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第2部・第4話:無敵の聖獣
第2章
『ルカ! また会えた!!』
両親と黄金のベリンダとの間に走る緊張感をものともせずに、翼竜の雛はバサリとルカの元へ舞い降りた。
半年程度の間に体毛はすっかり生え変わり、今やどこからどう見ても、小型のドラゴンとしか思われない。体長の増加よりも何よりも、以前は小鳥のようにピィピィ鳴くだけだったものが、意思の疎通が図れるようになったことが、一番の成長の証だろう。
相手の人懐っこさに引かれるように、ルカもまた自然と笑顔を返していた。
「大きくなったなぁ! えっと……」
『――フェロール。僕の名前だよ』
ルカの意図を正確に理解したらしい翼竜の雛は、「フェロールかぁ」と自身の名を繰り返したルカの周囲を、楽しげに飛び回る。
お互いが、自分のことを覚えていてくれたことが嬉しくてたまらないといった一人と一頭の様子は、見ていて微笑ましいものだ。夫よりも一回り小さな翼竜――おそらくはフェロールの母――は、子供達の姿を凪いだ瞳で見守っている。
しかし、ベリンダの表情は相変わらず険しい。
「もう一度聞くわ。なぜ人里近くにやって来たの?」
圧倒的なドラゴンの存在感を前に、ほんの少しも怯むことなく、黄金のベリンダは問いを重ねた。
ルカと翼竜一家の出会いは、親とはぐれ、傷付いた雛を小鳥と間違えたルカが、手当てを施したことに始まる。無事に回復したフェロールは、ルカに礼を渡すべくハーフェルの家を訪れ、一方雛の負傷と行方不明をルカの所業と勘違いした両親達は、我が子の気配を辿ってルカに制裁を加えんとした。ベリンダ師弟との交戦の末、膝を屈した彼らは、「今後一切人里に近付かないこと」を条件に解放されたのである。
人類とドラゴンは互いに不可侵であるべきだ――大魔法使いたる黄金のベリンダの、この信条を反故にされたというのなら、彼女には然るべき手段を講じる権利がある。
しかし、最も大きな翼竜――フェロールの父は、感情を波立たせることなく、小さく頭を振った。
『早合点するな、黄金のベリンダよ』
ベリンダもまた、落とした静かな声音で命令する。
「――説明しなさい」
そうして翼竜の語ったところによると、先程の赤褐色のプテラノドン達は、魔王に与する種族らしい。復活した魔王の力を受けたことで増長し、翼竜一家の縄張りを犯した。当然の報いとして制裁を加えたものの、とにかく数が多いこともあり、一部を取り逃がしてしまったのだそうだ。これを追い掛けての襲来は、あくまで不可抗力であるというのが、翼竜側の主張らしい。
今ここに、復讐は果たされた。
『片は付いた。我らは住処へ戻るよ』
鷹揚な父竜の主張に、ルカはなるほどと大きく頷いた。斥候隊との邂逅はあくまで偶然であり、ベリンダとの約束を破ったとは言い難い。
「わかったわ」
ベリンダの首肯に、ホッと息をついたのは斥候隊メンバーの方だった。大半の者が、初めて目にするドラゴンの存在感に、圧倒されていたせいもある。美しい緑色の鱗から察するに、彼らは風属性のドラゴンだ。そして先程の鳥型の魔物は、身体こそ小さいとはいえ、攻撃方法から見るに、火属性であることは間違いない。一般的に、風は炎の勢いを増す性質を持っており、戦いの相性としては最悪のはずだが、そのハンデをものともしないのは、さすがにドラゴン、といったところか。
そういえば、と、ルカはフェロールに向き直った。
「あの時くれた紅い魔石、すごく助かったよ。ありがとう!」
ルカが言っているのは、クラウドヴィッツ州のデルヴェ村で、魔物の群れに囲まれた時のことだ。駆け付けて来てくれたレフと共に、魔石の放つ火柱に救われた。
あれをフェロールがくれたということは、両親とはぐれた彼もまた、属性の不利を克服し、襲撃者を返り討ちにしたがゆえの、名誉の負傷を負っていたことになる。
――やっぱり、雛でもドラゴンはすごい!
