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10. 謎の少年

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「おい、おまえ。説明しろ」


 突然後ろから話しかけられて、「さっきと違う」だの「説明しろ」だのわけがわからない。それにこの子誰だろう? 後ろにたくさんの従者がいるけれど……


「おい、聞いているのか! なんとか言え!」


 少年はイライラしながら、こちらに一歩近づいてきた。すごく威圧感があって怖いけれど、とにかく何か話さなくては!


「あの、なんの事でしょうか?」
「とぼけるな! 隠し事をして良い相手だと思っているのか!」


 あきらかに私に敵意むき出しだけれど、私だってわけがわからない。私も怖かったがローズの方が怖かったのだろう。恐怖で手がぶるぶると震え始めた。その様子を見た目の前の少年は、訝しげに私を見ている。


「……気づいていないのか?」
「え?」
「おまえ、さっき会った時は魔力を持っていなかったのに、今はものすごい量の魔力を持ってるぞ」
「ま、魔力…ですか?」


 涙目で震える私を見てよけいにイライラしたのか、少年はチッと舌打ちをして強引に私の腕を掴む。あまりの力強さに痛みが走った。


「ちょっと来い!」


 そのまま手を引かれ、どこかに連れて行かれそうになる。や、やだ! 怖い! なんなのこの子! 誰か助けて!そう思った瞬間、私と少年の間に入る人影が見えた。


「エ…フィリップ殿下!」


 エドは走ってきたのだろう。荒い息を整えながら、少年を冷たい目で睨んでいる。エドが私の腕を掴んでいる少年の手を掴むと、少年の護衛がざわついた。それでもエドが王族という事で、手が出せないようで様子を伺っている。


「手をお離しください。淑女にする行動ではありません。ジーク王子」
「関係ないだろう。こいつを俺の部屋に連れていくだけなのに、この国の許可がいるのか?」


 ジーク王子! そうだった! この子、今日のパーティーの主役である、キース王国のジーク王子だ。挨拶だけはしたけど、興味ないからすっかり顔を忘れていたわ……


 ジーク王子はフンと鼻を鳴らし、私の腕を離す様子がない。


「部屋に連れていく……? 王子ともあろう者が他国の令嬢を部屋に連れ込もうとするなど、あってはならない事だ!」
「つ、連れ込む!? そ、そんなつもりじゃないぞ!!」


 エドにとっては私はサラで、10歳の令嬢の感覚ではないのだろう。でもジーク王子にとって私は、同じ年のただの女の子だ。しかもどうやら魔力に関して調べたがっているように見えた。他国で女を連れ込んでいると決めつけられたジーク王子は、顔を真っ赤にしている。


「俺はただ、こいつの体を調べたいだけだ!」
「体を調べるだと……!?」


 エドがものすごい形相で、ジーク王子を睨む。ジーク王子は小さく「ひっ!」と言ったが、まだ手を離さない。


 ダメだ。この2人、考えがすれ違ってる。エドは怒りのあまりジーク王子の手首を強く握っているらしく、彼は顔を歪めていた。ジーク王子も痛いと言いたくないのだろう。涙目でエドを睨んでいる。



 どうしよう。ジーク王子も意地をはって手を離しそうにないし、エドも引きそうにない。……そうだ!こういう時は、サラお得意のあの作戦を使おう!


 私は発作が起きたかの様に「うっ!」と苦しそうな声をあげ、足元をふらつかせた後、バタリと床に倒れ込んだ。


「サ…ローズ嬢!」
「な、なんだ? こいつ、どうしたんだ?」
(これで大丈夫なはず)


 突然私が倒れたことで、ジーク王子は掴んでいた手を離した。エドはサッと私をかかえ、抱き上げる。


「殿下、彼女は先ほども具合を悪くして、倒れています。どうかお引取りを」
「ふん、いいだろう」
(倒れたというか転んだのは、エドの足があったからなんだけど)


 カツカツと大人数の足音が去った音がする。エドは私を抱きかかえたまま、足早にさっきまでいた衣装部屋に連れて行った。中にいたメイドに水を持ってくるよう伝え、私をソファーに寝かせる。


「ほら、起きなよ」
「……」
「その急に具合悪くなる技、妃教育から逃げてる時によく見てたから」
「はあ~」


 私はむくりと起き上がると、少し照れくさそうにエドを見た。エドはまだなにか怒ってるみたいで、機嫌が悪い。


 エドは控えているアヴェーヌ家の者に私を迎えにこさせるよう、メイドに伝える。少しだけ2人で話す時間がありそうだ。エドは私に水を渡しながら、真剣な表情でこちらを見ていた。


「今回は良いけど、あまり僕の前で具合悪くなるふりはやらないでほしい。怖くなるから」
「……ごめんなさい」


 そうだった。エドは私が死んだところを、見たんだった。今の私はエドと同じで、サラの容姿と面影が似ている。だからこそあの時の事を思い出すから、怖いのだろうな。


「それにしても、ジーク王子はなんで、サラを連れて行こうとしていたかわかる?」
「それが……」


 ジーク王子に無かったはずの魔力があると言われた事を話すと、エドは「そうか……」と言って黙り込んでしまった。コンコンと扉がノックされ、「アヴェーヌ伯爵家の者が迎えに来ております」と告げられる。


「さて、今日のところは帰らないとね。明後日に時間が取れたから、その時にゆっくり話をしよう」
「うん! 心配かけてごめんね」


 そう言ってにこやかに別れたのだけど、次の日にエドがもっと心配するような出来事が起こった。キース王国のジーク王子から、私に婚約の申込みがあったのだ。

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