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第2部・第1話:最強の召喚士
第5章
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明けて、早朝。
弟子のユージーンの補助もあって、黄金のベリンダによるデルヴェ村の結界は、早急に敷設が完了した。これで当面の間、村に魔物が寄り付くことはないだろう。結界石の効力が切れるまでに、魔物の活動を活性化させる要因でもあるという魔王を倒すことが出来れば一番良いのだが、こればかりは安易に保障できることでないのがつらいところだ。
昨夜ルカが遊んだ黒猫は、いつの間にか居なくなっていた。斥候隊員の闘いを見守る間、立て籠る宿の中でヒューゴがしっかりと抱きかかえているところを見た人は大勢いたのだが、騒動終息後のゴタゴタの中で、見失ってしまったらしい。ヒューゴはしきりに気にしていだが、人的被害はなかったというし、飼い主の元へ戻ったのだろうとルカは考えている。
斥候隊の出立を控え、宿の前には続々と村人達が集まってきていた。
村長の到着を待つ間、別れを惜しむ人々の輪の中から、ヒューゴが近付いてくる。
「――ルカ兄ちゃん」
初めて名前を呼ばれて、仲良くなれた実感と共に、わずか二つとはいえ年上として認めてくれたらしいことに、ルカはじんわりと感動を噛み締めた。「何?」と首を傾けると、ヒューゴは言葉を選ぶように、辿々しく続ける。
「あのさ。『出来ることがない』って言ってたけど、それでも兄ちゃんは、出来ることをやってたと思うよ」
それは昨夜、魔物が飛来する中、避難を呼び掛けて回ったことを言ってくれているのだろう。確かに、ルカも無我夢中だったし、彼のご両親も半泣きで無事を喜んでくれた。仲間達の活躍に比べれば取るに足らないことでも、見るからに非力なルカが奮闘する様子を、彼らは認めてくれたのだ。
そしてヒューゴは、中庭の掃除の際、ルカが口走った泣き言について、ずっと考えていてくれたらしい。
年下の少年からの大きな心遣いに、ルカは驚いた。ヒューゴは、瞳を瞬かせるルカから、照れ臭げに視線を反らしている。
「それに、兄ちゃんが呼べば、こんなに強い人達が、大勢駆け付けてくれるんだろ。それってやっぱ凄いことだよ」
「!」
ヒューゴの主張に、ルカはハッとして、思わず祖母を振り返った。16歳の孫を持つようにはとても見えない、若く美しい黄金のベリンダは、ルカ達の様子を優しく見守っている。
――斥候隊メンバーの選出の際、ベリンダは、ルカの人徳を認めてくれたのではなかったか。
「……そうだね」
祖母に微笑み返して、ルカはヒューゴに向き直った。
ずっとわかっていたはずだった。焦ってもしょうがない。変わりたければ、今の自分に出来ることから始めるしかないのだし、出来ないことは誰かに頼る、というのも、ある意味では大事なはずだ。
もしかしたら、ルカの一番の強みは、「困った時に親身になって助けてくれる人がたくさん居ること」なのかもしれない。
「ありがとう、ヒューゴ!」
ニッコリと微笑んで、ルカはヒューゴの両手を包み込むようにして、ギュッと握り締めた。親愛の情を表現したつもりだったが、ヒューゴの頬がサッと赤く染まる。しどろもどろになりながらも「うん」とか何とか答える様子が可愛らしい。決して、並んでみたら自分より少しだけ背が高かったことが悔しかったから言うのではない。
――出会い方が良くなかったから、今更照れてるのかな?
ルカが天然小悪魔らしいことを考えていると、人垣が割れた。杖を突いた村長が姿を現し、代表でベリンダと挨拶を交わす。
「お世話になりました」
「とんでもない! こちらこそ、本当にありがとうございました」
誇張でなく、村民総出で見送られながら、魔王斥候隊は出発の時を迎える。
ヒューゴとその家族に応えるように大きく手を振り返して、ルカは再び、自身の成長の旅へと足を踏み出したのだった。
ベリンダと並び、意気揚々と歩を進めるルカの背後で、ジェイクがぼそりと呟く。
「アイツ、赤面してたな」
「……僕はルカの魅力が怖い」
ユージーンが整った顔を沈痛そうに歪めた。
何やら悩む様子のあったルカが吹っ切れたらしいのは喜ばしいことだが、幼馴染み二人が気にしているのは、もちろんヒューゴの反応だ。ルカが可愛いのは当然のこととしても、こうもアッサリ行く先々で小悪魔ぶりを発揮していては、心配で気が休まる暇もない。
「――まあ、もう二度と会うこともない相手ですよ」
ネイトがバッサリと切り捨てた。口許は笑っているのに、目がそれを裏切っているのがいかにも彼らしい。
その毒舌に、ひとまずは納得せざるを得ない面々を、ルカのフードの中から、レフが(ぬいぐるみ体なのに)妙に小馬鹿にしたような目付きで眺めている。
それに気付いたフィンレーは、ひっそりと苦笑を噛み殺した。
