香帆と鬼人族シリーズ

巴月のん

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鬼人族のメンバーの恋

【巳編】捻れた好き*18*

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まさかの急展開である。



「巳園さんですよね、俺と付き合ってもらえませんか!?」



目の前に現れては突然告白してきた男の子によってクラスで注目を浴びる。
人目が苦手な奈津にとってはパニックになってもおかしくない。ただ、幸運だったのか不運だったのか、奈津の隣には、遼河と翔が座っていた。当然、奈津の親友である朱莉も眉間にしわを寄せて見つめてきた。

「・・・・・・」
「・・・・・遼河」
「どうどう、まずは落ち着こうぜ。お前は鬼人族、あっちは一般人・・・だよな」
「絶対違うってわかってて言っているだろうが」
「・・・思い出したわ、あんた、C組の上江田よね。上江田真夢だっけ?」
「上江田・・・ああ、珍しくC組で上位に入ってるやつか」
「・・・・学年でも名高い来音きたねさんと錦蛇にしきだくんが知ってくれているなんて光栄だ」
「お前は別の意味でも有名だかんな、鬼人族の情報網なめんな」
「おお、こわい。さすがは鬼人族の幹部だ」

翔とのやり取りに首を傾げた奈津と朱莉は自然に遼河のほうへと目を向けた。遼河の方でも二人の疑問に気づいたのだろう、ため息をついた。

「上江田はまむし族の幹部。鬼人族を目の敵にしてくれちゃってるからね、一応警戒対象には入れているチームだ」
「へえ。てっきり鬼人族だけだと思っていたわ」
「そんなことないない。この学校で鬼人族は30パーぐらいだ」
「そうだったんだ」

へぇと感心してる奈津はふと、手に温かい感触を感じた。びっくりして前を向くと、上江田がにこにこしながら奈津の手を握っていた。

「ふへ・・・?」
「ふふ、やっぱり可愛いね。コンビニでプリンを買う君をよく見ていたんだけれど、思い切って話しかけてみて正解だった」
「・・・またコンビニ関連―!?」
「上江田、その手を離せ」
「おお、怖い、怖い。さすがお兄ちゃんだね?」
「・・・・っ!?」

上江田が大げさに大声で叫ぶと、一斉に周りがざわついた。上江田の意図的な発言だと気づいた猿渡はにらみつける錦蛇に代わり、上江田に質問を投げた。

「おい、なんで知ってんの、その情報」
「おいおい、そっちこそ、蝮族を舐めてもらっちゃ困るな~これでも諜報担当だ、親同士の再婚だってことは調べればすぐにわかることだよ」

遼河に対して、舌を出しながら返答した上江田に憐れみの目を向けた錦蛇は優雅にほほ笑んだ。久々に見る似非王子スマイルの発動である。これに遼河がげぇと顔をゆがめたのは無理ないことである。

「・・・確かにその通りだ。お前がつい一か月前に30回目の失恋をしたってこともバレバレだしね」
「あがっ・・・ど、どこでその情報を!」
「さっきのセリフをそのまま返す・・・鬼人族を舐めるな」

バチバチと火花がぶつかり合ったのを見た朱莉は奈津や周りに見えないように、猿渡に呟いた。

「さすが、鬼人族の諜報隊長だね」
「これからは情報がものをいう時代だっつーことで、総長がかなり力を入れて鍛えてるからな、当然だろ」
「ふーん。で、特攻隊長のあんたはどうするの?」
「どうもこうも、次期総長最有力候補と期待されている翔が動いているんだ、俺が出る幕なんてない。寧ろ勝手に盾になったら俺が怒られるね」

なるほどとうなずいた朱莉は前を向いたまま、奈津に話しかけた。

「・・・で、奈津?」
「え、あ、なに、朱莉?」
「上江田に告白されたわけだけれどどうするの?」
「あ、ごめんなさい、お断りです」

朱莉の誘導尋問にそのまま乗っかる形で奈津は全力でお断りの意志を示した。それに内心ほっとしている翔と遼河だが、二人は表情に出すことはなかった。一方、上江田は苦々しい顔を見せている。

「・・・悪いけれど、諦めるつもりはないよ・・・こうなったら・・・」

悔しそうに吠えようとした上江田だが、ひょっこり現れた伏兵によって頭を叩かれた。

「いた・・・って、先生!?」
「お前ら、ホームルームだぞ、いい加減に席につけ! 他のクラスのやつは各自戻れ!」
「巳園さん、放課後にまた話をしよう。それから、錦蛇君、告白したのに保留にされたんじゃなかったかい?見苦しい嫉妬で邪魔をするのはよくないと思うよ?」

