小悪魔系世界征服計画 ~ちょっと美少年に生まれただけだと思っていたら、異世界の救世主でした~

朱童章絵

文字の大きさ
52 / 121
第2部・第1話:最強の召喚士

第3章

 転移魔法を使って各種材料を集めてきたベリンダは、そのまま宿の部屋に籠って、結界石の作成に入った。
 埋設に適した場所の選定には、村の有志の案内を得たユージーンが向かい、これにフィンレーも同行する。戦術を学問として学んできた経験を買われ、村の防御態勢についてのアドバイスを求められたためらしい。
 ルカの元に留まる気満々だったネイトは、信心深いお年寄りや主婦の皆さんに乞われて、即席のミサを開くことになったようだ。デルヴェ村に教会はなく、礼拝には隣町まで出向く必要があるため、「この機会に偉い神父様のお説教が聞きたい」とのことらしい。一見朗らかな好青年風のネイトは、ハーフェルの町でもしっかりと住民の支持を集めていたが、旅に出てからの二週間弱で、ルカは彼が年配の主婦層に特に受けが良いことを初めて知った。
 残ったルカとジェイクは、昼食のお礼にと宿の手伝いを買って出たのだが――当然ながら、二人の「出来ること」には差があり過ぎる。高身長で筋肉質、立派な体格に見合うだけの力のあるジェイクは、店主の親父さんと、本格的な納屋の補修を行うことになった。
 一方で、小柄で華奢、顔だけでなく体格まで含めて少女と見間違われることすらあるルカは、ぬいぐるみ体のレフをパーカーのフードに潜ませた状態で、中庭の草むしりをしている――その、店主の息子の、ヒューゴと共に。
「…………」
 午後の陽射しの降り注ぐ中、スコップで花壇脇に蔓延はびこる雑草の根元を掘り返しながら、ルカはチラリと背後を振り返った。
 ヒューゴはルカに背を向けたまま、黙々と地面を掃き清めている。
 ――気まずい。
 紛らわしい恰好をしていた訳でもないのに女の子と間違われてしまった、言ってみれば被害者はルカの方だが、ヒューゴもまたその勘違いを人前で揶揄われて、恥ずかしい思いをしている。不本意とはいえ、ルカにとってはある意味慣れっこになっていることであっても、多感な14歳の少年には、屈辱的ですらあったかもしれない。
 どう考えても、今の自分達は何のフォローもなく二人きりにされていい関係ではないはずだ。もしかしたら彼の家族は、ヒューゴがルカと仲良くなりたがっているとでも思っているのだろうか。
 しゃがんだ体勢のまま、ルカが小さく肩を落とすのと同時に、ヒューゴがポツリと呟く。
「――何で俺が」
 不貞腐れた口調からは、やはり「女の子と間違えてしまった年上の男」と一緒に居なければならないことへの、不満が感じられる。
 ルカだって、もう少し逞しくさえあれば、ジェイクと一緒に力仕事の手伝いが出来たはずなのに。
「ごめん。僕、あんまり出来ることないからさ」
 何となく謝罪を口にしてしまったルカを振り返り、ヒューゴは面白くもなさそうに「何だよソレ」と吐き捨てた。
「それでも『予言の子供』かよ。……あっちの兄ちゃんはカッケーよな。ガタイ良いし、いかにも強そうな感じでさ」
 称賛の対象はジェイクだろう。少々わざとらしい物言いには、ルカに対する当て付けが多分に含まれているようだ。
 だが、確かにジェイクは、ハーフェルでも少年達の憧れの的だった。凛々しくて誠実、体格にも恵まれ、何より強い。それに引き換え――
「……そうだよね。僕やっぱり、頼りないとしか思えないよね……」
 引き抜いた雑草の根に絡み付いた土を振り落としながら、ルカは愛らしい顔立ちに自嘲の笑みを浮かべた。ヒューゴがハッとした様子で口を噤むのに気付けなかったのは、視線を上げることが出来なかったからだ。
 斥候せっこうの旅に出ても、仲間達のように人の役に立てないルカは、ただ「可愛い」という一点で、すべてを許されてしまっている気がする。「予言の子供」などという、大層な肩書きを持っているだけ。ハーフェルに居た時とおんなじだ。これではよくないと思っているのに、何も変えられない。
 ――アデルバート様が気に掛けてくれるのだって、きっとペット感覚なんだよね。
 結び付けて考えたのは、先程の魔石ませき通信での会話が念頭にあったためだろう。「仔ウサギ」などと呼ばれ、「可愛いのが好み」と言われたことを、ルカは額面通りに受け取ってしまっている。
 実際のところ、アデルバートに限らず、ルカをよく知る者達は、可愛らしい外見のみならず、内面の配慮や細やかさを含めて評価してくれているはずだ。しかし、顔以外に取り柄がないと、己の非力さにどっぷりと落ち込むルカには、思いもよらないことだった。
