61 / 121
第2部・第2話:美貌の悪魔
第7章
爆発的に能力を開花させたユージーンのお陰で、イェルヘイヴンに蔓延る邪悪な氣は、悉く浄化された。
白い豹の木像もすっかり邪気が祓われ、ただの優れた工芸品に戻っている。
ゲオルグ老人は、本来は魔法適性のない普通の人間だった。精霊の吐き出した氣を視認する能力もないため、多少気分を悪くする程度で、悪氣の渦に汚染された木材を伐採して持ち帰ってしまったのは、不幸な偶然でしかない。白木の木目を利用し白豹の像を制作する過程で、元々抱え込んでいた悩みや悪感情を増幅され、それを魔王の配下に見出されて利用された。ユージーンを「悪魔」だと思い込んだのも、悪氣の渦と、エドゥアルトの使いを騙った魔王配下の魔力の、相乗効果だったのだろう。
ゲオルグ老人が白い豹から渡されたという、紫色の石の付いた腕輪には、魔王の魔力が籠められていた。宿や、ルカの部屋の施錠を解除し、隣で眠るレフに目覚めの遠のく魔法を掛けたのも、すべて腕輪のなせる業だったようだ。
そしてこの腕輪は、白い豹が鴉に変化して逃げ出した瞬間、パキリと二つに割れて、ゲオルグ老人の手から離れた。駆け付けたベリンダによってこの世から存在ごと消滅させられたが、これには当然ながら、常人が用いるには相応のリスクがあったらしい。ゲオルグの身体的不調は、悪氣の渦と魔王の魔力に蝕まれた結果であり、その呪縛から解放されたことで、健康を取り戻したそうだ。
とはいえ、成人男性体のレフに力いっぱいぶん殴られた傷は、ベリンダが(レフの主であるルカの保護者の)責任を持ってきれいに治癒させたことで、からくも重傷を免れた形だ。
――そのゲオルグ老人が宿を訪れたのは、ベリンダ達が周辺の森の浄化の最終確認のために、出払った直後のこと。
「――申し訳ない」
勧めたベッドサイドの椅子に腰を下ろしたゲオルグ老人は、上体を起こしたルカに向かって頭を下げた。
悪氣は祓われても、長年の懊悩までが消え去った訳ではない。眉間に刻まれた皺が、彼の後悔をそのまま映し出しているようにも見える。
大事を取り、今日一日はしっかり休養を取るよう厳命されただけで、もうすっかり本調子のルカは微苦笑を浮かべた。
「いいよ。ゲオルグさんも被害者みたいなものだし」
酷い目には遭わされたけど怒る気にはなれない、と笑うルカの足元には、普段寝る時と同じように、ライオン体のレフが寝そべっている。ゲオルグを睨み付ける彼の首元で、オレンジ色の石を付けたチョーカーがキラリと光った。ベリンダの加護付きの装飾品は、今回まんまと敵の術中に嵌ったことを悔いて、彼が自ら望んで作ってもらった魔法除けだ。
レフの不満そうな表情には、「ルカは甘すぎる」との思考がありありと浮かんでおり、ルカは宥めるように、柔らかい鬣を撫でてやった。
とはいえ、これだけは釘を指しておかねばならない。ライオンがゴロゴロと喉を鳴らすのを聞きながら、ルカはゲオルグ老人に向き直る。
「僕は良いけど、ユージーンにはちゃんと謝ってね!」
きょとんと瞳を瞬かせたのは、まるで自分の祖父に対するかのように砕けた口調に驚いたゲオルグ老人だけではなかった。万が一の用心のために、開けたままの扉に寄り掛かったユージーンもまた、切れ長の瞳を小さく見開く。大きな力を使った直後の彼は、今日はベリンダ直々に、ルカの護衛を兼ねた休息を命じられているのだ。
「綺麗なことが罪って訳じゃないんだから。要はその人の、心の有り様だと思うよ」
頑固な相手に言い聞かせるように人差し指を立てたルカに、ふと室内の空気が緩む。
自分がどう扱われるかよりも、幼馴染みを悪く言われることの方が、我慢がならない。ゲオルグの娘を攫うように駆け落ちしてしまった男と、ユージーンは違う――それがルカの主張なのだ。
「そうだな」と、ゲオルグ老人が口元に笑みを浮かべた。手を伸ばし、「初めて笑うところを見た!」と驚くルカの頭を、武骨な手でわしゃわしゃと撫で回す。
