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第1部・第2話:ルカ
第3章
それから数日が経った、ある日の午後。
ルカはもう一人の幼馴染みジェイクと共に、隣町へ向かう乗合馬車に揺られていた。
晴れ渡る空の下、屋根なしの荷台で運ばれていくのは、ヒッチハイクのようで何だか楽しい。街道の小石に乗り上げた車体が大きく弾むたび、世話焼きのジェイクに「危ないぞ。あまり身を乗り出すな」と身体を支えられるのにも、その様子を乗り合わせた他の乗客達に微笑ましげに眺められることにも、慣れてしまった。
『ジェイクに鍛えて貰ってるんだ』
このところの外出の理由を、ルカは祖母にそう伝えている。
最初に申し出た時、ベリンダはチラリと弟子の様子を窺う様子を見せた。(大事な)ルカに置いて行かれることに対して、ユージーンが何も言い出さないことを訝しんだのだろう。とはいえ、彼には午後の修業があるし、ジェイクの格闘のセンスについては、ハーフェルの町の誰もが認めるところだ。これまでの付き合いから見ても、ルカを危険な目に遭わせるような真似はしないだろうと踏んだらしく、それ以降は師弟揃って平和的に送り出してくれるようになった。
外出の本来の目的は話していないが、嘘をついている訳でもない。大切にしてくれる祖母に対して、やや心苦しくはあるものの、ルカは胸を刺すチクチクとした痛みから、敢えて目を反らす。
馬車は程なくノルトレインの街へ着いた。料金は先払いのため、御者にお礼だけ言って荷台を降りる。当然のようにジェイクに手を差し出されるのも、苦笑いでその手を借りるところを、乗り合わせた他の乗客達に生暖かい目で見守られるのも、いつものことだ。
去っていく馬車と乗客達に何となく手を振ってから、二人は繁華街を北へ向かった。
ノルトレインはハーフェルよりも大きな街であるため、必然的に人の出入りも多い。初めてジェイクに連れられて来た時には、やたらとはぐれないよう心配されたものだが、人工過密の現代社会を生きてきたルカにとっては、どうということもなかった。
人並みを掻き分け、お目当ての建物のスイングドアをくぐる。西部劇みたいでカッコイイ! という感動を共有できる人が居ないのが、少々寂しい。
「こんにちは!」
「初級者向けの魔物討伐依頼はあるか?」
カウンターで愛想よく挨拶を口にしたルカに対して、ジェイクは一切の無駄なく、用件を単刀直入に切り出した。既に顔見知りのギルドマスターは気にした風もなく、「よう」とルカに応えながら帳簿を繰り始める。
ここはいわゆる、冒険者ギルドというヤツだ。RPG知識の薄いルカでも知っている、魔物絡みの案件に悩む依頼者と、これを解決して賃金を得る冒険者との仲介を担う組織。
とはいえ、ギルドへの登録は成人であることが必須であるため、未成年のルカでは受け付けて貰えない。ジェイクに代わりをお願いしたのは、4つ年上の20歳であること以上に、彼が格闘家としての素養に恵まれていることも大きかった。「頼りになるお兄さん」というのは、精神面だけの話ではないのである。
ちなみに、登録が出来ないだけで、パーティー内に未成年者が居ること自体に問題はない。その辺りは、連れている保護者や本人の自己責任、ということのようだ。
「1つ良いのがあるぜ。これなら、坊主連れでも何とかなるだろ」
強面だが実は気の良いギルドマスターに紹介され、二人は魔石収集の依頼を受けた。祖母のベリンダに詳細を明かしていない現状、日の暮れるまでの数時間で片付けられること、というのが第一条件になるためだ。
