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リクエスト小説
莉里と虎矢の出会い(5)隆目線あり
しおりを挟むその日は唐突にやってきた。それも意外なきっかけで。
「・・・・・・あらあら、もしかして・・・虎矢さんのところの隆君?いやだ、大きくなったわねぇ」
隆と莉里が街中を歩いていると、とあるおばさんが隆に向かって声をかけてきた。
知りあいなのかと目配せするが、隆は思いだせないようで、首をかしげている。
「いやだぁ、覚えていないの、公園を掃除していたおばちゃんよ」
「・・・ああっ、そうだ、お祖母ちゃんの家の近くの公園で草取りを一緒にした・・・?」
「そうそう。あなた、お祖母ちゃんに連れられて手伝いにきていたでしょ。でも、草取りそっちのけで遊ぶことの方が多かったわねぇ」
「いやぁ、あの時は子どもだったんで・・・ははは・・・」
「そういえば、ヒーローごっこにハマってて、泣いている子を助けたこともあったわねぇ・・・こんなに大きくなるなんて」
「・・・なるほど」
おばさんの言葉に莉里が何故か頷く。それを見た隆が目を見張った。
「・・・・・・・え、莉里、何を納得したの?」
「なんでもない・・・」
1人頷いていた莉里は、、満足そうにおばさんにお辞儀をしてから歩き出した。慌ててそれを追おうとした隆はおばさんに挨拶しようとしたら、笑って返された。
「あっ・・・莉里、待ってよ。すみません、おばさん、お元気で!」
「いえいえー突然ごめんなさいね。それにしても二人とも大きくなったわぁ・・・またね」
気になる発言を残したおばさんも手を振りながら、反対方向に歩いて行った。
一瞬呆然としていたが、隆は慌てて莉里の所へと駆けて行った。
(公園か・・二人とも・・・え・・・ってことは、公園で会ったってことも考えられる?)
当時の隆はヒーローにハマっていて、風呂敷でマントを、新聞紙で剣を作り、洗面器をカブトかわりに使っていた。
(そういや、公園でも悪い子を見つけたらすぐに倒すっていうのやっていたっけな・・・・泣いていた子を助けた時もあったし・・・・・あれ・・・・・?)
突然、脳裏に浮かんだ女の子だが、どうしても顔が思い出せない。
何故だと思ったその時、フラッシュバックし、当時のことを少しずつ思いだした。
そうだ、たまたま水が飲みたくて水場に行ったら、女の子がいじめられていて、男の子たちの声が聞こえたんだ・・・っけ。
妾の子とかなんとか・・・・・。
俺も似た立場だったから、どうしても自分と重ね合わせてしまって・・・助けなきゃと思った。
気付いたら、近くにおいてあったいじめっ子たちのランドセルを掴み、投げつけて怒鳴っていた。
「呼ばれてとーじょー、せーぎの味方、とらや たかしッ!!」
「なんだ、お前っ!」
「なんかしらねーけど、こんなたくさんで、1人をいじめるとかかっこわるくねぇの?」
「・・こ、こいつが悪い。ちっとも声を出さねーし、しゃべらないから気持ち悪いし、それに・・・それに、母さんも言ってたもん。メカケの子だから何言われても仕方がないって!」
「うわ、なっさけない。いるいる、親のコトバだけが正しいと思ってるやつ。でも、お前らのやってることはいじめだぜ。それに、メカケの子のイミもわかんねぇくせに使いたがっているとこもキライ」
気付いたら拳を振るってた。向こうは複数だったけれど、何故か勝てた。
男の子たちが逃げた後、女の子と・・・・あれ・・・・?
(・・・会話したっけ・・・・いや、会話はできなかったような気がする。だって、あの子、喋れなかった・・・・と・・・・・か・・・?)
