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第1部・第8話:俺様王と小悪魔系救世主
第1章
その日、歴史上稀にみる、晴れがましい1日を迎えるはずだった王都ヴェスティアは、混乱の坩堝と化した。
魔物の一団が襲来し、彼らの生活を踏みにじったのである。
驚き、慌てふためいて逃げ惑う人々を嘲笑うかのように、魔物達は破壊し、殺戮を演じた。その統率の取れた動きからは、これを使役する能力に長けた、魔王軍の指揮下にあることは明白だ。
直ちに王宮から、騎士団及び魔法士団が派遣されたが、此彼の力の差は歴然としていた。大型の魔獣を複数人で相手取っている間に、小型の魔物が飛び回り、破壊の限りを尽くす。
国王直属の部隊は善戦も空しく、じわじわと戦力を削られていった。
蹂躙される街、傷付いていく同胞達の姿に、なす術のない民衆達が、天を振り仰いで全能神エドゥアルトの加護を願った、その時。
大通りの交差する、街の中心部の広場に、一条の光が閃いた。見る間に大きく膨れ上がった黄金の輝きは、やがて6人の人影を残して消える。
既に戦闘態勢を整えた5人の若者を従えるのは、美しき大魔法使い・黄金のベリンダだ。
騎士達も含めた人々が歓喜の声を上げるよりも早く、ベリンダはロッドを構え、何事か詠唱した。それが広範囲の敵を一挙に拘束する魔法であると知れる頃には、4人の戦士達がそれぞれ魔王軍への攻撃を開始している。
魔力増幅用と覚しき魔導書を手に、強力な火炎魔法を繰り出し、大型の魔獣を瞬時に灰にして見せる、魔法使いらしき青年。長剣を構えた剣士と、戦斧を振り回して間合いを取る戦士は、お互いの武器の射程の短さを補い合うように、共闘する形で次々と小型の魔物を倒していく。その背後では、キャソック姿の僧侶が彼ら全員に対し、保護魔法をかけているようだ。
強力な援軍を得て、王国軍は勢いを取り戻した。
乱戦のさなか、壊れた商店の瓦礫が崩れ落ちる。その影に、逃げ遅れたらしい子供が潜んでいたことに気付いて、家並みに隠れて見守る人々はゾッと総毛立った。間髪入れず、ベリンダの拘束魔法の射程外から、飛行型の魔物が女児に迫る。怯えきった子供は微動だにせず、死の使いが近付くのを呆然と見上げていた。
――ベリンダの背後に控えていた、小柄な少年が動いたのは、その時だ。
少女の方へ向かって、両手を揃えて何かを捧げるような所作を見せる。ポン、とこの場に似つかわしくない、可愛らしい破裂音が響くのと同時に、その掌の中から躍り出たのは、豊かな鬣を靡かせた、黄金の獅子だった。
驚愕の視線が見詰める中、ライオンは今にも少女に襲い掛かろうとする魔物目掛けて跳躍し、鋭い爪で片方の羽根をむしり取る。動きを封じられて苦しむ喉笛に食らい付き、魔物が淀んだ藍色の核を残して消え去るまで、ほとんど時間は掛からなかった。
その間、少年はというと、残酷な光景から少女を守るように、手を引いて避難を促した。そして、同じように逃げ遅れた者達の集まる建物まで逃れ、安心させるようににこりと微笑む。彼らを受け入れた人々は、非常事態にも関わらず、彼が驚くような愛らしい顔立ちをしていることに目を見張った。
少年の無事を確認したらしい黄金のベリンダが、ロッドを眼前に構えて、別な呪文を詠唱する。
広範囲に強烈な光が迸り、戦士達によって数を減らしていた魔物達は光弾の直撃を受け、瞬く間に一掃された。
ざらりと音を立てて、様々な色合いの魔物の核が、辺り一面に散らばる。その音を聞いて、人々は我に返った様子で、一斉に快哉を叫んだ。黄金のベリンダとその従者達の活躍で、王都の危機は去ったのだ。
身分の区別なく、抱き合って喜ぶ人々は、少年がライオンを労った後、共にベリンダの元へ駆け戻るのを見た。
そして、愛おしげな大魔法使いの様子から、誰に教えられることもなく、彼こそが魔王を倒す『予言の子供』であることを悟ったのである。
●
絢爛豪華な謁見の間にその人物が入ってきた瞬間、空気の張り詰める音を聞いたような気がして、ルカは思わず背筋を伸ばした。
贅の限りを尽くした煌びやかな調度品、そのどれよりなお美しい、アデルバート・クラウス・マクシミリアン・ラインベルク2世は、青地に金の装飾の施された甲冑を纏い、黄金の長髪と白いマントをなびかせながら、悠然と玉座へ進んでいく。
ルカの羽織ったローブのフードから顔だけ覗かせた、ぬいぐるみ体のレフが、「派手な王様だなぁオイ」と呆れたように呟いた。ギョッとしたルカは肩越しに振り返り、慌てて「シッ」と窘める。確かに、アデルバートの金髪紅眼の華やかな容貌は、一度見たら忘れられるものではない。だが。
――派手なのはお前も同じだろ!
