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第1部・第4話:ネイト
第4章
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翌日。ルカは手持ち無沙汰に時間を過ごしていた。
フィンレーの元へ、斥候隊加入の勧誘に向かいたいという気持ちはある。しかし、何となく町を離れることへの抵抗もあった。ネイトのことが気に掛かり、家の一階部分の大半を占めるリビングで1人、特に急ぎでもない祖母のポーション精製の下拵えをするしかない。
午後になって、さすがに単純作業にも飽きてきた頃、ベリンダとユージーンが階下へ降りてきた。魔法の修業にルカが顔を出すことはないが、休憩時間を共に過ごすのは、師弟たっての願いでもある。ルカがテーブルを片付けている間に、ベリンダがお茶の準備をし、ユージーンはそれに合うお菓子を選ぶというのが、各自の役割分担になっていた。
いつものように3人分のティーセットを運んできたところで、ベリンダがふと顔を上げる。綺麗な瞳を少しだけ見開いてから、「珍しいわね」と呟き、そのままキッチンへと戻ってしまった。どうしたんだろうと口に出す間もなく玄関ドアがノックされ、ルカは祖母の行動の意味を理解した。ベリンダは来客の気配を察知したため、追加のカップを取りに戻ったのだ。
――さすが、おばあちゃんはすごい。
これまたいつものように感心しながら、ユージーンを制して、玄関へ向かう。一番暇をしていたのは自分だからというのもあるが、身体を動かしたかったというのも大きい。
「こんにちは!」
やってきたのは、教会の孤児院の子供達だった。しっかりした最年長のケイシーと、最近急に女の子らしくなってきたアンジェリカ、まだまだ遊びたい盛りのティムの3人は、来月に迫った聖エドゥアルト祭の招待状を持ってきてくれたらしい。
「ありがとう」
「必ず行くよ」
子供達からそれぞれ招待状を受け取りつつも、ルカは思わずユージーンと目を見合わせた。いつもなら、こういった機会には必ず、司祭であるネイトが直接やって来ていた。他の町の名士宅には子供達を出向かせていたことからも、それが「ルカ会いたさ」からの行動であることは間違いない。しかし今回に限って子供達にお使いを頼むとは、やはり査察官の目を気にしているのだろうか。そしてユージーンも、ルカと同じように感じているらしい。
そこへ、ぴったり6人分のティーセットを揃えたベリンダが合流して、ささやかながらお茶会が始まった。話題は主に、大人の側から投げ掛ける、孤児院での生活についてだ。些細なやり取りから手の足りていない部分を読み取り、可能なら援助する。当たり前のようにこれを行う祖母は、ルカにとって一番の誇りだった。
話題が査察官の来訪に及んだ時、顔を歪めるようにして言い放ったのは、意思のはっきりしているアンジェリカだ。
「――私、あの人嫌い」
ケイシーが横から窘めるのも聞かず、「いっつもヘラヘラしてて胡散臭いんだもの」と容赦ない。オイ、と言ったきり言葉を飲み込んだケイシーも、きっと似たようなことを感じていたのだろう。フランツ・ロッシュは町の大人だけでなく、子供達にも疎ましがられているようだ。
「そういえば……」と、いただき物のクッキーに噛み付いていたティムが、思い出したように顔を上げた。
「昨日のミサの途中、トイレに行きたくなって抜け出した時、神父様の部屋の前でロッシュさんを見たよ」
「えっ!」
ルカは思わず声を上げた。
礼拝堂に設置されたトイレを、ネイトや子供達が使うことは基本ない。そちらはあくまでも信者のための施設であり、教会関係者は余程のことがない限りは住居棟に戻るというのがルールなのだ。住居棟はそれほど大きな建物ではなく、入ってすぐの所にトイレはある。慌てて駆け込む際、ティムは廊下の突き当たりにロッシュの姿を見掛け、出てきた時にはどこにも見当たらなかったのだと言う。