 首の後ろから、ぬいぐるみ体のレフの短い前足が伸びて来て、チョイチョイと頬に触れる。宥めるような可愛らしい仕草に、ルカは知らぬ間に詰めていた息を、ホッと吐き出した。
 両手が汚れてしまっていることもあり、応えるようにレフのたてがみに頬を擦り付ける。――やっぱり、は優しい。
「――ごめん」
 ささくれだった心がほっこりするのと、ルカの反応に怯んだヒューゴが謝罪を口にしたのは、ほとんど同時だった。
 驚いて顔を上げるが、ヒューゴはバツが悪そうに、明後日の方を向いている。
「アンタも、色々あるよな。勝手に期待してんのは俺達の方なのに……」
「!」
 多感な少年は、ルカの漏らした一言で、置かれた立場や心情を察してくれたらしい。元々、誰に言われなくてもこうして進んで家の手伝いをするような、優しい子なのだ。これまでのキツイ態度も、女の子と間違えてしまったことが恥ずかしくて、八つ当たりしていただけだったのかもしれない。
 素直な謝罪がありがたくて申し訳なくて、ルカは「ううん」と首を横に振った。
「……でも、ありがとな!」
 ヒューゴと二人、そこで初めてお互いの顔を見て、照れ臭そうに笑い合う。
 ――良い奴じゃん!
 空気が和んだベストタイミングで、勝手口のドアが開いた。女将さんが「休憩にしましょ」と声を掛けて来る。
 その後ろから、長身をわずかに屈めるようにして、ジェイクも顔を覗かせた。どうやら納屋の補修も一段落したらしい。
「陽射しが強い。ルカ、早く中に入れ」
 相変わらずの過保護ぶりに苦笑しながら、ルカは立ち上がった。簡単に周囲を片付け、ヒューゴと共に屋内に戻る。
「――わ!」
 ――と、そこでルカは、地面から突き出た石に足を取られて、バランスを崩した。立て直そうともがいたものの、見事に失敗し、ある程度の軽症と痛みを覚悟する。
 しかし、衝撃はやって来ず、代わりに暖かくて張りのあるに背中から受け止められた。瞬時にライオン体を取ったレフが、身体の下に潜り込んでくれたらしい。
『大丈夫か?』
「うん、ありがと。ごめんね」
 ルカの全体重などものともしない、逞しいオスライオンは、ぬいぐるみ体の時と同じように、思念波で語り掛けて来る。ぶっきらぼうな口調は、それでいてとても優しい。
 生まれる前に魔王に追い遣られた世界で、姉が作ってくれたライオンのぬいぐるみは、ルカと共に世界を越えた。そして今、ぬいぐるみと雄ライオン、成人男性の姿を自在に操りながら、こうしてルカを見守っていてくれている。
「……すげー……!」
 初めて見る本物のライオンに感動した様子で、ヒューゴが目を見開いた。ほうきを取り落としたことにも気付かず、テンションをブチ上げ始める。
「え、え、嘘だろ。アンタ、ぬいぐるみ連れてた訳じゃないのか!」
「いや、それはさすがに……」
 そりゃそう思われますよねー! と、半ば自棄気味に考えながら、ルカはレフの身体を撫でた。ヒューゴの辛辣な態度の裏には、「男のくせにぬいぐるみなんか持ち歩いてんじゃねえよ」という蔑みもあったのだろう。
 雄ライオンはヒューゴに向かって、不機嫌そうに牙を剥く。
『うるせぇガキだな』
 舌打ちまでセットなのはきっと、先程のヒューゴが恥ずかしさを隠すために、ルカに意地悪なことを言ったせいだ。
 根が素直らしいヒューゴは、慌てたように「あ、ごめん」と肩を竦ませる。しかし、すぐに明るい表情で、ルカを見返してきた。
「でも、すごいじゃん!」
 明らかに自分に向かって発せられた言葉に、ルカは「うーん」と困ったように首を傾ける。
「すごいのは僕じゃなくてレフだからね」
 ぬいぐるみから実体化するレフを、まるで使役するかのように見られるお陰で、ルカは世間から「聖獣使い」と思われているフシがある。けれど、本当に凄いのは、ルカを想ってくれる姉の一念と、それを自分の意思と定めたレフ、そしてこれらを具現化させた、祖母ベリンダの魔力だ。ルカはその恩恵に預かっているに過ぎない。
 エヘヘと苦い笑いを返したところで、ジェイクが再度声を掛けに来た。レフが雄ライオン姿を取っていることに驚き、慌てた様子でこちらに向かってくる。
「……」
 過保護な幼馴染みに事情を説明するルカは、ヒューゴの戸惑ったような視線に気付くことはなかった。
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬下諒
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 造語、出産描写あり。前置き長め。第21話に登場人物紹介を載せました。 ★お試し読みは第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

