24 / 121
第1部・第4話:ネイト
第7章
しおりを挟む
淡い照明に照らし出された玄関ホールで、ネイトが深い溜め息を落とした。
疲れているのか、もしや具合でも悪いのかと心配になったルカは、慌てて駆け寄る。
「ネイト、大丈夫? 酷いことされてない?」
「――大丈夫だよ」
ルカに気遣って貰えることがよほど嬉しいのか、ネイトはルカだけに見せる、甘く優しい微笑みを浮かべた。ベリンダと子供達の手前、頭を撫でるに留まるが、これがユージーンとジェイクの心証をいたく害するのは言うまでもない。
「まったく、人騒がせな」
ユージーンが整った顔を嫌味っぽく歪めれば、
「何を信じるのも自由だが、ルカにだけは迷惑を掛けるな」
とジェイクが凄んで見せる。
どちらもあからさまながら、声を落とし気味なのは、一応子供達に聞こえないよう、配慮はしているらしい。
二人共――おそらくは黄金のベリンダも、ネイトの秘密の信仰について、勘付いてはいる。しかし全員、追及はしないというスタンスを貫く様子だ。
ネイトは二人に向き直り、ふと目元を緩めた。
「――取り敢えず、礼は言わせて貰うよ」
「「当たり前だ!」」
ユージーンとジェイクが声を揃えて答えるのを、ルカは瞳を瞬かせながら聞いていた。ネイトが自分以外に砕けた口調で話すのを、初めて聞いた気がする。
――これは、少し距離が近付いたかも!?
平穏な生活への希望にルカは胸を弾ませたが、肝心のネイトはというと、まったく違うことを考えていた。
確かに、たとえルカのためとはいえ、彼らが疎ましいはずの自分に力を貸してくれたことは、ありがたいと思っている。信仰の件に関しても、黙認の立場で居て貰えるなら、エインデルの使徒にとっては何より幸福なことだ。それを仇敵ともいえる間柄で通してくれるとは、感動的ですらある。
しかし同時に、それだけの強さでルカを想う人物達の存在は、ネイトに危機感を与えた。元々邪魔な奴らだとは思っていたが、これはいよいよ放ってはおけない。
ネイトはルカに向き直った。私の光。導きの天使。不思議そうに見上げて来る様子が、愛しくてたまらない。
「――ルカ。私にお願いがあるのではないかな?」
「え?」
ネイトの意図が掴めず、ルカは小首を傾げた。無事であってほしいと考えていただけで、彼に何かを叶えてほしいとまでは思っていない。
するとネイトは、訳知り顔で肩を竦めた。
「斥候隊のことだよ」
「!」
驚いて、ルカは小さく息を呑んだ。魔王討伐隊の募集は大々的に交付されたが、その一次停止と斥候隊の結成に関しては、決定から日も浅く、大衆に広く知られている話ではない。これをネイトが知っているということは、王都からやって来たフランツ・ロッシュ辺りが、世間話の一環としてでも話して聞かせたのだろうか。
ネイトには立場があり、庇護するべき者もいる。だからルカは、彼を「祖母の出した条件を満たす人員」として数えてはいなかったけれど、仲間は多い方が良いに決まっている。それが親しい人間であるなら、なお心強い。
――だが。
ルカの煩悶を見抜いたように、ネイトが笑みを深めた。
「大丈夫だよ、君の行く所が私のあるべき場所。どこへでもお供させてもらうさ。――いいですね、黄金のベリンダ」
「ええ。歓迎するわ」
直接ルカの保護者に承諾を得て、ネイトは満足げに頷いた。
ルカの予想通り、斥候隊の結成と、これに黄金のベリンダが予言の子供を伴う予定だという話は、ロッシュがもたらしたものだ。一連のロッシュの行動の中で、唯一役に立ったのがこの情報だと言っていい。
話を聞いた時から、ルカに付いていく気満々でいたネイトだったが、ユージーンとジェイクがギョッとしたように顔を歪めるのを見て、胸がすくような思いを噛み締めた。彼らの前で宣言したのは、牽制以外の何ものでもない。
ほくそ笑むネイトのキャソックの袖を、ルカはチョイチョイと引っ張った。可愛らしい仕草に、ネイトが軽い目眩を感じているらしいのには気付かず、上目遣いでおずおずと尋ねる。
「いいの? ネイト」
子供達は心細そうな表情でこちらを窺っているし、ネイトのキャリアにも影響はないのだろうか。
しかし、ネイトは「心配要らないよ」と、ルカの手を反対の掌で優しく包んだ。子供達の面倒を見てくれる、優しい神父の代わりはいくらでもいる。だが、ルカのお供は、他の誰にも任せるべきでないものだ。
恐らく教団本部は、司祭の一人が黄金のベリンダに付き従い、魔王討伐に参加することを、名誉と捉えるだろう。喜んでネイトを送り出し、適任の神父を新しく選出してくれるはずだ。――それに。
「パーティーには、治癒者が必要だろう?」
妙に頼もしいウィンクが返されて、ルカはふと肩の力を抜いた。ジェイクが頭を抱える横で、ユージーンが信じられないとでも言いたげな表情で、フラフラと壁に寄り掛かっている。
――嬉しいけど、大丈夫かな。まあ、おばあちゃんもいるし……大丈夫か!