ネイトの部屋は建物の東の端にあるので、遠近感で見間違えるということはまずない。部屋の主がミサを執り行う時間帯に、査察官がその私室前で見掛けられたというのは、いかにも不穏な話だ。ネイトの性格上、施錠を忘れるようなことはないだろうが、それでも何かが気に掛かる。
「何で今まで言わなかったんだよ」とケイシーに責められ、ティムは「その時は何とも思わなかったし、今朝はずっと神父様の傍にロッシュさんが居たから」と必死で弁解を口にした。
「帰ったらすぐに、ベイリー神父様に教えて差し上げると良いわ。もちろんロッシュさんの居ないところでね」
祖母が場を納めてくれる隣で、ルカは胸の中の苦いものを、ハーブティーと一緒に何とか飲み干した。
子供達を帰らせた後、祖母が食器を片付けるためにキッチンへ入るのを見届けてから、ルカはソファの上で頭を抱えた。
「どうしよう……!」
フランツ・ロッシュがネイトの部屋を探ろうとしている。相手は噂の流布などの小細工を平気で行う輩だ。例えば鍵を盗むなどして、万が一にも部屋の中にまで忍び込まれてしまったら、ネイトの秘密の信仰の証が見付かってしまうかもしれない。そうでなくとも、ロッシュが何かしらの工作を行おうとしていたことは間違いないだろう。
「落ち着いて、ルカ」
焦るルカを、向かいに座ったユージーンが静かに諭す。
「例えロッシュがベイリー神父を陥れようとしていたとしても、偽装や偽証はすぐにバレるよ。町の人達の反応を見ただろう?」
瞳を覗き込まれ、ルカは居心地の悪さに、思わず視線を彷徨わせる。
確かに、ロッシュの聞き取り調査は完全なる誘導尋問であって、このまま証拠もなしにネイトを告発すれば、ハーフェルの住民達からは異論の声が上がるだろう。絶対君主制とはいえ法治国家でもあるラインベルクで、(あちらの世界の中世魔女狩りのように)告発即有罪確定とはなるまい。
しかし、それで本格的な調査が入ってしまうのはとても危険だ――ネイトがラインベルクの法律上、潔白と言い難いのは事実なのだから。
「君はどうして、そんなに焦っているんだい?」
「……」
ユージーンの疑問に、ルカは言葉を詰まらせた。
たとえ幼馴染みであっても、ルカの口からネイトの秘密を漏らす訳にはいかない。ルカはあちらの世界でキリシタンの迫害について学んだ時、とても気の毒な話だと思ったし、こちらでも聡明な祖母を通して、「エインデルの使徒は不当な扱いを受けている」と教わった。他の神々への信仰は許可されているのに、エインデルだけが許されないというのは不公平に過ぎる。
ルカにネイトを告発する意思はないし、祖母が事実を知ったとしても、同じようにするだろう。だが、ユージーンに同じ考え方を強要する訳にもいかない。
――悩んだ末、ルカはネイトのエインデル信仰については伏せたまま、彼の育ての親に当たる神父が、禁教徒であることを理由に追放処分を受けた事実のみを、ユージーンに話して聞かせた。ルカは直接ネイトから教えてもらったし、当時のことは教団の資料に残っているので、関係者は知ろうと思えば誰でも知ることが出来る。事件は当の神父以外は不問とされて結審しているが、今ここでネイトにエインデル派の疑いが掛かれば、過去の事件と結び付けて、異端の烙印を押されてしまう可能性もある……。
ルカの話を黙って聞いていたユージーンが、小さく息をついた。
敏い彼に、ルカの隠し事が見抜けないはずもない。しかしユージーンはすべてを察した様子で、「わかったよ」と整った顔に微苦笑を浮かべる。
「ベイリー神父の信仰について、僕からは何も言うことはない――ルカ。君は、彼を助けたいんだね?」
「うん!」
改まって問い掛けられ、ルカは大きく頷いた。偉そうなことは言えないが、ルカにとってネイトは、「放っておけない大人」であり、「傷付いたままの子供」だ。ルカが理解者であることを知ってから、ネイトには過剰な愛情を注いでもらってきたが、ルカだってこんな形で彼を失いたくはない。
