香帆と鬼人族シリーズ

巴月のん

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1129(いいにく)の日

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最近、八尋やひろ先輩が髪の色を変えているのはどうも私に対する抗議のようなものらしい。
以前は暗めの茶色だったが、今は明るめの黄土色だ。律儀にも茶系を脱していないあたりそんなに怒ってはいないらしい。でも、拗ねている感はある。事実、とらさんがいうには、未だに誕生日にお触り出来ないことを愚痴っているらしいとのこと。
今だって、八尋先輩は手を繋いで歩いてはくれているけれど、恨みがましい目で時々見てくる時がある。

(うーん、八尋先輩はまだお触り禁止にしたことを根に持っているみたいだなぁ。)

香帆かほは、ふと空腹であることに気づいて機嫌取りも兼ねて食事に誘ってみた。八尋もお腹がすいていたのか、簡単に話に乗ってきた。

「・・・・八尋先輩、焼肉食べに行きたいです」
「・・・・・肉か、いいじゃん!そういえば、今日は11月29日だっけ。じゃあ、丁度よいネー」
「いい肉の日ですもんね。じゃ、行きましょう♪」

学校の帰り道で、ふと思いついたことだが意外に、八尋には効果があったらしい。お腹がすいていることもあって、2人で方向を変えて焼き肉屋へと向かった。

だけれど・・・・香帆は今、焼き肉屋に寄ったことを後悔していた。向かい側ではだらだらと冷や汗を垂らしている八尋が小さくなって座っている。
そんな八尋をよそに、笑いながら香帆達に話しかけてきているこの店員さん、名前を真希まきさんというのだが、まさかの八尋の・・・・昔の遊び相手だった。
しかも、何がすごいって、スタイルがスゴイ良くて、胸がボインさん。

(・・・・私のBカップのペチャパイとは大違いだなぁ。)

「・・・もー八尋ってば、久々に来てくれるなんて嬉しい。ここに来たってことは今夜OKってことよね?」
「・・・私、この肉を食べたら帰りますね」
「香帆、チガウうぅううっ、お願いだから見捨てないでッ!こいつとはとっくの昔に切れてるから!!」
「あっ、ひどーいっ!!」
「ヒドイのはお前だ、香帆が俺の愛する彼女だってとっくに気づいている癖に!」
「え、マジで彼女だったの・・・だって・・・前と趣味が違うじゃん。胸とかさ・・・」
「胸で選んだわけじゃねぇっつーの。この子にマジで本気だから変なこと言うなってば!!」

真希が香帆の胸の方をちらっと眺めやったのを見て八尋が真顔になる。それだけで意味が通じるのはなぜだろう。この人、絶対、私の胸を見て鼻で笑っていたよなぁ。で、それを八尋がたしなめたと。

(・・・そういえば、付き合う前にみた歴代の彼女はどの人も胸がでかかったなぁ・・・。)

遠い目で余計なことまで思い出してしまった香帆は、無言でメニュー表を見ている。八尋のことなどしったこっちゃないとばかりに。

「・・・・香帆サン、あのー?」
「んー、このコースがおいしそう。コレをお願いします」
「はーい、毎度ありがとうございます~♪」

香帆は注文して出てきた商品を全て焼きまくり、三分の一ほどは自分に、それ以外を全て八尋の皿へと盛っていく。無言で淡々と盛っていく様子を見ていた八尋も、さすがに香帆が不機嫌になっていることに気づいた。

「・・・あ、あのぅ、山盛りになってますが」
「うん、いっぱい食べてくださいね?大丈夫、今日は奢りますから」

奢ると言われては何も言い返せない。八尋はちらっと香帆を見ながら恐る恐る口に肉を入れた。すると、香帆がいきなりスマホを取り出してどこかに電話をしだした。

「もしもし・・・あ、虎矢さん、今どこにいます?え、彼女もいる?丁度良いですね、近くの焼肉屋さんにいるんですよ。奢りますから来ませんか・・・え、奢ってくれる・・・いえいえ、あることに協力してもらうお礼ですから・・・はい、すぐに来れます?・・・はい、じゃ、また後で」
「ぶはっ!!」