「本当に、助けてくれてありがとうよ。――アンタもな」
『……』
視線を向けられたレフは、フンと鼻を鳴らして、前足に顎を載せた。そのまま瞳を閉じたのは、無視というよりも、ゲオルグに対する警戒の念を解いたとの意思表示だったのだろう。
「――へへ」
何となく、みんな打ち解けられたような気分になって、ルカは思わず照れ笑いを零した。
こうしてみると、ゲオルグ老人は年の割になかなか渋味があって、イケてる爺さん、といった感じだ。キャラクターは全然違うが、フィンレーの父親のヘクター卿を思い出す。もしかしたらルカは、自分と真逆にいる「髭の似合う渋いオッサン」に、無意識に憧れるところがあるのかもしれない。
幼馴染みが聞いたら発狂しそうなことを考えながら、ルカは小さく安堵の息をついた。
今回も、ルカに何が出来たという訳ではない。けれど、自分の言動が何かしらゲオルグ老人の救いになったというのなら良かった。そう思うことにしよう――。
●
ルカをレフに任せ、礼儀として宿の外まで見送りに出たユージーンに向かい、改めてゲオルグ老人が頭を下げた。
「悪かったな」
謝罪ならば、これまでにも数回受けている。その上での言葉は、ルカとの約束のためだろう。「ええ」と受け流して、ユージーンは軽く頷いた。
ルカを危険に晒したことは許し難いが、確かに、彼も操られていた被害者であることは間違いない。ユージーンに関していえば、今回の騒動のお陰で、浄化能力が高められたのも事実だ。今後は憎きベイリー神父に嘲られることもなくなると思えば、結果としては悪くないと言える。
通りがかったご婦人に会釈を返し、ユージーンは見るともなく並木道を眺めた。
精霊達の吐き出した悪氣の渦と、これに吸い寄せられる人々の悪感情から解き放たれた町は、魔法使いの目には、霧が晴れたように明るく見える。
この分ではもしかしたら、ほぼ初対面の自分の部屋に忍んできた女性二人の蛮行も、悪氣の渦のせいに出来るかもしれない――というより、そうでなければ、今後も色々と面倒過ぎる。
どうでもいいことを思い出して、小さく肩を竦めたユージーンをよそに、ゲオルグ老人は宿の建物を振り返った。こちらも文字通り、憑き物の落ちたような表情で見上げたのは、2階のルカの部屋の窓だ。
「ありゃぁ良い子だな……まるで……」
「俺の娘に似ている、とは言わないで下さいよ。あなたの娘が、ルカほど可愛いはずがない」
最後まで言わせず、スパンと切って捨てたユージーンに、ゲオルグが言葉を詰まらせる。悔しげに「言い切るかよ」と唸るからには、やはりユージーンの予想は間違っていなかったのだろう。――まったく、どんな世迷言だ。
ユージーンがゲオルグに対して辛辣なのは、自分に無礼を働いたことや、ルカに対する狼藉、にも関わらず彼に懐かれているのが妬ましいだとか、そういったことではなかった。彼もまたルカと同じように、この武骨な老人に対して、少々親しみを感じ始めているのである。
それが伝わっているのか、ゲオルグ老人は、口元に薄く笑みを刷いた。
「大事なんだな」
「ええ」
主語はなくても、ルカのことであるのはわかる。
迷いのない回答に笑みを深めてから、ゲオルグは、蒼く晴れた空を振り仰いだ。
「――俺も、大事にしてたつもりだったんだがな。伝わらねえもんだ」
「……」
妙にスッキリとした口調には、逆に深い悔恨が滲んでいるように思われる。これは彼の娘・エマについての言及であると悟ったユージーンは、安易な相槌を控えた。
ゲオルグは、娘と吟遊詩人との仲を反対したらしい。武骨な職人にとって、地に足の付いていないような職業の男に、大事な娘をやる気には、とてもなれなかったのだろう。その気持ちはわからなくもない。
とはいえ、ゲオルグ親子に足らなかったのは、対話だ。彼が元気なうちに、娘の方で和解する気持ちになってくれると良いのだが、こればかりは娘の情に期待するよりほかない。
