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第35話 剣士、呆れる
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「なんだサイハか」
「サイハさん! お久しぶりです!」
「おう二人の態度の差を露骨に感じるなオイ!」
高らかに笑うサイハは通りかかった給仕へ飲み物と食べ物の注文をし、他の二人へ顔を向ける。その表情にはあからさまに下心が組み込まれていた。
「ねえそこの赤茶のおさげの子と藍色の髪の子もアルムの仲間? 俺はサイハ! よろしく!」
下心が滲み出ているが、それでもそれを感じさせないほどの爽やかさが迸っていた。アルムの目から見て、こういうのが女にモテる振る舞いなのだろうなというのを、横でしみじみと感じてしまった。
しかし、そういう男に浮ついた反応を見せないのが、アルムと行動を共にしている女性陣でアルム
「……アルム、何この人? めちゃくちゃ強そう」
「目を輝かせるなウィスナ」
戦闘好きの血が沸々と煮えて来たのか、ウィスナは既に双剣を抜こうとしていた。だが、それを上回る速度でアルムは彼女の手を押さえる。こんな所で暴れては本格的にアルテシアから睨まれることとなってしまう。
「……あの、アルム?」
「何だ? 戦闘したい病気は静まったか?」
「…………その、手、いつまでそのままなの?」
仄かに頬を赤くしながらウィスナが静かに抗議する。そこでようやくアルムは手を握っていたことに気付けた。
「ああ、悪かったな」
「……別に、悪くはない、けど」
「どっちなんだよ。ん、どうしたイーリス?」
「べ、べべべ別に! 何でもありませんよ! ええ! ありません!」
何故かアルムの手にじーっと視線を集中させていたイーリスが指摘された途端、慌てて顔を逸らす。彼女の頬も何だか紅みがかっていた。
彼としては全く何がどうなっているのか分からないので、エイルの方へ助けを求めるように、顔を向けた。
「あんたってそのうち刺されそうね。なんかこう、ザクっと」
「……意味が分からんぞエイル」
「お~い、俺をそっちのけで盛り上がらないでくれると悲しくならなくて済むな~俺、今めっちゃひとりぼっちで寂しいんだが~?」
サイハが掴んでいたジョッキをぷらぷらとさせていた。ジョッキの中身は黄金色に輝く麦酒であった。
「アルム、お前は飲めないのか?」
「いざ戦闘になった時、思考が回らないからな。だから俺は飲まないことにしている」
「お、そういうことだったら今はいいだろ! 飲もうぜ! おーいそこの美人給仕さん! こいつにも――」
「いらん。というか結局お前は何をしにここへ来たんだ? お前は冒険者じゃないだろう」
実際、他の冒険者は遠巻きにアルム達のテーブルを眺めていた。物珍しい、というよりはどちらかというと、またかといったような眼である。
「冒険者じゃなかったらここへ飲みに来ちゃいけないルールはないだろ? それにさ、他の酒場じゃあちょっと物足りねえんだよな。何せ!」
そう言うとサイハはジョッキを持って立ち上がり、別のテーブルで飲んでいる冒険者達を見回した。そして杯を高々と掲げる。
「ここにいる奴らは皆、未知を求めている馬鹿野郎共だ! そんな奴らがいるこの酒場に来ないなんてそんな馬鹿な話はない! なあそうだろお前ら!」
呼応するように、様々なテーブルの冒険者達が杯を掲げた。
その光景に圧倒されるアルム達。ノリが良い、というだけではこうまではいかないだろう。
そこでアルムは通りかかった同業者を一人捕まえる。
「なあ、サイハ・ウィードナーって何なんだ?」
「え、アルムお前知らなかったのか? あいつ変な奴でさ。サイファル王国の治安維持部隊のくせに俺達冒険者と飲みたがる奴だぞ?」