「・・・・・・・」
「あれ、本当にしゃべれないんだ?」
「・・・・・」
そうだ、思いだした。
俺が聞いた時、ずっと黙っていた女の子がこくりと頷いたっけな。
喋れない分ずっと我慢したんだろうなと思ったら頭を撫でたくなった。
そっと撫でたら、はにかんだ顔が可愛くて・・・。
「そっか、がんばったなーよくガマンできたな!良い子だよ、お前」
その後も、女の子といろいろ話をして、帰った。
(確か、お祖母ちゃんの家から、家に帰るために駅に向かっていたんだっけ・・・。)
色々と話をしてあげている内に、時間になってしまったので、慌てて走った。
その時に、なんとか励まそうと、男の子達を無視しろって言った気がする。
(・・・うっわ、ハズいわ。俺ってヒーロー気取りのガキだったのな・・・でも、女の子を助けられたってのは良かったかも。っていうか、あの子の顔は・・・?)
隆は、ようやくといった感じで、女の子との出会いを思いだした。しかし、はにかんだ女の子の顔だけは、一瞬で消えていく。何度も何度も。
もう少しで・・・思いだせるのに!という感覚があるだけに、もやもや感が半端なかった。
「うあああああああ、もう、なんだよ、コレっ!なんだって思いだせないの、俺・・・!」
歩き続けているとようやく、信号が見えてきた。莉里が立ち止まっているのも同時に見えた。声をかけると、莉里が振り返った。息を切らしながら、莉里の隣に立つ。
「・・・隆、遅い」
「やーっと追いついた。莉里が早いだけでしょ」
「早足じゃない・・・と思う」
「早いって」
言い合いをしていると、莉里がふふふっと笑った。その瞬間、隆の脳裏に浮かんでいた女の子の顔と、莉里の顔が重なった。
(・・・なんか、そっくりな笑い方。喋れない子、公園、ヒーロー、あれ・・・全部、繋がっているような!?)
「・・・どうした、隆?」
「え、もしかして、あの・・・子は、莉里だった?」
「・・・・・・ち、チガウヨ」
「いやいや、上擦ってるし!!」
ピースが合えば、後はもう怒涛のように記憶が流れ込んできて。思いだしてみれば、頭に浮かんだ小さな女の子はやっぱり莉里だった。
何故今まで忘れていたことの方が不思議で仕方がなかった。
「・・・もう少し、隠したかった」
「いや充分驚いているから・・・そうか、莉里は、あの時の。あ、もしかして、高校で会った時には気づいてた?」
「ん」
そりゃ、いじめっ子から助けてもらったから・・・。と小さい声で続けるあたり、莉里の方も照れているらしい。
隆も、少し気恥ずかしさからか、会話を続けられなかった。そこからは、なんとなく2人そろって無言で歩いていた。
もう少しで家に着くところで、公園が見えた。莉里に目を向けると、莉里の方も隆の視線に目を合わせてくれた。
お互いに、なんとなくという感じで公園に足を踏み入れた。
ようやく、再び会話ができた。
少し、気ごちなかった空気をなんとか壊せた気がして、隆はホッとしていた。
「・・・ここの公園って、家から近いけれど、初めてきたかも」
「散歩、よくくる」
「あ、そうなんだ?俺も歩こうかな」
「隆・・・無理だと、思う。朝、弱いし」
「ぐぅ」
会話をしながらベンチに座ると、莉里がおずおずといつにない神妙な顔を見せた。隣に座った隆は一寸おいて、首を横に振った。今更ながらに、お礼を言われるとは思っていなかっただけにびっくりする。
「・・・改めて、ありがとう・・・あの時、嬉しかった」
「いや、俺、自分に重ねてた部分あったし・・・」
「それでも、隆は、莉里の・・・ヒーロー」
最後はちょっと顔を逸らした莉里だったけれど、耳元が赤くなっているのはバレバレだった。隆は思わず莉里を抱きしめていた。顔を向かせようとするが、莉里がなかなか顔を見せない。
しょうがないとばかりに、隆は莉里の耳元にそっと囁いた。
「ねぇ、莉里。ヒーローにはヒロインっていうお姫様がやっぱり必要だと思わない?」
「・・・・・意味不明」
「わかってるくせに照れてるんだから・・・・いてっ!」
「隆、意地悪」
「あははー。・・・あのさ、俺がヒーローでいる代わりに、莉里は俺だけのお姫様でいてよ」
「・・・何故、お姫様?」
疑問を感じてか、ようやく振り返って正面から口を聞いた莉里に、隆は笑いながら顔を近づけた。
「知らなかったの?ヒーローはお姫様のキスで強くなれるんだぜ」
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