小悪魔系世界征服計画 ~ちょっと美少年に生まれただけだと思っていたら、異世界の救世主でした~

朱童章絵

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第2部・第3話:戦士覚醒

第3章

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 しかし翌朝、思わぬ報せが入った。
 夜中のうちに、山中の3か所で落石があり、街道が封鎖されてしまったのだ。
 偶発的に同時に起こることでは有り得ないため、山賊の嫌がらせと見るのが自然であり、また、人力で動かせるとは思えない巨岩が落下していることから、爆撃系の火炎術を操る魔物の魔石を用いての犯行ではないかと思われる。
 これでは山賊を捕縛したとしても、村人の生活が立ち行かない。斥候隊せっこうたいにはベリンダの空間転移魔法があるが、地理のわからない場所での長距離移動には不向きだ。何より、現地を歩かねば見付けられない異変もある。
 こうして斥候隊出立の条件に、新たに「落石箇所の全体数の把握」及び「瓦礫の撤去」が加わったのである。

 まずは、魔法の使えるベリンダと弟子のユージーンが、崩落個所の全体数の把握と、山賊の根城の探索に向かう。
 その間、村人達は総出で瓦礫の撤去作業に当たることになり、魔法の使えないルカ達はこちらの応援に加わることになった――とはいっても、力仕事で役に立てるのはジェイクとフィンレーの二人で、非力なルカは女性達と共に、炊き出しの一隊に加わっている。「私は基本的に後方支援専門で、申し訳ありませんが力仕事ではお役には立てません」と言い張ったネイトも同様だ。嬉々としてルカの隣を占領しながら、稀に発生する負傷者の手当てを並行して行っている。
 昼時になって、一番集落に近い崩落現場へ向かった一団が、炊き出しを行う村の広場へ戻ってきた。同行したジェイクとフィンレーは、村の男達とすっかり打ち解けた様子で、手際の良さや重労働をいとわぬ心掛けを絶賛されている。
 料理の下拵え中に仲良くなったおば様方に勧められ、四人は揃って、大きな樫木かしのきの下で昼休憩を取ることになった。パンとシチューだけの簡単なものだが、旅のさなかや労働中には、この上もなくありがたく感じられる。
「じゃあ、二人が行った所はもう片付けられたの?」
 彼らの午前中の成果を知って驚くルカに、「ああ」とフィンレーが頷いた。きちんとパンを飲み込んでから答えるところに、やはり育ちの良さが窺える。
「昼からは、三か所目の現場に向かう。うまくいけば、今日中に復旧ってことになるはずなんだが……」
「二か所目に向かった別動隊が戻ってないのが気になるな」
 フィンレーの言を受けて、ジェイクが僅かに眉をひそめた。村の男性陣は二手に別れて撤去作業を行っているのだが、確かに、もう一つの隊は未だ帰還していないようだ。思ったよりも被害が大きく、手間取っているのかもしれない。
『ばあさん達も戻らねえしなぁ』
 ルカの肩口によじ登ったぬいぐるみ体のレフが、思念波で会話に混ざった。最近のレフは、ご機嫌さえ良ければ、こうして仲間達の談笑に加わることもある。ルカ以外の人に慣れてきた証拠だろうか。「ばあさん」とは、もちろんベリンダのことだ。周辺の山々を確認して回る作業がどれほどのものか、魔法を使えないルカ達には量る術がない。
「――新たな崩落場所が見付かっていないとも限りませんしね」
 この中で唯一魔法の使えるネイトの予測に、残る3人と1匹はしばし黙り込んだ。
  
 ――それから程なく別動隊は帰ってきたが、やはり想定以上に被害が大きく、引き続き作業を続ける必要があるとのことだった。
 これを受けて、午後からはジェイクとフィンレーが二か所目の現場に合流し、第一班は三か所目の現場に向かうことで話はついた。
 遅れて昼食にありついた、第二班の者達がシチューを掻き込むのを二人が待つ間、ルカも何となくその場に留まっていたのは、祖母とユージーンの帰還を出迎えるためだ。
 そこへ二コラがやって来た。
 妙に意気込んだ様子で真っ直ぐにジェイクに近付き、ずいとピッチャーを差し出す。
「……あの、お水いかがですか?」
 並々と冷水の注がれた容器を突き付けられ、ジェイクは少々面食らった様子で、「ああ」とカップを持ち上げた。まさか全部飲めと言われたとは思うまいが、お互い慣れない遣り取りが、妙に微笑ましい。
 緊張に強張った顔をパッと輝かせて、二コラはジェイクのカップに水を注いだ。大方、彼との仲を深めるよう父親に指示されたのだろうが、彼女自身は悪い子でもなさそうなので、少々複雑な気分になってくる。
 彼女の父が宴の席で、ジェイクに対して強引に婚約を迫った話は、既に村中に知れ渡っているらしい。他の町での狂乱が嘘のように、サハス村の若い娘達は、斥候隊員を遠巻きに眺めているだけだ。
「――彼も、満更でもなさそうじゃないか」
 ルカ達にも水を注いでくれた後、何とかジェイクと会話を続けようと奮闘する二コラを横目に、ネイトがそっと耳打ちしてきた。
 確かに、二コラに対するジェイクの態度は、他の女性に接する時よりも、少しだけ優しいような気がしないでもない。ルカがソワソワしてしまう原因もそこにあった。
 ネイトの含みのある笑顔をキロリと睨め付けて、フィンレーが反対側から囁く。
「気にするなよ、ルカ。尊重してやるべきは、アイツの意思だからな」
 ジェイクの気持ちを考慮した上でのフォローは、そのままフィンレーの気立ての良さを表しているのだろう。
 小声でのやり取りを知らないジェイクは、ルカの視線に気付き、困ったように微笑んだ。
「ほら、ルカ。こぼすなよ」
 言って、わずかに身体をずらし、大きなてのひらでルカの手からカップを取り上げる。ジェイクとニコラの様子を気にするあまり、手元がおろそかになっていたようだ。たっぷりと注いでもらった冷たい水を、こぼしそうになっていたらしい。
「あーごめん、大丈夫だって!」
 ジェイクはルカの手にカップを返してから、そのままいつものように頭を撫でてきた。慣れたスキンシップではあるが、よその人に見られるのは、やはり少々恥ずかしい。
 ジェイクからルカへの相変わらずの過保護ぶりを見て、フィンレーはやれやれといった表情で肩を竦め、ネイトは笑顔のまま不穏なオーラを発している。何とか繋いでいた会話を中断されたニコラも、複雑そうな様子だ。
「!」
 ジェイクに甘やかされるがままだったルカは、ふと彼の革手袋の手首辺りに、ほつれを見付けた。王都を発ってふた月弱、常に肉弾戦を行ってきた装備に傷みが出ても、おかしくない頃合いかもしれない。
 ――この村に革製品を扱う店や工房はあっただろうか。
 騒ぎが起こったのは、ルカが口を開こうとした瞬間だった。
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