言い返したいのをグッと堪えて、ルカは正面に向き直った。この可愛らしいぬいぐるみ体から、ライオン体に変身できるだけでも充分カッコイイのに、人間体を取った時のレフのワイルドさと言ったら……まあ、それは置いておくとして。
「……!」
玉座に視線を戻したルカは、小さく息を呑んだ。アデルバートの切れ長の瞳が、こちらをジッと見詰めているような気がしたからだ。
心臓が高鳴るのと同時に、脇に控えた臣下の一人が声を張り上げる。
「黄金のベリンダ殿が、斥候隊員と共に、拝謁を願い出ておられます――!」
最前列中央に控えたベリンダが、優雅な所作で膝を着く。その後ろに、ユージーンと共に並んでいたルカも、「おばあちゃんの真似をしていれば大丈夫よ」と言われたことを思い出し、慌てて跪いた。3列目のフィンレー、ジェイク、ネイトの3人も、揃って腰を落とす気配が伝わってくる。
「――楽にせよ」
深みのある、威厳たっぷりの声で、アデルバートが促した。
ベリンダに続いて、全員が立ち上がる。
ラインベルク王国、リートブロン州の、王都ヴェスティア。
国王アデルバート2世が政務を執る王宮では、本来ならば今日この時より、黄金のベリンダを代表とする、魔王斥候隊の任命及び出立式が行われる予定だった。国民は皆この日を待ち侘び、魔王を倒す『予言の子供』を送り出す喜びに沸いていたのだ。
そんな日の早朝に起こった魔物の襲来はおそらく、魔王が人類の抵抗を嘲笑うためのものだったのだろう。不可思議の力でそれを察したベリンダが、予定よりも早く駆け付けたため、被害は比較的軽微で済んだが、それでも1個の自然災害級であることは否めない。
「よくぞやってくれた。我からも礼を言う」
自らも近衛隊を率いて出陣していたらしいアデルバートは、そう言って満足げに微笑んだ。黄金のベリンダは言うに及ばず、彼女が連れてきた者達も、圧倒的な戦闘能力を見せ付け、一気に民衆の支持を得た。これで王都の混乱も、いくらか和らぐというものだろう。
支配者の意図など知る由もないルカは、そわそわと落ち着きなく、祖母のスラリとした背中を盗み見た。何か反応を返すべきなのか、こういう時どうしているのが正解なのかがわからない。ベリンダにこれといった動きはなく、仲間達もじっとしているようなので、取り敢えずは黙って話を聞いておけばいいらしいという結論に辿り着く。
助力への感謝と働きへの賛辞を口にしたアデルバートはしかし、年齢によって凄味を増した美貌を、わずかに歪める。
「ベリンダが選んだ者達だ。人選に問題があろうはずもない。本来ならばこの場で正式に斥候隊に任命、出立ということになろうが……頼みがある」
「?」
突然の申し出に、ルカは小さく首を傾げた。アデルバート2世には元々、「有能だが独断専行のきらいがある」との評価も付き纏う。ベリンダがルカをあちらの世界から帰還させることを知って、当人たちの意思も確認せぬまま、当然のように魔王討伐隊の結成を布告したことも事実だ。ルカが少し身構えてしまったのも、無理のない話だと言える。
果たして何を言い出されるのか――
「――!」