ふと真顔になって、ゲオルグ老人がユージーンに向き直った。
「お前はくれぐれも、ベリンダ様を悲しませるようなことはするなよ」
「……言われなくても」
返答に間が空いたのは、あまりにも当たり前の釘を指されたためだ。敬愛する師から、ルカを奪うような真似をするはずがない。ベリンダには魔法だけでなく、ルカのことも含めて認めて貰うつもりでいるし、彼女の中での、ルカのパートナーとしての最有力候補は自分であるとの自負もある。
美しい顔を、さも憤慨したと言わんばかりに顰めたユージーンに、ゲオルグは口調を和らげた。
「あの野郎も、お前みたいな気概を見せてくれりゃあ良かったんだがなぁ」
それは、掛け値なしの、ゲオルグの本音だったのだろう。吟遊詩人とやらが、自らの生業への誇りと、娘を守るための気骨を言葉で表していれば。或いは娘の方が、父の想いを汲み、対話での解決を望みさえすれば、誰も悲しい思いはせずに済んだのかもしれない。
――僕は絶対に、そんな愚かな選択はしない。
ゲオルグ老人の言葉に、ユージーンは改めて、ルカへの想いを確認した。
今はまだ、自分はルカにとって、保護者の域をいくらも出ていないのかもしれない。――だが。
「大丈夫ですよ。僕は周囲の祝福を得られる形で、正式にルカを手に入れるつもりです」
珍しく強気の本音を口にしたのは、老人が旅の途中で出会っただけの相手であるためかもしれない。
しかし同時に、自分達と同じ轍を踏んでほしくないという、ゲオルグの心遣いに対する感謝の念も、確かにユージーンの中に存在する。
「保護者がいつの間にか恋人に――だなんて、よくある話でしょう?」
美青年のウィンクに、ゲオルグ老人は僅かに両目を見開いた後、「頑張れよ」と優しい微苦笑を漏らした。
第2部・第2話 END
白い豹の木像もすっかり邪気が祓われ、ただの優れた工芸品に戻っている。
ゲオルグ老人は、本来は魔法適性のない普通の人間だった。精霊の吐き出した氣を視認する能力もないため、多少気分を悪くする程度で、悪氣の渦に汚染された木材を伐採して持ち帰ってしまったのは、不幸な偶然でしかない。白木の木目を利用し白豹の像を制作する過程で、元々抱え込んでいた悩みや悪感情を増幅され、それを魔王の配下に見出されて利用された。ユージーンを「悪魔」だと思い込んだのも、悪氣の渦と、エドゥアルトの使いを騙った魔王配下の魔力の、相乗効果だったのだろう。
ゲオルグ老人が白い豹から渡されたという、紫色の石の付いた腕輪には、魔王の魔力が籠められていた。宿や、ルカの部屋の施錠を解除し、隣で眠るレフに目覚めの遠のく魔法を掛けたのも、すべて腕輪のなせる業だったようだ。
そしてこの腕輪は、白い豹が鴉に変化して逃げ出した瞬間、パキリと二つに割れて、ゲオルグ老人の手から離れた。駆け付けたベリンダによってこの世から存在ごと消滅させられたが、これには当然ながら、常人が用いるには相応のリスクがあったらしい。ゲオルグの身体的不調は、悪氣の渦と魔王の魔力に蝕まれた結果であり、その呪縛から解放されたことで、健康を取り戻したそうだ。
とはいえ、成人男性体のレフに力いっぱいぶん殴られた傷は、ベリンダが(レフの主であるルカの保護者の)責任を持ってきれいに治癒させたことで、からくも重傷を免れた形だ。
――そのゲオルグ老人が宿を訪れたのは、ベリンダ達が周辺の森の浄化の最終確認のために、出払った直後のこと。
「――申し訳ない」
勧めたベッドサイドの椅子に腰を下ろしたゲオルグ老人は、上体を起こしたルカに向かって頭を下げた。
悪氣は祓われても、長年の懊悩までが消え去った訳ではない。眉間に刻まれた皺が、彼の後悔をそのまま映し出しているようにも見える。
大事を取り、今日一日はしっかり休養を取るよう厳命されただけで、もうすっかり本調子のルカは微苦笑を浮かべた。
「いいよ。ゲオルグさんも被害者みたいなものだし」
