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3)今になっての求婚
しおりを挟む今でも覚えている。
「あんっ……ふっ……くっ!!」
「いい声だ。もっと啼くがいい」
「やだっ……んっん―――!!」
繋がれた身体は何度も快楽の波に溺れては絶頂を迎えた。
泣きながら喘ぐ私を彼は見下ろして笑っていた。
鳥の音で目が覚めたディアはぼんやりとしながら天井を見上げた。
「うっわ……今更出てくるの、最悪」
何故、ずっと夢にすら出てこなかったあの人が出てくるのか。それも、2年も経った今になって………。何にせよ寝覚めが悪い。そう思いながらもディアはベッドを出た。
「おお、おはよう」
「あら、良く眠れたかしら」
「おはようございます、お母様、お父様」
両親に挨拶しながら食事の席に着く。朝食を食べていると、珍しく父が迷ったように声をかけてきた。
「あ~その、今日はお客様がいらっしゃるんだ。申し訳ないが少し部屋で待っていてくれないか」
「えっ? 今日は図書館に行こうと思っていたのですが。もしや、私に関係ある方なのでしょうか?」
「う、ううん……。あー、また詳しいことはお客様と確認してから話をしよう」
「随分歯切れが悪そうですね。お母様はなにかご存知ですか?」
「そう、ね。あなた、私の方から言いますわ。実は、貴方に縁談がきているのよ」
「またですか。どうせ、その方も私と会っては「やっぱり破談で!!」と、逃げていきますよ。今までそうでしたし。そもそも私は結婚する気などありません。孫なら結婚した姉達が連れて来てくれますとも。それに私は修道院にでもこも……」
「ディア、そこまでよ。誤解しないでちょうだいね。今回のお客様は私達が呼んだ方ではないの」
「えっ」
「だから、まず私たちが真意を確認したいのです。だから、貴方は部屋で待機して待っていらっしゃい。解ったわね?」
「‥‥‥はい、お母様」
母が話を遮るなど珍しいこともある。それほど大変なお客様だということだろうか。ディアはしぶしぶと頷いた後、部屋に下がった。いつもだったら読書を楽しむのだけれど、なぜか今日になって何かをする気も起きない。
「嫌だわ。あんな夢を見たせいね」
仕方がなくディアはベッドに横になりながら目を瞑った。今度はいい夢を見れるようにと願いながら。
暫くすると、頬に何かの感触が当たっていることに気付いた。それと同時に、自分がすっかり寝てしまっていたことにも。目を擦りながらも時間を確認しようとすると、なぜか声が降ってきた。しかも、その声は――――絶対ここにいるはずのない人間の声だった。
「ん……やだっ、今何時なの?」
「大丈夫、まだ朝の11時ぐらいだ」
思わず顔を強張らせたディアは嫌な予感を感じながらも恐る恐る声のする方に目を向けた。忘れようにも忘れられない。
今朝の夢にも出てきたオレンジの髪に薄緑の目。
「何故、貴方がここにいらっしゃるんですか、スピカ王太子殿下……!!」
「起きて第一声がそれかい。せめておはようぐらいは言うべきじゃないかな」
ディアは震えながらも、自分の頬を撫でている彼の手を振りほどいた。彼は一瞬目を丸くしたものの、相変わらずだねと肩をすくめている。苦々しくも起き上がったディアはぼさぼさになっていた髪の毛を三つ編みに束ねながら口を開いた。
「それで、どうしてここに?」
「――もちろん、あの時の約束を守ろうと思って来たのさ」
「それは拒否したはずですが。第一、貴方は私を信じなかったじゃないですか」
「そりゃそうさ。まさかのアレで完治するだなんて夢にも思わないじゃないか。だけれど、こうして俺が生きていることこそが全てだ。ああ、安心するがいい」
「……何を?」
「さっき君の両親には話を通してきたよ」
一体何の話を……そう思った時、思いだしたのは今朝のやり取り。あの縁談が来ているとかなんとかという話。
「もしかして、縁談というのは貴方からの!?」
「ツニャル国の王太子からの求婚だぞ。今までの中では最高の縁談だとおもわないか?」
「最悪の間違いでしょう!」
腹立たしいとばかりに思いっきり叫ぶと、スピカはなぜか笑っていた。それでこそ君だと不穏な言葉を口にしながら。
「ご歓談中失礼いたします。荷物の積み込みはこのトランクで最後になりますが、よろしいでしょうか」
「ぎゃっ、貴方もいたの、アメジス!!」
「もちろんでございます」
「じゃ、それらを運んでくれ。ディア、そろそろ行かなきゃいけないから準備を」
「へ?」
目の前でアメジスがひょいと4つはあるトランクを持ち上げながら部屋を出ていく。頭の上にまでトランクをのせていったアメジスを見送りながらも啞然としていたディアはどういうことだとスピカに目を合わせた。当のスピカはというと、勝手にタンスを開いて幾つかあるワンピースを物色していた。
「ちょ、ちょっと、何をしているの!」
「着替えを取っているだけだ。ああ、この色にしようか。うん、よく似あう」
「ま、待って……話についていけ、きゃあっ!!」
思わず声が上ずったのはスピカが服を脱がそうとしてきたからだ。スピカの手がそっと背中に回り込み、ファスナーを一気に下した。ディアは背中から聞こえる金属音に慌てふためきながらも真っ赤な顔で叫んだ。
「き、着替える! 着替えるからお願い、出てって――――!!」
スピカは舌打ちしていたけれど、最終的には追い出すことができた。混乱しながらも、なんとか着替えたディアは階段を下りた。すると、両親がスピカと何かを話しているのが見える。嫌な予感を感じながらも近寄ると、母がいきなり抱きしめてきた。啞然とする中、父も涙目で頷いていた。ちょ、一体何を言ったのよ、スピカ王太子ぃぃイイ!!
「……ディア。大変でしょうが、花嫁修業に励んで良き王妃になりなさいね」
「は?」
「お手数おかけするやも知れませんが、どうか我が娘をお願いいたします」
「もちろんですよ、義母上、義父上」
「我々をそう呼んでくださるとは、その、気が早すぎませんか、スピカ王太子殿下?」
「もう決定事項ですから。また連絡をいただければいつでも会えるようにしておきますので、どうぞ今後もよろしくお願いいたします」
「ありがとうございます。ああ、ディア……気を付けていくのだよ」
完全に私を嫁に出す気満々の両親に見送りされる中、馬車に押し込まれた私――ディアはドナドナされていった。
……奇しくも2年前に体をつなげた最悪最強の皇太子の手によって。
「なんでこうなるのよぉおおおおおおお!!!!!!!!!」
余談
「おや、気絶してしまわれましたか。やはりというか、ディア様は予想通りの反応でございましたね」
「全くだ。これほど予想を裏切らない展開だとはな。だが……やはりというべきか。モーント国の月姫と噂されるだけのことはある。まさかこれほどになっているとはな」
「誠に美しくなられて。こうなるとディア様の縁談を黙々と握りつぶされたことは正解でございましたね」
「おい、アメジス。それをディアにばらすなよ?」
「もちろんでございますよ、マスターの御心のままに」
「……わざとらしいぞ」
「とんでもございません。2年間も待ち続けていた姫を手に入れられたマスターの喜びに比べればとてもとても」
「……ちっ」
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