『君の役に立てたのなら、良かったよ』
ルカの称賛を受けて、フェロールはやや照れたような思念波で応えた。人間とは違って表情の変化はわかりづらいが、脳裏に響く音のトーンで、ある程度の感情は読み取れる。
危ないところを助けられたという恩義はあるだろうが、フェロールは明らかに、ルカに懐いていた。
ルカとの会話で個々に話は聞いていたし、今またベリンダから当時の経緯について、簡単に説明を受けた斥候隊員達は、改めてルカの「天然人(竜)たらし」ぶりに、舌を巻いている。
そんな中で、レフだけが面白くなさそうに、不貞腐れていた。
『………………』
じっとりとした目付きで、フェロールを睨み付ける。彼にしてみれば、突然現れて、自分の主人であるルカに、やけに馴れ馴れしい態度を取るフェロールが、胡散臭くて仕方がないのだ。
レフとフェロールの視線が絡み合った。妙に勝ち誇ったような目付きで微笑まれ、余計に苛立ちが募る。
『ルカ。もういいだろ。行こうぜ』
ごちりと甘えるように裏腿に頭を擦り付けられて、ルカは勇ましい雄ライオンの可愛らしい姿に、思わず微笑んだ。「疲れた?」と鬣を撫で付けてやると、応えずにゴロゴロと喉を鳴らしている。
「予言の子供」は、今日もプリンセス属性を遺憾なく発揮し、小動物はおろか猛獣や伝説級の魔物でさえも、懐に抱え込むのだった。
両親と黄金のベリンダとの間に走る緊張感をものともせずに、翼竜の雛はバサリとルカの元へ舞い降りた。
半年程度の間に体毛はすっかり生え変わり、今やどこからどう見ても、小型のドラゴンとしか思われない。体長の増加よりも何よりも、以前は小鳥のようにピィピィ鳴くだけだったものが、意思の疎通が図れるようになったことが、一番の成長の証だろう。
相手の人懐っこさに引かれるように、ルカもまた自然と笑顔を返していた。
「大きくなったなぁ! えっと……」
『――フェロール。僕の名前だよ』
ルカの意図を正確に理解したらしい翼竜の雛は、「フェロールかぁ」と自身の名を繰り返したルカの周囲を、楽しげに飛び回る。
お互いが、自分のことを覚えていてくれたことが嬉しくてたまらないといった一人と一頭の様子は、見ていて微笑ましいものだ。夫よりも一回り小さな翼竜――おそらくはフェロールの母――は、子供達の姿を凪いだ瞳で見守っている。
しかし、ベリンダの表情は相変わらず険しい。
「もう一度聞くわ。なぜ人里近くにやって来たの?」
圧倒的なドラゴンの存在感を前に、ほんの少しも怯むことなく、黄金のベリンダは問いを重ねた。
ルカと翼竜一家の出会いは、親とはぐれ、傷付いた雛を小鳥と間違えたルカが、手当てを施したことに始まる。無事に回復したフェロールは、ルカに礼を渡すべくハーフェルの家を訪れ、一方雛の負傷と行方不明をルカの所業と勘違いした両親達は、我が子の気配を辿ってルカに制裁を加えんとした。ベリンダ師弟との交戦の末、膝を屈した彼らは、「今後一切人里に近付かないこと」を条件に解放されたのである。
人類とドラゴンは互いに不可侵であるべきだ――大魔法使いたる黄金のベリンダの、この信条を反故にされたというのなら、彼女には然るべき手段を講じる権利がある。
しかし、最も大きな翼竜――フェロールの父は、感情を波立たせることなく、小さく頭を振った。
『早合点するな、黄金のベリンダよ』
ベリンダもまた、落とした静かな声音で命令する。
「――説明しなさい」
そうして翼竜の語ったところによると、先程の赤褐色のプテラノドン達は、魔王に与する種族らしい。復活した魔王の力を受けたことで増長し、翼竜一家の縄張りを犯した。当然の報いとして制裁を加えたものの、とにかく数が多いこともあり、一部を取り逃がしてしまったのだそうだ。これを追い掛けての襲来は、あくまで不可抗力であるというのが、翼竜側の主張らしい。
今ここに、復讐は果たされた。
『片は付いた。我らは住処へ戻るよ』
鷹揚な父竜の主張に、ルカはなるほどと大きく頷いた。斥候隊との邂逅はあくまで偶然であり、ベリンダとの約束を破ったとは言い難い。
「わかったわ」
ベリンダの首肯に、ホッと息をついたのは斥候隊メンバーの方だった。大半の者が、初めて目にするドラゴンの存在感に、圧倒されていたせいもある。美しい緑色の鱗から察するに、彼らは風属性のドラゴンだ。そして先程の鳥型の魔物は、身体こそ小さいとはいえ、攻撃方法から見るに、火属性であることは間違いない。一般的に、風は炎の勢いを増す性質を持っており、戦いの相性としては最悪のはずだが、そのハンデをものともしないのは、さすがにドラゴン、といったところか。
そういえば、と、ルカはフェロールに向き直った。
「あの時くれた紅い魔石、すごく助かったよ。ありがとう!」
ルカが言っているのは、クラウドヴィッツ州のデルヴェ村で、魔物の群れに囲まれた時のことだ。駆け付けて来てくれたレフと共に、魔石の放つ火柱に救われた。
あれをフェロールがくれたということは、両親とはぐれた彼もまた、属性の不利を克服し、襲撃者を返り討ちにしたがゆえの、名誉の負傷を負っていたことになる。
――やっぱり、雛でもドラゴンはすごい!
『君の役に立てたのなら、良かったよ』
ルカの称賛を受けて、フェロールはやや照れたような思念波で応えた。人間とは違って表情の変化はわかりづらいが、脳裏に響く音のトーンで、ある程度の感情は読み取れる。
危ないところを助けられたという恩義はあるだろうが、フェロールは明らかに、ルカに懐いていた。
ルカとの会話で個々に話は聞いていたし、今またベリンダから当時の経緯について、簡単に説明を受けた斥候隊員達は、改めてルカの「天然人(竜)たらし」ぶりに、舌を巻いている。
そんな中で、レフだけが面白くなさそうに、不貞腐れていた。
『………………』
じっとりとした目付きで、フェロールを睨み付ける。彼にしてみれば、突然現れて、自分の主人であるルカに、やけに馴れ馴れしい態度を取るフェロールが、胡散臭くて仕方がないのだ。
レフとフェロールの視線が絡み合った。妙に勝ち誇ったような目付きで微笑まれ、余計に苛立ちが募る。
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ごちりと甘えるように裏腿に頭を擦り付けられて、ルカは勇ましい雄ライオンの可愛らしい姿に、思わず微笑んだ。「疲れた?」と鬣を撫で付けてやると、応えずにゴロゴロと喉を鳴らしている。
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