指示されたとおり、目的の魔物の住み着いた森へ向かう道すがら、簡単に装備を整える。ジェイクは手甲を嵌めた手に戦斧を構え、ルカは短刀を握り締めた。華奢な肉体に負担を掛けないという理由で、幼馴染み二人が選んでくれた武器だ。
「――行くか」
「うん!」
気負いのない落ち着いたジェイクの立ち居振舞いは、まるで歴戦の勇者のようだ。頼もしいことこの上ない。
用心しつつ森の中へ分け入ると、ややあって目的の魔物が姿を現した。戦闘は主にジェイクの役目だが、ルカも場合によっては、身を守るために短刀を振るう。
『おばあちゃんに斥候隊への参加を許可してもらうために、魔物討伐の実績を積みたい』
ルカがそう言い出した時、当然ながら、ユージーンもジェイクも反対した。異世界暮らしの長かったルカには、魔物との戦闘はおろか対人での喧嘩すら経験はなく、どう考えても無謀だと。
しかし、最終的には二人とも、「護身術くらいは身に付けたい」という、ルカの願いを聞き入れてくれた。過保護なのは祖母と同じでも、男としてルカの尊厳を認めざるを得なかったのかもしれない。
ルカの代わりにジェイクが冒険者ギルドに登録することに関しては、比較的すんなりと話は纏まった。ユージーンは残念がったが、修業中の身である彼には、自由になる時間はさほど多くはなく、ベリンダの目を誤魔化すとなると、不可能に近い。その為ユージーンには、毎回スムーズにルカを送り出すことと、万が一祖母からルカとジェイクの鍛練についての話が出た時には、疑いの目を逸らす役割を担って貰っている。これに加えて簡単な守護魔法も掛けてくれているので、その点でも心強い。
田舎町であるハーフェルに冒険者ギルドはなく、最寄りとなるとこのノルトレインまで出向く必要はあったが、これもルカにとっては好都合だった。隣町であれば、それだけ祖母に露見する可能性は低くなる。
こうしてルカとジェイクは、ジェイクの家業の都合のつく時間内で、簡単な魔物の討伐依頼をこなしている、という訳だ。
鋭い蹄で地を掻いて移動する、小型の馬のような魔物を戦斧で凪いで、ジェイクが叫んだ。
「ルカ! そっちに行ったぞ!」
冷静な指示は、それが討ち漏らしなどではなく、ルカに安全に経験値を積ませてくれる配慮であることの証だ。
逸る気持ちを抑えて、ルカは短刀を握る右手に力を込める。
「任せて!」
手負いの獣の反撃に注意しつつ、ルカは的確に急所を突いた。断末魔の悲鳴を上げた魔物の姿が虚空に掻き消え、次の瞬間にはポトリと乾いた音を立てて、光る小石のような物が地面に転がる。魔石の名で呼ばれるそれは、魔物の核であるらしく、この世界では様々な機械の動力源として活用されるものだ。魔物の種類によって効果も異なり、基本的には国の管理下に置かれている。高値で取引される物もあるため、魔物狩りを生業とする者達も少なくないという。
基本的には皆一様に恐ろしい姿をした魔物の中に、これほど美しい物が存在している不思議を噛み締めながら、ルカは翡翠によく似た石を拾い上げ、大事にポーチにしまった。あともう数匹で、今日の依頼は達成されるはずだ。
「やったな」
重たそうな戦斧を楽々と担いだジェイクが、わしゃわしゃとルカの頭を撫でる。「また子供扱い~」と不満を漏らしながらも、嬉しそうな幼馴染みの笑顔を前に、ルカもまた頬が緩むのを止められなかった。お膳立てをしてくれたのはジェイクだが、それでもやっぱり、魔物を自分の力で仕留められたというのは誇らしい。
「だいぶ慣れてきたんじゃないか?」
「そうかな?」
一介の薬屋の跡取りとはいえ、実戦でも本職の冒険者さながらの活躍を見せるジェイクに褒められて、悪い気がするはずもない。それでなくても、可愛らしく華奢な外見から、か弱く思われがちなことがコンプレックスでもあるだけに、喜びもひとしおだ。
