香帆と鬼人族シリーズ

巴月のん

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思い出は重なっていくもの

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※少し死者に対する想いがつまっています。後、交通事故に関する表現があります。
気にされる方はUターンお願いします。
念のためフィクションであることを頭に入れてお読みくださいませ。







香帆は、通学路で鯉のぼりをみかけて複雑な気持ちになった。
今日は休みだから、とあるところへ行こうと思って、仏花を抱えて外へ出ている。
やっぱりというか、端午の節句ということもあり、あちこちの家で鯉が空を泳いでいるのが見えた。

5月になるたびに強く思います。
何故あの日、自分は見送れなかったのかと。
まさか、事故に遭うとは思わなかった。
きっと、両親だってそう思っていたことでしょうに。
相手の飲酒事故のせいであっけなく命を散らした父母。

どんな思いで、どんな気持ちでいたのでしょうか・・・あの、最後の一瞬。

きっと、何も考える間もなかったのだろう。
あの日、病院からの電話を取った私の様に。

『もしもし、聞いていらっしゃいますか?』

電話から聞こえる声に崩れ落ちたあの日、お兄ちゃん達がいなければきっと立てませんでした。今思えば、あの日全員揃っていたのは何らかの予感があったのだろうかと思います。

『香帆、どうした、大丈夫かっ?』
『・・・お父さんとお母さんがっ・・・・』
『なんだと・・・・もしもし、どういうことですか・・・え、交通事故!?』

真帆お兄ちゃんが電話でやりとりをする声を最後に、香帆は倒れた。
そして、香帆が我に返った時はもう葬式の真っ最中だった。

お兄ちゃん達が警察と話してるのもうっすら記憶に残っています。

向こうの運転手は子どもを2人持つ父親だった。彼は逮捕されたが、その時に、子どもの1人が事故によって投げ出されて死んでいる。
もうすぐ子どもの日ということで、小さな鯉のぼりを手に掴んでいたという。
皮肉なことに、その時、香帆の両親も、鯉のぼりをモチーフにしたケーキを配達のために車に積んでいた。

香帆が両親のことに思いを馳せてぼんやりと鯉のぼりを見つめていたその時、いきなり何かが横切り、目の前に顔が出てきたことに驚いた。

「・・・きゃっ!?」
「驚いた?驚いたよね~!!」
「びっくりしました、八尋先輩・・・それ、菖蒲しょうぶですか?」

香帆の眼前に顔を見せたのは、菖蒲の束を持っていた八尋だった。

「あーこれね、近所から菖蒲湯にどうですかっていっぱいもらったのー。だから、お世話になっているマスターにあげようかなって思って持ってきたのね。あっ、香帆の分は夜に渡すから、心配しないでー?」
「菖蒲・・あ、ありがとうございます」
「声だけ聞くと、戦いの方の勝負っぽいヨネ~。どうしたの、香帆?」
「いいえ。懐かしい、と思っただけですから」

首を振って、ふと思い出した。

「あれ・・・ってことは、今日はアジトの方へ行くんですよね?」
「うん、そーだよ?」
「・・・方向が違いますよ?どうしてこちらに?」
「それがねー。珍しく頼まれたのよ・・・真帆さんや志帆さんに」
「何を、ですか?」
「今日だけは、香帆の送り迎えをしてほしいって。ちょっと遅くなってしまったけれど、会えたから結果オーライだねー」
「・・・お兄ちゃん達ってば」
「しょうがないよー、みんな仕事なんでしょ?よしよし・・・俺と一緒に行こうね。アジトはその後に行くよ~」

解ってるとばかりに香帆の頭を撫でてくる八尋。
この様子からして、兄達は話したのだろう、今日が両親の命日であることを。

「ありがとうございます」
「どういたしまして~。とはいえ、何も持ってきてないってのも申し訳ないなと思ったから、ちまきを持ってきたよ~お供えした後で食べようね?」
「もしかして!!」
「そー、前に言った俺の手作り粽ね~。言ったデショ、約束は守るよー」

(少し前に風邪を引いた時、和菓子の話題が出て、もうすぐ端午の節句だから、粽をつくろうかなと先輩が言っていたんだった。)

