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第1部・第8話:俺様王と小悪魔系救世主
第7章
力強い言葉の通り、ベリンダは翌日早々、アデルバートとの会見を手引きしてくれた。
忙しい政務の合間、軽めの昼食を摂る時間ならばと呼び出されたのは、問題のバラ園である。
本来は立入禁止の場所に呼ばれたことにも驚いたが、実際にその惨状を目にして、ルカは絶句した。バラの半分近くがダメになったとは聞いていたけれど、花を残したまま立ち枯れた木々の姿には、寂寥を感じずにはいられない。南西の入り口付近に被害が集中しているのは、毒香が置かれた場所だからだろうか。既に植え替えが始まっているようだが、それも一朝一夕にとはいくまい。
想像以上の被害に、ルカは一層反省の念を強めた。
「――何の用だ」
噴水近くに据えられたテーブルセットに着いたアデルバートは、食事の手を休めず、チラリと一瞥をくれたのみだ。視線はルカを掠めただけで、すぐに手近な書類に落とされる。
歓迎されるとは思ってはいなかったが、少なくとも冷徹な美貌に、昨夜までの体調不良は感じられない。ほんの少しだけ安心して、ルカは離れた位置からペコリと頭を下げた。
「……ごめんなさい。僕、ここがどういう場所なのか知らなくて……」
ローザリンデの処遇は厳しすぎると、今でも思う。それでも、ルカの発言がアデルバートの事情を顧みない、無礼で無神経なものだったのは事実だ。
「アデルバート様の大切な場所を、軽んじるようなことを言ってしまって……本当にすみませんでした……!」
束の間の沈黙が降りる。
ややあって、ルカの耳に届いたのは、アデルバートの溜め息だった。
「……もう良い」
「!」
厳しい処罰も覚悟してやってきただけに、ルカは一瞬身体を強張らせた。一拍遅れて理解が追い付き、慌てて顔を上げる。
ルカの謝罪に、アデルバートは自嘲めいた苦笑を浮かべていた。
「結果的に、そなたの進言が的中したようなものだからな」
それは、ローザリンデへの態度について、ぶちぶちと不服を申し立てた時のことだろうか。確かにルカは、ユージーンやジェイクのように、逆恨みされないように手を打っておくことも必要なのではないかと思いはしたが、それはあくまで個人的に、ローザリンデが気の毒だったからだ。今回の事件は決して、ローザリンデ自身がアデルバートを恨んで起こした騒動ではない。
しかし、この賢明な君主には、大元になったクロイツェル伯爵家への処断について、大いに考えるところがあったようだ。
何だか恐れ多くてオロオロし始めたルカの様子に、アデルバートは笑みを深めた。食事の手を止め、近くに寄るようにとルカを手招く。
「そのように萎れた花は、見ていてもつまらぬものよ」
誘われるまま側近くに立ったルカを、アデルバートは頬杖を突いた姿勢で、じっと見上げてきた。鋭い視線に射竦められ、身動きの取れなくなったルカはふと、美貌を褒め称えられるこの君主は、歳を重ねただけ美しさを増しているのではないか、などと、有り得ないことを考える。
ルカの取り留めもない想像など気にも止めずに、アデルバートは唇の端を吊り上げた。
「仕方あるまい。そなたの言を受け入れよう――ベルトホルト公爵令嬢の謹慎を解く」
「!」
宣言に、ルカはハッと瞳を見開いた。
アデルバートの厳しい処断を受け、既にローザリンデの名は、社交界で失墜している。公爵令嬢としては、充分な罰を受けたと言っていい。これに恩赦が加われば、元通りとはいかずとも、最低限の名誉回復は成るはずだ。
「我を想うあまりに騙されたのなら、加害者であると同時に被害者でもあるのだからな」
「ありがとうございます!」
思わぬ喜びに、ルカは満面の笑みを浮かべて感謝を口にした。アデルバートの許しを得られただけでなく、ローザリンデの減刑が叶って、こんなに嬉しいことはない。
――やっぱり、厳しいだけの王様じゃなかった!
