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シーズンⅠ-12 動き出す紗栄子

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 内田紗栄子《うちださえこ》は多忙を極めていた。

 内田の御両親と実家の刻文宗家への懐妊の報告を終え、刻文聖也に学園統合の計画を話し、今は刻文銀行の本決算作りに取り掛かっていた。

 刻文銀行経営企画部に所属する紗栄子の仕事は本来は決算書作りではない。

 それは専門の部隊が経営企画部内に存在している。

 父であり頭取である刻文正和の命令で経営企画部が関与する仕事をすべて覚えるために株主総会までは数字と想定問答の仕事に就いている。

 それが終われば紗栄子の仕事は銀行経営の策定と日々の諸問題に戻る。

 最大の力仕事は中期経営計画の策定である。

 上場企業の経営企画部又は総合企画部に所属する人間なら誰しも中計の策定が最大の力仕事だと紗栄子は思っている。

 策定は頭取の意向を受け役員会に諮《はか》り各本部及び各部署との綿密なやり取りを日々こなしていくため交渉能力が試される。
 
 日々の諸問題で重要なのは財務局との折衝、刻文銀行だと東北財務局との対応になる、さらに金融行政の年度事の方針があるので金融庁との折衝も日々の諸問題の中心になる。

 経営企画部にとってとりわけ重要なのは中期経営計画で策定した計画の進捗状況の把握だった。

 中計を完遂させるためのあらゆる戦術を経営陣と共に練って繰り出す。

 紗栄子はこの仕事が好きだった。

 部内の仲間や他部署と連携しないと出来ない、やり遂げた時の達成感は格別だ。

 頭取から内々で特命が下ることもある。

 今回の学園統合もそれに当たる。

 懐妊したからと言って仕事の負担を減らす発想は刻文銀行の文化にはないし、紗栄子にもその発想はない。

 産休、育休は当然取れるし刻文銀行はすべての法令を順守するのが当たり前の文化、東北最大の金融機関として『王道』以外に歩む発想はない。

 紗栄子の本心は育児休業を取らないつもりでいる。
 
 有難かったのは内田の御両親の紗栄子への配慮だった。

 子供のお世話をしてくれる住み込みのお手伝いさんの手配をするという。

 紗栄子夫婦は内田興産所有のビルの最上階で内田の御両親と隣り合わせで暮らしていた。

 地下一階、地上八階建てオフィスビルの基準階面積は百坪ほどあり、最上階部分のすべてを内田家が居住用として使っている。内田家専用エレベーターに乗ると八階まで一気に行ける。

 場所的にも刻文市の夜の顔である刻文町に隣接している一等地。

 刻文聖也も前からよく遊びに来る。

 慎之介のクラブが入っている内田興産のビルは刻文町の方にあるので、自宅ビルからも近い。
 
 紗栄子と結婚してからの慎之介は内田興産の経営の方に軸足を移し始めている。
 
 経営しているクラブは信頼のおけるママとチーママに任せ慎之介が顔を出すのはだいたい週に二、三回のようだ。
 いつオーナーが来るか分からない抜き打ち出勤にしてお店の女の子たちに緊張感を保たせていると、今でも週二回そこでバイトをしている聖也が教えてくれた。

 だが、聖也のバイトももうすぐ終わる。

 学園統合を率いる中心に刻文聖也が座るからだ。

 紗栄子夫妻が聖也にこのことを伝えてからは紗栄子達の家に来る回数が増していた。

 聖也は今日も来ていた。

「聖也君の考えはよく分かったわ。慎之介さんはどう思うの」

「たぶん僕もそれが最善かなって思う。ただ、北部の方は聖也君が直接動くのはどうかって思う」

 聖也はまだ大学三年生だったが、学園統合の神輿に担がれる自分を極めて客観的に見ていると紗栄子は感じていた。

 聖也の考えは「北部学園が参加すれば他の学園は必ず追随してくる。だが唐突に北部宗家でもある北部学園との交渉は出来ないので茂上学園から始めたい。但し、今までは北部の事情を調べたことはなかったが今日からでも調査に乗り出すべき」だった。