思い直して、ルカはネイトを見上げた。
「うん。じゃあ、よろしくね!」
花の咲き綻ぶような微笑みに、ネイトの顔が甘く蕩ける。
子供達がネイトに駆け寄ってきた。
これを安心させるのは骨が折れるだろうが、ネイトの意思は固く、魔王討伐の大義名分の前には、子供達も納得しない訳にはいかないだろう。申し訳ないと思うのと同じくらいの強さで、ルカは自分に出来ることを精一杯頑張ろうと、改めて決意する。
ルカが予定外にもう一人、頼もしい仲間を得たのを見届けたかのように、庭の楡の木から鴉が一羽、漆黒の夜空へ向かって飛び立っていった。
第4話 END
疲れているのか、もしや具合でも悪いのかと心配になったルカは、慌てて駆け寄る。
「ネイト、大丈夫? 酷いことされてない?」
「――大丈夫だよ」
ルカに気遣って貰えることがよほど嬉しいのか、ネイトはルカだけに見せる、甘く優しい微笑みを浮かべた。ベリンダと子供達の手前、頭を撫でるに留まるが、これがユージーンとジェイクの心証をいたく害するのは言うまでもない。
「まったく、人騒がせな」
ユージーンが整った顔を嫌味っぽく歪めれば、
「何を信じるのも自由だが、ルカにだけは迷惑を掛けるな」
とジェイクが凄んで見せる。
どちらもあからさまながら、声を落とし気味なのは、一応子供達に聞こえないよう、配慮はしているらしい。
二人共――おそらくは黄金のベリンダも、ネイトの秘密の信仰について、勘付いてはいる。しかし全員、追及はしないというスタンスを貫く様子だ。
ネイトは二人に向き直り、ふと目元を緩めた。
「――取り敢えず、礼は言わせて貰うよ」
「「当たり前だ!」」
ユージーンとジェイクが声を揃えて答えるのを、ルカは瞳を瞬かせながら聞いていた。ネイトが自分以外に砕けた口調で話すのを、初めて聞いた気がする。
――これは、少し距離が近付いたかも!?