しかし、ルカの全開の笑顔に、アデルバートは複雑そうに眉根を寄せた。両腕を組み、ムッとした様子で呟く。
「我と共にあって、別な者に心を寄せるか」
「え、それは……」
これはもしかして、拗ねられているのだろうか? 国王の意外な子供っぽさに戸惑いながら、ルカは必死で言葉を次いだ。
「確かに、ローザリンデ様は素敵な女性だと思いますけど、アデルバート様の評判にも関わることでしょ。厳しいだけの王様じゃないのに、これでアデルバート様の評判が悪くなっちゃったら嫌ですよ」
慌てて捲し立てたルカに、アデルバートは「なんと」と、わずかに切れ長の瞳を見開いた。ルビーみたいで綺麗だな、と思うまもなく、凄味のある美貌が満足げに微笑む。
「愛いことよ」
「わ!」
言ってそのまま、アデルバートはルカの腕を引いた。バランスを崩して思わず悲鳴を上げるのにも構わず、強引に抱き寄せる。
次の瞬間、ルカはアデルバートの膝の上に、横抱きに座らされていた。
「…………………………」
――え、何コレ。さすがにヤバくない?
やんごとなき貴人の膝の間で、ルカは事態を理解できずに硬直していた。
視線を上げることもできずに芝生の一点を凝視するルカの顔を、アデルバートは遠慮もなく覗き込んでくる。
「……やはりそなたは愛らしいな」
楽しそうな声音に、微妙に艶が含まれた。空気が変わったことに気付いても、ルカは引き攣った笑いを返すことしか出来ない。こういう時、図々しく「ありがとうございまーすテヘ☆」などとあしらえるような性分なら苦労はなかったのだろうが、生憎とルカはそこまで自惚れた少年ではないし、男としての矜持も捨てられない。
――てゆーか、この人、めっちゃ力強い!!
美貌を特筆されがちなアデルバートではあるが、魔王軍侵攻の折りにも見せたように、甲冑を纏い、自ら一軍を指揮して戦場に出る、武人としての一面も持っている。細身に見えても背は高いし、実はガッシリと筋肉質であるということは、こうして抱き締められてみれば明らかだ。身じろぐことも許されない。
混乱するルカに向かって、アデルバートは問い掛ける。
「斥候の任務を終えて戻ったら、その後はどうするのだ」
「……いえ、特に何も決まってません。自分に何が出来るのかわからないから、色々見てみたくて……」
応じながらも、ルカは間近に瞳を覗き込まれることから、必死で目を逸らしていた。この状態で至近距離で見詰め合うのは、何だか色々とマズそうな気がする。
「将来を誓った者などおるまいな?」
「え、ええと、そういうのは……」
何となく仲間の誰かの顔が浮かんだような気がしないでもなかったが、深く自分に問い掛けることもせずに、ルカは言葉を濁した。取り敢えず、アデルバートの綺麗な顔が迫ってきて恥ずかしい。
――さすがにこれは、スキンシップの域を越えている!!
どうしようどうしよう、と、ルカがいよいよパニックを起こし掛けた時、陽に焼けた大きな掌が、アデルバートの視線を遮るように、目の前に翳された。
「――その辺にしとけよ、王様」
驚いて見上げた先には、豊かな黄金色の髪の毛を頭頂部で纏め、浅黒く逞しい肉体を黒いライダースに包んだ、長身の青年の姿があった。ワイルドな顔立ちを、更に不機嫌に歪めて凄む様子に、ルカはホッと胸を撫で下ろす。
「レフ!」
レフはどうやら、ルカの危機を察してフードから這い出し、ヒト型を取ってくれたらしい。強面にライダースなどと、あちらの世界では極力お近付きにはなりたくなかったタイプだが、今はどんなに凶悪に見えても、側に居てくれることが心強い。
――ちなみにこのライダースだが、当然こちらの世界で見掛けるものではないので、ルカは彼に服を着せてくれたベリンダに聞いたのだ、「おばあちゃんの好みなの?」と。しかしベリンダはにっこり笑って否定した。
『違うわ、おばあちゃんはもっと、ナチュラルな方が好きだもの』
『じゃあ……お姉ちゃんの趣味?』
姉の知らなかった一面に、ルカは妙な脱力感を覚えた。そもそもぬいぐるみ体のレフは、雄ライオンとはいえ、とても愛くるしい姿をしている。そのレフが、黄金のベリンダの魔力の影響を受けて実体化、更には人間化するに当たって、野性的なイケメンであることまでは、まぁ理解できるとしても、服装がこの世界で一般的でないライダースとなると、これは制作者である瑠衣の嗜好が反映されているとしか考えられない。ああ、こういう男性がタイプだったのだとしたら、彼女にとって弟の瑠佳は、さぞかし弱々しく見えたことだろう!
