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私は先輩のなんだろう?
しおりを挟む「頼むよ、田城。お前から龍野に対して注意してくれんかね」
「・・・私が話して聞くかどうかはわかりませんが」
「何、あいつもお前が言うことならば聞くだろうと思う。すまんが、頼むよ」
「はい」
私はお母さんになったつもりはないんですけど。
先輩はどう思ってくれてるのかな・・・。
なんだか、先輩を怒ってばかりで・・・・なんだろう・・・・怒りたいわけじゃないのに。
なんだろう、このもやもや感。
香帆は困っていた。
ことは、以前に、委員会に行った時に、3年A組の委員長から相談を受けたことがきっかけである。
昼休みということで、弁当をもって屋上へ行く途中で、香帆が莉里に話しかけた。
「うーん、どうしたらいいと思いますか?」
「何が」
莉里が話しかけてきたので、悩みを打ち明けた所、眉を顰められた。
「・・・森宮先生からも?」
「そうです。生徒会の顧問、生徒指導の担当で。A組の担任でもありますので」
「ああ、なるほど」
納得と頷いた莉里に、香帆は話を続けた。
「・・・先輩が受験生ということで、ここ最近は真面目に授業を受けているんですよ」
「いいこと」
「でも、いちいちそれ違うーとか直されたり、先生の解説が解りにくいとか、エグイ質問されたりとかで・・・そういうのをわざとしているらしいです」
「・・・ああ」
「これなら、まださぼっていた方が良かったと泣きついた先生たちが森宮先生に文句を言っているらしくて大変そうでした」
「薄い髪・・・なくなるかもね?」
「そんな怖いことを。で、3Aの委員長からも・・・。八尋先輩が図書部に残る気満々でOG枠作れとか言っているみたいで、止めさせてほしいと。先輩は私が卒業するまで図書部の幽霊部員でいたいとかいっているらしくて」
「ウザい」
「ですよね。私もさすがに・・・」
「つまり、それらを」
「はい、止めさせたいと」
そら、悩むわと納得した莉里は、屋上のドアを開けた。屋上は、八尋や虎矢のテリトリーだが、当然のように2人は入ることを許されている。
最初は、香帆は遠慮して、教室や庭で食べていたが、八尋がどこに行っても現れるせいで周り(主に八尋がらみの子)が煩かったため、屋上に出入りするようになった。その時に、莉里も一緒に行っていたため、自然と2人一緒に行くことが増えた。
いつもの場所に座って待っていると、噂の八尋と虎矢がやってきた。
八尋はというと、香帆を見るなり、隣にすっ飛んで座った。今日もコンビニでサンドイッチを買ってきたのだろう、袋を開けている。
莉里の隣には虎矢が座り、莉里が持ってきていた弁当を広げ出した。弁当を食べている間にも、香帆はどう切り出すか悩んでいた。
「うーん・・・」
「どうしたの、香帆?」
「なんでもないです、龍野先輩」
「香帆さんや、絶対何があったよねっ!?呼び方が、名字に戻ってる時って絶対ろくなことがない!!」
サンドイッチを飲み込みながら、香帆の肩を揺する八尋だが、香帆は答えようとしない。
黙々とひたすら、弁当を食べ続けている。
二人のやりとりを見ていた虎矢が、口を開いた。
「そういえばさ、ヘビに聞いたけれど・・・なんか生徒指導の森宮に呼ばれたって?」
「そうなのっ?」
「ええ。呼ばれたって言っても、私自身のことじゃないですよ?」
「もしかして、俺絡みデスカ・・・?」
「先輩、正座してください」
「・・・ハイ」
香帆に言われて、胡坐を正座にと直す。香帆と八尋がお互いに向かい合う形になる。莉里と虎矢は、他人事とばかりに見物状態だ。
「先生や委員長を困らせないでください」
「うっぐ・・・でも、でも、解らない所は質問して当然だと思うの!」
「先輩、答えを解っていて、意地悪を言うのは質問になっていません」
「で、でも・・・解説が解りにくいし・・・!!」
「だからといって、自分が指名されたときに難癖をいうのは筋違いってもんですよ?」
「なんで、そんな詳しいのっ・・・!!」
「森宮先生が、本当かどうかこっそりと視察しに行ったそうですよ。特に英語が一番ひどかったと」
「・・・・・」
「あー、確かに英語は面白かった。リスニング苦手だからって、黒板に先生が頑張って書いた英文を思いっきり消して、その上に答えをかいちゃったんだよねー」
「・・・やればよかった」
「え、そっちですか、莉里ちゃん!!」
莉里が呆れるかと思ったが、逆に目を輝かせていた。そういえば、莉里も英語が苦手なんだったと思い直した香帆は、莉里にやらないでくださいねと釘を刺した。
莉里に注意した後、香帆は再び八尋に向き直り、持ってきていた小さな鞄からDVDを取り出した。
「それ何なのー?」
「これには、私と真帆お兄ちゃんの英会話の動画とか、私の声を録音したデータとかが、まるっと入っています」
「はいはい、香帆ちゃーーんっ、ちょっと待って、なんでそんなデータを?それに、なんで真帆さんが絡んでるのかさっぱりなんだけれどー?」
突然の発言に驚いたのか、虎矢が手をあげだした。八尋も聞きたかったことなので黙って聞いていたが、香帆がそれに当然とばかりに答えた。
「真帆お兄ちゃんは塾の講師をやっていて、すごく教え方が上手なんです。嵐お兄ちゃんにもいろいろと教えた経験があるので、お願いして、そのノウハウを詰め込んだ動画とか、いろいろと作ってもらいました。これで、先輩も少しは勉強に身が入るかなって思いまして」
へぇと驚く虎矢に、莉里も羨ましそうな表情になった。当然八尋は言わずもがな、思いっきりその餌に食いついた。
「なにソレ、超欲しいんだけれど・・・!!!」
八尋が伸ばしてきた手を止めた香帆は、八尋の額に指をつきつけて真剣な声で聞いた。
「二度と、学校で迷惑がかかるようなことをしないって約束してくれますか?」
「うっ・・・・」
「私のいとこの嵐お兄ちゃんも先輩に似てました。賢いからこそ、退屈してふざけてしまうっていうのは解るって聞きました。でも、だからといって他の人に迷惑をかけちゃだめですよね?」
「・・・・・・・・うう」
「・・・もし、私がそこにいたらどうしてました?」
「うっ、そりゃもちろん、静かにするに決まって」
「先輩・・・もし今後改善できないというのなら、このデータは没収の上に」
「う、上に・・・・?」
「別れま・・・」
「ませんっ!!!すみません、もう二度やりません。だから、お願いっ!!それ頂戴!!!」
最後は、八尋の土下座が発動し、香帆の勝利が確定。香帆は悩みが無くなったことですっきりとした笑顔を見せた。八尋はそっと掌を広げて懇願するが、放課後までお預けだということで不満気に。
「なんでなのー?」
「それは放課後に謝罪が必要だからです」
「えええ・・・」
「このデータは捨てましょうね。丁度屋上ですし、バッチリと割れそうです」
「待って、待ってぇえ!喜んで行かせていただきます、深く反省しておりますので、お願いっ、投げようとしないでぇえええええ!」
あっさりと掌を返し、香帆に懇願している八尋はいい性格をしているなぁと改めて思った莉里と虎矢である。
「八尋らしい謝り方」
「でも、香帆は本気」
「八尋、心を込めて謝っとけよー!!俺は庇えないからなっ!」
放課後、八尋は森宮先生の前に連れていかれ、職員室の先生一同に謝罪をした上に、誓約書まで書かされた。職員室にいた被害者の会一同は万歳し、香帆に感謝の握手までしていた。
「田城、よくやってくれた」
「本当に・・・これで、ようやく授業にも平和が・・・!!」
「ありがたい。さすがは委員長だ。森宮先生の判断は正しかったな」
「い、いえ・・・私はできることをしただけで」
書いた誓約書を森宮先生に渡した八尋は複雑そうだった。当の香帆が先生たちにお礼を言われる辺り、自分が悪いのだろうが、香帆が褒められるのは悪い気がしない。
八尋が呟くと、森宮先生が笑いながら、話にのってきた。
「んー、なんか、自分がダメダメな気がしてきた」
「元々だろうが、お前の場合は」
「森宮~、香帆に告げ口しないでよう。すっごい説教されたんだからさ」
「彼女以外じゃ、反省すらしない癖に何を言うか。まぁ、田城には感謝だな。そうそう、図書部についてだが、委員長に文句を言うなよ。そっちはさすがにどうにもならん」
「ええーっ、香帆が心配なのにぃいいいいい。可愛い香帆がナンパされたらどうするのさー?」
「・・・心配するな、誰もお前の彼女に手を出さんよ。嫉妬に狂ったお前のファンとか彼女はしらんが。誰かしら、忠告するやつはいる。お前の部下とかも田城のクラスにいるんだ。何より・・・」
「痛いとこつかないで・・・何より?」
「田城は真っすぐで誠実な生徒だ、本当にお前以外を好きになったらはっきりという。そうでなければ、お前が惚れるはずがないだろう?」
「森宮ってなんだかんだ言っても、先生なんだね」
「お前は俺をなんだと思っとるんだ・・・まぁ、入学当初と比べれば、お前も良い顔になったぞ。おおーい、田城、誓約書は確認したから帰っていいぞ。龍野も連れて帰ってくれ、お疲れ」
「コイツとか言うなよー。・・・・あざーっした」
「はい、では、失礼します」
職員室を出て、玄関を出る。香帆がバイトに行くので、八尋もついていく。ちなみにその後、八尋はアジトへいく予定だ。ちなみにすでにDVDは八尋の鞄の中にある。
「じゃあ、バイト頑張ってー。今日はヘビもいるみたいだからちょっと安心だけれど、ちゃんと迎えにはいくからね」
「はーい、先輩も頑張ってくださいね」
「もちろんだよー」
「先輩・・・私は先輩のお母さんじゃないんですから。今回はお兄ちゃんが手伝ってくれたから良かったけれど、あまり手間をかけさせないでくださいね?」
「お母さん」
「はい。彼女なのに、お母さんみたいな立場になるのはちょっと悲しいです」
「ああ、うん・・・ごめん。ごめんね、香帆。香帆は俺の彼女だよ・・・」
やっと香帆の言葉の意味を飲み込めたのか、八尋は香帆を抱きしめて何度も謝った。香帆はその時になってようやく、八尋の名前を呼ぶことができた。
「私が・・・八尋先輩の彼女でいいんですか・・・?」
「いいもなにも、彼女に決まってるデショ。・・・ごめんね・・・やっぱり、香帆からは名前で呼ばれる方がいい。最近ちょっと、甘えすぎてごめん」
「・・・私も、ごめんなさい」
やっと、解った。
私がもやもやしていたのは・・・こういうことだったんですね。
先輩の『彼女』だと口にできなかった。
付き合っているけれど、なんだか胸を張れなくて。
うじうじしてて。
でも、世話はしたかったから、エビチリとか作ったり、デートについても口を出していて。
でも、違う。違ったんです。
なんで、気づかなかったんだろう。結局は、気持ちの持ちようだっていうことに。
デートだって、そう。いくら、女の人がいるからって、デートを止めようって言うべきじゃなかった。
私に自信がなかったからって・・・そう、じゃないんですよね。
本当に単純なことだった。
私が胸を張ればよかっただけ。
心配な時には・・・こうしてもっと早く、先輩に聞けばよかった。
先輩は優しいからきっと何度も言ってくれるはず。私が彼女だよって。
でも、黙って、勝手に怒って、勝手にやきもちを妬いて・・・・。
今回、気づかされた。
私は八尋先輩のお母さんになりたかったわけじゃない。
彼女でいたい。
それぐらい、すごく独占欲が強かったんですね、私。
(何なの・・・無自覚で、こんな気持ち抱えていただなんて・・・恥ずかしい、恥ずかしすぎる!!絶対誰から見ても独占欲丸出しだったでしょうに、それなのに、彼女なんて・・ってウジウジしていた自分が情けないです・・・!!)
ようやく、抱きしめあっていた手を放した時には、お互いの目が真っ赤になっていた。香帆が八尋を見上げると、頭を撫でられた。驚いた香帆が顔を向けると、八尋が目を細めて笑った。
「なんかさ、嬉しいなって。なんだろう。今までより香帆が近くにいるって思えるよー」
(・・・これから、よりうざったくなるかもだけれど、改めて彼女としてよろしくお願いします・・・とりあえず、先輩を・・・名前呼びすることが目標・・・かなぁ。)
・・・私は田城香帆。
先輩の・・・ううん、八尋の彼女です。
余談・・・八尋と真帆の電話を盗み聞き。
「・・・真帆さぁあああん。コレはないっっすわ・・・香帆の英語で朗読の続きがまさかの有料って!!」
「あっはっは。だって、そうでもしなきゃ、真剣に英語を聞こうとしないだろう?香帆を丸め込んで言わせたスペシャルな話は効果抜群だったみたいだね」
「嫌がらせっすか・・・ぐぬぬ。い、いくら払えば・・・!!」
「いやぁ、今ちょっとスケジュールが忙しくてね」
「真帆さん、いや、真帆様・・・お願いしますっ!!」
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