「二人の考えは分かったわ、北部の方はわたしが動いた方がいいと思う。お父様にもそう伝える」

「紗栄子さんが自分で動いて欲しい。きっと紗栄子さんなら北部の内情を間違えないで把握してくれると思う。ダメ?」

「もちろんそうするわ。産休に入るまでにはまだ時間がある。北部での拠点も含めて準備をするつもり、こっちと向こうの往ったり来たりになるけどあなたいいわよね」

「もちろん、体調管理だけには気を付けてほしい」

「わかったわ」


****


 紗栄子は慎之介と聖也とのやり取りを踏まえて父親に報告をおこない同意を得た。

「お父様、同意して頂きありがとうございます。それでは茂上学園から取り掛かります。ご相談したいのは、中野家と手を結ぶと言われたことについてです。なにかお考えはおありでしょうか」

「そのことだが。紗栄子には茂上銀行との交渉に就いてもらう」

「どういうことでしょうか」

「茂上銀行副頭取の遠藤孝太郎《えんどうこうたろう》氏が中野壮一氏と極めて親しい関係だからだ。家族ぐるみでお付き合いしている。紗栄子には遠藤副頭取に対して重要な交渉をしてもらうつもりだ。中野壮一氏の娘と聖也を結婚させる橋渡しを遠藤氏にお願いするのだ」

「えっ。聖也君はまだ二十一歳ですし、しかもそれだと刻文の仕来たりを破ることになりますが」

 刻文宗家を支える刻文グループには跡取りは三十二歳になった時に結婚相手を公表するという仕来たりがある。
 それまでは帝王学を学ぶのだ。このことは東北六家では広く知られている。

「それをねじ伏せるのも紗栄子の仕事になる。遠藤氏を何としても説き伏せなさい、そして我が一族を力でねじ伏せなさい。できるかね」

「できます。やらせて下さい」

「わかった。筋書きができたら持ってきなさい」

「はい。わかりました」

 早急に考えをまとめて戦略を立てる必要があるが、それは紗栄子の得意分野だ。

 必ず父親の許可がもらえるよう綿密に作る。

 北部に拠点を持つ話では、父親からは思いがけない提案を受けた。

 セキュリティのしっかりとしたコンシェルジェ付きマンションを賃貸ではなく刻文宗家が購入し北部学園を傘下に収めるまでは紗栄子の拠点にするという。

 紗栄子が使いやすいようにどんなデザインにしてもいいしどんな間取りに変更してもいいと言われた。

 十年以上かかる闘いへの手付金みたいなもので、いずれ紗栄子名義に変更もありうると父親に耳打ちされた。

 出産予定日は九月中旬なので、産休が終わる十一月下旬から本格的に刻文市と北部市の二重生活になる。
 
 
****


 紗栄子の懐妊を知った銀行内部で動きがあった。

 刻文女学院出身者でつくる会が紗栄子を主賓としてお祝いの会を催す。

 『刻女会』 
 こくじょかいと呼ばれるその会は、会員内では『こくおんな』で通る。

 刻文銀行行員数約三千人の中で百七十二名が刻文女学院出身者で女子行員千六百人の一割以上いる。

 この会を束ねているのは刻文グループの各家から送り込まれているメンバー達だ。

 紗栄子が入行してからは何かと言うと紗栄子を先頭に立たせようとする。

 それに対し紗栄子は自分が先頭に立たないで先輩連中にすべて任せてきた。

 気持ちだけ受け取り先輩を立たせることで刻文宗家を支えているグループ内で波風を立てない。

 紗栄子が先頭に立った瞬間、紗栄子に近い人間とそうでない人間の中で序列が出来てしまいやがて争いごとに発展する。

 刻文宗家に取り入ることができるかどうかで力関係が劇的に変わる。

 刻文宗家は東北六家の中でも別格中の別格だからだ。
 
 圧倒的な規模と力を持つ。

 それだけに、紗栄子の懐妊祝賀会のお膳立ては各グループを挙げたものにならざるを得ないのがよく伝わってきたが、刻女会に紗栄子の親友はおろか友達と呼べる人間は一人もいない。

