【R18】王太子と月の末娘の結婚事情

巴月のん

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5)王太子の思惑が読めない

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スピカは――この大国ツニャルをいずれ治める立場となる者。つまりは王太子である。その責務は恐らく私が思う以上に重いのだろう。その上に、母親に狙われる立場とあってはさもありなんというべきか。

「……何故、ですか?」
「物凄く簡単なことだ。あの女は俺が死なない限り正妃になれない」
「え?」

一体どういうことなのかと首を傾げると、スピカの傍にいたアメジスが説明してくれた。

「ディア様。王妃は王妃でも側妃の立場であせられます」
「はぁ?! なんでなの?!」
「父が正妃となることを拒否しているのさ。父には本当に愛する人がいた。それが、今の王妃の双子の姉にあたるネイティフェラ妃。元正妃であり、王妃にあたる人だった。もっとも、体が弱くて早々に亡くなってしまったと聞いているが」
「ええーー、じゃあ、王様はそのお妃様が亡くなられてすぐに妹君だった王妃様を妃に据えたということ?」
「俺が生まれたことでやむなくと聞いた。だが、父にも意地があったんだろう。正妃にはしなかった。それで歯ぎしり立ててるんだよ」
「え?でも、貴方が次の王様なんだから……」
「そんなことは関係ないね。あの女が望むのは王妃の立場じゃない。父の『正妃』という座だ。だが、父は今でも亡きネイティフェラ様を愛しているから、一生無理だろうな」
「……うわぁ、報われない恋をしてらっしゃるのか」
「俺には理解できないが、父に執着していることは確かだ。実際、昔は父が俺を構っているのすら、嫌って泣いたほどだからな。父も正妃にできない負い目があるのか、あの女のおねだりはなるべく聞いている節がある。まぁ、王という立場上、この国を傾けるようなことはさすがに断っているようだが」
「つまり、あれだ。スピカ様が外交に力を入れているのは城にいるより安全だからという」
「そういうことだな。だから病弱でも何がなんでも城から離れている時間が多い方が良かったんだ」
「にゃんというお国事情!」

思いっきり叫んだ私は悪くないはず。スピカもそうだろうと何度もうなずいていた。……パルやアメジスまで頷いていたのは余談である。

「あ、じゃあ。私が婚約者になるのも渋ったんじゃない?」
「かなーり渋っていたな。まぁ……それは貴族達や教会の方もだが。だが、2年でなんとか説得できたあたりまだマシな方だろう」
「巻き込まないでください……なんてこったい!」

おおうと頭を抱えているとスピカがなぜかいい笑顔で近寄ってきた。慌ててベッドから離れようとすると引っ張られ、布団へと押し倒された。

「え、ええ? い、一体何事……?」
「2年前、お前が戦う様子を見たのは本当に幸運だった。自分の身を守り、自分で戦える。さらに、医学にも精通していて毒にも詳しい。……そこらの貴族の娘ではこの城では戦い抜けない。だが、お前ならそれができる」
「あ、それで……」
「まぁ、それだけが理由じゃないが。だが、お前は言った」

そう言いながらも、何故か、貴方の手の動きが妖しいんですが。
ちょ、ちょっと、顎を掴まないでください!
何をす……!!

「2年前にお前は言ったな。“誰がこんな一夫多妻制度のある国に嫁ぐか!”って」
「あ~~いったようなそうじゃないような…‥」

確かに言った記憶はある。最後の最後に捨て台詞で。
この目の前の王子に抱かれている時に結婚するかと言われたのだ。本当にさらっとどうでもいいことのように。
それがイラっときたので、思わずそう言った記憶は確かに確かに隅っこにある。
だが、それは本当のことだ。
この国では王族のみではあるが一夫多妻制度が認められている。恐らく彼が言ったように、子どもが生まれにくいことが理由なのだろう。

怪しく微笑んでいる王太子が何をもってそれを言い出したのかわからないが、少なくとも間違ったことは言っていないはずだ。
唾を飲み込んだ後、なんとか強気に言ってみた。……思わず敬語になったことはゆるしてほしい。いや、だって、誰だって言いにくいだろうよ!

「そ、それがどうかしましたか!?」
「安心しろ、その理由もようやく潰せたから」
「……はい?」

思わずアメジスの方をガン見してしまう。アメジスがビクッとしながらも縦に頷いているのが見えた。その瞬間なぜか、顎をまた掴まれて、真正面から王太子…めんどい、スピカでいいや。彼と向かい合う形になったのは解せぬが。

「何故、アメジスに確認した? 俺に聞けばいいだろう」
「だって、本当かどうかわからな、ぐむ、痛い、痛い!!」
「つい先月、ようやく認可された。俺の代限りになるかどうかはさておき、少なくとも、俺の代ではお前以外を娶るつもりはない。よって、お前が次代の王妃だ」
「そんなつもりで言ったんじゃないぃいいいい!」
「だとしても、すでに俺は選び取った。モーント王家の末姫であるディアをな」

その時点でお前に逃げ道などない。

そう耳元で囁いてきた王太子様は悪魔としか思えなかった。

「もしかしなくとも……2年前に逃げたことを根に持っていた?」
「少なくとも、お前が逃げたことで本気になったことは確かだな」
「いやぁあああ、ごめんなさぃいいいい!!」

そんなつもりなんてなかったのに!
ただ、無理やり抱かれたことが腹立っただけで!