マリオネットが、糸を断つ時。

せんぷう
BL
 異世界に転生したが、かなり不遇な第二の人生待ったなし。  オレの前世は地球は日本国、先進国の裕福な場所に産まれたおかげで何不自由なく育った。確かその終わりは何かの事故だった気がするが、よく覚えていない。若くして死んだはずが……気付けばそこはビックリ、異世界だった。  第二生は前世とは正反対。魔法というとんでもない歴史によって構築され、貧富の差がアホみたいに激しい世界。オレを産んだせいで母は体調を崩して亡くなったらしくその後は孤児院にいたが、あまりに酷い暮らしに嫌気がさして逃亡。スラムで前世では絶対やらなかったような悪さもしながら、なんとか生きていた。  そんな暮らしの終わりは、とある富裕層らしき連中の騒ぎに関わってしまったこと。不敬罪でとっ捕まらないために背を向けて逃げ出したオレに、彼はこう叫んだ。 『待て、そこの下民っ!! そうだ、そこの少し小綺麗な黒い容姿の、お前だお前!』  金髪縦ロールにド派手な紫色の服。装飾品をジャラジャラと身に付け、靴なんて全然汚れてないし擦り減ってもいない。まさにお貴族様……そう、貴族やら王族がこの世界にも存在した。 『貴様のような虫ケラ、本来なら僕に背を向けるなどと斬首ものだ。しかし、僕は寛大だ!!  許す。喜べ、貴様を今日から王族である僕の傍に置いてやろう!』  そいつはバカだった。しかし、なんと王族でもあった。  王族という権力を振り翳し、盾にするヤバい奴。嫌味ったらしい口調に人をすぐにバカにする。気に入らない奴は全員斬首。 『ぼ、僕に向かってなんたる失礼な態度っ……!! 今すぐ首をっ』 『殿下ったら大変です、向こうで殿下のお好きな竜種が飛んでいた気がします。すぐに外に出て見に行きませんとー』 『なにっ!? 本当か、タタラ! こうしては居られぬ、すぐに連れて行け!』  しかし、オレは彼に拾われた。  どんなに嫌な奴でも、どんなに周りに嫌われていっても、彼はどうしようもない恩人だった。だからせめて多少の恩を返してから逃げ出そうと思っていたのに、事態はどんどん最悪な展開を迎えて行く。  気に入らなければ即断罪。意中の騎士に全く好かれずよく暴走するバカ王子。果ては王都にまで及ぶ危険。命の危機など日常的に!  しかし、一緒にいればいるほど惹かれてしまう気持ちは……ただの忠誠心なのか?  スラム出身、第十一王子の守護魔導師。  これは運命によってもたらされた出会い。唯一の魔法を駆使しながら、タタラは今日も今日とてワガママ王子の手綱を引きながら平凡な生活に焦がれている。 ※BL作品 恋愛要素は前半皆無。戦闘描写等多数。健全すぎる、健全すぎて怪しいけどこれはBLです。 .

滅びる異世界に転生したけど、幼女は楽しく旅をする!

白夢
ファンタジー
 何もしないでいいから、世界の終わりを見届けてほしい。  そう言われて、異世界に転生することになった。  でも、どうせ転生したなら、この異世界が滅びる前に観光しよう。  どうせ滅びる世界なら、思いっきり楽しもう。  だからわたしは旅に出た。  これは一人の幼女と小さな幻獣の、  世界なんて救わないつもりの放浪記。 〜〜〜  ご訪問ありがとうございます。    可愛い女の子が頼れる相棒と美しい世界で旅をする、幸せなファンタジーを目指しました。    ファンタジー小説大賞エントリー作品です。気に入っていただけましたら、ぜひご投票をお願いします。  お気に入り、ご感想、応援などいただければ、とても喜びます。よろしくお願いします! 23/01/08 表紙画像を変更しました