ともあれ、逞しい肉体をライダースに包んだ人間体のレフは、突如現れた青年に驚愕するアデルバートからルカを取り返し、片腕で軽々と抱き上げた。急な高所に、思わず縋るようにレフの肩に手を回してしまったのは、ルカ一生の不覚だ。
「なんと……!」
レフを見上げ、アデルバートが愕然とした様子で呟く。
抱えたルカをアデルバートから遠ざけるようにして、レフは牙を剥いた。
「ルカに手ぇ出してみろ。オレが食い殺してやる」
「レフ、ダメだよ!」
国王相手の大暴言に、ルカは慌てて制止の声を上げた。いかに祖母の力があっても、そう何度も無礼を見逃して貰えるとも思えない。
アデルバートは、ルカを失った掌をテーブルの上でギュッと握り締めた。
「そなた、どこから……」
当然の疑問に、レフはめんどくさそうに「あ?」と眉をひそめる。
「ずっと良いコで、ルカの背中に居ただろ?」
「――!」
その返答で、長年黄金のベリンダと親交のあるアデルバートには、レフの正体が何者であるのか、理解できたらしい。ルカがフードの中にライオンのぬいぐるみを連れているのは、彼も何度も目にしているはずだ。
何度か瞬きを繰り返した後、アデルバートは堪りかねた様子で吹き出した。
「元があの、可愛らしいぬいぐるみとは……!」
怒るでもなく、鷹揚に笑って見せるのは、彼の器の大きさか、それとも「可愛いもの好き」の故だろうか。
話は済んだとばかりに、レフは踵を返した。当然彼に抱きかかえられたままのルカも、アデルバートの御前を辞すことになる。
「ちょ、レフ!」
これはあまりに失礼に当たると、ルカはレフの腕の中でジタバタと暴れた。こっちはこっちで力が強くて、とても振り切れそうにない。
「良い」と笑い含みの声が追い掛けてきて、ルカはレフの頭越しに振り返った。
アデルバートは楽しげに微笑んでいる。
「今日のところは、そなたの守護聖獣殿に免じて許してやろう」
「ご、ごめんなさい!」
取り敢えず、アデルバートが可愛いもの好きで良かったと、ルカは胸を撫で下ろした。
そのままご機嫌斜めのレフに運ばれていく。
「――これで終わりではないぞ」
一人バラ園に残されたアデルバートが、美しい顔に含みを浮かべて呟くのを、聞く者はなかった。
忙しい政務の合間、軽めの昼食を摂る時間ならばと呼び出されたのは、問題のバラ園である。
本来は立入禁止の場所に呼ばれたことにも驚いたが、実際にその惨状を目にして、ルカは絶句した。バラの半分近くがダメになったとは聞いていたけれど、花を残したまま立ち枯れた木々の姿には、寂寥を感じずにはいられない。南西の入り口付近に被害が集中しているのは、毒香が置かれた場所だからだろうか。既に植え替えが始まっているようだが、それも一朝一夕にとはいくまい。
想像以上の被害に、ルカは一層反省の念を強めた。
「――何の用だ」
噴水近くに据えられたテーブルセットに着いたアデルバートは、食事の手を休めず、チラリと一瞥をくれたのみだ。視線はルカを掠めただけで、すぐに手近な書類に落とされる。
歓迎されるとは思ってはいなかったが、少なくとも冷徹な美貌に、昨夜までの体調不良は感じられない。ほんの少しだけ安心して、ルカは離れた位置からペコリと頭を下げた。
「……ごめんなさい。僕、ここがどういう場所なのか知らなくて……」
ローザリンデの処遇は厳しすぎると、今でも思う。それでも、ルカの発言がアデルバートの事情を顧みない、無礼で無神経なものだったのは事実だ。
「アデルバート様の大切な場所を、軽んじるようなことを言ってしまって……本当にすみませんでした……!」
束の間の沈黙が降りる。
ややあって、ルカの耳に届いたのは、アデルバートの溜め息だった。
「……もう良い」
「!」
厳しい処罰も覚悟してやってきただけに、ルカは一瞬身体を強張らせた。一拍遅れて理解が追い付き、慌てて顔を上げる。
ルカの謝罪に、アデルバートは自嘲めいた苦笑を浮かべていた。
「結果的に、そなたの進言が的中したようなものだからな」
それは、ローザリンデへの態度について、ぶちぶちと不服を申し立てた時のことだろうか。確かにルカは、ユージーンやジェイクのように、逆恨みされないように手を打っておくことも必要なのではないかと思いはしたが、それはあくまで個人的に、ローザリンデが気の毒だったからだ。今回の事件は決して、ローザリンデ自身がアデルバートを恨んで起こした騒動ではない。