最初こそ、刃物で何かを傷付けることに抵抗もあったものの、今ではこうやって、ジェイクのサポートのような真似が出来る。このまま頑張って、最低限自分の身は自分で守れるようになれば、斥候隊に加わったとしても、前線で闘う人達のお荷物にはならないはずだ。
経験を自信に変えて、ルカはそれからの数時間を、魔物討伐という名の鍛練に費やした。
「――そろそろ戻るか」
ジェイクが言い出したのは、西の空に陽が傾き始めた頃のことだった。早いうちにノルマは達成出来ており、これからギルドへ戻って報酬を受け取り、最終の乗り合い馬車でハーフェルまで帰ることを考えれば、いい時間だろう。
「ベリンダさんに疑われても困るしな」
急かすように付け足されたのは、至極尤もな内容ではあったが、それが言葉通りの意味でないことに、ルカは気付いている。ジェイクがルカに対して異様に過保護なのは、まだ小さかった頃、4つ年上なことに加えて、他の子供に比べても頑健だった彼に付き合って遊び回った結果、疲労で倒れてしまったことがあるからだ。それ以来ジェイクはルカを、壊れ物でも扱うかのように、大事に接してくれている。「身体が弱い訳じゃないよ」と言っても、聞き入れては貰えない。無理をしたルカにも非はあったのだが、彼にとって余程のトラウマになっているのだろう。
「――ちょっと待って」
素直にジェイクの指示に従い、森の出口近くまで戻ってきた所で、ルカはふと足を止めた。
左手前方、腰の高さくらいの茂みの根元が、小さく揺れている。二人とも咄嗟に身構えたものの、何かが飛び出してくる気配もない。顔を見合わせたところで、ピィ、とか細い鳴き声が聞こえた。
恐怖よりも好奇心が勝り、ルカはジェイクの制止を振り切って、茂みを掻き分ける。
そこには、全身を灰色の羽毛で覆われた、鳩くらいの大きさの生き物が蹲っていた。どこか怪我をしているのか、毛並みの所々が黒く染まり、苦しそうに腹部を上下させている。
「――鳥か?」
「だよね?」
残念ながらルカもジェイクも、この世界の生物全般についての知識は、深い方ではない。鳥のように見えるが、猛獣や魔物の類いの可能性もある。
しかし、ルカ達に気付き、必死に威嚇の声を上げようとしながら、最早その力もない様子の小動物に、哀れを催さずにはいられなかった。
人として捨て置くことは許されないような気がして、ルカは少し考えた末、ポーチからポーションを取り出した。魔物討伐の際の最重要の携行品だが、祖母のお手製の物を持ち出すと、護身術の特訓がそんなに危険なのかと疑われかねない。そのため、ヒーラーとしても一流のネイトにお願いして、教会の備品を分けて貰ったのだ。
「おとなしくしててね……」
恐々ながらも伸ばしたルカの手を、小鳥(?)はやはり、拒めるほどの余力はないらしい。半ば無理やり嘴をこじ開けるようにして、ポーションを流し込む。反射的に吐き出されるようなこともなく、何とか小さな一瓶を飲ませることに成功した。
「えーと、あとは……」
迷いながら、ルカは更に、ギルドに渡すものとは別の、薄桃色の魔石を1つ取り出した。襲って来られたのでやむなく倒した、目的外の魔物の遺した物だが、手に取るとほんのり暖かい。恐らく暖房関連の設備に使われるものではないかと思われる。
これを最後に小鳥(?)の傍らに置いて、ルカはサッと立ち上がった。怪我をしたことで体温が下がっている可能性を考慮したためだ。
――野で生きる者に対して、自分が施したのは、失礼なくらい甘いことだったのかもしれない。
注意されるかなぁ、と、気まずい思いで見上げたジェイクは、とても優しい目をしている。
自分の行為を肯定して貰えたような気がして、ルカは照れ隠しにエヘヘと笑った。寡黙なジェイクの気遣いが嬉しい。
「ごめんね、帰ろう」
「――ああ」
