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第10話 魔王娘、武器について考える

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 アルム・ルーベンと組み、そしてあの食い逃げ犯サイハ・ウィードナーを追いかけてから、早いもので数日経っていた。
 今日も今日とて、イーリスはアルムとの待ち合わせの為、冒険者ギルドへと向かっていた。
 彼女にとって、この数日は刺激と成長の毎日であった。
 特に自分の最大の武器である水の魔法。自分では思いもつかないような使い方で、を広げてくれた。自由な発想というものの重要性が身に染みた、そんな時に魔王ヴァイフリングは言った。

『イーリス、何故お前は手ぶらなのだ』
「……どういう意味?」
『武器を持たないのか、とそう言っているのだ』

 武器、と言えばやはりアルムである。
 背中に一本、左腰に二本、そして右腰に一本。大きさの違う計四本の剣で身を固めたあの特異な戦闘スタイル。
 彼の意表を突く武器の扱いを思い返しながら、イーリスは魔王の質問に答える。

「私、武器って持ったことなくて……」
『そういう事なら持っておけ、絶対に役に立つ。我輩も良く、我輩の魔法を掻い潜って来た骨のある輩を武器で迎え撃ったものだ』
「ヴァイさんも武器使うんですね! 魔王って言うくらいだからてっきり魔法しか使わないものかと思ってましたよ」
『実際、我輩も武器なぞ要らんと思っていた。が、しかし我輩の部下共がいつものように謀反を起こした時に考えが変わった』
「……いつものように謀反って、ヴァイさん嫌われてたんですね」
『嫌われたなどと安い言葉を使うな! 我輩は《魔王》だ。この首を狙う手段も色々あってな。中でも驚いたのが、魔族数百体が織りなす魔力そのものを封じる魔法だ。あれを喰らった時、正直我輩、死ぬかと思った』

 さらっと言っているがそれだけとんでもない魔法か、口にこそ出さなかったが、それを言えばどんどん話の腰が折れるのが目に見えているのでグッと飲み込むイーリスであった。

『だがその時、たまたま手に取った武器を振り回していたら敵を血祭りに上げることが出来てな。その時から我輩も武器を持つことにしたのだ』
「な、なるほど……」

 規模が大きすぎて想像することも出来ないが、それでもヴァイフリングの言いたいことは分かった。
 彼が言っていたことは薄々自分も気づいていた課題である。
 もし魔法が撃てなくなったら、その時を考えていなかったわけではない。だからこそ、そのが起きてしまったら。

「じゃあヴァイさん、私にはどんな武器が合ってるかアドバイスしてくれませんか?」
『ああん? 何故我輩が?』
「お願いしますよ~!」
『……条件がある。今度、ソニック・ポークの丸焼きを食いに行け。そして、味覚の共有を許可しろ。それで手を打ってやる』
「そういう事でしたら喜んで!」

 味覚の共有。ごくたまにイーリスはヴァイフリングと味覚の共有をしていた。
 彼曰く、“何も食わずとも生きていける我輩ではあるが、娯楽の一つぐらいは欲しい”ということである。
 彼女としても命を奪われる訳でもないので、快諾していた。
 返事に気を良くしたヴァイフリングが本題に入る。

『さて、武器だったか。貴様の華奢な体格ならば、そうさな……槍だろう』
「槍ですか?」
『ああ。特段訓練なぞヌルいことしなくても突き、叩く、払えるという優れモノだ。何より武器の長さも良い。よっぽどのド下手じゃなければ相手に当てられるというのはデカい。そして何より――』
「何より?」
『我輩も槍を使っていた!!!』

 姿こそ出していないが、ヴァイフリングが腕組みをしているのが目に見えるイーリスはどうリアクションをすれば良いのか分からないまま、小首を傾げた。

「なるほど……?」
『それに、もし貴様が槍の扱いに熟達すれば我輩もの時、都合がいい』
「もしもって何ですか?」
『貴様にだけは絶対言わん!』

 何やら怒られてしまったようで、これ以上は何も言えなくなったイーリスはただ苦笑いをするだけである。
 話が止んだ時、コツコツと聞き覚えのある靴音がした。同時に、複数の武器が鳴る音も。

「どうしたイーリス? 冒険者ギルドの前で突っ立って」
「アルムさん、こんにちは! えっと、ですね……」
「ああ、ヴァイフリングか」
『我輩の名を安く呼ぶな小童こわっぱが』

 とりあえず冒険者ギルドに入ろう、とアルムに促されたので、そのまま彼に付いていくイーリス。
 適当な座席に座った所で、彼女は思い切って聞いてみることにした。

「あの、アルムさん。ちょっとご相談があるのですが……」
「どうした?」
「私も武器を持ちたくて……だからその、私に合う武器って、何でしょうかね?」

 百戦錬磨の魔王ヴァイフリングは槍と言ってくれた。だったら四本の剣を巧みに扱う彼ならば何と言ってくれるのか、イーリスは単純に興味があった。
 すると、彼は目線を天井へ向けた後、すぐに正面に向き直った。

「槍だろうな」

 おもわず瞬きを数度してしまった。
 イーリスの返事も待たずに、彼は語りだす。

「特別な訓練をしなくても突けるし、叩けるし、払える。非常に優れた武器だ。何より武器が長いのも良い。単純な動作で相手に当てられる、というのは非常に大きいぞ」
「……ッ!」

 笑ってしまったらきっとヴァイフリングに怒られるのが目に見えているので、イーリスは必死にこらえていた。

「どうした?」
「い、いえ……なんでも、無いです……! その、ヴァイフリングさんと同じ意見だったので驚いてしまいました」
「ヴァイフリングとか……屈辱だな」
『貴様ー! 何だその言い草は!』

 ぎゃあぎゃあと騒ぐヴァイフリングを尻目に、イーリスは早速アルムへ頭を下げた。

「ということでアルムさん、一緒に武器を買いに行ってはくれないでしょうか」
「それなら依頼を受けてから行こう。具体的には、練習が出来る簡単な魔物討伐系がベストだな」
「あ、ありがとうございます! じゃあ早速――」

 依頼を受けてきます、そう言おうとしたら割り込む声があった。

「――やあアルム君。依頼にお困りなら、私の野暮用を受けてはくれないかな?」

 イーリスはその姿を良く知っていた。
 何せ、ギルドマスターであるアルテシア・カノンハートがここに立っていれば、誰でも心臓が飛び出しそうになる。
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