平穏な生活への希望にルカは胸を弾ませたが、肝心のネイトはというと、まったく違うことを考えていた。
確かに、たとえルカのためとはいえ、彼らが疎ましいはずの自分に力を貸してくれたことは、ありがたいと思っている。信仰の件に関しても、黙認の立場で居て貰えるなら、エインデルの使徒にとっては何より幸福なことだ。それを仇敵ともいえる間柄で通してくれるとは、感動的ですらある。
しかし同時に、それだけの強さでルカを想う人物達の存在は、ネイトに危機感を与えた。元々邪魔な奴らだとは思っていたが、これはいよいよ放ってはおけない。
ネイトはルカに向き直った。私の光。導きの天使。不思議そうに見上げて来る様子が、愛しくてたまらない。
「――ルカ。私にお願いがあるのではないかな?」
「え?」
ネイトの意図が掴めず、ルカは小首を傾げた。無事であってほしいと考えていただけで、彼に何かを叶えてほしいとまでは思っていない。
するとネイトは、訳知り顔で肩を竦めた。
「斥候隊のことだよ」
「!」
驚いて、ルカは小さく息を呑んだ。魔王討伐隊の募集は大々的に交付されたが、その一次停止と斥候隊の結成に関しては、決定から日も浅く、大衆に広く知られている話ではない。これをネイトが知っているということは、王都からやって来たフランツ・ロッシュ辺りが、世間話の一環としてでも話して聞かせたのだろうか。
ネイトには立場があり、庇護するべき者もいる。だからルカは、彼を「祖母の出した条件を満たす人員」として数えてはいなかったけれど、仲間は多い方が良いに決まっている。それが親しい人間であるなら、なお心強い。
――だが。
ルカの煩悶を見抜いたように、ネイトが笑みを深めた。
「大丈夫だよ、君の行く所が私のあるべき場所。どこへでもお供させてもらうさ。――いいですね、黄金のベリンダ」
「ええ。歓迎するわ」
直接ルカの保護者に承諾を得て、ネイトは満足げに頷いた。
ルカの予想通り、斥候隊の結成と、これに黄金のベリンダが予言の子供を伴う予定だという話は、ロッシュがもたらしたものだ。一連のロッシュの行動の中で、唯一役に立ったのがこの情報だと言っていい。
話を聞いた時から、ルカに付いていく気満々でいたネイトだったが、ユージーンとジェイクがギョッとしたように顔を歪めるのを見て、胸がすくような思いを噛み締めた。彼らの前で宣言したのは、牽制以外の何ものでもない。
ほくそ笑むネイトのキャソックの袖を、ルカはチョイチョイと引っ張った。可愛らしい仕草に、ネイトが軽い目眩を感じているらしいのには気付かず、上目遣いでおずおずと尋ねる。
「いいの? ネイト」
子供達は心細そうな表情でこちらを窺っているし、ネイトのキャリアにも影響はないのだろうか。
しかし、ネイトは「心配要らないよ」と、ルカの手を反対の掌で優しく包んだ。子供達の面倒を見てくれる、優しい神父の代わりはいくらでもいる。だが、ルカのお供は、他の誰にも任せるべきでないものだ。
恐らく教団本部は、司祭の一人が黄金のベリンダに付き従い、魔王討伐に参加することを、名誉と捉えるだろう。喜んでネイトを送り出し、適任の神父を新しく選出してくれるはずだ。――それに。
「パーティーには、治癒者が必要だろう?」
妙に頼もしいウィンクが返されて、ルカはふと肩の力を抜いた。ジェイクが頭を抱える横で、ユージーンが信じられないとでも言いたげな表情で、フラフラと壁に寄り掛かっている。
――嬉しいけど、大丈夫かな。まあ、おばあちゃんもいるし……大丈夫か!
思い直して、ルカはネイトを見上げた。
「うん。じゃあ、よろしくね!」
花の咲き綻ぶような微笑みに、ネイトの顔が甘く蕩ける。
子供達がネイトに駆け寄ってきた。
これを安心させるのは骨が折れるだろうが、ネイトの意思は固く、魔王討伐の大義名分の前には、子供達も納得しない訳にはいかないだろう。申し訳ないと思うのと同じくらいの強さで、ルカは自分に出来ることを精一杯頑張ろうと、改めて決意する。
ルカが予定外にもう一人、頼もしい仲間を得たのを見届けたかのように、庭の楡の木から鴉が一羽、漆黒の夜空へ向かって飛び立っていった。
第4話 END
38
あなたにおすすめの小説
異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします
み馬下諒
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。
わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!?
これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。
おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。
※ 造語、出産描写あり。前置き長め。第21話に登場人物紹介を載せました。
★お試し読みは第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★
★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★
転生令息は冒険者を目指す!?
葛城 惶
BL
ある時、日本に大規模災害が発生した。
救助活動中に取り残された少女を助けた自衛官、天海隆司は直後に土砂の崩落に巻き込まれ、意識を失う。
再び目を開けた時、彼は全く知らない世界に転生していた。
異世界で美貌の貴族令息に転生した脳筋の元自衛官は憧れの冒険者になれるのか?!
