに帰れない。有り難く城に案内してもらおうとマルクさんの方に歩いていくと、体がふわりと浮いた。
「え? きゃあ!」
驚いたことに、エドが私を抱き上げていた。エド! なにしてるの!?
「あの! フィリップ殿下!?」
「なんで言わないんだ! さっき僕の足に引っかかって転んだ時、足に怪我をしたんだね?」
してないですけど。むしろ元気に走れ回れそうですけど。それにエドの言い方は妙に芝居がかってておかしいよ!?
「気にしないでいい。僕のせいで怪我をしてしまったんだ。城まで連れて行ってあげよう」
エドと同じ金色の髪に青い目のフィリップ殿下は、キラキラした笑顔をこちらに向ける。もう! そっくりな笑い方しないでよ! 顔立ちが似ているせいで、フィリップ様の顔が近くにあるとドキドキする。
恥ずかしさでマルクさんの方を見たけど、「子供の足でついてこられるより、殿下が運んだ方が早いだろう」と思ってそうだ。「急ぎますよ」と急かすばかりで、何も気にしていない。まあ、今の私は10歳だから、微笑ましく見えるのだろうな。
城の中に入った後もエドは私についてきそうだったが、マルクさんが引っ張って次の授業に連れて行ってしまった。私はというとたくさん試着して新しいドレスを選んだせいか、どっと疲れが出てきた。
「今日はもう、帰りましょう。疲れたわ……」
どうせ今日はもうエドに会えないだろう。このままパーティーには参加せず家に帰ろうとしていたところ、後ろから声をかけられた。
「おい、おまえ。さっきと違うじゃないか」
警戒した声色に驚き振り返ると、10歳くらいの少年が立っていた。
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