「僕も協力するよ」
彼のことは気に食わないけど、と肩を竦める幼馴染みに、ルカは全身で喜びを表した。「ありがとう!」と叫んで首筋にしがみつくと、すぐさま腰に手が回され、しっかりと抱き留められる。
頭上で「これが報酬の前払いってことかな」とぼやくような声が聞こえた気がしたが、くぐもっていたので定かではない。
それからルカとユージーンは対応策を話し合った。
ネイトの話から、表向き友好に振る舞ってはいても、ロッシュは元々ネイトを敵視していたフシがある。それが、若くして一教区を任されていることに対する嫉妬かどうかまではわからないが、これといった落ち度もないはずのネイトの元へ、査察官としてやってきた。聞き取りと称してネイトが異端であるかのような噂を流しつつ、彼が確実に留守であるミサの時間を狙って、私室を探るような様子を見せる。ネイトがエインデル派であるとの証拠は何もないにも関わらず。
これほど手段を選ばない人物であれば、証拠を偽造しないとも限らない。
そして、異端の摘発には、物的証拠に勝るものはないはずだ。
しかし、事が事だけに、捏造には危険が伴う――例えば、エインデルの像やモチーフなどのイコンだが、これを新たに作ろうとしても、自分にその技術がなければ、美術家や鍛冶屋に依頼するしかない。しかし、自分こそが異端と疑われて、即座に通報される恐れがある。
――となると。
「教団本部には、過去に押収されたエインデル派の遺物が保管されているはずだ」
「!」
博識なユージーンの指摘に、ルカはハッと両目を見開いた。
教団本部といえば、他でもない、フランツ・ロッシュの勤め先である。ティムがネイトの部屋の前をウロつくロッシュを目撃したのが昨日なら、もうあまり時間は残されていないのかもしれない。
片付けを終えたベリンダが、リビングへ戻ってきた。
「おばあちゃん、お願いがあるんだ!」
駆け寄るルカの剣幕に、ベリンダはオレンジ色の美しい瞳を瞬かせた。
フィンレーの元へ、斥候隊加入の勧誘に向かいたいという気持ちはある。しかし、何となく町を離れることへの抵抗もあった。ネイトのことが気に掛かり、家の一階部分の大半を占めるリビングで1人、特に急ぎでもない祖母のポーション精製の下拵えをするしかない。
午後になって、さすがに単純作業にも飽きてきた頃、ベリンダとユージーンが階下へ降りてきた。魔法の修業にルカが顔を出すことはないが、休憩時間を共に過ごすのは、師弟たっての願いでもある。ルカがテーブルを片付けている間に、ベリンダがお茶の準備をし、ユージーンはそれに合うお菓子を選ぶというのが、各自の役割分担になっていた。
いつものように3人分のティーセットを運んできたところで、ベリンダがふと顔を上げる。綺麗な瞳を少しだけ見開いてから、「珍しいわね」と呟き、そのままキッチンへと戻ってしまった。どうしたんだろうと口に出す間もなく玄関ドアがノックされ、ルカは祖母の行動の意味を理解した。ベリンダは来客の気配を察知したため、追加のカップを取りに戻ったのだ。
――さすが、おばあちゃんはすごい。
これまたいつものように感心しながら、ユージーンを制して、玄関へ向かう。一番暇をしていたのは自分だからというのもあるが、身体を動かしたかったというのも大きい。
「こんにちは!」
やってきたのは、教会の孤児院の子供達だった。しっかりした最年長のケイシーと、最近急に女の子らしくなってきたアンジェリカ、まだまだ遊びたい盛りのティムの3人は、来月に迫った聖エドゥアルト祭の招待状を持ってきてくれたらしい。
「ありがとう」
「必ず行くよ」