最後に嫌味を言い捨てていった上江田の後ろ姿を見送った翔は静かに遼河の首根っこを捕まえたまま、教室を出ていく。その後ろ姿を見送った奈津は汗びっしょりになっていた。

「あう・・・そ、そうだった。一応保留というかそんな形にしているんだっけ」
「上江田も終わったわね・・・あの捨てセリフはかなりアイツの心を抉ったわよ。今頃、猿渡が八つ当たりされているに違いないわ。さて、私らも座るかな。先生、失礼しました~」
「・・・・・・なにかなんだかわからんが、委員長、さっさと始めなさい」

朱莉が消えたのと同時に先生が合図をし、全員が起礼を行った。席に座る中、奈津は頭を必死に回転させていた。


(そ、そうだよ・・・結局好きって言われたけれど保留にしちゃって・・・とりあえずってことで)


先生の連絡を聞きながらも、奈津は考え事に没頭し始めた。


(翔君のことは嫌じゃない。寧ろ・・・好きだと、思う。ちょっと強引で意地悪な時もあるけれど。上江田君の時はすぐに断れたけれど、翔君だとどうしても・・・。)


ホームルームが終わり、奈津がリュックを背負って廊下へと出ると、上江田が待っていた。

「あ・・・・」
「さっきはごめんね。でも、俺本気だからわかってもらえるとあり・・・何かな、北音さん?」

突然割り込んできた朱莉は無言で右のほうをしゃくった。奈津と上江田がそろってそっちの方を見ると、眩い笑みを見せている翔が立っていた。その隣は当然遼河が立っているが、なぜか腹を抑えている。

「また邪魔をするのか」
「邪魔?トンデモない。俺と奈津は同じ家でね。一緒に帰るのを待っていただけ。速攻振られた人間にそういうことを言われるとは心外だ」
「さっきのを根に持っているのかい。これだから心が狭い人間はだめだね」
「はっはっ、同じ剣道部にいながら万年補欠のお前には言われたくはない」
「・・・へぇ、やっとそれを思い出してくれたんだ?てっきり俺のことなんて眼中にないと思っていたよ?」
「全くその通り。そう、ついさっきまでは完全に眼中になかったことは認めよう。だか、喜ぶがいい。お前はついさっき俺の敵に認定された」
「あ、あの、ごめんなさい。今日はちょっとお母さんと約束があって早く帰らないといけないので。翔君、帰ろう?」
「・・ああ」

しぶしぶと頷いた翔と一緒に歩き出そうとしたとき、後ろから上江田の声がかかった。思わず振り返った奈津は怪訝な表情を見せるが、当の上江田はにやにやと笑っていた。

「ねぇ、巳園さん」
「えっ、な、なんですか?」
「そいつのことあまり知らないでしょ?君がそいつの告白を保留したのは正解だったと思うよ。じゃあね」
「・・・・・・」

別方向へ歩いていく上江田の後姿を見つめていた奈津だったかにょきと現れた朱莉の声で我に返った。

「うっわ、やなやつね。あんたらボケっとしてないで帰るわよー。どうせ、あんたら部活をさぼって奈津を送るんでしょ。私も行くから。ほら、奈津!」

奈津は、朱莉の言葉に頷いて足を動かしだした。朱莉と話す間もずっと上江田の言葉が頭にこびりついて離れなかった。


(・・・・・確かに上江田君の言う通りだ。私・・・・・知らない。)


そう、知らない。

翔君の誕生日も知らない。

翔君の好きなモノも知らない。

翔君の部活が何かさえ興味もなかった。

翔君の方では私のことをいろいろと聞いてくれるから答えるけれど、私の方からはちっとも質問したことなかった。


(・・・・・・・ああ、そうか、そういうことなんだ。)



私はわかってなかった。
解ろうとしなかった。


今だって・・・逃げたまま立ち止まって待っている状態。


それって・・・・おかしいよね。
相手が来るのを、そして話しかけてもらえるのを待っているだけなんて。
それで本当にいいの?

本当にそれでいいの?


(私は、受け入れなきゃいけない。自分の気持ちを。そして前に進まなきゃ。そうしなければ、私は・・・過去の自分のままだ。)



奈津は、帰り道の間も、そして家に帰った後もずっと無言でいた。他の三人は気づいていたが、顔を見合わせ、黙って見守ることにした。奈津が決めることなのだと、遼河も朱莉も理解していたからこそできた気遣いだ。(翔は奈津の反応が怖かっただけだが。)


「ところでさ、翔」
「解ってる。ちゃんと俺もけじめをつける」
「それがいいわね。あのバカの思い通りとか絶対ごめんだし・・・もちろん、わかってるわね?」

朱莉の言葉の裏に垣間見える励ましを受けた翔は力強く頷いた。


「大丈夫だ、明日には片を付ける」



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