仰ぎ見るアデルバートと、またしてもバチリと視線が絡み合ったような気がして、ルカは思わず視線を逸らした。隣のユージーンを始め、仲間達がそれぞれ不審げに眉をひそめたことには、もちろん気付けない。
しかし当然ながら、ドキドキと鼓動を高鳴らせるルカに構うようなこともなく、アデルバートは意外な要請を口にした。
曰く、市中の被害が大きかったため、「状況が落ち着くまで、王宮内に留まって欲しいのだ」とのこと。
確かに、ベリンダの転移魔法によって運ばれ、魔王軍と戦った広場から王宮までの道のりを騎士団に案内される道すがら、ルカ達は王都民の感謝の笑顔と同時に、破壊され、傷付いた街並みもたくさん見てきた。その中に人的被害がなかったとは、到底考えにくい。斥候隊を送り出した後、彼らに待っているのは重たい現実だけだ。混乱した王都を放っておいて旅立つのも、後味が悪い。
全員の意図を確認するように、ベリンダが振り返った。仲間達はこくりと頷き、ルカもうんうんと首を縦に振る。
若者達に向かってにこりと微笑み掛けてから、ベリンダはアデルバートに向き直り、優々とした礼を取った。
「承知いたしました」
「感謝する」
アデルバートは鷹揚に頷いた。まるで返答の予測がついていたかのような冷静さだが、君主とはえてしてそのようなものだろう。付き合いの長さから、黄金のベリンダの気質をよく知るがゆえ、と言い換えることも出来るかもしれない。彼女は傷付いた街を、人々を、放っておけるような人間ではない。
「部屋は用意させてあるゆえ、しばし寛ぐが良い」
言い置いて、アデルバートは機敏な動作で玉座を立った。ベリンダが再び膝を着き、ルカ達もそれに倣う。控えた家臣団も一斉に片膝を着いて、謁見は終了した。
退出していくアデルバートは、もはや何者にも気を止めることはない。
――これにより、斥候隊任命式及び出立式の、正式な延期が決まった。
ルカ達は数日間王宮に留まり、王都の復興支援に当たることとなったのである。
魔物の一団が襲来し、彼らの生活を踏みにじったのである。
驚き、慌てふためいて逃げ惑う人々を嘲笑うかのように、魔物達は破壊し、殺戮を演じた。その統率の取れた動きからは、これを使役する能力に長けた、魔王軍の指揮下にあることは明白だ。
直ちに王宮から、騎士団及び魔法士団が派遣されたが、此彼の力の差は歴然としていた。大型の魔獣を複数人で相手取っている間に、小型の魔物が飛び回り、破壊の限りを尽くす。
国王直属の部隊は善戦も空しく、じわじわと戦力を削られていった。
蹂躙される街、傷付いていく同胞達の姿に、なす術のない民衆達が、天を振り仰いで全能神エドゥアルトの加護を願った、その時。
大通りの交差する、街の中心部の広場に、一条の光が閃いた。見る間に大きく膨れ上がった黄金の輝きは、やがて6人の人影を残して消える。
既に戦闘態勢を整えた5人の若者を従えるのは、美しき大魔法使い・黄金のベリンダだ。
騎士達も含めた人々が歓喜の声を上げるよりも早く、ベリンダはロッドを構え、何事か詠唱した。それが広範囲の敵を一挙に拘束する魔法であると知れる頃には、4人の戦士達がそれぞれ魔王軍への攻撃を開始している。