とってもお馬鹿なコメディです(;^_^A
異世界転移した元コンビニ店長は、獣人騎士様に嫁入りする夢は……見ない!
めがねあざらし
BL
過労死→異世界転移→体液ヒーラー⁈
社畜すぎて魂が擦り減っていたコンビニ店長・蓮は、女神の凡ミスで異世界送りに。
もらった能力は“全言語理解”と“回復力”!
……ただし、回復スキルの発動条件は「体液経由」です⁈
キスで癒す? 舐めて治す? そんなの変態じゃん!
出会ったのは、狼耳の超絶無骨な騎士・ロナルドと、豹耳騎士・ルース。
最初は“保護対象”だったのに、気づけば戦場の最前線⁈
攻めも受けも騒がしい異世界で、蓮の安眠と尊厳は守れるのか⁉
--------------------
※現在同時掲載中の「捨てられΩ、癒しの異能で獣人将軍に囲われてます!?」の元ネタです。出しちゃった!
異世界で聖男と呼ばれる僕、助けた小さな君は宰相になっていた
k-ing /きんぐ★商業5作品
BL
病院に勤めている橘湊は夜勤明けに家へ帰ると、傷ついた少年が玄関で倒れていた。
言葉も話せず、身寄りもわからない少年を一時的に保護することにした。
小さく甘えん坊な少年との穏やかな日々は、湊にとってかけがえのない時間となる。
しかし、ある日突然、少年は「ありがとう」とだけ告げて異世界へ帰ってしまう。
湊の生活は以前のような日に戻った。
一カ月後に少年は再び湊の前に現れた。
ただ、明らかに成長スピードが早い。
どうやら違う世界から来ているようで、時間軸が異なっているらしい。
弟のように可愛がっていたのに、急に成長する少年に戸惑う湊。
お互いに少しずつ気持ちに気づいた途端、少年は遊びに来なくなってしまう。
あの時、気持ちだけでも伝えれば良かった。
後悔した湊は彼が口ずさむ不思議な呪文を口にする。
気づけば少年の住む異世界に来ていた。
二つの世界を越えた、純情な淡い両片思いの恋物語。
序盤は幼い宰相との現実世界での物語、その後異世界への物語と話は続いていきます。
この俺が正ヒロインとして殿方に求愛されるわけがない!
ゆずまめ鯉
BL
五歳の頃の授業中、頭に衝撃を受けたことから、自分が、前世の妹が遊んでいた乙女ゲームの世界にいることに気づいてしまったニエル・ガルフィオン。
ニエルの外見はどこからどう見ても金髪碧眼の美少年。しかもヒロインとはくっつかないモブキャラだったので、伯爵家次男として悠々自適に暮らそうとしていた。
これなら異性にもモテると信じて疑わなかった。
ところが、正ヒロインであるイリーナと結ばれるはずのチート級メインキャラであるユージン・アイアンズが熱心に構うのは、モブで攻略対象外のニエルで……!?
