小悪魔系世界征服計画 ~ちょっと美少年に生まれただけだと思っていたら、異世界の救世主でした~

朱童章絵

文字の大きさ
86 / 121
第2部・第6話:小悪魔は笑う

第3章

 ――何か大事なことを忘れているような気がする。
 そんな、うっすらとした喪失感を抱えながらも、瑠佳るかは日々の生活を謳歌していた。
 家庭環境は良好そのもの、高校生活は学力、交友関係両面において及第点(得意科目もあれば苦手科目もあり、相対的に平均程度の成績は維持している、といったところ)であり、不安を感じる暇もない。
 そんなある日の午後、世界史の授業中。
 中世ヨーロッパ史を解説する教科書を眺めていた瑠佳は、ふと、ある絵に目を留めた。描かれているのは、騎士の姿だ。といっても、絵画的な勇壮なものではなく、簡素化された、どこか滑稽なイラスト調のものである。
 まるでトランプのような図柄に、なぜか瑠佳は引き付けられた。
 ――実際は、これよりもっとずっとカッコイイ気がするんだけど。
 そう、例えば、だ。留具の周りに精緻な刺繍の施された、肩章付きの上衣の裾を翻して歩く姿は颯爽としており、背に愛用の武器を背負っていたり、白馬を駆る姿は街の少女達の憧れの的であったり……。
 をぼんやりと思い描いていた瑠佳は、教師の声にハッと顔を上げた。
鈴宮すずみや、どうした?」
 気付けば、クラス中の視線が瑠佳に集中している。騎士のイメージを膨らませるあまり、教師の注意を引いてしまったらしい。
「すいません、騎士ってもっとカッコイイのかなって思ってたんで」
 咄嗟に照れ笑いで誤魔化した瑠佳に、クラスメイトからはクスクスと忍び笑いが漏れる。隣の席の友人などは「中2かよ」と遠慮のない調子でツッこんできた。
 確かに、「騎士」という称号や階級には、中世の史実の存在よりも、それをモチーフにしたファンタジーのキャラクター的な意味合いが強い。
 これが30代前半の男性教諭の指導欲を刺激したようで、「お、いいとこ突いてくれたな~」と、嬉々として余談が始まった。
「お前らもゲームとか漫画とかの影響で、騎士って聞いたらなんかカッコ良さげなイメージ持ってるだろうけどな、実際は甲冑着て馬に乗って戦ってるだけじゃ、騎士とは名乗れないんだぞ。あと、一人の女性を命を懸けて守るとか愛すとかいうのは、もう騎馬戦なんかが主流じゃなくなった時代の奴らだからな。他にやることないんだよ、アイツら」
「それはいいけど、さすがにこの絵はないわー」
 気安さで人気のある、少々くたびれた教師の偏った熱弁に対し、女子生徒の一人が言い放った一言で、事態にはしっかりとオチは付いた。お陰で、授業中にぼんやりしていたことを叱られずに済んだ瑠佳は、クラスメイト達と一緒に肩を揺らして無邪気に笑う。
 しかしその裏では、何となく釈然としないものを感じていた。自分の知っている騎士や戦士はこんなものではない、という強い意識が、はっきりと胸の中にわだかまっているのだ。
 けれど、自分に騎士や戦士の知り合いなど居るはずもないことは、だった。