いきなり、虎矢という悪友の名前が出たことに驚き、口に含んでいた肉を吐きだした。しかも、なぜか店員の真希も唖然とした顔で立っていた。

「・・・か、香帆・・・・?」
「今、虎矢に連絡とってた?やだ、なんでアイツを呼び寄せられるの?」

2人が驚いている最中にガラッと扉が開き、真っ赤な髪をした男が現れ、同時にぱっつん黒髪ロングの高校生がひょいっと姿を見せた。

「呼ばれて参上!とら たかしだぜ~!」
「・・・・香帆、来た」
莉里りりちゃん、虎矢さん、来てくれてありがとうございます!!」

とぉっとポーズをとる虎矢と、それを無視して香帆の傍にやってきて座りだす莉里。どこまでも2人そろってマイペースだった。そんな2人を香帆は嬉しそうに迎え入れた。

「うっわ・・マジで来た。あんた・・・なんで来るのよ。他人の言うことなんか聞くタイプじゃなかったっしょ」
「あれ、誰かと思ったらカール真希じゃん。元レディースなんたらの」
「その呼び名はもう忘れてっ!で、なんで来たのよ?」
「こちらの香帆ちゃんはねー俺のキューピット様ナンダヨー」
「え・・・?」
「あ、こっちは莉里ね、俺の世界一大事な彼女。香帆ちゃんのお蔭でこの子と付き合えたワケ。そんな香帆様の頼みならいくらでも呼ばれますっつー話。おわかりー?」

八尋の真似で語尾を伸ばして答えてから莉里の隣へと座ろうとする。それを制止した香帆が莉里に何やら話しかけた上で、虎矢を真ん中にする形に位置を変えて座った。・・・・三人を前にした八尋は自分の席側に誰もいないことに嫌な予感を感じたが、今さら位置をとはいえない。
そして、虎矢のかわりようにも驚いた真希も唖然と口をあけっぱなしで立ち尽くしていた。それぐらいに虎矢が他人の言うことを聞くのは珍しいのだ。

「じゃ、虎矢さん、莉里、食べようか?」
「はいはーい」
「・・・これ、食べたい」
「はいはいっ、いくらでも注文していいからねー?」

莉里が指さした肉を次々と注文していく虎矢に顔を引きつらせながら、真希は注文された肉を次々とテーブルへと置いた。

「・・・・ああ、焼けてきましたね・・・じゃ、どうぞ、虎矢さん」
「え、いいの?あーんっ」
「ちょ、ちょっと香帆、なんで虎矢にお口あーんしてるのっ!それにそれ、間接キスデショ―?」
「・・・隆、こっち」
「はーい、あーんっ!」
「うふふ、モテモテですねー虎矢さん」
「そーだねー、可愛い2人に挟まれて俺困っちゃうな。なー八尋?」
「・・・くっそ、このためかよ・・・うう、食べきれるか、俺」

げふぅと目の前でまだ残っている肉を眺めながら八尋は悔しそうに肉を噛んでいる。最初から虎矢を呼び出すつもりでこういうことをしたわけかと遠い目になった。
真希は真希で、他の客に対応しながらも、ちらちらとこっちを気にしている。

「・・・・ふう、ごちそう様、うまかった」
「・・・・美味」
「じゃ、出ましょうか」
「ちょ、ちょっと待って、香帆ぉおおお!」

虎矢と莉里が満足そうな顔をして出ていこうとする。そして香帆もさりげなく出ていこうとしていたところを慌てて八尋が引き止めた。ちなみに八尋の目の前にはまだ崩れかけの肉が残っている。
そっと腰を引き寄せ、耳元で囁きながら八尋は香帆を抱きしめた。

「なぁ、香帆・・・機嫌直して?この通り、俺はお前以外見てないよ?」

さり気にそっと太ももを撫でる八尋。香帆の短い制服のスカートがわずかにめくれたが、香帆はそれを気にしなかった。それどころか、八尋の首に腕をまわし・・・その時、さり気に八尋の身体に自分の身体を密着させて、八尋の股あたりに太ももを擦りつけ、八尋の耳たぶを舌で舐めながら小さい声でささやく。(ちなみにこの言動は虎矢と莉里が嫌がらせで仕込んだ成果である。)