酷い目には遭わされたけど怒る気にはなれない、と笑うルカの足元には、普段寝る時と同じように、ライオン体のレフが寝そべっている。ゲオルグを睨み付ける彼の首元で、オレンジ色の石を付けたチョーカーがキラリと光った。ベリンダの加護付きの装飾品は、今回まんまと敵の術中に嵌ったことを悔いて、彼が自ら望んで作ってもらった魔法除けだ。
レフの不満そうな表情には、「ルカは甘すぎる」との思考がありありと浮かんでおり、ルカは宥めるように、柔らかい鬣を撫でてやった。
とはいえ、これだけは釘を指しておかねばならない。ライオンがゴロゴロと喉を鳴らすのを聞きながら、ルカはゲオルグ老人に向き直る。
「僕は良いけど、ユージーンにはちゃんと謝ってね!」
きょとんと瞳を瞬かせたのは、まるで自分の祖父に対するかのように砕けた口調に驚いたゲオルグ老人だけではなかった。万が一の用心のために、開けたままの扉に寄り掛かったユージーンもまた、切れ長の瞳を小さく見開く。大きな力を使った直後の彼は、今日はベリンダ直々に、ルカの護衛を兼ねた休息を命じられているのだ。
「綺麗なことが罪って訳じゃないんだから。要はその人の、心の有り様だと思うよ」
頑固な相手に言い聞かせるように人差し指を立てたルカに、ふと室内の空気が緩む。
自分がどう扱われるかよりも、幼馴染みを悪く言われることの方が、我慢がならない。ゲオルグの娘を攫うように駆け落ちしてしまった男と、ユージーンは違う――それがルカの主張なのだ。
「そうだな」と、ゲオルグ老人が口元に笑みを浮かべた。手を伸ばし、「初めて笑うところを見た!」と驚くルカの頭を、武骨な手でわしゃわしゃと撫で回す。
「本当に、助けてくれてありがとうよ。――アンタもな」
『……』
視線を向けられたレフは、フンと鼻を鳴らして、前足に顎を載せた。そのまま瞳を閉じたのは、無視というよりも、ゲオルグに対する警戒の念を解いたとの意思表示だったのだろう。
「――へへ」
何となく、みんな打ち解けられたような気分になって、ルカは思わず照れ笑いを零した。
こうしてみると、ゲオルグ老人は年の割になかなか渋味があって、イケてる爺さん、といった感じだ。キャラクターは全然違うが、フィンレーの父親のヘクター卿を思い出す。もしかしたらルカは、自分と真逆にいる「髭の似合う渋いオッサン」に、無意識に憧れるところがあるのかもしれない。
幼馴染みが聞いたら発狂しそうなことを考えながら、ルカは小さく安堵の息をついた。
今回も、ルカに何が出来たという訳ではない。けれど、自分の言動が何かしらゲオルグ老人の救いになったというのなら良かった。そう思うことにしよう――。
●
ルカをレフに任せ、礼儀として宿の外まで見送りに出たユージーンに向かい、改めてゲオルグ老人が頭を下げた。
「悪かったな」
謝罪ならば、これまでにも数回受けている。その上での言葉は、ルカとの約束のためだろう。「ええ」と受け流して、ユージーンは軽く頷いた。
ルカを危険に晒したことは許し難いが、確かに、彼も操られていた被害者であることは間違いない。ユージーンに関していえば、今回の騒動のお陰で、浄化能力が高められたのも事実だ。今後は憎きベイリー神父に嘲られることもなくなると思えば、結果としては悪くないと言える。
通りがかったご婦人に会釈を返し、ユージーンは見るともなく並木道を眺めた。
精霊達の吐き出した悪氣の渦と、これに吸い寄せられる人々の悪感情から解き放たれた町は、魔法使いの目には、霧が晴れたように明るく見える。
この分ではもしかしたら、ほぼ初対面の自分の部屋に忍んできた女性二人の蛮行も、悪氣の渦のせいに出来るかもしれない――というより、そうでなければ、今後も色々と面倒過ぎる。
どうでもいいことを思い出して、小さく肩を竦めたユージーンをよそに、ゲオルグ老人は宿の建物を振り返った。こちらも文字通り、憑き物の落ちたような表情で見上げたのは、2階のルカの部屋の窓だ。