                  ●

 ベッドサイドに腰を下ろし、目覚めないルカの愛らしく整った顔を、沈痛な面持ちで眺めていたジェイクは、ふと思い立って顔を上げた。
 ルカの足元には、スプリングに沈み込むようにして、成獣体のレフが寝そべっている。猛獣とはいえネコ科動物特有のが可愛らしくもあり、また、片時も主の傍を離れようとしない従順さがいじらしくもあって、ジェイクはこんな時だというのに、ほんの少しだけ口元を緩めた。
 ルームサービスを勧める気になったのは、気晴らしにでもなればと思ってのことだ。
「肉料理でも頼んでやろうか?」
 ジェイクの唐突な提案に、レフはこちらへ向かって、わずかに頭を持ち上げた。しかし、何度か瞳を瞬かせた後、気乗りしない風にプイと顔を背けてしまう。
『……いらねえ』
 そのまま無視をするようなこともなく、不貞腐れたような思念波がポツリと返された。またしてもルカの異変に気付けなかった自身への怒りを押し殺すことで、今は精一杯なのだろう。
 元より無理強いなどするつもりもないジェイクは、小さく息をついた。
 ユージーンはベリンダの補佐に向かい、ネイトも自室へ籠ってしまった。ルカの非常時に私用で席を外すとは思えないため、彼もまた独自で解呪の方法を探っているのだろう。
 残ったフィンレーに、ルカの付き添いを申し出たのは、ジェイクの方だった。専門知識はないが、それでも家族の急病時の看護等の経験がある分、平民出の自分の方が場慣れしているはずだと考えたからだ。もちろん、ルカの傍を離れたくなかったこともある。
 少しだけ悔しそうな表情を見せたフィンレーは、それでも買い出しの役を快く引き受けた。親友のルカが心配なのは彼も同じだろうが、優秀で善良な領主の息子は、ジェイクの言い分をもっともだと思ってくれたのに違いない。
 ルカの様子には何の変化もなく、ただ愛らしい人形のように、昏々と眠り続けている。シングルルームの作りはどれも同じはずなのに、ルカという主の精彩を欠いた部屋は、それだけでひどく寒々しく感じられた。
 ジェイクがベッドサイドを離れられずにいるのは、こんな寂しい場所にルカを一人では置いておけないという理由が一番大きい。
 そこへ、控えめなノックが聞こえてきた。ジェイクが「はい」と応えるのと同時に、静かにドアを開けて入って来たのはフィンレーだ。左腕に携帯用の食料の入った紙袋を抱え、右手には青い花の小振りなブーケを提げている。
 買い出しから戻り、そのままこの部屋へ直行してきたらしいフィンレーは、ひとまず荷物をサイドテーブルの上に置いてから、ベッドに近付いてきた。レフとジェイクの視線が見守る中、おずおずと花束を差し出す。
「その、匂いくらいは、伝わるんじゃないかと思ってさ」
 それは、ルカとフィンレーの、思い出の花だった。二人が幼い頃から駆け回って遊んだ、領主館りょうしゅやかたの庭に咲いている、名も知らぬ可憐な青い花。
 この生まれながらの貴公子は、ルカの五感を刺激する方法はないかと考えて、甘い香りのする見舞いの花に辿り着いたのだろう。
 ――ああ、そうだ。ルカは確かに生きていて、規則的な呼吸を繰り返している。フィンレーの意図したとおり、嗅覚が覚醒に繋がらないとも言い切れない。
「――枕元に飾っておいてやろう」
 当然のようにフィンレーから花束を受け取って、ジェイクは立ち上がった。薄く笑ってから、ベッドサイドの椅子を、きっと花など活けたこともないであろう貴族の子弟に譲り、花瓶になるものを探しにいく。
 ――希望を捨ててはいけない。
 魔法の使えない二人と一頭は、自身の無力感と戦いながらも、必死でルカの無事を祈っていた。
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬下諒
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 造語、出産描写あり。前置き長め。第21話に登場人物紹介を載せました。 ★お試し読みは第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