頷き合って、二人は荷物を抱え直し、森を後にした。
ルカはもう一人の幼馴染みジェイクと共に、隣町へ向かう乗合馬車に揺られていた。
晴れ渡る空の下、屋根なしの荷台で運ばれていくのは、ヒッチハイクのようで何だか楽しい。街道の小石に乗り上げた車体が大きく弾むたび、世話焼きのジェイクに「危ないぞ。あまり身を乗り出すな」と身体を支えられるのにも、その様子を乗り合わせた他の乗客達に微笑ましげに眺められることにも、慣れてしまった。
『ジェイクに鍛えて貰ってるんだ』
このところの外出の理由を、ルカは祖母にそう伝えている。
最初に申し出た時、ベリンダはチラリと弟子の様子を窺う様子を見せた。(大事な)ルカに置いて行かれることに対して、ユージーンが何も言い出さないことを訝しんだのだろう。とはいえ、彼には午後の修業があるし、ジェイクの格闘のセンスについては、ハーフェルの町の誰もが認めるところだ。これまでの付き合いから見ても、ルカを危険な目に遭わせるような真似はしないだろうと踏んだらしく、それ以降は師弟揃って平和的に送り出してくれるようになった。
外出の本来の目的は話していないが、嘘をついている訳でもない。大切にしてくれる祖母に対して、やや心苦しくはあるものの、ルカは胸を刺すチクチクとした痛みから、敢えて目を反らす。
馬車は程なくノルトレインの街へ着いた。料金は先払いのため、御者にお礼だけ言って荷台を降りる。当然のようにジェイクに手を差し出されるのも、苦笑いでその手を借りるところを、乗り合わせた他の乗客達に生暖かい目で見守られるのも、いつものことだ。
去っていく馬車と乗客達に何となく手を振ってから、二人は繁華街を北へ向かった。
ノルトレインはハーフェルよりも大きな街であるため、必然的に人の出入りも多い。初めてジェイクに連れられて来た時には、やたらとはぐれないよう心配されたものだが、人工過密の現代社会を生きてきたルカにとっては、どうということもなかった。
人並みを掻き分け、お目当ての建物のスイングドアをくぐる。西部劇みたいでカッコイイ! という感動を共有できる人が居ないのが、少々寂しい。
「こんにちは!」
「初級者向けの魔物討伐依頼はあるか?」
カウンターで愛想よく挨拶を口にしたルカに対して、ジェイクは一切の無駄なく、用件を単刀直入に切り出した。既に顔見知りのギルドマスターは気にした風もなく、「よう」とルカに応えながら帳簿を繰り始める。
ここはいわゆる、冒険者ギルドというヤツだ。RPG知識の薄いルカでも知っている、魔物絡みの案件に悩む依頼者と、これを解決して賃金を得る冒険者との仲介を担う組織。
とはいえ、ギルドへの登録は成人であることが必須であるため、未成年のルカでは受け付けて貰えない。ジェイクに代わりをお願いしたのは、4つ年上の20歳であること以上に、彼が格闘家としての素養に恵まれていることも大きかった。「頼りになるお兄さん」というのは、精神面だけの話ではないのである。
ちなみに、登録が出来ないだけで、パーティー内に未成年者が居ること自体に問題はない。その辺りは、連れている保護者や本人の自己責任、ということのようだ。
「1つ良いのがあるぜ。これなら、坊主連れでも何とかなるだろ」
強面だが実は気の良いギルドマスターに紹介され、二人は魔石収集の依頼を受けた。祖母のベリンダに詳細を明かしていない現状、日の暮れるまでの数時間で片付けられること、というのが第一条件になるためだ。
指示されたとおり、目的の魔物の住み着いた森へ向かう道すがら、簡単に装備を整える。ジェイクは手甲を嵌めた手に戦斧を構え、ルカは短刀を握り締めた。華奢な肉体に負担を掛けないという理由で、幼馴染み二人が選んでくれた武器だ。
「――行くか」