そして密かに、自分と同じ道を辿ることになりそうな村の少年を、気の毒に思ったのだった――。
第2部・第1話 END
弟子のユージーンの補助もあって、黄金のベリンダによるデルヴェ村の結界は、早急に敷設が完了した。これで当面の間、村に魔物が寄り付くことはないだろう。結界石の効力が切れるまでに、魔物の活動を活性化させる要因でもあるという魔王を倒すことが出来れば一番良いのだが、こればかりは安易に保障できることでないのがつらいところだ。
昨夜ルカが遊んだ黒猫は、いつの間にか居なくなっていた。斥候隊員の闘いを見守る間、立て籠る宿の中でヒューゴがしっかりと抱きかかえているところを見た人は大勢いたのだが、騒動終息後のゴタゴタの中で、見失ってしまったらしい。ヒューゴはしきりに気にしていだが、人的被害はなかったというし、飼い主の元へ戻ったのだろうとルカは考えている。
斥候隊の出立を控え、宿の前には続々と村人達が集まってきていた。
村長の到着を待つ間、別れを惜しむ人々の輪の中から、ヒューゴが近付いてくる。
「――ルカ兄ちゃん」
初めて名前を呼ばれて、仲良くなれた実感と共に、わずか二つとはいえ年上として認めてくれたらしいことに、ルカはじんわりと感動を噛み締めた。「何?」と首を傾けると、ヒューゴは言葉を選ぶように、辿々しく続ける。
「あのさ。『出来ることがない』って言ってたけど、それでも兄ちゃんは、出来ることをやってたと思うよ」
それは昨夜、魔物が飛来する中、避難を呼び掛けて回ったことを言ってくれているのだろう。確かに、ルカも無我夢中だったし、彼のご両親も半泣きで無事を喜んでくれた。仲間達の活躍に比べれば取るに足らないことでも、見るからに非力なルカが奮闘する様子を、彼らは認めてくれたのだ。
そしてヒューゴは、中庭の掃除の際、ルカが口走った泣き言について、ずっと考えていてくれたらしい。
年下の少年からの大きな心遣いに、ルカは驚いた。ヒューゴは、瞳を瞬かせるルカから、照れ臭げに視線を反らしている。
「それに、兄ちゃんが呼べば、こんなに強い人達が、大勢駆け付けてくれるんだろ。それってやっぱ凄いことだよ」
「!」
ヒューゴの主張に、ルカはハッとして、思わず祖母を振り返った。16歳の孫を持つようにはとても見えない、若く美しい黄金のベリンダは、ルカ達の様子を優しく見守っている。
――斥候隊メンバーの選出の際、ベリンダは、ルカの人徳を認めてくれたのではなかったか。
「……そうだね」
祖母に微笑み返して、ルカはヒューゴに向き直った。
ずっとわかっていたはずだった。焦ってもしょうがない。変わりたければ、今の自分に出来ることから始めるしかないのだし、出来ないことは誰かに頼る、というのも、ある意味では大事なはずだ。
もしかしたら、ルカの一番の強みは、「困った時に親身になって助けてくれる人がたくさん居ること」なのかもしれない。
「ありがとう、ヒューゴ!」
ニッコリと微笑んで、ルカはヒューゴの両手を包み込むようにして、ギュッと握り締めた。親愛の情を表現したつもりだったが、ヒューゴの頬がサッと赤く染まる。しどろもどろになりながらも「うん」とか何とか答える様子が可愛らしい。決して、並んでみたら自分より少しだけ背が高かったことが悔しかったから言うのではない。
――出会い方が良くなかったから、今更照れてるのかな?
ルカが天然小悪魔らしいことを考えていると、人垣が割れた。杖を突いた村長が姿を現し、代表でベリンダと挨拶を交わす。
「お世話になりました」
「とんでもない! こちらこそ、本当にありがとうございました」
誇張でなく、村民総出で見送られながら、魔王斥候隊は出発の時を迎える。
ヒューゴとその家族に応えるように大きく手を振り返して、ルカは再び、自身の成長の旅へと足を踏み出したのだった。
ベリンダと並び、意気揚々と歩を進めるルカの背後で、ジェイクがぼそりと呟く。
「アイツ、赤面してたな」
「……僕はルカの魅力が怖い」
ユージーンが整った顔を沈痛そうに歪めた。
何やら悩む様子のあったルカが吹っ切れたらしいのは喜ばしいことだが、幼馴染み二人が気にしているのは、もちろんヒューゴの反応だ。ルカが可愛いのは当然のこととしても、こうもアッサリ行く先々で小悪魔ぶりを発揮していては、心配で気が休まる暇もない。
「――まあ、もう二度と会うこともない相手ですよ」
ネイトがバッサリと切り捨てた。口許は笑っているのに、目がそれを裏切っているのがいかにも彼らしい。
その毒舌に、ひとまずは納得せざるを得ない面々を、ルカのフードの中から、レフが(ぬいぐるみ体なのに)妙に小馬鹿にしたような目付きで眺めている。
それに気付いたフィンレーは、ひっそりと苦笑を噛み殺した。
そして密かに、自分と同じ道を辿ることになりそうな村の少年を、気の毒に思ったのだった――。
第2部・第1話 END
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