マリオネットが、糸を断つ時。

せんぷう
BL
 異世界に転生したが、かなり不遇な第二の人生待ったなし。  オレの前世は地球は日本国、先進国の裕福な場所に産まれたおかげで何不自由なく育った。確かその終わりは何かの事故だった気がするが、よく覚えていない。若くして死んだはずが……気付けばそこはビックリ、異世界だった。  第二生は前世とは正反対。魔法というとんでもない歴史によって構築され、貧富の差がアホみたいに激しい世界。オレを産んだせいで母は体調を崩して亡くなったらしくその後は孤児院にいたが、あまりに酷い暮らしに嫌気がさして逃亡。スラムで前世では絶対やらなかったような悪さもしながら、なんとか生きていた。  そんな暮らしの終わりは、とある富裕層らしき連中の騒ぎに関わってしまったこと。不敬罪でとっ捕まらないために背を向けて逃げ出したオレに、彼はこう叫んだ。 『待て、そこの下民っ!! そうだ、そこの少し小綺麗な黒い容姿の、お前だお前!』  金髪縦ロールにド派手な紫色の服。装飾品をジャラジャラと身に付け、靴なんて全然汚れてないし擦り減ってもいない。まさにお貴族様……そう、貴族やら王族がこの世界にも存在した。 『貴様のような虫ケラ、本来なら僕に背を向けるなどと斬首ものだ。しかし、僕は寛大だ!!  許す。喜べ、貴様を今日から王族である僕の傍に置いてやろう!』  そいつはバカだった。しかし、なんと王族でもあった。  王族という権力を振り翳し、盾にするヤバい奴。嫌味ったらしい口調に人をすぐにバカにする。気に入らない奴は全員斬首。 『ぼ、僕に向かってなんたる失礼な態度っ……!! 今すぐ首をっ』 『殿下ったら大変です、向こうで殿下のお好きな竜種が飛んでいた気がします。すぐに外に出て見に行きませんとー』 『なにっ!? 本当か、タタラ! こうしては居られぬ、すぐに連れて行け!』  しかし、オレは彼に拾われた。  どんなに嫌な奴でも、どんなに周りに嫌われていっても、彼はどうしようもない恩人だった。だからせめて多少の恩を返してから逃げ出そうと思っていたのに、事態はどんどん最悪な展開を迎えて行く。  気に入らなければ即断罪。意中の騎士に全く好かれずよく暴走するバカ王子。果ては王都にまで及ぶ危険。命の危機など日常的に!  しかし、一緒にいればいるほど惹かれてしまう気持ちは……ただの忠誠心なのか?  スラム出身、第十一王子の守護魔導師。  これは運命によってもたらされた出会い。唯一の魔法を駆使しながら、タタラは今日も今日とてワガママ王子の手綱を引きながら平凡な生活に焦がれている。 ※BL作品 恋愛要素は前半皆無。戦闘描写等多数。健全すぎる、健全すぎて怪しいけどこれはBLです。 .

滅びる異世界に転生したけど、幼女は楽しく旅をする!

白夢
ファンタジー
 何もしないでいいから、世界の終わりを見届けてほしい。  そう言われて、異世界に転生することになった。  でも、どうせ転生したなら、この異世界が滅びる前に観光しよう。  どうせ滅びる世界なら、思いっきり楽しもう。  だからわたしは旅に出た。  これは一人の幼女と小さな幻獣の、  世界なんて救わないつもりの放浪記。 〜〜〜  ご訪問ありがとうございます。    可愛い女の子が頼れる相棒と美しい世界で旅をする、幸せなファンタジーを目指しました。    ファンタジー小説大賞エントリー作品です。気に入っていただけましたら、ぜひご投票をお願いします。  お気に入り、ご感想、応援などいただければ、とても喜びます。よろしくお願いします! 23/01/08 表紙画像を変更しました

処刑される悪役令息に転生したらなぜか推しの騎士団長がグイグイ近づいてくる

猫に小判
BL
交通事故で死んだはずの会社員・田中悠人は、気がつくとBL小説『恋と陰謀~はじまりは夜に~』の世界に転生していた。 しかも転生先は、原作で処刑される悪役令息エリオット。 当然そんな未来は回避したい。 原作知識を頼りに慎重に立ち回るつもりだったのに、気づけば王宮を揺るがす事件に巻き込まれていき――。 さらに困ったことに、原作で一番の推しだった騎士団長ガイウスがやたらと距離を詰めてきて……? 平穏に生きたい元悪役令息と、過保護な騎士団長がじれじれ距離を縮める話。 ガイウス(騎士団長)×エリオット(元悪役令息)

【新版】転生悪役モブは溺愛されんでいいので死にたくない!