しかし、この賢明な君主には、大元になったクロイツェル伯爵家への処断について、大いに考えるところがあったようだ。
何だか恐れ多くてオロオロし始めたルカの様子に、アデルバートは笑みを深めた。食事の手を止め、近くに寄るようにとルカを手招く。
「そのように萎れた花は、見ていてもつまらぬものよ」
誘われるまま側近くに立ったルカを、アデルバートは頬杖を突いた姿勢で、じっと見上げてきた。鋭い視線に射竦められ、身動きの取れなくなったルカはふと、美貌を褒め称えられるこの君主は、歳を重ねただけ美しさを増しているのではないか、などと、有り得ないことを考える。
ルカの取り留めもない想像など気にも止めずに、アデルバートは唇の端を吊り上げた。
「仕方あるまい。そなたの言を受け入れよう――ベルトホルト公爵令嬢の謹慎を解く」
「!」
宣言に、ルカはハッと瞳を見開いた。
アデルバートの厳しい処断を受け、既にローザリンデの名は、社交界で失墜している。公爵令嬢としては、充分な罰を受けたと言っていい。これに恩赦が加われば、元通りとはいかずとも、最低限の名誉回復は成るはずだ。
「我を想うあまりに騙されたのなら、加害者であると同時に被害者でもあるのだからな」
「ありがとうございます!」
思わぬ喜びに、ルカは満面の笑みを浮かべて感謝を口にした。アデルバートの許しを得られただけでなく、ローザリンデの減刑が叶って、こんなに嬉しいことはない。
――やっぱり、厳しいだけの王様じゃなかった!
しかし、ルカの全開の笑顔に、アデルバートは複雑そうに眉根を寄せた。両腕を組み、ムッとした様子で呟く。
「我と共にあって、別な者に心を寄せるか」
「え、それは……」
これはもしかして、拗ねられているのだろうか? 国王の意外な子供っぽさに戸惑いながら、ルカは必死で言葉を次いだ。
「確かに、ローザリンデ様は素敵な女性だと思いますけど、アデルバート様の評判にも関わることでしょ。厳しいだけの王様じゃないのに、これでアデルバート様の評判が悪くなっちゃったら嫌ですよ」
慌てて捲し立てたルカに、アデルバートは「なんと」と、わずかに切れ長の瞳を見開いた。ルビーみたいで綺麗だな、と思うまもなく、凄味のある美貌が満足げに微笑む。
「愛いことよ」
「わ!」
言ってそのまま、アデルバートはルカの腕を引いた。バランスを崩して思わず悲鳴を上げるのにも構わず、強引に抱き寄せる。
次の瞬間、ルカはアデルバートの膝の上に、横抱きに座らされていた。
「…………………………」
――え、何コレ。さすがにヤバくない?
やんごとなき貴人の膝の間で、ルカは事態を理解できずに硬直していた。
視線を上げることもできずに芝生の一点を凝視するルカの顔を、アデルバートは遠慮もなく覗き込んでくる。
「……やはりそなたは愛らしいな」
楽しそうな声音に、微妙に艶が含まれた。空気が変わったことに気付いても、ルカは引き攣った笑いを返すことしか出来ない。こういう時、図々しく「ありがとうございまーすテヘ☆」などとあしらえるような性分なら苦労はなかったのだろうが、生憎とルカはそこまで自惚れた少年ではないし、男としての矜持も捨てられない。
――てゆーか、この人、めっちゃ力強い!!
美貌を特筆されがちなアデルバートではあるが、魔王軍侵攻の折りにも見せたように、甲冑を纏い、自ら一軍を指揮して戦場に出る、武人としての一面も持っている。細身に見えても背は高いし、実はガッシリと筋肉質であるということは、こうして抱き締められてみれば明らかだ。身じろぐことも許されない。
混乱するルカに向かって、アデルバートは問い掛ける。
「斥候の任務を終えて戻ったら、その後はどうするのだ」
「……いえ、特に何も決まってません。自分に何が出来るのかわからないから、色々見てみたくて……」
応じながらも、ルカは間近に瞳を覗き込まれることから、必死で目を逸らしていた。この状態で至近距離で見詰め合うのは、何だか色々とマズそうな気がする。
「将来を誓った者などおるまいな?」
「え、ええと、そういうのは……」
何となく仲間の誰かの顔が浮かんだような気がしないでもなかったが、深く自分に問い掛けることもせずに、ルカは言葉を濁した。取り敢えず、アデルバートの綺麗な顔が迫ってきて恥ずかしい。
――さすがにこれは、スキンシップの域を越えている!!