「確かに治安維持部隊は中々こういう場所に来るイメージは抱きづらい、な」
「ああ。俺も最初はそう思って警戒してたんだけど、これがまた気前の良い奴でな。ふらっと現れては飲んでいる冒険者達に奢って、そこに交じってどんちゃん騒ぎよ」
完璧に想像が出来てしまう。爽やかな奴だというのは最初に抱いていた印象だったが、今こうして話している内にだんだんその印象も変わって来た。
人懐っこい、というのだろうか。誰とでも分け隔てなく接しようとする気概が見える。
そういう人間に対しては非常に好印象を抱くアルムであった。
教えてくれた冒険者が去った直後、サイハが肩を掴んできた。
「おいアルム~! やっぱり俺と飲もうぜ~! 奢ってやるからさ!」
「二度も同じことを言わせるな。それで、本当に何の用があって来たんだよ? 悪いが俺は、お前が偶然来たとはとてもじゃないが思えん」
それを聞いたサイハは、少しだけ表情を引き締め、椅子へ腰かける。
「まあ、あれだ。イーリスちゃんやウィスナちゃん、それにエイルちゃんからするとちょっと面白くない話だと思うんだけど……」
たった一度しか言っていないのに、ウィスナとエイルの名前をしっかりと覚えていたサイハの抜け目なさ。他の皆は気づいていないが、一人だけ気づいていたアルムは少しだけ口角を吊り上げる。
「最近、この王都で女ばかりを狙った誘拐事件が起こっていてな。それで、俺はその情報収集でこっそりと王都を駆け回っているって訳」
喋って喉が渇いたのか、サイハはジョッキの中にある麦酒を一気に飲み干した。
対するアルム一行はさらりと出たその内容に対し、思わず呆れたような表情を浮かべる。
――それは酒場で喋ってもいい内容なのだろうか。
イーリスの中にいるヴァイフリングですら皆と全く同じ感想を抱いた。
「……あ、やべ。ちょっと声大きすぎたか?」
当のサイハは思った以上に出た自身の声量に、少しだけ酔いを醒ましてしまっていた。
「サイハさん! お久しぶりです!」
「おう二人の態度の差を露骨に感じるなオイ!」
高らかに笑うサイハは通りかかった給仕へ飲み物と食べ物の注文をし、他の二人へ顔を向ける。その表情にはあからさまに下心が組み込まれていた。
「ねえそこの赤茶のおさげの子と藍色の髪の子もアルムの仲間? 俺はサイハ! よろしく!」
下心が滲み出ているが、それでもそれを感じさせないほどの爽やかさが迸っていた。アルムの目から見て、こういうのが女にモテる振る舞いなのだろうなというのを、横でしみじみと感じてしまった。
しかし、そういう男に浮ついた反応を見せないのが、アルムと行動を共にしている女性陣でアルム
「……アルム、何この人? めちゃくちゃ強そう」
「目を輝かせるなウィスナ」
戦闘好きの血が沸々と煮えて来たのか、ウィスナは既に双剣を抜こうとしていた。だが、それを上回る速度でアルムは彼女の手を押さえる。こんな所で暴れては本格的にアルテシアから睨まれることとなってしまう。
「……あの、アルム?」
「何だ? 戦闘したい病気は静まったか?」
「…………その、手、いつまでそのままなの?」
仄かに頬を赤くしながらウィスナが静かに抗議する。そこでようやくアルムは手を握っていたことに気付けた。
「ああ、悪かったな」
「……別に、悪くはない、けど」
「どっちなんだよ。ん、どうしたイーリス?」
「べ、べべべ別に! 何でもありませんよ! ええ! ありません!」
何故かアルムの手にじーっと視線を集中させていたイーリスが指摘された途端、慌てて顔を逸らす。彼女の頬も何だか紅みがかっていた。
彼としては全く何がどうなっているのか分からないので、エイルの方へ助けを求めるように、顔を向けた。
「あんたってそのうち刺されそうね。なんかこう、ザクっと」