煮卵
BL
ゲーム会社に勤めていた俺はゲームの世界の『婚約破棄』イベントの混乱で殺されてしまうモブに転生した。 処刑の原因となる婚約破棄を避けるべく王子に友人として接近。 なんか数ヶ月おきに繰り返される「恋人や出会いのためのお祭り」をできる限り第二皇子と過ごし、 婚約破棄の原因となる主人公と出会うきっかけを徹底的に排除する。 最近では監視をつけるまでもなくいつも一緒にいたいと言い出すようになった・・・ やんごとなき血筋のハンサムな王子様を淑女たちから遠ざけ男の俺とばかり過ごすように 仕向けるのはちょっと申し訳ない気もしたが、俺の運命のためだ。仕方あるまい。 クレバーな立ち振る舞いにより、俺の死亡フラグは完全に回避された・・・ と思ったら、婚約の儀の当日、「私には思い人がいるのです」 と言いやがる!一体誰だ!? その日の夜、俺はゲームの告白イベントがある薔薇園に呼び出されて・・・ ーーーーーーーー この作品は以前投稿した「転生悪役モブは溺愛されんで良いので死にたくない!」に 加筆修正を加えたものです。 リュシアンの転生前の設定や主人公二人の出会いのシーンを追加し、 あまり描けていなかったキャラクターのシーンを追加しています。 展開が少し変わっていますので新しい小説として投稿しています。 続編出ました 転生悪役令嬢は溺愛されんでいいので推しカプを見守りたい! https://www.alphapolis.co.jp/novel/687110240/826989668 ーーーー 校正・文体の調整に生成AIを利用しています。

転生令息は冒険者を目指す!?

葛城 惶
BL
ある時、日本に大規模災害が発生した。  救助活動中に取り残された少女を助けた自衛官、天海隆司は直後に土砂の崩落に巻き込まれ、意識を失う。  再び目を開けた時、彼は全く知らない世界に転生していた。  異世界で美貌の貴族令息に転生した脳筋の元自衛官は憧れの冒険者になれるのか?!  とってもお馬鹿なコメディです(;^_^A

この俺が正ヒロインとして殿方に求愛されるわけがない!

ゆずまめ鯉
BL
五歳の頃の授業中、頭に衝撃を受けたことから、自分が、前世の妹が遊んでいた乙女ゲームの世界にいることに気づいてしまったニエル・ガルフィオン。 ニエルの外見はどこからどう見ても金髪碧眼の美少年。しかもヒロインとはくっつかないモブキャラだったので、伯爵家次男として悠々自適に暮らそうとしていた。 これなら異性にもモテると信じて疑わなかった。 ところが、正ヒロインであるイリーナと結ばれるはずのチート級メインキャラであるユージン・アイアンズが熱心に構うのは、モブで攻略対象外のニエルで……!? ユージン・アイアンズ(19)×ニエル・ガルフィオン(19) 公爵家嫡男と伯爵家次男の同い年の乙女ゲー転生BLです。

「無加護」で孤児な私は追い出されたのでのんびりスローライフ生活!…のはずが精霊王に甘く溺愛されてます!?

白井
恋愛
誰もが精霊の加護を受ける国で、リリアは何の精霊の加護も持たない『無加護』として生まれる。 「魂の罪人め、呪われた悪魔め!」 精霊に嫌われ、人に石を投げられ泥まみれ孤児院ではこき使われてきた。 それでも生きるしかないリリアは決心する。 誰にも迷惑をかけないように、森でスローライフをしよう! それなのに―…… 「麗しき私の乙女よ」 すっごい美形…。えっ精霊王!? どうして無加護の私が精霊王に溺愛されてるの!? 森で出会った精霊王に愛され、リリアの運命は変わっていく。