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1)ツニャル大国へ入国した娘
しおりを挟む――ブラパーラジュ大国と反対側の位置に属する機械大国と謳われしツニャル大国。
別名、商人の元締め地ともいわれるほど、あらゆるモノが流通しているこの国では異世界の知識をもとに様々な機械を開発している。加えて、魔法との融合、精霊との交流も効率よく行われているこの国では外国にも門戸を開き、彼らの様々な文化や知識、何より膨大な情報を飲み込んで発達してきた。そのため、精霊に頼っているブラパーラジュ国と相反しながらも平等の力を持っている大国だと有名である。
「ふわーやっぱり大きいのね・・・・・・」
ツニャル大国に初めて足を踏み入れて大きな門を見上げたディアは感嘆のため息をついた。指紋認証で開くようになっているといわれるこのツニャルの大門。門番の誘導に従って名まえを告げた後そっと門に触れた。ピッと音がしたのと同時に門番が通っていいと許可を出す。出るときに、窓口にいた門番が出入国カードを差し出してきた。
「えっ、もうカードの発行ができるんですか?」
「お嬢ちゃんは初めてのようだな。この国じゃ、こういうのは朝飯前さ。そうそうその説明書と地図はよく読んでおいてくれよ。特に説明書はこのカードの使い方が詳しく書かれているからな」
「ありがとう、おじさん」
カードを見ると自分の顏もぱっちり映っていた。あの門すごいなと思いながら説明書を開く。
「あ、このカードでチャージも売買もできるの? じゃ、両替なんていらないじゃない!え、ギルトもこのカードで登録が可能なんだ~もっと詳しく情報を入れないとダメだけれど。えーなに、図書館や博物館もこれで入れるとか。うわ、万能すぎる。これ、絶対なくせない・・・・・・」
この国には電車や汽車という機械でできた乗り物もあるらしい。それらのすべては異世界からきた人が伝え残した遺産だというが、それらを今もなお活用するこの国は本当にすごい。
「あ、車だ。うわ~すごい懐かしい!」
ーー申し遅れました。私はディア。このツニャル大国より少し離れた小国からやってきました。その理由は父に頼まれた手紙をとある人に渡すため・・・・・・というのが表向きの理由。実際は自分がどうしてもこの国の様子を見てみたかったというのが本音。これを理由に立候補したぐらいだもの。
「うーん。電車に車に、指紋認証・・・・・・どう考えても地球の技術よね。しかも日本から伝わったらしいものもいくつかあるし」
どうしてそれが解るかというと、私の前世が日本人だったからです。ええ、実にあっさりとした理由でしょう? もともとは医者の家系で自分も医大学に通っていた身だった。でもある日あっさりと交通事故で死んでしまい、次に目が覚めた時には赤ん坊だったというびっくりおどろきな状態。それでも現実は否応なく時を動かし、自身を成長させる。文化も歴史もすべてが違う状態におっかなびっくりしながらもなんとか適応しながら今に至るわけで。
「さて、まずはどうしようかな。やはり伯父のところへ行くべきかしら?」
でも観光もしたいしなー。
むーんと唸りながら歩いていると、お城が見えてきた。この国は円状の大門に囲まれていて、中央にお城が浮かんでいる。大門の上を見ると、兵士たちがお城へと向かっているのが見えた。普段は防衛も兼ねて浮かんでいるが、定期的にお城が湖に浸かる時があり、その時だけ認められた人間だけが行き来できると聞く。
「はー、空に浮かぶ城とか・・・・・・もうまさにファンタジーだよね」
まぁ、魔法やら精霊やらが出てくる世界だからそれもありかともう何度目になるかわからないため息をついた。
まずは父に頼まれたことを終らせないといけない。父に渡された伯父の家への行き方が書かれたメモと門番に渡された地図を交互に確認しながら、貴族街の方へ向かうことにした。大門に階段があることから察してわかるように、この国は5層から成り立つらせん状になっている。いわゆる階層ってやつだ。もちろん一番上が王族の住まう場所であることは言わずもがな。3層目にある貴族街を目指すために大門の決められた階段を探すことにした。