「ありゃぁ良い子だな……まるで……」
「俺の娘に似ている、とは言わないで下さいよ。あなたの娘が、ルカほど可愛いはずがない」
最後まで言わせず、スパンと切って捨てたユージーンに、ゲオルグが言葉を詰まらせる。悔しげに「言い切るかよ」と唸るからには、やはりユージーンの予想は間違っていなかったのだろう。――まったく、どんな世迷言だ。
ユージーンがゲオルグに対して辛辣なのは、自分に無礼を働いたことや、ルカに対する狼藉、にも関わらず彼に懐かれているのが妬ましいだとか、そういったことではなかった。彼もまたルカと同じように、この武骨な老人に対して、少々親しみを感じ始めているのである。
それが伝わっているのか、ゲオルグ老人は、口元に薄く笑みを刷いた。
「大事なんだな」
「ええ」
主語はなくても、ルカのことであるのはわかる。
迷いのない回答に笑みを深めてから、ゲオルグは、蒼く晴れた空を振り仰いだ。
「――俺も、大事にしてたつもりだったんだがな。伝わらねえもんだ」
「……」
妙にスッキリとした口調には、逆に深い悔恨が滲んでいるように思われる。これは彼の娘・エマについての言及であると悟ったユージーンは、安易な相槌を控えた。
ゲオルグは、娘と吟遊詩人との仲を反対したらしい。武骨な職人にとって、地に足の付いていないような職業の男に、大事な娘をやる気には、とてもなれなかったのだろう。その気持ちはわからなくもない。
とはいえ、ゲオルグ親子に足らなかったのは、対話だ。彼が元気なうちに、娘の方で和解する気持ちになってくれると良いのだが、こればかりは娘の情に期待するよりほかない。
ふと真顔になって、ゲオルグ老人がユージーンに向き直った。
「お前はくれぐれも、ベリンダ様を悲しませるようなことはするなよ」
「……言われなくても」
返答に間が空いたのは、あまりにも当たり前の釘を指されたためだ。敬愛する師から、ルカを奪うような真似をするはずがない。ベリンダには魔法だけでなく、ルカのことも含めて認めて貰うつもりでいるし、彼女の中での、ルカのパートナーとしての最有力候補は自分であるとの自負もある。
美しい顔を、さも憤慨したと言わんばかりに顰めたユージーンに、ゲオルグは口調を和らげた。
「あの野郎も、お前みたいな気概を見せてくれりゃあ良かったんだがなぁ」
それは、掛け値なしの、ゲオルグの本音だったのだろう。吟遊詩人とやらが、自らの生業への誇りと、娘を守るための気骨を言葉で表していれば。或いは娘の方が、父の想いを汲み、対話での解決を望みさえすれば、誰も悲しい思いはせずに済んだのかもしれない。
――僕は絶対に、そんな愚かな選択はしない。
ゲオルグ老人の言葉に、ユージーンは改めて、ルカへの想いを確認した。
今はまだ、自分はルカにとって、保護者の域をいくらも出ていないのかもしれない。――だが。
「大丈夫ですよ。僕は周囲の祝福を得られる形で、正式にルカを手に入れるつもりです」
珍しく強気の本音を口にしたのは、老人が旅の途中で出会っただけの相手であるためかもしれない。
しかし同時に、自分達と同じ轍を踏んでほしくないという、ゲオルグの心遣いに対する感謝の念も、確かにユージーンの中に存在する。
「保護者がいつの間にか恋人に――だなんて、よくある話でしょう?」
美青年のウィンクに、ゲオルグ老人は僅かに両目を見開いた後、「頑張れよ」と優しい微苦笑を漏らした。
第2部・第2話 END
あなたにおすすめの小説
異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします
み馬下諒
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。
わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!?
これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。
おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。
※ 造語、出産描写あり。前置き長め。第21話に登場人物紹介を載せました。
★お試し読みは第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★
★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★
マリオネットが、糸を断つ時。
せんぷう
BL
異世界に転生したが、かなり不遇な第二の人生待ったなし。
オレの前世は地球は日本国、先進国の裕福な場所に産まれたおかげで何不自由なく育った。確かその終わりは何かの事故だった気がするが、よく覚えていない。若くして死んだはずが……気付けばそこはビックリ、異世界だった。
第二生は前世とは正反対。魔法というとんでもない歴史によって構築され、貧富の差がアホみたいに激しい世界。オレを産んだせいで母は体調を崩して亡くなったらしくその後は孤児院にいたが、あまりに酷い暮らしに嫌気がさして逃亡。スラムで前世では絶対やらなかったような悪さもしながら、なんとか生きていた。
そんな暮らしの終わりは、とある富裕層らしき連中の騒ぎに関わってしまったこと。不敬罪でとっ捕まらないために背を向けて逃げ出したオレに、彼はこう叫んだ。
『待て、そこの下民っ!! そうだ、そこの少し小綺麗な黒い容姿の、お前だお前!』
金髪縦ロールにド派手な紫色の服。装飾品をジャラジャラと身に付け、靴なんて全然汚れてないし擦り減ってもいない。まさにお貴族様……そう、貴族やら王族がこの世界にも存在した。
『貴様のような虫ケラ、本来なら僕に背を向けるなどと斬首ものだ。しかし、僕は寛大だ!!
許す。喜べ、貴様を今日から王族である僕の傍に置いてやろう!』
そいつはバカだった。しかし、なんと王族でもあった。
王族という権力を振り翳し、盾にするヤバい奴。嫌味ったらしい口調に人をすぐにバカにする。気に入らない奴は全員斬首。
『ぼ、僕に向かってなんたる失礼な態度っ……!! 今すぐ首をっ』
『殿下ったら大変です、向こうで殿下のお好きな竜種が飛んでいた気がします。すぐに外に出て見に行きませんとー』
『なにっ!? 本当か、タタラ! こうしては居られぬ、すぐに連れて行け!』
しかし、オレは彼に拾われた。
どんなに嫌な奴でも、どんなに周りに嫌われていっても、彼はどうしようもない恩人だった。だからせめて多少の恩を返してから逃げ出そうと思っていたのに、事態はどんどん最悪な展開を迎えて行く。
気に入らなければ即断罪。意中の騎士に全く好かれずよく暴走するバカ王子。果ては王都にまで及ぶ危険。命の危機など日常的に!
しかし、一緒にいればいるほど惹かれてしまう気持ちは……ただの忠誠心なのか?
スラム出身、第十一王子の守護魔導師。
これは運命によってもたらされた出会い。唯一の魔法を駆使しながら、タタラは今日も今日とてワガママ王子の手綱を引きながら平凡な生活に焦がれている。
※BL作品
恋愛要素は前半皆無。戦闘描写等多数。健全すぎる、健全すぎて怪しいけどこれはBLです。
.
滅びる異世界に転生したけど、幼女は楽しく旅をする!
白夢
ファンタジー
何もしないでいいから、世界の終わりを見届けてほしい。
そう言われて、異世界に転生することになった。
でも、どうせ転生したなら、この異世界が滅びる前に観光しよう。
どうせ滅びる世界なら、思いっきり楽しもう。
だからわたしは旅に出た。
これは一人の幼女と小さな幻獣の、
世界なんて救わないつもりの放浪記。
〜〜〜
ご訪問ありがとうございます。
可愛い女の子が頼れる相棒と美しい世界で旅をする、幸せなファンタジーを目指しました。
ファンタジー小説大賞エントリー作品です。気に入っていただけましたら、ぜひご投票をお願いします。
お気に入り、ご感想、応援などいただければ、とても喜びます。よろしくお願いします!
23/01/08 表紙画像を変更しました
処刑される悪役令息に転生したらなぜか推しの騎士団長がグイグイ近づいてくる
猫に小判
BL
交通事故で死んだはずの会社員・田中悠人は、気がつくとBL小説『恋と陰謀~はじまりは夜に~』の世界に転生していた。
しかも転生先は、原作で処刑される悪役令息エリオット。
当然そんな未来は回避したい。
原作知識を頼りに慎重に立ち回るつもりだったのに、気づけば王宮を揺るがす事件に巻き込まれていき――。
さらに困ったことに、原作で一番の推しだった騎士団長ガイウスがやたらと距離を詰めてきて……?