それを聞いていた香帆は思わず食べてみたいと言ってしまった。恥ずかしくて、慌てて口を閉じたのだが、八尋は、作ったら一番に香帆にあげるねと約束してくれたのだ。

「覚えていてくれたんですね。ありがとうございます」
「えへー、滅多にない彼女のおねだりに応えなきゃ、彼氏たる資格なんぞないしねー」

歩きながらあれこれと話をする。有名な神宮の近くにある
赤福あかふくもちが美味しいという話から始まり、何故かついたちもちの話になった。

「やっぱ、地元の人はいいよねー。美味しい餅をすぐに食べられるもん。あの餅って日持ちしないんでしょ?」
「そうですね、それだけに人気がありますよね」

そんなこんなで食い意地張った会話をしていると墓地へ着いた。

「水を持っていくから先に行ってて。方向はどっち?」
「あ、あっちです」
「リョーカイ」

気が利く八尋にお礼を言ってから、香帆は両親の墓前に立った。一礼してから、まずは墓掃除からと、草むしりにいそしみ、落ち葉を集めて捨てた。その間に八尋も、バケツの水で墓を洗ってくれていた。

「綺麗になりましたね」
「だね。苔がなくなってピカピカー」
「ふふ、最後に挨拶して終わりましょうか」

片付けを終えて、2人で仏花を入れたり、お供え物をささげたりして、最後に手を合わせた。

あれから数年。
あまり家に帰らなかったお兄ちゃん達は嘘のように家にいるようになりました。
暴走族もやめて、働くようになって。
私と進路のことを話すようになり、以前はなかった会話も増えて・・・。
いろいろと、お兄ちゃんについて知ることも増えたし、お父さんやお母さんの想いも聞くことが出来ましたね。

「お父さんはさ、香帆が生まれた時すごく喜んでいてさあ。ウザかったな」
「そうそう、俺達可愛げがないから娘が生まれて嬉しいんだぞとか言ってた」
「お父さん、チョコケーキだけは苦手だったのに、香帆がチョコケーキが好きとか言うから、泣く泣く作るようになったものね」

色々と、知らなかったことが増えていく。
お兄ちゃんからの話からは、私が知らなかっただけで、私に対して愛情を持っていたことも窺えました。
嬉しいけれど、もっと早く知りたかったなとも思います。
今思うと、お父さんは口下手だったのでしょうか。
お母さんも優しかったけれど忙しそうで、なかなか話が出来ませんでした。

今なら、たくさん話したいことがありますし、相談だってしたいです。

大学のこととか・・・恋愛のこととか、そういえば、お母さんと恋愛の話ってしたことがなかったっけ・・お母さんなら何て言うかな、先輩のこと。
あら、かっこいい人ねーいい人を見つけたじゃないとか言いそうですね。

(お父さん、お母さん・・・もう、私は大丈夫です。今なら、笑ってありがとうって言えます。お兄ちゃん達もいるし、莉里ちゃんもいるし、八尋先輩もいてくれますから。)

「そうだ、自己紹介しないと」
「え?」
「香帆の彼氏の、龍野八尋です。一応族やってますが、将来は医者になる予定でいるので心配無用です。安心して香帆さんを預けてください」
「や、八尋先輩っ!?」
「え、結婚できないとか言わないでよー?」
「・・・する気あったんですね」
「ひどっ!ちょ、待って、香帆さんは俺を捨てるつもりなのー?ダメだからね、ダメー!ここで誓って、はい、ほら、俺と結婚しますって言ってよ~!」
「・・・・・・こんな先輩ですが、初めての彼氏です。これからも一緒にいられたらと思っています」
「うう、ひどいですよー、香帆さんや」

お辞儀をしてから、両親の墓から離れた。未だにグチグチと言っている八尋に呆れたが、敢えて何も言わなかった。

(それにしても、結婚かあ。もうすぐ先輩も卒業だし・・・いい加減に進路を決めたいといけませんよね。)

「あ、そうだ。ついでだから、俺の母さんの墓にも行こうよー」
「・・・先輩のお母さん・・・そうですね、でも、私がいいんでしょうか?」
「未来のお嫁さんなんだから別にいいんじゃないー?よし、丁度粽もまだ食べてないし、お供えしに行こうっと」

