香帆と鬼人族シリーズ

巴月のん

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鬼人族のメンバーの恋

【巳編】捻れた好き*17*

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奈津と翔はなんだかんだで無事に学校生活を送ることができていた。翔の機転で、ファンクラブの代表者である委員長を仲間にできたことがかなり大きかった。思いの他、翔のファンクラブはでかく、学年ごとに連携が取れていることで、奈津を守る対策がしっかり出来上がっていたことが大きい。
最初は騙そうと思っていた翔ですら、これには驚き、思わず公式に認めると腕章まで渡してしまったぐらいである。
当の委員長ががぜん張り切ったのは当然のことで。

「・・・翔君のファンクラブすごいね」
「そうか?ウザいなら出て行ってもらうけれど」
「いやいや、いてもらってくださいっ!!二人きりよりは全然マシで・・・・あっ・・・やめて、痛い、痛いっ!!」

うっかり本音を漏らして頭をグリグリされる奈津。そして内心ショックを受けつつも、グリグリする翔。そんな二人の横に座っている友人組は二人で遠い目になりながらももぐもぐと食べ続けている。

「・・・平和ね、猿渡」
「っすねー。あーもーやってられん」
「何か言ったか、遼河」
「お前、最近俺に対して剣呑な目を向けるのやめてくれ」
「俺がなかなか名前を呼ばれなかったのに対し、お前はあっさりだからな」

目を光らせた翔に触らぬ神に祟りなしとばかりにより遠くへと逃げようとする遼河だが、全く悪気のない奈津が首をかしげる。

「・・・遼河君、デザートがプリンなんだね」
「あ、これ、みんなで食べようかと思って持ってきた」
「すごーい、遼河君!!嬉しいっ!!」
「・・・・・お前、まさか奈津を狙っては・・・」
「いやいや、そんなつもりはないし、邪魔をするつもりじゃないって・・・ぐえぇ、首を掴むな!!」

ぐえっぇええと悲鳴がする中、奈津と朱莉はプリンを堪能していた。

「ねぇ、奈津」
「うん?」
「家での様子はどう?以前と変わった?」
「・・・・まぁ、あれかな。会話するようにはなったし、宿題も教えてもらえるようになったよ」
「ほっほほう。どんなふうに?」

にやにやしている朱莉だが、奈津はきょとんとしながら普通にとプリンをほおばりながら答えている。その反応からして、進展がないな・・・と思った朱莉は翔に話しかけた。

「ちょっと、あんた何クズクズしてんの」
「お前は敵じゃなかったのか。俺だって、できるものならとっくにやってる。パジャマ姿で上目遣いに教えてとか話しかけてくる奈津とか、答えが解った時の笑顔とか、ペンを加えて考え込んでいる姿とかそりゃもうあらゆる意味で拷問だけれどよ、我が家には般若が二人もいてな・・・あれ見たら萎えるどころかすっと頭が冷える」
「ああ・・・おばさん、相変わらず最強・・・って、まさかリビングでやってるのか?」
「うん、そうだよー。お父さんも一緒に教えてくれるんだよね」
「「ああ・・・牽制されてるのか」」
「・・・なけなしの理性をかき集めて教えている俺を誰か褒めてくれ」

眉間にしわを寄せながらもぐもぐと焼きそばパンを食べている翔に対し、奈津がそっと肩を叩く。

「翔君、何かわからないけれど、大丈夫だよっ」
「・・・ほめてくれるのか?」
「あちらのファンクラブの皆さんなら褒めてくれ・・・って痛い、痛いーーーっ!!」
「期待させといて、落とす・・・それでこそ、お前だよ」

再びグリグリをされた奈津は涙目状態だが、朱莉と遼河は助けるどころか必死に笑いをこらえていた。肝心の翔はというと、もう完全に白目になっていたが、それでもグリグリをした後にさりげなく奈津の頭をなでるのは忘れない。