平穏に生きたい元悪役令息と、過保護な騎士団長がじれじれ距離を縮める話。
ガイウス(騎士団長)×エリオット(元悪役令息)
【新版】転生悪役モブは溺愛されんでいいので死にたくない!
煮卵
BL
ゲーム会社に勤めていた俺はゲームの世界の『婚約破棄』イベントの混乱で殺されてしまうモブに転生した。
処刑の原因となる婚約破棄を避けるべく王子に友人として接近。
なんか数ヶ月おきに繰り返される「恋人や出会いのためのお祭り」をできる限り第二皇子と過ごし、
婚約破棄の原因となる主人公と出会うきっかけを徹底的に排除する。
最近では監視をつけるまでもなくいつも一緒にいたいと言い出すようになった・・・
やんごとなき血筋のハンサムな王子様を淑女たちから遠ざけ男の俺とばかり過ごすように
仕向けるのはちょっと申し訳ない気もしたが、俺の運命のためだ。仕方あるまい。
クレバーな立ち振る舞いにより、俺の死亡フラグは完全に回避された・・・
と思ったら、婚約の儀の当日、「私には思い人がいるのです」
と言いやがる!一体誰だ!?
その日の夜、俺はゲームの告白イベントがある薔薇園に呼び出されて・・・
ーーーーーーーー
この作品は以前投稿した「転生悪役モブは溺愛されんで良いので死にたくない!」に
加筆修正を加えたものです。
リュシアンの転生前の設定や主人公二人の出会いのシーンを追加し、
あまり描けていなかったキャラクターのシーンを追加しています。
展開が少し変わっていますので新しい小説として投稿しています。
続編出ました
転生悪役令嬢は溺愛されんでいいので推しカプを見守りたい! https://www.alphapolis.co.jp/novel/687110240/826989668
ーーーー
校正・文体の調整に生成AIを利用しています。
転生令息は冒険者を目指す!?
葛城 惶
BL
ある時、日本に大規模災害が発生した。
救助活動中に取り残された少女を助けた自衛官、天海隆司は直後に土砂の崩落に巻き込まれ、意識を失う。
再び目を開けた時、彼は全く知らない世界に転生していた。
異世界で美貌の貴族令息に転生した脳筋の元自衛官は憧れの冒険者になれるのか?!
とってもお馬鹿なコメディです(;^_^A
この俺が正ヒロインとして殿方に求愛されるわけがない!
ゆずまめ鯉
BL
五歳の頃の授業中、頭に衝撃を受けたことから、自分が、前世の妹が遊んでいた乙女ゲームの世界にいることに気づいてしまったニエル・ガルフィオン。
ニエルの外見はどこからどう見ても金髪碧眼の美少年。しかもヒロインとはくっつかないモブキャラだったので、伯爵家次男として悠々自適に暮らそうとしていた。
これなら異性にもモテると信じて疑わなかった。
ところが、正ヒロインであるイリーナと結ばれるはずのチート級メインキャラであるユージン・アイアンズが熱心に構うのは、モブで攻略対象外のニエルで……!?
ユージン・アイアンズ(19)×ニエル・ガルフィオン(19)
公爵家嫡男と伯爵家次男の同い年の乙女ゲー転生BLです。
「無加護」で孤児な私は追い出されたのでのんびりスローライフ生活!…のはずが精霊王に甘く溺愛されてます!?
白井
恋愛
誰もが精霊の加護を受ける国で、リリアは何の精霊の加護も持たない『無加護』として生まれる。
「魂の罪人め、呪われた悪魔め!」
精霊に嫌われ、人に石を投げられ泥まみれ孤児院ではこき使われてきた。
それでも生きるしかないリリアは決心する。
誰にも迷惑をかけないように、森でスローライフをしよう!
それなのに―……
「麗しき私の乙女よ」
すっごい美形…。えっ精霊王!?
どうして無加護の私が精霊王に溺愛されてるの!?
森で出会った精霊王に愛され、リリアの運命は変わっていく。