「八尋先輩、お触りはまだ禁止中です・・・私、クリスマスの夜を楽しみにしているんですよ?」
「(ゴクリ)・・・うんうん、俺もダヨ?」
「じゃあ、我慢してください」
「あのー、香帆さん、めっちゃ胸とか擦りつけてません?アソコに太ももぐりぐりされて我慢できない男はいませんヨー?」
「じゃあ、奢ってください?そしたら・・・いいコトしたげます」
「はいっ、いくらでも奢りますとも!!」

八尋が元気よく返事すると、香帆はよくできましたと言わんばかりに、うなじにそっとキスしてから離れ出した。そして、虎矢と莉里のところへ近寄って晴れやかな笑顔で小悪魔ばりに宣言した。

「やった、八尋先輩が全部奢ってくれるそうですー!!」
「マジでー!!あざーっす、八尋!」
「ありがと・・・さすが、族長―」

きゃっきゃっと盛り上がった三人は扉を閉めて消えていった。
残されたのは、手のやり場がなく真っ白に固まってしまった八尋のみ。それを眺めていた真希はぼそりと呟いた。

「うん、あの子なら間違いなく、あなたの特別になれるわね。他の誰でも貴方をそんな風に固まらせることなんてできなかったもの」
「・・・香帆は、最近小悪魔になっちゃってるんダヨ。うう、俺の下半身―くっそ!!」
「がっかりしているところ、悪いけれど5万コース×4人分+その他もろもろ含めて合計で24万5000円よ」
「ふあっ!!!!???」

財布を取り出した八尋は真希の言葉でさらに驚き、財布とレジの表示された金額を見比べ、ポツリと呟いた。

「・・・残りはツケにしといて。次来るとき払う」
「本当に天下の鬼神とまで恐れられた2人が牙を抜かれてるのをみることになるなんてね。で、今夜はどう?」
「オコトワリ。俺、今、凄く我慢して楽しみを封印してんのよ。その方がさ、爆発した時にめっちゃくちゃ快感得られそージャン?それにさ、今の俺をたせられるの、彼女だけだから。おわかりー?」

ニヤリと微笑んだ八尋を見送った真希は苦笑いでポツリと呟いた。



「・・・・香帆ちゃん恐るべし、ね。あの我慢知らずの男をマテとオスワリさせるなんて」




一方、帰り道を歩いていた3人はというと。

「・・・・ちょっとやりすぎちゃったかも。まぁ、いいですか・・・」

香帆は心臓をドキドキさせたまま、ふうと深呼吸していた。隣では虎矢と莉里が大丈夫大丈夫と頷いている。

「いいんじゃないーあれぐらいやった方が八尋もいい薬になるし」
「うん・・・・男は待たせてナンボ」
「香帆ちゃんも莉里もいい子だから待たせても許されるだろうね。・・・・あ、八尋が来た」
「本当」
「・・・・・香帆ぉ!!!まだ怒ってる?あの女はほっんとうに過去の女だから!!」
「・・・怒ってませんよ」
「ほんとーに?」

影に気づいた三人は少し立ち止まって会話を続けていた。次第に影が大きくなり、走ってきた八尋の姿が現れた。
八尋は息を切らせながらまっすぐ香帆のところへ突進して抱きしめた。その暑苦しい彼氏を押し返すことをせず、ため息をついた香帆は八尋の髪を撫でながら笑った。

「怒ってませんよ。だって、八尋先輩の女狂いの話はそれこそ有名な話ですもんね」
「・・・・・・香帆さんっ“!!もうそれこそ過去の話ですぅうう!今は香帆一筋ぃい!!」
「そんなことないですよーだって族の皆さんが族長ってすごい、英雄ってすごいっすね!ってペラペラと話してくれますから。今でもきっと女狂いなんでしょうーねー」
「いやいや、マジで香帆以外の女いないから!!見てよーこのスマホの電話帳!!」
「はいはい、スゴイですねー八尋先輩は」
「香帆さんや――聞いてますかー?」

ひっつく八尋を無視した香帆は莉里と話し込みながら歩き出した。それに項垂れつつ、後を追う八尋と、それを腹を抱えながら眺めつつ歩き出した虎矢の姿があったとかなかったとか。



「はっはー、ばーか、ばーか!」
「うっせーー!!というか、何を余計なことを吹き込んでるんだよー!!!」




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