「あ、2層目は商人たちの街なんだ。そういえば、ここ流行の最先端とも言われているんだっけ。で、3層目が貴族街、4層目が・・・・・・学問街?あ、学校とか図書館とか科学館とかがあるんだね。それで学問の街ってわけね。で、5層目がお城の入り口であり、王族の住むところと。はー、かなりでかいね」
階段を少し昇ると、魔法陣の傍に立つ案内人のような人がいた。話しかけると、この魔法陣に乗ると、上の階層に行けるという。つまり、エスカレーターの役割ってやつだと思いながら、ディアは魔法陣の上に乗った。手を振ってくれた案内人に手を振り返してからあたりを見回す。本当にエスカレーターのようにぐんぐんと上昇していく。
「わぁ・・・・・・仕切りがない分、スゴイ景色だなぁ」
キラキラと輝く街の風景が次々と切り替わるし、真っ青な空との対比がスゴイ。遠目にも電車が走っていく様子も見える。それは懐かしい前世を思いださせるのと同時に、自分が異世界に慣れてしまっていることをも感じさせた。
結界が消えたのを確認して魔法陣からでると目の前に門があった。ここでカードを再度確認され、入門を許された。メモの通りに歩いていくと、一際でかい家が見えた。
「えっと~あ、あった!」
ドアをノックすると執事が現れ、目を見合わせる。互いに懐かしい顏に顔を綻ばせた。
「おお、いらっしゃいませ、ディア様!」
「お久しぶりです、伯父様はいらっしゃいますでしょうか」
「もちろんでございます。いまかいまかと待ち望んでおられました」
誘導されて入ったのは広い客間。そこで伯父が破顔しながら抱きしめてくれた。
「おお、久しぶりだな、こんなに綺麗になって!」
「伯父様もお変わりないようで良かったですわ。はい、父に頼まれた手紙です」
「ありがとう。・・・・・・ああ、妹も変わらないようで良かった」
手紙を開いて読んでいく伯父を眺めながら差し出されたお茶を飲む。
「それはそうと。ディア、お父上から話は聞いているかい?」
「はい。でも、医学の知識が必要だから長けた人に来てほしいとしか聞いていません」
「そうか・・・確かに君は医学生なだけあってかなり優秀だし、年齢的にも近い。性別はともかく、彼にとっても問題ないようには思うが・・・・・・」
唸るように考え込んでいる伯父様。よほど難しい内容なのだろうかと首を傾げる。曰く、内容は難しくはない。問題は彼に会えるかどうかだという。彼とは?と聞くと、伯父様は声を潜めた。なるほど、周りにも知られたくない内容なのだと察し、そっと耳を傾けた。
「ディア、これは他言無用に頼む。実は君に診察してほしいのはこの国の皇太子なんだ」
ディアは思わずむせてしまった。みっともなく紅茶をこぼしながらも、震える手でコップをテーブルに置いた。
「あの、王太子といえば、噂の!?」
「そう、歴代の中でも優秀と目されているこの国の跡取りである彼のことだ」
「でも病気という噂は全く聞きませんし、噂ではまだ20代と若いはず。問題ないのでは?」
「詳しいことは私の口からはとても言えぬ。だが、これは・・・・・・王様直々の依頼なのだ。私としても無碍にできない」
「・・・・・・伯父様が商人として有名だとは知っていましたが、王族とも面識がおありでしたのね?!」
「実は彼とは大学の同期なのだよ」
つまり、友達の縁でーーってことですか。なに、その人脈の広さは!ああ、それで外国人でありながら貴族街に家を建てることができたわけですね。いろいろ納得です。ついでに我が国が戦争に巻き込まれていない訳もなんとなく察しました。それはさておき。
「つまり、太子さまは診察を受けたくないと」
「そういうことだ。だから私からも逃げ回っていてなかなか会えない。しかし、依頼を考えるとな・・・・・・」
どうしたものかなと考え込んでいる伯父を前にディアも唸り込んだ。
「どうしましょうね。私、3日ぐらいしかいられないんですよ」