「痛いよう・・・あ、チャイムだ、急がなきゃ!」
「奈津、今日は帰り一緒だからな、忘れるなよ」
「はーい!」

最近は朱莉や遼河を含めて4人で帰るようになっていたので、すっかり抵抗感はなくなっていた。だが、それを見逃す朱莉や遼河ではなく。

「んふふ、そろそろだねぇ、猿渡君や」
「うむうむ。今日は絶好のチャンスですな!」

後ろからついてくる2人が何かを企んでいることにも気づかず、奈津は一気に廊下を走っていた。そしてそんなこんなで放課後、奈津は思いっきり固まっていた。

「りょ、遼河君は?」
「あいつなら、クラブの助っ人。そっちは?」
「朱莉ちゃんはなんか図書館で調べもの・・・うう」
「ふーん。どちらにしろ、家は一緒だから問題ないだろう」
「・・・ふぁい」

奈津としてはできるならあまり二人きりにはなりたくない。実際、あの強制的に手つなぎで登校した日からずっと二人きりは避けているし、宿題もリビングでできるからこそ、気楽にお願いができる。帰りも朱莉や遼河がいるからこそ、気楽にできるのであって・・・まさかこんな形で帰ることになるとは思ってなかったため、頭を抱えている。
それとは裏腹に機嫌がよいのが翔のほうで、久々に鼻歌まで歌っているあたり、どうしようもない。

「さて、迷子にならないように手を・・・」
「いくらなんでも迷いません!!!」
「・・・・・・・・」
「うっ・・・そんな落ち込んだような目をしなくても」
「・・・・・手つなぎ」
「・・・手つなぎをしなきゃいけないなら、ずっと錦蛇君って呼びます」
「待て、それ、どっから知恵を付けた?」
「香帆さんと前にコンビニで会って、アドバイスをもらいました。わんこになった男には効果的よって」
「まさかの香帆さんっ!!!!!意外に小悪魔だった!!」
「あんな素敵なお姉さん欲しかったなぁ」
「・・しかも、俺の兄的な立場も危ういっ!?」

ガーンっと落ち込んだ翔をよそに、奈津は先に歩き出した。慌てて追いかけてくる翔の気配に少し耳元を赤くしながら、朱莉との会話を思い出していた。

『ところで、奈津。もう問題は解決したんだから別に付き合ったって問題ないと思うけれど?』
『ぶほぁっ・・げ、げふ、げふっ・・な、何を!!』
『汚いから飛ばさないでよ・・・だから、錦蛇との関係よ、関係。いい加減進展したらどうなの』
『朱莉ちゃんは本当にどっちの味方?』
『あたしは奈津が幸せであればそれでよいんですよ』
『とかいいながら、笑ってるのはなぜ?』
『だって、あのモテモテ野郎が必死なの超ウケるじゃない?』

けらけら笑う朱莉の声を思い出し、ちらっと肩を並べだした翔を見る。
奈津としては好きな気持ちがあるのは確かだけれど、どうしても一歩が踏み出せないもどかしさを感じていた。翔のほうでもあの時以来積極的であるものの、身体のふれあいについては手つなぎ以上のことはしてこない。
そういう意味では朱莉や遼河から見てもどかしいと思うのも無理はない。

「・・・そういえば、いつから名前呼びを始めたの?」
「あ、ああ、奈津って呼び始めたのはいつかっていう意味?手つなぎした時からだけど」
「それにしては、言い慣れてる・・・?」
「こういう時だけは勘が鋭いな。そりゃ、名前を知った時からずっと呼びたいなとさえ思っていたから言い慣れてはいるかも」
「・・・・季節の夏とか叫びたくなりますもんね」
「そーそー・・・って違うっ!?」

さりげなく笑いの方向へ行くとノッてくれるところとかは面白いと思うし、優しいし、奈津としても恋愛対象の相手と思われるのは悪い気分じゃない。

それでも、心のどこかで迷いを感じている自分がいることも確かで。

本当に今のままでいいのかと。


奈津は気づけば夕焼け色に染まった空をぼんやりと見上げた。



「奈津?」
「ううん、なんでもないです・・ないよ」
「やっと最近敬語が取れたと思っていたけれど・・・・油断も隙もないな」
「うう、香帆さんに言いつけてやるー!」
「ちょ、それは反則!」


夕日だけが再び追いかけっこしながら、笑いあう二人の影を眺めていた。



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