「……意味が分からんぞエイル」
「お~い、俺をそっちのけで盛り上がらないでくれると悲しくならなくて済むな~俺、今めっちゃひとりぼっちで寂しいんだが~?」
サイハが掴んでいたジョッキをぷらぷらとさせていた。ジョッキの中身は黄金色に輝く麦酒であった。
「アルム、お前は飲めないのか?」
「いざ戦闘になった時、思考が回らないからな。だから俺は飲まないことにしている」
「お、そういうことだったら今はいいだろ! 飲もうぜ! おーいそこの美人給仕さん! こいつにも――」
「いらん。というか結局お前は何をしにここへ来たんだ? お前は冒険者じゃないだろう」
実際、他の冒険者は遠巻きにアルム達のテーブルを眺めていた。物珍しい、というよりはどちらかというと、またかといったような眼である。
「冒険者じゃなかったらここへ飲みに来ちゃいけないルールはないだろ? それにさ、他の酒場じゃあちょっと物足りねえんだよな。何せ!」
そう言うとサイハはジョッキを持って立ち上がり、別のテーブルで飲んでいる冒険者達を見回した。そして杯を高々と掲げる。
「ここにいる奴らは皆、未知を求めている馬鹿野郎共だ! そんな奴らがいるこの酒場に来ないなんてそんな馬鹿な話はない! なあそうだろお前ら!」
呼応するように、様々なテーブルの冒険者達が杯を掲げた。
その光景に圧倒されるアルム達。ノリが良い、というだけではこうまではいかないだろう。
そこでアルムは通りかかった同業者を一人捕まえる。
「なあ、サイハ・ウィードナーって何なんだ?」
「え、アルムお前知らなかったのか? あいつ変な奴でさ。サイファル王国の治安維持部隊のくせに俺達冒険者と飲みたがる奴だぞ?」
「確かに治安維持部隊は中々こういう場所に来るイメージは抱きづらい、な」
「ああ。俺も最初はそう思って警戒してたんだけど、これがまた気前の良い奴でな。ふらっと現れては飲んでいる冒険者達に奢って、そこに交じってどんちゃん騒ぎよ」
完璧に想像が出来てしまう。爽やかな奴だというのは最初に抱いていた印象だったが、今こうして話している内にだんだんその印象も変わって来た。
人懐っこい、というのだろうか。誰とでも分け隔てなく接しようとする気概が見える。
そういう人間に対しては非常に好印象を抱くアルムであった。
教えてくれた冒険者が去った直後、サイハが肩を掴んできた。
「おいアルム~! やっぱり俺と飲もうぜ~! 奢ってやるからさ!」
「二度も同じことを言わせるな。それで、本当に何の用があって来たんだよ? 悪いが俺は、お前が偶然来たとはとてもじゃないが思えん」
それを聞いたサイハは、少しだけ表情を引き締め、椅子へ腰かける。
「まあ、あれだ。イーリスちゃんやウィスナちゃん、それにエイルちゃんからするとちょっと面白くない話だと思うんだけど……」
たった一度しか言っていないのに、ウィスナとエイルの名前をしっかりと覚えていたサイハの抜け目なさ。他の皆は気づいていないが、一人だけ気づいていたアルムは少しだけ口角を吊り上げる。
「最近、この王都で女ばかりを狙った誘拐事件が起こっていてな。それで、俺はその情報収集でこっそりと王都を駆け回っているって訳」
喋って喉が渇いたのか、サイハはジョッキの中にある麦酒を一気に飲み干した。
対するアルム一行はさらりと出たその内容に対し、思わず呆れたような表情を浮かべる。
――それは酒場で喋ってもいい内容なのだろうか。
イーリスの中にいるヴァイフリングですら皆と全く同じ感想を抱いた。
「……あ、やべ。ちょっと声大きすぎたか?」
当のサイハは思った以上に出た自身の声量に、少しだけ酔いを醒ましてしまっていた。
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