どうしようどうしよう、と、ルカがいよいよパニックを起こし掛けた時、陽に焼けた大きな掌が、アデルバートの視線を遮るように、目の前に翳された。
「――その辺にしとけよ、王様」
驚いて見上げた先には、豊かな黄金色の髪の毛を頭頂部で纏め、浅黒く逞しい肉体を黒いライダースに包んだ、長身の青年の姿があった。ワイルドな顔立ちを、更に不機嫌に歪めて凄む様子に、ルカはホッと胸を撫で下ろす。
「レフ!」
レフはどうやら、ルカの危機を察してフードから這い出し、ヒト型を取ってくれたらしい。強面にライダースなどと、あちらの世界では極力お近付きにはなりたくなかったタイプだが、今はどんなに凶悪に見えても、側に居てくれることが心強い。
――ちなみにこのライダースだが、当然こちらの世界で見掛けるものではないので、ルカは彼に服を着せてくれたベリンダに聞いたのだ、「おばあちゃんの好みなの?」と。しかしベリンダはにっこり笑って否定した。
『違うわ、おばあちゃんはもっと、ナチュラルな方が好きだもの』
『じゃあ……お姉ちゃんの趣味?』
姉の知らなかった一面に、ルカは妙な脱力感を覚えた。そもそもぬいぐるみ体のレフは、雄ライオンとはいえ、とても愛くるしい姿をしている。そのレフが、黄金のベリンダの魔力の影響を受けて実体化、更には人間化するに当たって、野性的なイケメンであることまでは、まぁ理解できるとしても、服装がこの世界で一般的でないライダースとなると、これは制作者である瑠衣の嗜好が反映されているとしか考えられない。ああ、こういう男性がタイプだったのだとしたら、彼女にとって弟の瑠佳は、さぞかし弱々しく見えたことだろう!
ともあれ、逞しい肉体をライダースに包んだ人間体のレフは、突如現れた青年に驚愕するアデルバートからルカを取り返し、片腕で軽々と抱き上げた。急な高所に、思わず縋るようにレフの肩に手を回してしまったのは、ルカ一生の不覚だ。
「なんと……!」
レフを見上げ、アデルバートが愕然とした様子で呟く。
抱えたルカをアデルバートから遠ざけるようにして、レフは牙を剥いた。
「ルカに手ぇ出してみろ。オレが食い殺してやる」
「レフ、ダメだよ!」
国王相手の大暴言に、ルカは慌てて制止の声を上げた。いかに祖母の力があっても、そう何度も無礼を見逃して貰えるとも思えない。
アデルバートは、ルカを失った掌をテーブルの上でギュッと握り締めた。
「そなた、どこから……」
当然の疑問に、レフはめんどくさそうに「あ?」と眉をひそめる。
「ずっと良いコで、ルカの背中に居ただろ?」
「――!」
その返答で、長年黄金のベリンダと親交のあるアデルバートには、レフの正体が何者であるのか、理解できたらしい。ルカがフードの中にライオンのぬいぐるみを連れているのは、彼も何度も目にしているはずだ。
何度か瞬きを繰り返した後、アデルバートは堪りかねた様子で吹き出した。
「元があの、可愛らしいぬいぐるみとは……!」
怒るでもなく、鷹揚に笑って見せるのは、彼の器の大きさか、それとも「可愛いもの好き」の故だろうか。
話は済んだとばかりに、レフは踵を返した。当然彼に抱きかかえられたままのルカも、アデルバートの御前を辞すことになる。
「ちょ、レフ!」
これはあまりに失礼に当たると、ルカはレフの腕の中でジタバタと暴れた。こっちはこっちで力が強くて、とても振り切れそうにない。
「良い」と笑い含みの声が追い掛けてきて、ルカはレフの頭越しに振り返った。
アデルバートは楽しげに微笑んでいる。
「今日のところは、そなたの守護聖獣殿に免じて許してやろう」
「ご、ごめんなさい!」
取り敢えず、アデルバートが可愛いもの好きで良かったと、ルカは胸を撫で下ろした。
そのままご機嫌斜めのレフに運ばれていく。
「――これで終わりではないぞ」
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