子供達からそれぞれ招待状を受け取りつつも、ルカは思わずユージーンと目を見合わせた。いつもなら、こういった機会には必ず、司祭であるネイトが直接やって来ていた。他の町の名士宅には子供達を出向かせていたことからも、それが「ルカ会いたさ」からの行動であることは間違いない。しかし今回に限って子供達にお使いを頼むとは、やはり査察官の目を気にしているのだろうか。そしてユージーンも、ルカと同じように感じているらしい。
そこへ、ぴったり6人分のティーセットを揃えたベリンダが合流して、ささやかながらお茶会が始まった。話題は主に、大人の側から投げ掛ける、孤児院での生活についてだ。些細なやり取りから手の足りていない部分を読み取り、可能なら援助する。当たり前のようにこれを行う祖母は、ルカにとって一番の誇りだった。
話題が査察官の来訪に及んだ時、顔を歪めるようにして言い放ったのは、意思のはっきりしているアンジェリカだ。
「――私、あの人嫌い」
ケイシーが横から窘めるのも聞かず、「いっつもヘラヘラしてて胡散臭いんだもの」と容赦ない。オイ、と言ったきり言葉を飲み込んだケイシーも、きっと似たようなことを感じていたのだろう。フランツ・ロッシュは町の大人だけでなく、子供達にも疎ましがられているようだ。
「そういえば……」と、いただき物のクッキーに噛み付いていたティムが、思い出したように顔を上げた。
「昨日のミサの途中、トイレに行きたくなって抜け出した時、神父様の部屋の前でロッシュさんを見たよ」
「えっ!」
ルカは思わず声を上げた。
礼拝堂に設置されたトイレを、ネイトや子供達が使うことは基本ない。そちらはあくまでも信者のための施設であり、教会関係者は余程のことがない限りは住居棟に戻るというのがルールなのだ。住居棟はそれほど大きな建物ではなく、入ってすぐの所にトイレはある。慌てて駆け込む際、ティムは廊下の突き当たりにロッシュの姿を見掛け、出てきた時にはどこにも見当たらなかったのだと言う。
ネイトの部屋は建物の東の端にあるので、遠近感で見間違えるということはまずない。部屋の主がミサを執り行う時間帯に、査察官がその私室前で見掛けられたというのは、いかにも不穏な話だ。ネイトの性格上、施錠を忘れるようなことはないだろうが、それでも何かが気に掛かる。
「何で今まで言わなかったんだよ」とケイシーに責められ、ティムは「その時は何とも思わなかったし、今朝はずっと神父様の傍にロッシュさんが居たから」と必死で弁解を口にした。
「帰ったらすぐに、ベイリー神父様に教えて差し上げると良いわ。もちろんロッシュさんの居ないところでね」
祖母が場を納めてくれる隣で、ルカは胸の中の苦いものを、ハーブティーと一緒に何とか飲み干した。
子供達を帰らせた後、祖母が食器を片付けるためにキッチンへ入るのを見届けてから、ルカはソファの上で頭を抱えた。
「どうしよう……!」
フランツ・ロッシュがネイトの部屋を探ろうとしている。相手は噂の流布などの小細工を平気で行う輩だ。例えば鍵を盗むなどして、万が一にも部屋の中にまで忍び込まれてしまったら、ネイトの秘密の信仰の証が見付かってしまうかもしれない。そうでなくとも、ロッシュが何かしらの工作を行おうとしていたことは間違いないだろう。
「落ち着いて、ルカ」
焦るルカを、向かいに座ったユージーンが静かに諭す。
「例えロッシュがベイリー神父を陥れようとしていたとしても、偽装や偽証はすぐにバレるよ。町の人達の反応を見ただろう?」
瞳を覗き込まれ、ルカは居心地の悪さに、思わず視線を彷徨わせる。
確かに、ロッシュの聞き取り調査は完全なる誘導尋問であって、このまま証拠もなしにネイトを告発すれば、ハーフェルの住民達からは異論の声が上がるだろう。絶対君主制とはいえ法治国家でもあるラインベルクで、(あちらの世界の中世魔女狩りのように)告発即有罪確定とはなるまい。
しかし、それで本格的な調査が入ってしまうのはとても危険だ――ネイトがラインベルクの法律上、潔白と言い難いのは事実なのだから。
「君はどうして、そんなに焦っているんだい?」