ユージン・アイアンズ(19)×ニエル・ガルフィオン(19)
公爵家嫡男と伯爵家次男の同い年BLです。
優しい庭師の見る夢は
エウラ
BL
植物好きの青年が不治の病を得て若くして亡くなり、気付けば異世界に転生していた。
かつて管理者が住んでいた森の奥の小さなロッジで15歳くらいの体で目覚めた樹希(いつき)は、前世の知識と森の精霊達の協力で森の木々や花の世話をしながら一人暮らしを満喫していくのだが・・・。
※主人公総受けではありません。
精霊達は単なる家族・友人・保護者的な位置づけです。お互いがそういう認識です。
基本的にほのぼのした話になると思います。
息抜きです。不定期更新。
※タグには入れてませんが、女性もいます。
魔法や魔法薬で同性同士でも子供が出来るというふんわり設定。
※10万字いっても終わらないので、一応、長編に切り替えます。
お付き合い下さいませ。
【本編完結】転生したら、チートな僕が世界の男たちに溺愛される件
表示されませんでした
BL
ごく普通のサラリーマンだった織田悠真は、不慮の事故で命を落とし、ファンタジー世界の男爵家の三男ユウマとして生まれ変わる。
病弱だった前世のユウマとは違い、転生した彼は「創造魔法」というチート能力を手にしていた。
この魔法は、ありとあらゆるものを生み出す究極の力。
しかし、その力を使うたび、ユウマの体からは、男たちを狂おしいほどに惹きつける特殊なフェロモンが放出されるようになる。
ユウマの前に現れるのは、冷酷な魔王、忠実な騎士団長、天才魔法使い、ミステリアスな獣人族の王子、そして実の兄と弟。
強大な力と魅惑のフェロモンに翻弄されるユウマは、彼らの熱い視線と独占欲に囲まれ、愛と欲望が渦巻くハーレムの中心に立つことになる。
これは、転生した少年が、最強のチート能力と最強の愛を手に入れるまでの物語。
甘く、激しく、そして少しだけ危険な、ユウマのハーレム生活が今、始まる――。
本編完結しました。
続いて閑話などを書いているので良かったら引き続きお読みください
マリオネットが、糸を断つ時。
せんぷう
BL
異世界に転生したが、かなり不遇な第二の人生待ったなし。
オレの前世は地球は日本国、先進国の裕福な場所に産まれたおかげで何不自由なく育った。確かその終わりは何かの事故だった気がするが、よく覚えていない。若くして死んだはずが……気付けばそこはビックリ、異世界だった。
第二生は前世とは正反対。魔法というとんでもない歴史によって構築され、貧富の差がアホみたいに激しい世界。オレを産んだせいで母は体調を崩して亡くなったらしくその後は孤児院にいたが、あまりに酷い暮らしに嫌気がさして逃亡。スラムで前世では絶対やらなかったような悪さもしながら、なんとか生きていた。
そんな暮らしの終わりは、とある富裕層らしき連中の騒ぎに関わってしまったこと。不敬罪でとっ捕まらないために背を向けて逃げ出したオレに、彼はこう叫んだ。
『待て、そこの下民っ!! そうだ、そこの少し小綺麗な黒い容姿の、お前だお前!』
金髪縦ロールにド派手な紫色の服。装飾品をジャラジャラと身に付け、靴なんて全然汚れてないし擦り減ってもいない。まさにお貴族様……そう、貴族やら王族がこの世界にも存在した。
『貴様のような虫ケラ、本来なら僕に背を向けるなどと斬首ものだ。しかし、僕は寛大だ!!
許す。喜べ、貴様を今日から王族である僕の傍に置いてやろう!』
そいつはバカだった。しかし、なんと王族でもあった。
王族という権力を振り翳し、盾にするヤバい奴。嫌味ったらしい口調に人をすぐにバカにする。気に入らない奴は全員斬首。
『ぼ、僕に向かってなんたる失礼な態度っ……!! 今すぐ首をっ』
『殿下ったら大変です、向こうで殿下のお好きな竜種が飛んでいた気がします。すぐに外に出て見に行きませんとー』
『なにっ!? 本当か、タタラ! こうしては居られぬ、すぐに連れて行け!』
しかし、オレは彼に拾われた。
どんなに嫌な奴でも、どんなに周りに嫌われていっても、彼はどうしようもない恩人だった。だからせめて多少の恩を返してから逃げ出そうと思っていたのに、事態はどんどん最悪な展開を迎えて行く。
気に入らなければ即断罪。意中の騎士に全く好かれずよく暴走するバカ王子。果ては王都にまで及ぶ危険。命の危機など日常的に!
しかし、一緒にいればいるほど惹かれてしまう気持ちは……ただの忠誠心なのか?
スラム出身、第十一王子の守護魔導師。
これは運命によってもたらされた出会い。唯一の魔法を駆使しながら、タタラは今日も今日とてワガママ王子の手綱を引きながら平凡な生活に焦がれている。
※BL作品
恋愛要素は前半皆無。戦闘描写等多数。健全すぎる、健全すぎて怪しいけどこれはBLです。
.
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる