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リクエスト小説
莉里と虎矢の出会い(3)莉里目線
しおりを挟む登良野 莉里は、話すことが苦手だ。
理由はいくつかある。
父親が警察のお偉いさんな上に、家庭持ちということで、男性不信になっていたこと。
そして、母親が、自分優先で莉里の意見を尊重しない人間だったということが1番大きい。
自分が話すだけ話して、莉里の言葉を聞こうとしない母親とは、コミュニケーションがうまく成り立たず、莉里は次第に声を出すのが苦手になっていった。
そのせいか、幼稚園でも独りぼっちが多かった。小学校にあがるといじめられることも増えた。
莉里の言葉を誰も受け止めてくれない。
みんな、自分勝手。
自分だけが良かったらそれでいいんだ・・・。
期待が無くなった分、話すことが苦痛になって、余計に声がでなくなった。
さすがに声が出なくなったことに気づいて、世間体を気にした母が病院に連れて行ったところ、精神的なものだと診断を受けた。
そんな環境で過ごして異質的に育った莉里の気持ちが少し改善したのは、小学校の時に会ったツンツン頭の男の子と、中学校で出会った香帆のお蔭である。
特に、香帆とはそれ以来仲が良く、高校にも一緒に行けることになって、ほっとした。その高校では、思いがけなく、男の子とも再会できた・・・・・あっちは自分のことを覚えていなかったが、莉里はすぐに気づいた。
(・・・・・間違いない。あの時の子だ・・・。)
「えっと、いきなりで申し訳ないけれど、別室で話できないかなー?」
「・・・・・・内容による」
「内容は、うーん、簡単に言うと君の友達の情報を知りたいってことかな。あわよくば、君を通して、田城香帆っていう子と知り合えたらと思ってる」
(・・・私のこと、覚えてないんだ。でも、香帆のことを知りたがるって・・・)
「・・・ナンパ、お断り」
「俺は違うからね、どっちかってと最終的には、俺のダチの彼女になってもらえたら・・・・と思ってね」
(そうか、つまり、私は香帆のおまけ。)
再会がそんな感じだったから、最初こそは、関わることに乗り気ではなかった。色々とあって、族長と香帆が付き合ったことで、関わりが深くなってしまったので、さすがに話をせざるを得なかったが。
最初は短かった会話にも、少しずつ長文が加わってきた頃に、何故か、香帆達とWデートという形で遊園地に行くはめになった。しかも、唐突な告白をされた。
「俺と付き合ってもらえるかな・・・カップルっていう意味で」
隆からの告白を即答で断ったことは、我ながら早かったなと自画自賛した。何が悲しくて、自分を覚えていない男と付き合わなきゃならんのかと思っていたし、それに・・・
「だが、断る」
「ちょ、ちょっと待ってっ・・・・ストレート過ぎないっ!?せめて、理由ぐらいは・・・」
・・・それに、あの女狂いの親友という時点で、信頼度はかなり低かった。
(香帆じゃないけれど、傷つくのは嫌だ。幻滅するより、いい思い出で終わらせる方がよほどいい。)
「・・・族長と同じタラシ・・・信じない。信じられない」
「ちょっと待って、俺は八尋と違って、女狂いじゃないし、タラシでもない!」
「でも、族・・・同類・・・」
「いやいや、違うからっ!!!!本当に・・・って、その胡乱な目は信じてないよね!?」
必死に土下座する様子と、香帆からの説得に絆されて、お試し期間で付き合った。それをきっかけに本格的に付き合い始めて、今に至る。
後から、いきなりじゃない!!ちゃんとアプローチはしていたと、隆から言われた。どうやら、自分は全く気付かずにスルーして、フラグを何度もへし折っていたらしい。
(・・・とはいえ、隆からは未だに忘れられたままなんだけれど。)
「・・・から揚げ、そろそろ揚げようかな」
タッパーに入れておいた鶏肉を取り出し、味付けをした上で衣をつけていく。ちょっとアクセントに黒ゴマもまぶしてから、油を注いだ鍋へと入れていった。
から揚げは隆の大好物なので、いくらあっても困らない。嬉々として処理してくれるだろう。
虎矢 隆との同棲を始めてから、数か月が経った。
成り行きとはいえ、結婚を前提にした同棲をするからにはきちんとしたい。その共通した思いを胸に、お互い協力し合ってきた。
初めての経験だらけで、試行錯誤しているけれども、幸いにして、莉里も虎矢も一人暮らしをしていたこともあり、今では、困ることも減った。
最初は、内訳が大変で、家賃、生活費、食費、お小遣い、交友費などなど、主に支払う金の兼ね合いが大変だった。その次が、家事の割り振りとかかな。
たまに、価値観の違いで言い合いになることもあるけれど、今の所、大きな喧嘩もなく、順調と言える。
今日は、莉里が夕食担当。
キッチンに立って、添え物のキャベツを千切りに切っていた時に、隆が帰ってきた。
「ただいまー」
「おかえり」
(あれ?なんか・・・隆、微妙な顔?)
隆の表情に首を傾げていると、後で話すよーと間延びした声が返ってきた。リビングにあったタオルと下着を取って脱衣室にいくあたり、今からシャワーを浴びるもよう。
隆は、最近暑くなったということもあって、帰ったらすぐにシャワーを浴びることが増えた。夜は呼び出されることもあるからと、なるべく家にいる時間を有効に使おうと気を付けていると言っていた。
から揚げを皿に盛り付けたり、箸を出したりと、莉里が夕食の準をしていた頃、隆がシャワーから戻ってきた。濡れた髪をかき上げ、タオルで拭いている。普段前髪がツンツンしていることもあって、今のような、前髪が濡れている様子はプール以外では滅多に見られない。
「今日はから揚げか、良いね」
「隆、手を洗う」
「へーいっ」
時々、子どもっぽくなる隆に対し、ちょっとした注意をしてから、席に着いた。隆が戻ってきてから、夕飯を一緒に食べはじめた。その時だった、隆が話を切り出したのは。
「そういえばさぁ、莉里」
「・・・・・なに?」
「昨日さ、アジトでみんなにびっくりされたんだけれど、初対面ではまったく声を出さないんだって?でも、俺には最初から声をだしてくれてたよな?なんでー?」
隆からの思わぬ質問に、莉里は目を丸くした。どうやら、隆はコレが原因で、帰ってきた時に、微妙な表情になっていたらしい。少し考え込むと、思い当たるフシがある・・・ありすぎるほどにあった。
(あれ・・・もしかして・・・私、思っていたより無意識だった?あれ?)
高校の時の初会話で、声を出した自覚はまったくなかった。でも、思い返してみると確かに・・・会話が成り立っていた記憶がある。
思い返してみると、ああ・・・と納得できてしまう。
(・・・これじゃ、香帆の初恋が族長なのを笑えない。)
思わず、声に出して呟いてしまっていた。
それを目ざとく聞きつけた隆が、から揚げを口に含んだまま突っ込んできた。
「多分、昔のせいかな」
「え、待って、聞き捨てならないセリフが聞こえたんだけれど!」
「・・・気のせい。はい、終了」
「いやいや、都合のいい時だけ黙る癖は直そうぜ?それに、これじゃ、八尋が言っていることが当たっているってことになるじゃんか!」
思わず立ち上がった隆に対して、莉里は何故か傍に置いてあったイエローカードを取り出した。
「・・・後1回」
「ぐっ!」
「次やったら・・・一週間、風呂、洗濯、掃除」
「ぐっ。な、なぁ、これだけは教えてよ。俺達は高校が初対面じゃないってことで確定?」
隆が何故か皿を持ったまま、莉里の隣に立った。よほど気になっているらしいが、から揚げを手放さないというのはどうなのか。
呆れながらも、莉里は首を一回だけ縦に振った。それ以上は何も言わずにご飯に集中する。隆はそれだけですぐに理解できたらしく、首を傾げていた。
「ええ、マジかよ・・・つまりさぁ、昔会っていたってことだよね、俺が思いだせないだけで・・・」
なんだよ、これ、ちょーもやもやする!と言いながら、隆は再び自分の椅子に座り直した。莉里はそれを眺めながら、正式に付き合いだした時のことを思いだした。
(あの時は・・・義理のお兄ちゃん達が、お見合いをしつこく薦めてきたから大変だったっけ。)
でも、声がどうしても出なくて断りたいのに、断れなくて。クラスメートとかなら、片言でも強く言えることも、お兄ちゃん達相手だとどうしても無理で。だって、何を言っても、お母さんと同じ。
(これは莉里のためなんだよって・・・そんなの・・・違うよ。私じゃなくて、自分のためでしょ・・・!)
喉まで出そうなのに、声が出てこない。思わず、涙が出そうになった時、隆が割り込んで、付き合ってることを宣言してくれた。
「あんたら、都合が良い時だけ兄貴ぶるのやめなよ?」
「なっ、なんだ、お前は!?」
「何者って・・・莉里だけのヒーロー、虎矢隆サマに決まってるじゃん。まぁ、早い話、彼氏ってことですな。っつーかさ、莉里の意志を無視して、お見合いさせようとか馬鹿じゃねぇ?そんなことしたって、ますます妹に嫌われるだけなのにわかっちゃいねぇな」
「なっ・・莉里、こいつの言っていることは本当なのか!」
「こんなどう見ても、ちゃらちゃらした不良でしかない!莉里、考え直せ、お前も一応は警視総監の娘なんだぞ!」
「そうだよ、考え直して。ほら、この人ならきちんとした人だし・・・!!」
「ソレだよ。その都合のいい時だけ、妹扱いしたり、家名を出したりするなっつーの。莉里のことは莉里が決めること。あんたらが決めることじゃない。さっきも言ったけれど、そんなんじゃ、妹に嫌われて、逃げられても、当然だっての。ばっかだなー」
色々言って、最終的に莉里がもし嫁に行き遅れたらどうするんだと怒鳴った兄達に対して、隆は笑いながら、言い切った。
「莉里が行き遅れるって?俺がいる限り、ありえない。だって、俺は、莉里と結婚したいって思っている。最終的に、莉里が俺を選んでくれたなら、これほど嬉しいことはないよねーって思ってるからこそ、告白のタイミングを窺っていたのに・・・ほら、莉里、行こうか」
怒る兄達を余所に、隆は莉里を連れ出してくれた。
何も言えなくて苦しかったところを救いあげてくれた。
かつてのあの日のように。
(もっとも、あの日は、兄達ではなく、いじめっ子達にいろいろ言われて泣いていたんだけれど。)
公園で、同級生の男の子に妾の子であることを揶揄されて、泣いて蹲っていた。
そんな時だった、見知らぬツンツン頭の男の子が、いじめっ子の一人にランドセルを投げて助けてくれたのは。
「呼ばれてとーじょー、せーぎの味方、とらや たかしッ!!」
「なんだ、お前っ!」
「なんかしらねーけど、こんなたくさんで、1人をいじめるとかかっこわるくねぇの?」
「・・こ、こいつが悪い。ちっとも声を出さねーし、しゃべらないから気持ち悪いし、それに・・・それに、母さんも言ってたもん。メカケの子だから何言われても仕方がないって!」
「うわ、なっさけない。いるいる、親のコトバだけが正しいと思ってるやつ。でも、お前らのやってることはいじめだぜ。それに、メカケの子のイミもわかんねぇくせに使いたがっているとこもキライ」
いじめっ子たちと喧嘩してまで、助けてくれた正義の味方。莉里から見て、その姿はテレビのどのヒーローよりも眩しく映った。助けてくれた後で、隆が隣町の子だと知った。
「・・・・・・・」
「あれ、本当にしゃべれないんだ?」
「・・・・・」
頷くと、ポンポンと頭を撫でてくれた。
「そっか、がんばったなーよくガマンできたな!良い子だよ、お前」
涙がでて、思わず下を向いてしまったけれど、なんとか声を振り絞って、お礼を伝えることができた。
隆は気にするなーと、また頭を撫でてくれた。しかも、せっかくだからと、帰り道を途中まで一緒に歩いてくれたのだ。
「あ、電車やばーっ。もういくけれど、だいじょうぶか?俺、隣町だから、なかなかたすけてやれないけど。ま、声が出せないことは気にしないほうがいいぜ。むしろ、とことんムシしたらよいよー。そしたら、あいつらもつまらなくなってやめるから!」
電車の時間だからと走って行った隆の後ろ姿を、莉里はずっと眺めていた。
あの日から、自分のヒーローは隆になった。
ずっとずっと忘れたことのなかった「とらや たかし」という名前。
(結局会えたのはその1度きりだったけれど・・・隆の一言で、莉里の世界は少し広がった。)
そして、偶然なことに、あの日の帰り道も同じシチュエーションだった。帰る道すがら、話をして・・・あの日と違うことといえば、隆から正式にお付き合いを申し込まれたこと。
「登良野莉里さん。改めて、俺と結婚を前提に付き合ってください」
「・・・隆、私は自分でも面倒くさいって自覚がある。それでも・・・私と一緒に生きてくれますか?」
「・・・も、もちろん!」
「じゃあ、虎矢隆さん。改めて、私と結婚を前提に・・・お願いします」
「・・・喜んで」
抱きしめられたあの日も、やっぱり隆は凄いなって思った。そして、嬉しくなった。
今思えば、あの日に現れた正義の味方が傍にいてくれるって、スゴイことだよね。
・・・それを、隆が覚えていないのはちょっと寂しいけれど、ある意味良かったのかも・・・。
(なんていうか・・・正義の味方の正体を知っているのは私だけでいいっていう優越感があるからかな?)
眼前を見ると、まだ隆は思いだせないのか、もどかしさでイライラしている様子だった。
「うう、思いだせないいいぃいいい、なんだか悔しいっ!!!」
(・・・隆には悪いけれど、もうちょっとだけ黙っていよう。)
「隆・・・・うるさい・・・」
「はうっ!?レッドカード!?! り、莉里様ぁあああああ、それだけはっ!!!」
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