「とりあえず、彼にアポをとって何とかして会わせられるか確認してみよう。悪いがしばらくはここに滞在して観光でもして待ってほしい」
執事にいろいろと指示しながら立ち上がった伯父に礼をして一旦外に出ることにした。荷物を預けたし、まずは図書館にでも行くかと学問街を目指すべく歩き出した。
「あー、面倒なことになりそうだわ」
さっきと同じように、4階層の門から入ると、様々な建物が並んでいた。いくつものの本屋が並び、ジャンルによって本屋を選べるというなんとも贅沢な商店街の中を通り抜け、図書館へ繋がる道を歩く。その時、ガタンと聞きなれない音で立ち止まった。
「・・・・・・・・・・・・ん?」
訝しく思いながら、音がした方向を探すと、細道の奥に人が蹲っているのが見えた。ストールを巻いていて顔が良く見えないが、胸を押さえていて苦しそうな様子がうかがえた。そっと近寄ると、警戒するように後ずさったが、立ち上がれず後ろに下がるしかないと壁にもたれている。
「ちか、よるなっ・・・・・・!!」
「はいはい、呼吸を図りますので手首ぐらいは触らせてくださいね」
声からしてどうやら男のようだ。だが、その声は息苦しさからか全く怖くなかった。素早く手首に触れて脈診をする。
「拍動が早いですね。熱がおありのようで」
「・・・・・・医者なのか?」
「ではないですね。一応医学を学ぶ身ではありますが。うーん、脈診だけではわかりませんが熱があるなら無理しないほうがいいと思いますよ」
「・・・・・・熱は、しょっちゅう・・・・・・出ている・・・・・・今更だ」
「そうですか、何にせよ、横になっていたほうが・・・・・・」
辛うじて返事する男に対して呆れるように言ったディアはぴくっと別の気配を感じた。男の方でも気づいたのか、危ないと声を出したが、それよりも早くディアの後ろに立っていた男が剣を振り下ろそうとする方が早かった。
が、それに気づかないディアではない。両腕に巻いていた糸を外し、一瞬にして宙に浮かばせる。それと同時に腕を動かし、紐を引っ張る。無数の糸が襲撃してきた男に巻き付き、それによって動けなくなった男はついに地面へと倒れた。
「この人は貴方のお客様ですか?」
「招いた・・覚えはない・・・・・・が、心当りは、あるな」
「そうですか」
面倒になりそうだなと感じた時、深呼吸した男がふらふらと立ち上がった。それと同時に、兵士を連れた女性が現れる。ーーどうやらやり取りからして知り合いのようだ。
「大丈夫ですかっ?」
「遅い」
「申し訳ございません!! あら、こちらは?」
慌ててやってきた女性は謝りながらもディアの方に目を向けた。
「通りすがりの一般人ですのでご心配なく。では!」
これは面倒なことになると嫌な予感を感じたディアは逃げることにした。兵士が拘束した男から糸を回収して図書館の方へと走っていった。待てという叫び声が聞こえたがスルーだ。聞こえないとばかりに人ごみに紛れて図書館へ無事にたどり着くことができた。ーー出入国カードを落としたことに気づいたのはしばらくした後だったが。
「うわぁ・・・・・・どうしよう?!」
無くしたことに気付いたディアが頭を抱えたのは当然のことだ。
必死に探しても見つからない。再発行が必要だろうかと項垂れながら帰ったディアは気付いていなかった。あの脈診した時に男が隙を見てこっそりとカードを抜き取っていたことに。
追伸
「ご無事でよろしゅうございました。しばらくは横になっていらしてください」
「あの娘については調べ終ったか」
「ええ。すぐに割り出せました。しかも、かなり意外なお方でした」
「へぇ?」
「モーント国の第五王女でございます」
「まて、それは・・・・・・さっき父上が必ず明日会うようにと言っていたヤツじゃないか?」
「その通りでございます」
「・・・・・・・・・・・・ふーん?」
「会われますか?」
「カードを返さねばならぬし、礼もせねばな。明日にでも会おう」
「では、そのようにお伝えします」
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