 作らないといった方が正しいかも知れない。

 女学院時代を通して紗栄子には友達と呼べる人間はほんの僅かしかいない。

 僅かしかいない内の一人が島崎若菜《しまざきわかな》だった。

 島崎若菜から懐妊祝賀会の二次会が終わったら二人だけでお祝いしてあげるので時間を取りなさいと言われていた。

 島崎若菜は医者の娘でさっぱりとした性格で嫌味が無い、今は勤務医と結婚しているが子供はまだいない。
 若菜の夫は国立奥羽大学付属病院の外科医として勤務しているが、仕事のハードさは聞いただけでも想像を絶する、家庭内別居みたいなくらい病院に夫を取られていると若菜は会えば必ず愚痴をこぼす。

 二次会が終わった後で島崎若菜と合流した。 
 
 連れていかれたのは会員制倶楽部『AZUL』。

 アズールと読むそうで特に意味は無くママがアルファベットの最初と最後を入れてお店の名前にしたかったからだそうだ。

 若菜流の解説だと出会いも別れもこの場所でになるらしい。

 若菜はバーボン、紗栄子はウーロン茶で乾杯した。

「若菜はいつも強引だなぁ。私、お酒も飲んでないのにこの乾杯でもうすでに三次会になるんだけど」

「なに言ってんのよ。連絡も寄越さなかったくせに、今までの不義理を埋め合わせさせてやるに決まってるでしょ」

 アズールというお店は黒を基調としたとても豪華な内装で長いカウンターがあり、ボックス席も多い。

 紗栄子達は角のボックス席に、お互いがボックスの一辺ずつを背中にして角向いで座って話し込んだ。

「紗栄子、もうすぐママが挨拶に来ると思うけど苗字や勤め先も含めて紗栄子の情報は一切出す必要ないから。ここではただの紗栄子ってことでよろしくね」

「えっ、そうなんだ。わかったわ、そのほうが気が楽だし。若菜はここけっこう長いの?」

「どうかな。教えてもらってからだからだいたい一年ぐらいかな。紗栄子はこの店のことでなんか気が付かない?」

「・・・・・・」

「まっ、いいか。あっ、ちょうどママがやってくるよ」

 綺麗な女性だったが、見た瞬間でイメージが湧いた。

 髪型と化粧と服装から一言で言い表すと宝塚の男役そのもの、年齢は不明、紗栄子には五十代か四十代、三十代後半にも見える。

「いらっしゃいませ若菜さん。お綺麗な女性を連れてきてくれたのね」

「そうなんですよ。わたしの大の仲良し、紗栄子って言うの」

「初めまして、紗栄子です。いいお店ですね」

「そう言って頂けて嬉しいわ。わたしキャリウーマンっぽい女性が大好物なの」

 ママは両手で紗栄子の右手を挟んできたが、いつその手が伸びてきたのか紗栄子は気付かなかった。柔らかい優しい感じの手だった。

「ママったら。紗栄子は妊娠三ヵ月ですから手を出さないで下さいよっ。ここに、いい女がいるでしょ、私で我慢して・・・ね」

「あらっ、妊婦さんだったとは。若菜さんと私とじゃ同じだから無理があるってものでしょ、まったく。いいわ、お産が終わるまで待つから」

 ママと若菜は顔を見合わせている。

 なぜか二人ともにんまりとして、そのあとで大笑いしている。

「ママ、あんまりからかっちゃダメでしょ。紗栄子はこの店のことまったく知らないんだから」

「えっ、これは失礼しました。てっきり若菜さんが教えているのかと。お店のママとして大失態です、紗栄子さん許して下さいね」

 ママは深々と頭を下げてきた。

 ほんとうに申し訳なさそうな表情になっている。

「いいえ、とんでもない。気にしてませんから、さぁ顔を上げて下さい」

「本当にごめんなさい。このお店は女性限定なの」

「えっ・・・」

「もう開いて十五年です。一元のお客様はお断りしてやってきたお店なので会員の評判もいいのよ。トラブルはご法度、もしトラブルを起こせばどのお客様が最初に連れてきたのかすぐ分かるから」