「……」
ユージーンの疑問に、ルカは言葉を詰まらせた。
たとえ幼馴染みであっても、ルカの口からネイトの秘密を漏らす訳にはいかない。ルカはあちらの世界でキリシタンの迫害について学んだ時、とても気の毒な話だと思ったし、こちらでも聡明な祖母を通して、「エインデルの使徒は不当な扱いを受けている」と教わった。他の神々への信仰は許可されているのに、エインデルだけが許されないというのは不公平に過ぎる。
ルカにネイトを告発する意思はないし、祖母が事実を知ったとしても、同じようにするだろう。だが、ユージーンに同じ考え方を強要する訳にもいかない。
――悩んだ末、ルカはネイトのエインデル信仰については伏せたまま、彼の育ての親に当たる神父が、禁教徒であることを理由に追放処分を受けた事実のみを、ユージーンに話して聞かせた。ルカは直接ネイトから教えてもらったし、当時のことは教団の資料に残っているので、関係者は知ろうと思えば誰でも知ることが出来る。事件は当の神父以外は不問とされて結審しているが、今ここでネイトにエインデル派の疑いが掛かれば、過去の事件と結び付けて、異端の烙印を押されてしまう可能性もある……。
ルカの話を黙って聞いていたユージーンが、小さく息をついた。
敏い彼に、ルカの隠し事が見抜けないはずもない。しかしユージーンはすべてを察した様子で、「わかったよ」と整った顔に微苦笑を浮かべる。
「ベイリー神父の信仰について、僕からは何も言うことはない――ルカ。君は、彼を助けたいんだね?」
「うん!」
改まって問い掛けられ、ルカは大きく頷いた。偉そうなことは言えないが、ルカにとってネイトは、「放っておけない大人」であり、「傷付いたままの子供」だ。ルカが理解者であることを知ってから、ネイトには過剰な愛情を注いでもらってきたが、ルカだってこんな形で彼を失いたくはない。
「僕も協力するよ」
彼のことは気に食わないけど、と肩を竦める幼馴染みに、ルカは全身で喜びを表した。「ありがとう!」と叫んで首筋にしがみつくと、すぐさま腰に手が回され、しっかりと抱き留められる。
頭上で「これが報酬の前払いってことかな」とぼやくような声が聞こえた気がしたが、くぐもっていたので定かではない。
それからルカとユージーンは対応策を話し合った。
ネイトの話から、表向き友好に振る舞ってはいても、ロッシュは元々ネイトを敵視していたフシがある。それが、若くして一教区を任されていることに対する嫉妬かどうかまではわからないが、これといった落ち度もないはずのネイトの元へ、査察官としてやってきた。聞き取りと称してネイトが異端であるかのような噂を流しつつ、彼が確実に留守であるミサの時間を狙って、私室を探るような様子を見せる。ネイトがエインデル派であるとの証拠は何もないにも関わらず。
これほど手段を選ばない人物であれば、証拠を偽造しないとも限らない。
そして、異端の摘発には、物的証拠に勝るものはないはずだ。
しかし、事が事だけに、捏造には危険が伴う――例えば、エインデルの像やモチーフなどのイコンだが、これを新たに作ろうとしても、自分にその技術がなければ、美術家や鍛冶屋に依頼するしかない。しかし、自分こそが異端と疑われて、即座に通報される恐れがある。
――となると。
「教団本部には、過去に押収されたエインデル派の遺物が保管されているはずだ」
「!」
博識なユージーンの指摘に、ルカはハッと両目を見開いた。
教団本部といえば、他でもない、フランツ・ロッシュの勤め先である。ティムがネイトの部屋の前をウロつくロッシュを目撃したのが昨日なら、もうあまり時間は残されていないのかもしれない。
片付けを終えたベリンダが、リビングへ戻ってきた。
「おばあちゃん、お願いがあるんだ!」
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