魔力増幅用と覚しき魔導書を手に、強力な火炎魔法を繰り出し、大型の魔獣を瞬時に灰にして見せる、魔法使いらしき青年。長剣を構えた剣士と、戦斧を振り回して間合いを取る戦士は、お互いの武器の射程の短さを補い合うように、共闘する形で次々と小型の魔物を倒していく。その背後では、キャソック姿の僧侶が彼ら全員に対し、保護魔法をかけているようだ。
強力な援軍を得て、王国軍は勢いを取り戻した。
乱戦のさなか、壊れた商店の瓦礫が崩れ落ちる。その影に、逃げ遅れたらしい子供が潜んでいたことに気付いて、家並みに隠れて見守る人々はゾッと総毛立った。間髪入れず、ベリンダの拘束魔法の射程外から、飛行型の魔物が女児に迫る。怯えきった子供は微動だにせず、死の使いが近付くのを呆然と見上げていた。
――ベリンダの背後に控えていた、小柄な少年が動いたのは、その時だ。
少女の方へ向かって、両手を揃えて何かを捧げるような所作を見せる。ポン、とこの場に似つかわしくない、可愛らしい破裂音が響くのと同時に、その掌の中から躍り出たのは、豊かな鬣を靡かせた、黄金の獅子だった。
驚愕の視線が見詰める中、ライオンは今にも少女に襲い掛かろうとする魔物目掛けて跳躍し、鋭い爪で片方の羽根をむしり取る。動きを封じられて苦しむ喉笛に食らい付き、魔物が淀んだ藍色の核を残して消え去るまで、ほとんど時間は掛からなかった。
その間、少年はというと、残酷な光景から少女を守るように、手を引いて避難を促した。そして、同じように逃げ遅れた者達の集まる建物まで逃れ、安心させるようににこりと微笑む。彼らを受け入れた人々は、非常事態にも関わらず、彼が驚くような愛らしい顔立ちをしていることに目を見張った。
少年の無事を確認したらしい黄金のベリンダが、ロッドを眼前に構えて、別な呪文を詠唱する。
広範囲に強烈な光が迸り、戦士達によって数を減らしていた魔物達は光弾の直撃を受け、瞬く間に一掃された。
ざらりと音を立てて、様々な色合いの魔物の核が、辺り一面に散らばる。その音を聞いて、人々は我に返った様子で、一斉に快哉を叫んだ。黄金のベリンダとその従者達の活躍で、王都の危機は去ったのだ。
身分の区別なく、抱き合って喜ぶ人々は、少年がライオンを労った後、共にベリンダの元へ駆け戻るのを見た。
そして、愛おしげな大魔法使いの様子から、誰に教えられることもなく、彼こそが魔王を倒す『予言の子供』であることを悟ったのである。
●
絢爛豪華な謁見の間にその人物が入ってきた瞬間、空気の張り詰める音を聞いたような気がして、ルカは思わず背筋を伸ばした。
贅の限りを尽くした煌びやかな調度品、そのどれよりなお美しい、アデルバート・クラウス・マクシミリアン・ラインベルク2世は、青地に金の装飾の施された甲冑を纏い、黄金の長髪と白いマントをなびかせながら、悠然と玉座へ進んでいく。
ルカの羽織ったローブのフードから顔だけ覗かせた、ぬいぐるみ体のレフが、「派手な王様だなぁオイ」と呆れたように呟いた。ギョッとしたルカは肩越しに振り返り、慌てて「シッ」と窘める。確かに、アデルバートの金髪紅眼の華やかな容貌は、一度見たら忘れられるものではない。だが。
――派手なのはお前も同じだろ!