「わたしもここを教えてくれた友達に迷惑かけたくないから、お上品な若菜で通ってるのよ」

「まあ、そういうことにしておきましょう。これからは紗栄子さんが一人でこられても歓迎します。ひとつご贔屓に、宜しくお願いします」

 そういうとママは席を立ってカウンターに戻って行った。

 紗栄子はアズールのママの気さくな感じなのと、このあと若菜が教えてくれた女性同士の恋愛の発展場でもあるという紗栄子には未知の世界への好奇心から息抜き用の隠れ家として使えそうだと思い始めていた。

「若菜、ちょっと聞いていいかな」

「なになに、女性同士に興味持ったとか」

「そうじゃなく。さっき若菜とママが同じって言ってたけどそれってどういうことなのかなぁって」

「あぁ、あれね。紗栄子ってば、しっかり聞いてたんじゃない。あれは、ママもわたしも攻め側だってこと。このわたしが受け側に見える? もしそうだったらそっちの方が可笑しいというか不思議って感じ」

「若菜は進んでる。ちっとも知らなかった」

「なに言ってんのよ。人間は二種類しかいないのよ。誰もがバイセクシャルだったとしても何ら不思議はないって思うけど。紗栄子はお嬢様過ぎるのが玉に瑕ね。少しはわたしを見習いなさい」

「見習うもなにも、これだけ長く付き合ってるのにぜんぜん分からなかったということにショックを受けているんだけど」

「紗栄子は自分で気付いていないだけよ。さっきのママの見立ては間違ってるけどね」

「なんのこと。なにが間違ってるの」

「私とママと紗栄子は同類ってことよ。ほんとは自分でも分かってるんじゃないの」

「・・・私も攻め側ってことか」

「紗栄子は目元が柔らかいから受け側だと誤解される。紗栄子自身が絶対権力者の一人だから力を制御して調和を最優先にしてる。ほんとは違うんでしょ。一度、じっくり自分と向き合いなさい」

 夫の顔が浮かんだ、知的で静かな物腰の夫、華奢で女性的な目線を持つ愛すべき人。

 一瞬、萎えたままの象徴を踏みつけてやろうかとの考えが頭をよぎり紗栄子は自分にビックリ、咳払いをしてごまかした。

「若菜はきついなぁ。若菜は私をどう見ているの、そういう関係になりたいって思ったことあるのかな」

「あるに決まってるでしょ。でも宗家の娘に手を出すバカはいない、怖すぎ。それが現実よ」

「同じ攻め側なのにそんな感情が起こるってのが理解できないんだけど」

「おバカさんねぇ。自分で考えなさい」

 刻文宗家の紗栄子に対して夫の出世とか金銭的な下心を持たずに接してくれる島崎若菜は貴重な友達だった。

 紗栄子に近づいておけば何かしらのステータスになることは間違いないのだが、島崎若菜は紗栄子と友達なことを言い触らすことも今までにまったくなかった。

 
****


 それから間もなくして、刻文不動産から北部市でいい物件が見つかったと報告を受けた。

 北部市の中央通り沿いにある物件で北部銀行だけでなく県庁や市役所も近い。

 広い中央通りから三本目の筋に大通り商店街があり、この二つの通りを挟んだエリアに居酒屋やクラブなどが数多くある。さらに大通り商店街の裏側三本目の筋までにもお洒落な飲食店などがひしめいている。

 北部市は北部駅や官公庁から繁華街までがスムーズに一体化している典型的なコンパクトシティなのは紗栄子も知っている。

 紗栄子はすぐに物件を見に北部市へ向かった。

 刻文市と北部市は新幹線で四十分強で行ける。

 朝夕は二十分ごと、それ以外でも三十分に一本の割合で新幹線が動いている。

 普通に日帰りでビジネスができるが、今回の大仕事をやり遂げるには住んでみるのが一番だと紗栄子は思っている。

 聖也もまったく同じ考えだった。

 紗栄子が住むことで北部の実態をつぶさに知りたいという聖也の考えがあるからだ。

 紗栄子は手のひらにすっぽり収まる平たくて丸みを帯びた物体を手渡された時に、その使い方を知っていたのでこのマンションの使い勝手の良さが確信できた。

 これを持っているとポケットかバックにでも入れてさえ置けば、マンションの出入りはもちろん部屋のカギ穴にキーを差し込む必要もない。

 コンシェルジェに洗濯物を渡しておけば夜に帰宅した時にエントランスに入りエレベーターに近づけば見えない所にある大きさの違ういくつもの宅配ボックスのどれかに届いていることをお知らせするチェック音が鳴る。

 いい物件に巡り合ったと紗栄子は感じた。

 紗栄子が北部市に拠点を持つ最大の理由は刻文銀行への反発をできるだけ避けることにある。

 紗栄子自身が商工会議所やロータリーはもとより建設協会や不動産協会といった各業界が持つ団体への会合にも出席し、そのあとにセッティングされている夜の部での宴会に顔を出して溶け込んでいく。

 地方経済はこの夜の繋がりが非常に大きいことを紗栄子は父親から学んでいた。

 そしてゴルフ。

 地方経済を支えている企業オーナーは実に多くの方々がゴルフをされている。

 紗栄子の父親だと年間四十回前後はラウンドをしているしその内の三分の一は夜の宴会もセットになっている。

 冬場がクローズになる東北での年四十回は週一以上のペースなので体調管理が大切だし、だれが病気になったようだなどという情報もゴルフ場で飛び交うので信用供与している銀行側にとっても重要な情報収集の場である。

 紗栄子もゴルフはやる。

 紗栄子のゴルフは男性と同じレギュラーティからで叩いても百十、うまくいけば百を切ることもあるので一緒に回る方々に迷惑をかけることはまずない。

 出産が終わったら来シーズンに北部でゴルフデビューするための体力づくりに励もうと決めていた。

 幸いなことに、北部で暮らすマンションの管理費に北部最高水準のアスレチッククラブの利用がセットで入っていた。
 
 マンション管理会社がアスレチッククラブも経営している。

 こんな組織の会社をいままで紗栄子は見たことがなかった。 

 紗栄子はこの管理会社に興味を抱き、刻文銀行北部支店長に資料の取り寄せを依頼して熟読した上で刻文不動産に改めて情報収集を行い、この管理会社の概要を把握した。

 『株式会社福の神々』というえらく縁起のよさそうな社名の管理会社は、驚くほどの多角経営をしていた。

 北部市内で『福神』と名の付くものは皆この会社がやっている。

 不動産部門ではマンション管理、ビル管理と清掃、運動公園の管理などを保安警備も含めてやっている。

 管理だけでなく修繕もおこなっているので、工務店としての機能も持っている。

 健康部門では高級アスレチッククラブ、スーパー銭湯、そしてカラオケ店も運営していた。

 福神グループのカラオケ店はカラオケだけじゃなく漫画と雑誌が豊富なネットカフェとアーケードゲームが同じ建物に入っていると教えられた。

 刻文銀行北部支店長は福神グループのこの施設にはよく行くそうで御飯のメニューが豊富で味も実に美味いとべた誉めしてきた。

 この支店長は単身赴任をしているので刻文に帰れない週末などは、晩御飯兼漫画読みに使っているとのことで、へたな時間帯に行くと駐車場に空きがないくらい埋まっているそうだ。

 この会社は設立が古い上に多角経営をしているので北部宗家と中野家の確執を他の企業より詳しく知っている可能性もある。

 紗栄子は北部で接触を開始するには手頃な会社だと決めて動き出した。

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