「うん!」
気負いのない落ち着いたジェイクの立ち居振舞いは、まるで歴戦の勇者のようだ。頼もしいことこの上ない。
用心しつつ森の中へ分け入ると、ややあって目的の魔物が姿を現した。戦闘は主にジェイクの役目だが、ルカも場合によっては、身を守るために短刀を振るう。
『おばあちゃんに斥候隊への参加を許可してもらうために、魔物討伐の実績を積みたい』
ルカがそう言い出した時、当然ながら、ユージーンもジェイクも反対した。異世界暮らしの長かったルカには、魔物との戦闘はおろか対人での喧嘩すら経験はなく、どう考えても無謀だと。
しかし、最終的には二人とも、「護身術くらいは身に付けたい」という、ルカの願いを聞き入れてくれた。過保護なのは祖母と同じでも、男としてルカの尊厳を認めざるを得なかったのかもしれない。
ルカの代わりにジェイクが冒険者ギルドに登録することに関しては、比較的すんなりと話は纏まった。ユージーンは残念がったが、修業中の身である彼には、自由になる時間はさほど多くはなく、ベリンダの目を誤魔化すとなると、不可能に近い。その為ユージーンには、毎回スムーズにルカを送り出すことと、万が一祖母からルカとジェイクの鍛練についての話が出た時には、疑いの目を逸らす役割を担って貰っている。これに加えて簡単な守護魔法も掛けてくれているので、その点でも心強い。
田舎町であるハーフェルに冒険者ギルドはなく、最寄りとなるとこのノルトレインまで出向く必要はあったが、これもルカにとっては好都合だった。隣町であれば、それだけ祖母に露見する可能性は低くなる。
こうしてルカとジェイクは、ジェイクの家業の都合のつく時間内で、簡単な魔物の討伐依頼をこなしている、という訳だ。
鋭い蹄で地を掻いて移動する、小型の馬のような魔物を戦斧で凪いで、ジェイクが叫んだ。
「ルカ! そっちに行ったぞ!」
冷静な指示は、それが討ち漏らしなどではなく、ルカに安全に経験値を積ませてくれる配慮であることの証だ。
逸る気持ちを抑えて、ルカは短刀を握る右手に力を込める。
「任せて!」
手負いの獣の反撃に注意しつつ、ルカは的確に急所を突いた。断末魔の悲鳴を上げた魔物の姿が虚空に掻き消え、次の瞬間にはポトリと乾いた音を立てて、光る小石のような物が地面に転がる。魔石の名で呼ばれるそれは、魔物の核であるらしく、この世界では様々な機械の動力源として活用されるものだ。魔物の種類によって効果も異なり、基本的には国の管理下に置かれている。高値で取引される物もあるため、魔物狩りを生業とする者達も少なくないという。
基本的には皆一様に恐ろしい姿をした魔物の中に、これほど美しい物が存在している不思議を噛み締めながら、ルカは翡翠によく似た石を拾い上げ、大事にポーチにしまった。あともう数匹で、今日の依頼は達成されるはずだ。
「やったな」
重たそうな戦斧を楽々と担いだジェイクが、わしゃわしゃとルカの頭を撫でる。「また子供扱い~」と不満を漏らしながらも、嬉しそうな幼馴染みの笑顔を前に、ルカもまた頬が緩むのを止められなかった。お膳立てをしてくれたのはジェイクだが、それでもやっぱり、魔物を自分の力で仕留められたというのは誇らしい。
「だいぶ慣れてきたんじゃないか?」
「そうかな?」
一介の薬屋の跡取りとはいえ、実戦でも本職の冒険者さながらの活躍を見せるジェイクに褒められて、悪い気がするはずもない。それでなくても、可愛らしく華奢な外見から、か弱く思われがちなことがコンプレックスでもあるだけに、喜びもひとしおだ。
最初こそ、刃物で何かを傷付けることに抵抗もあったものの、今ではこうやって、ジェイクのサポートのような真似が出来る。このまま頑張って、最低限自分の身は自分で守れるようになれば、斥候隊に加わったとしても、前線で闘う人達のお荷物にはならないはずだ。
経験を自信に変えて、ルカはそれからの数時間を、魔物討伐という名の鍛練に費やした。
「――そろそろ戻るか」
ジェイクが言い出したのは、西の空に陽が傾き始めた頃のことだった。早いうちにノルマは達成出来ており、これからギルドへ戻って報酬を受け取り、最終の乗り合い馬車でハーフェルまで帰ることを考えれば、いい時間だろう。
「ベリンダさんに疑われても困るしな」
急かすように付け足されたのは、至極尤もな内容ではあったが、それが言葉通りの意味でないことに、ルカは気付いている。ジェイクがルカに対して異様に過保護なのは、まだ小さかった頃、4つ年上なことに加えて、他の子供に比べても頑健だった彼に付き合って遊び回った結果、疲労で倒れてしまったことがあるからだ。それ以来ジェイクはルカを、壊れ物でも扱うかのように、大事に接してくれている。「身体が弱い訳じゃないよ」と言っても、聞き入れては貰えない。無理をしたルカにも非はあったのだが、彼にとって余程のトラウマになっているのだろう。
「――ちょっと待って」
素直にジェイクの指示に従い、森の出口近くまで戻ってきた所で、ルカはふと足を止めた。
左手前方、腰の高さくらいの茂みの根元が、小さく揺れている。二人とも咄嗟に身構えたものの、何かが飛び出してくる気配もない。顔を見合わせたところで、ピィ、とか細い鳴き声が聞こえた。
恐怖よりも好奇心が勝り、ルカはジェイクの制止を振り切って、茂みを掻き分ける。
そこには、全身を灰色の羽毛で覆われた、鳩くらいの大きさの生き物が蹲っていた。どこか怪我をしているのか、毛並みの所々が黒く染まり、苦しそうに腹部を上下させている。
「――鳥か?」
「だよね?」
残念ながらルカもジェイクも、この世界の生物全般についての知識は、深い方ではない。鳥のように見えるが、猛獣や魔物の類いの可能性もある。
しかし、ルカ達に気付き、必死に威嚇の声を上げようとしながら、最早その力もない様子の小動物に、哀れを催さずにはいられなかった。
人として捨て置くことは許されないような気がして、ルカは少し考えた末、ポーチからポーションを取り出した。魔物討伐の際の最重要の携行品だが、祖母のお手製の物を持ち出すと、護身術の特訓がそんなに危険なのかと疑われかねない。そのため、ヒーラーとしても一流のネイトにお願いして、教会の備品を分けて貰ったのだ。
「おとなしくしててね……」
恐々ながらも伸ばしたルカの手を、小鳥(?)はやはり、拒めるほどの余力はないらしい。半ば無理やり嘴をこじ開けるようにして、ポーションを流し込む。反射的に吐き出されるようなこともなく、何とか小さな一瓶を飲ませることに成功した。
「えーと、あとは……」
迷いながら、ルカは更に、ギルドに渡すものとは別の、薄桃色の魔石を1つ取り出した。襲って来られたのでやむなく倒した、目的外の魔物の遺した物だが、手に取るとほんのり暖かい。恐らく暖房関連の設備に使われるものではないかと思われる。
これを最後に小鳥(?)の傍らに置いて、ルカはサッと立ち上がった。怪我をしたことで体温が下がっている可能性を考慮したためだ。
――野で生きる者に対して、自分が施したのは、失礼なくらい甘いことだったのかもしれない。
注意されるかなぁ、と、気まずい思いで見上げたジェイクは、とても優しい目をしている。
自分の行為を肯定して貰えたような気がして、ルカは照れ隠しにエヘヘと笑った。寡黙なジェイクの気遣いが嬉しい。
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森で出会った精霊王に愛され、リリアの運命は変わっていく。