言い返したいのをグッと堪えて、ルカは正面に向き直った。この可愛らしいぬいぐるみ体から、ライオン体に変身できるだけでも充分カッコイイのに、人間体を取った時のレフのワイルドさと言ったら……まあ、それは置いておくとして。
「……!」
玉座に視線を戻したルカは、小さく息を呑んだ。アデルバートの切れ長の瞳が、こちらをジッと見詰めているような気がしたからだ。
心臓が高鳴るのと同時に、脇に控えた臣下の一人が声を張り上げる。
「黄金のベリンダ殿が、斥候隊員と共に、拝謁を願い出ておられます――!」
最前列中央に控えたベリンダが、優雅な所作で膝を着く。その後ろに、ユージーンと共に並んでいたルカも、「おばあちゃんの真似をしていれば大丈夫よ」と言われたことを思い出し、慌てて跪いた。3列目のフィンレー、ジェイク、ネイトの3人も、揃って腰を落とす気配が伝わってくる。
「――楽にせよ」
深みのある、威厳たっぷりの声で、アデルバートが促した。
ベリンダに続いて、全員が立ち上がる。
ラインベルク王国、リートブロン州の、王都ヴェスティア。
国王アデルバート2世が政務を執る王宮では、本来ならば今日この時より、黄金のベリンダを代表とする、魔王斥候隊の任命及び出立式が行われる予定だった。国民は皆この日を待ち侘び、魔王を倒す『予言の子供』を送り出す喜びに沸いていたのだ。
そんな日の早朝に起こった魔物の襲来はおそらく、魔王が人類の抵抗を嘲笑うためのものだったのだろう。不可思議の力でそれを察したベリンダが、予定よりも早く駆け付けたため、被害は比較的軽微で済んだが、それでも1個の自然災害級であることは否めない。
「よくぞやってくれた。我からも礼を言う」
自らも近衛隊を率いて出陣していたらしいアデルバートは、そう言って満足げに微笑んだ。黄金のベリンダは言うに及ばず、彼女が連れてきた者達も、圧倒的な戦闘能力を見せ付け、一気に民衆の支持を得た。これで王都の混乱も、いくらか和らぐというものだろう。
支配者の意図など知る由もないルカは、そわそわと落ち着きなく、祖母のスラリとした背中を盗み見た。何か反応を返すべきなのか、こういう時どうしているのが正解なのかがわからない。ベリンダにこれといった動きはなく、仲間達もじっとしているようなので、取り敢えずは黙って話を聞いておけばいいらしいという結論に辿り着く。
助力への感謝と働きへの賛辞を口にしたアデルバートはしかし、年齢によって凄味を増した美貌を、わずかに歪める。
「ベリンダが選んだ者達だ。人選に問題があろうはずもない。本来ならばこの場で正式に斥候隊に任命、出立ということになろうが……頼みがある」
「?」
突然の申し出に、ルカは小さく首を傾げた。アデルバート2世には元々、「有能だが独断専行のきらいがある」との評価も付き纏う。ベリンダがルカをあちらの世界から帰還させることを知って、当人たちの意思も確認せぬまま、当然のように魔王討伐隊の結成を布告したことも事実だ。ルカが少し身構えてしまったのも、無理のない話だと言える。
果たして何を言い出されるのか――
「――!」
仰ぎ見るアデルバートと、またしてもバチリと視線が絡み合ったような気がして、ルカは思わず視線を逸らした。隣のユージーンを始め、仲間達がそれぞれ不審げに眉をひそめたことには、もちろん気付けない。
しかし当然ながら、ドキドキと鼓動を高鳴らせるルカに構うようなこともなく、アデルバートは意外な要請を口にした。
曰く、市中の被害が大きかったため、「状況が落ち着くまで、王宮内に留まって欲しいのだ」とのこと。
確かに、ベリンダの転移魔法によって運ばれ、魔王軍と戦った広場から王宮までの道のりを騎士団に案内される道すがら、ルカ達は王都民の感謝の笑顔と同時に、破壊され、傷付いた街並みもたくさん見てきた。その中に人的被害がなかったとは、到底考えにくい。斥候隊を送り出した後、彼らに待っているのは重たい現実だけだ。混乱した王都を放っておいて旅立つのも、後味が悪い。
全員の意図を確認するように、ベリンダが振り返った。仲間達はこくりと頷き、ルカもうんうんと首を縦に振る。
若者達に向かってにこりと微笑み掛けてから、ベリンダはアデルバートに向き直り、優々とした礼を取った。
「承知いたしました」
「感謝する」
アデルバートは鷹揚に頷いた。まるで返答の予測がついていたかのような冷静さだが、君主とはえてしてそのようなものだろう。付き合いの長さから、黄金のベリンダの気質をよく知るがゆえ、と言い換えることも出来るかもしれない。彼女は傷付いた街を、人々を、放っておけるような人間ではない。
「部屋は用意させてあるゆえ、しばし寛ぐが良い」
言い置いて、アデルバートは機敏な動作で玉座を立った。ベリンダが再び膝を着き、ルカ達もそれに倣う。控えた家臣団も一斉に片膝を着いて、謁見は終了した。
退出していくアデルバートは、もはや何者にも気を止めることはない。
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