処刑される悪役令息に転生したらなぜか推しの騎士団長がグイグイ近づいてくる

猫に小判
BL
交通事故で死んだはずの会社員・田中悠人は、気がつくとBL小説『恋と陰謀~はじまりは夜に~』の世界に転生していた。 しかも転生先は、原作で処刑される悪役令息エリオット。 当然そんな未来は回避したい。 原作知識を頼りに慎重に立ち回るつもりだったのに、気づけば王宮を揺るがす事件に巻き込まれていき――。 さらに困ったことに、原作で一番の推しだった騎士団長ガイウスがやたらと距離を詰めてきて……? 平穏に生きたい元悪役令息と、過保護な騎士団長がじれじれ距離を縮める話。 ガイウス(騎士団長)×エリオット(元悪役令息)

【新版】転生悪役モブは溺愛されんでいいので死にたくない!

煮卵
BL
ゲーム会社に勤めていた俺はゲームの世界の『婚約破棄』イベントの混乱で殺されてしまうモブに転生した。 処刑の原因となる婚約破棄を避けるべく王子に友人として接近。 なんか数ヶ月おきに繰り返される「恋人や出会いのためのお祭り」をできる限り第二皇子と過ごし、 婚約破棄の原因となる主人公と出会うきっかけを徹底的に排除する。 最近では監視をつけるまでもなくいつも一緒にいたいと言い出すようになった・・・ やんごとなき血筋のハンサムな王子様を淑女たちから遠ざけ男の俺とばかり過ごすように 仕向けるのはちょっと申し訳ない気もしたが、俺の運命のためだ。仕方あるまい。 クレバーな立ち振る舞いにより、俺の死亡フラグは完全に回避された・・・ と思ったら、婚約の儀の当日、「私には思い人がいるのです」 と言いやがる!一体誰だ!? その日の夜、俺はゲームの告白イベントがある薔薇園に呼び出されて・・・ ーーーーーーーー この作品は以前投稿した「転生悪役モブは溺愛されんで良いので死にたくない!」に 加筆修正を加えたものです。 リュシアンの転生前の設定や主人公二人の出会いのシーンを追加し、 あまり描けていなかったキャラクターのシーンを追加しています。 展開が少し変わっていますので新しい小説として投稿しています。 続編出ました 転生悪役令嬢は溺愛されんでいいので推しカプを見守りたい! https://www.alphapolis.co.jp/novel/687110240/826989668 ーーーー 校正・文体の調整に生成AIを利用しています。

転生令息は冒険者を目指す!?

葛城 惶
BL
ある時、日本に大規模災害が発生した。  救助活動中に取り残された少女を助けた自衛官、天海隆司は直後に土砂の崩落に巻き込まれ、意識を失う。  再び目を開けた時、彼は全く知らない世界に転生していた。  異世界で美貌の貴族令息に転生した脳筋の元自衛官は憧れの冒険者になれるのか?!  とってもお馬鹿なコメディです(;^_^A

この俺が正ヒロインとして殿方に求愛されるわけがない!

ゆずまめ鯉
BL
五歳の頃の授業中、頭に衝撃を受けたことから、自分が、前世の妹が遊んでいた乙女ゲームの世界にいることに気づいてしまったニエル・ガルフィオン。 ニエルの外見はどこからどう見ても金髪碧眼の美少年。しかもヒロインとはくっつかないモブキャラだったので、伯爵家次男として悠々自適に暮らそうとしていた。 これなら異性にもモテると信じて疑わなかった。 ところが、正ヒロインであるイリーナと結ばれるはずのチート級メインキャラであるユージン・アイアンズが熱心に構うのは、モブで攻略対象外のニエルで……!? ユージン・アイアンズ(19)×ニエル・ガルフィオン(19) 公爵家嫡男と伯爵家次男の同い年の乙女ゲー転生BLです。

「無加護」で孤児な私は追い出されたのでのんびりスローライフ生活!…のはずが精霊王に甘く溺愛されてます!?

白井
恋愛
誰もが精霊の加護を受ける国で、リリアは何の精霊の加護も持たない『無加護』として生まれる。 「魂の罪人め、呪われた悪魔め!」 精霊に嫌われ、人に石を投げられ泥まみれ孤児院ではこき使われてきた。 それでも生きるしかないリリアは決心する。 誰にも迷惑をかけないように、森でスローライフをしよう! それなのに―…… 「麗しき私の乙女よ」 すっごい美形…。えっ精霊王!? どうして無加護の私が精霊王に溺愛されてるの!? 森で出会った精霊王に愛され、リリアの運命は変わっていく。