笑顔になる方法

生徒

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始まり

第一話

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 教室に入ると中は少し埃っぽく、心地よい場所とはいいがたいのだが、何か気持ちいいような懐かしいような感じがする。そして、教室の前にある黒板に乱雑に書かれた数式や化学式が見える。授業内容の考案中だったのだろうか、米印なども書いてあった。
 私が教室に入ってしばらくすると、中で山田先生も交えて話していた二人の男女が貝のように口を閉ざした。まるで兄弟のように、同じような表情をしていた。そして、彼らはじっと私の方を見てくるのだが、何かしようとする気配はない。
 「えっと、二人とも。この子は篠山 香美さんっていうんだ。僕が一番誇れる生徒さ。仲良くしてやってよ」
 山田先生が少し冗談めかしたように言う。それを聞いた二人は、そうなんだといった具合にすごく小さく会釈をした。
 その後、少しの沈黙が続く。二人の間で早く何か言ってくれといった雰囲気を出している。しかし、どちらも擦り付けるばかりで、一向に行動しない模様で、私は先生と目が合い少し苦笑いをして止まった時間を過ごす。
 「えっとさ、二人って名前なんて言うの? さっき紹介してもらったんだけど、私は香美っていうんだ。香美って呼んでくれると嬉しいな」
 仕方ないので、二人に話しかけてみる。私の近くにいた身長の小さい女子生徒は驚いたのか少し肩を震えさせる。そして、その女の子は今にでも死んでしまいそうなほど小さい声で話し始める。
 「え、えーっと、柊 真木です。か、香美さんよろしくお願いします」
 そう言うと、彼女は私の右手を小さい手でぎゅっと弱く、そして力強く握った。急な握手に少し驚いたが、私は空いている左手で彼女の左手を覆う。すると、彼女自身も分かっていなかったのか、その様子をみて驚き、すぐに私の手から離した。
 山田先生はその様子を知る由もなく、彼の腰くらい高さの机に積もった埃を人差し指でなぞって、取れた埃を見て気色の悪い笑顔を作っていた。
 その間も、柊さんの横にいる男子生徒は何も話そうとしない。つま先もドアの方に向いており、今にも逃げ出しそうだ。
 「ねえねえ、多久も挨拶くらいしたら? あの子、悪い子っていうか、優しい子だしさ」
 小さい声でこんな言葉が聞こえてきた。ここで女性の声を出す人といえば、柊さんくらいなのだが、なんとなく違和感というか、彼女に感じていた先入観の不一致を感じた。彼氏に注意をする女性のように見えたからだろうか。それとも彼氏がいるということに私が信じられなかったのだろうか。
 私が一人焦ったように考えていると、柊さんの横にいた男子生徒が話し始めた。少し私の体はこわばり、緊張が走る。
 「あー、俺は、柊 多久って言います。今後あるか分からないけど、今後ともよろしく」
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