八尋は繋いでいた香帆の手を引っ張って母親の墓があるほうへと向かって行った。思っていたより近くにあることに驚いた。

「そんなに離れてないですね」
「そうだね、俺もびっくりだよー」

相槌をうちながら、八尋は母親の墓の前に粽を備えた。掃除はと聞くと、先週に父親が墓掃除をしたばかりだから大丈夫ということでやらなかった。
ここでも同じように手を合わせるが、香帆には何を祈っていいのか思いつかなかった。とりあえず、思っていることを祈ってみた。隣では八尋が何やら報告していたが、スルーすることにした。

「こっちが香帆っていって、俺の彼女さん。すっごくいい子でね、将来結婚するつもりでいるのよー」
「先輩・・・恥ずかしいから!!!」
「母さんとの約束通り、香帆には看護婦を勧めるつもりないから安心してねー。あっ、香帆もね。俺さ、母さんが色々苦労したのを知ってるから、香帆には自分のしたいことをしてもらいたいなって思ってるの~」
「そう、だったんですか?」
「そうなのよー、だから、香帆が行きたい大学に行けばいいよ。お医者さんになりたいって言っても、親父の後を継ぐだけで、でっかいところへ行くつもりはないから」
「・・・先輩、真帆お兄ちゃんに何か聞いてますよね?」
「詳しくは聞いてないよー。ただ、俺の考えをちゃんと伝えてくれとは言われたけれどね~。こんな時でもないと話せないし・・・え、怒った?ちょ、拗ねないで?」
「怒ってませんよ、先輩には」
「はう、真帆さんにも怒らないでやってね?後から俺が殺されるカラ」

恐る恐るとばかりに口を開いた八尋に、香帆はため息をついた。そして八尋の母の名前が書かれた墓前の前で、もう一度手を合わせた。

「結婚するかどうかは解りませんが、八尋先輩がいいって言う限りは、傍にいたいと思っています。できるなら両親のようにお互いの仕事を尊重できる夫婦になれたら、嬉しいです。・・・無理かもですが」
「香帆さん、あげて落とすのやめてくださいっ!!!」

思わず顔文字みたいになっちゃうよ?といった八尋のツッコミはスルーした。もうすることなすこと終わったので、墓地の帰り道にあったベンチで粽を食べることにした。

「あ、これ・・・美味しいです!」
「良かった。これね、父さんに教わったんだよ・・・母さんが良く作っていたんだって」
「え、そうなんですか?」
「これを教わるまで、父さんはヒドイ仕事人間だって思ってたんだよねー。でも、そうじゃなかったみたいでさ。俺が見ていない所でちゃんと夫婦だったんだってその時解ってねー。それから父さんへの考えを改めたってカンジ」
「そうだったんですか・・・」
「またお父さんにも会ってね・・・俺としてはあまり会わせたくないおっさんだけれど」
「楽しみにしています」

粽を食べ終えた2人は再び歩き出した。
歩く時に、また鯉のぼりが見えたが、香帆は不思議といつものような気分にならなかった。

(・・・先輩が傍にいるからかな。)

手の温もりが温かいからというのもありそうだと、香帆は微笑む。 
それを見た八尋が何故か、香帆可愛い―!と言って抱きしめたのだが、当の香帆はきょとんとしたまま。

「・・・香帆、マジ可愛い。アジトに行くのやっぱりやめようかな」
「いってらっしゃい。また夜に来てくれるんですよね?」
「まあ、うん・・・菖蒲を持って伺うからね~」
「じゃあ、またねー」
「はい。ありがとうございました」

八尋先輩を見送った後、香帆はお兄ちゃん達に久々に電話をかけようとスマホを取り出した。
今日のお礼と、いつもの感謝を改めて伝えるために。


「・・・ありがとうございます」


今年の子どもの日は、家族写真を飾って、小さな鯉のぼりも飾って、新聞で兜を作って・・・ケーキの代わりに団子を食べて・・・最後は菖蒲湯に浸かろう。

両親のことを忘れるわけじゃない。でも、両親と過ごした思い出を重ねていきたいと思った。 
昔、両親がしてくれたと、お兄ちゃん達が言っていたことを思いだしたから。

両親との思い出があるせっかくの日を、悲しんで過ごしたくないと思えたのも、先輩がいてくれたお陰かも知れない。


「まだ寂しいけれど、お父さんとお母さんに教わったことを・・・忘れたくないって思いました。だから、前に一歩進んでいいですよね?」




誰もいない部屋で呟いた香帆の表情は、朝と打って変わって明るくなっていた。





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