「解ってるさ。それについては俺も反省した。確かに初めてのセックスであれはなかったな。いくらお前の痴態に押されたとはいえ、さすがにやりすぎたと思っている」
「……うぅ」
「だから、久しぶりのセックスはもう少しマシな場所でしてやろう」
「ちがうぅううううう!そこじゃなーーーーーい!!」
「今日は抱きしめるだけで我慢してやる」
「とかいいながら、脱がさないで!!」

やり取りをしている間にも、あれよあれよとファスナーを外してワンピースを脱がせてくるこの素早さをどうにかしてくれ!本当に病弱だったのかと問いただしたいぐらいぴんぴんしてるじゃないのーーーー!

結局、下着もポイっと脱がされて布団の中へと納まってしまった。それなのに、彼はというと。

「なんで、服を着てるのよ、貴方だけ……!!」
「その気になったら止まらないからな。またここで抱かれたいなら話はべ…‥」
「あ、ごめんなさい、そういうのじゃなくて。私も服を着たいっていう方向で」
「それはダメ。俺の精神安定剤として抱きしめられていろ」

むにゅと胸を揉みながら何を言うか。というか、向かい合って抱きしめあってると、スピカの胸にある紐が当たって痛い。おもわず、紐を引っ張った私悪くない。
邪魔な紐をジト目で見ているとスピカがクククと笑っている。解せぬと眉をひそめていたら、スピカの手が髪の毛を触ってきた。

「……黒に銀。夜に浮かぶ月の如く。まさに月姫の呼び名にふさわしい」
「なんでそのフレーズを知ってるの」
「婚約者のことだからな。これでもかというほど調べたさ」
「でも、私は一番地味だわ。姉様達と比べたらとてもとても」

私には4人の姉がいる。いずれも外国諸国で美女、美少女と目されている。だからか、モーント王国の王女たちはまとめて『モーント王家の宝石箱』と称して噂されるほど。もっとも、2つ上の姉と一番上の姉以外は他国へ嫁に行っているのだが。

はぁとため息をついていると、なぜか勢いよく抱きしめられた。

「……ある意味でお前の鈍さに助けられたかもな」
「何か言いました?」
「いや、なんでもない」

わしゃわしゃと頭を撫でられてさらに胸へと押し付けられた私納得がいきません。
だけれど、スピカは私の腰に腕を回して目を瞑っている。気付けば、パルもアメジスも扉の入り口近くに立っていた。…‥多分だけれど、また逃亡されるのを恐れているのかなとさえ思うほど傍を離れようとしなかった2人に感心する。人間と違って眠気もないしね……羨ましいなぁ。

そんなことを考えていると、うとうとと眠くなった。
……いろいろと考えたいことはあるし、言いたいことも聞きたいこともたくさんある。
私が戦えて、医学の知識があるからって言われたけれど、これでも王族だよ。それが建前だってことぐらいわかる。

でも、本当の理由がどうしてもわからない。
2年前に抱かれたことの方がよっぽどわかりやすい。あの時は彼もせっつぱっていたし。
あ、そうか。その件がきっかけでって言うこともあり得るか。確かにこの身体は利用しやすいわよね。
でも、2年経ってて、もうすっかり健康になっているからもう必要ないんじゃ。
万が一の保険のためなのかな?

戦える女が欲しかったからっていうけれど、それなら、王太子様と同年齢の姉様の方がよほどいい。


なんで、私なの?

何故、私だったの?


……‥お父様たちはどうして私を手放すことを了承したのかしら。


本当にいろいろと気になっているけれど、それはもう明日に聞こう。今は…もう、ひたすらひたすら眠い。気付けば、もうすっかり窓から見る景色も暗くなっている。

空は私の冴えない黒い髪と同じ色に染まっている。


前世と同じ色なのは嬉しいようで複雑。
だって、お姉さまたちはもっと綺麗な色をしてらっしゃる。
それに比べたら私は…‥‥


ああ、もう卑屈な自分はこの空と一緒に消えてしまえ。
大丈夫、起きたらもうあっけらんとしたいつもの私に戻ってるはず。


だからーーーおやすみなさい。






追伸


「お父様、お母様、どうしてディアを手放したの?あの子は…私達の中でも……いえ、おそらくはこの国でも類を見ないほどの特異体質なのよ?」
「……解っている。だが、あの王太子はどういうわけか知っていたよ、そのことを」
「えっ…‥‥でも、あの子の体質については!!」
「そうですわ、肌を許さなければわからないはずですし、知ることができるはずもないです」
「考えられるとしたらあの子がそれを許したか…もしくは言ったとしか思えないのよね」
「そんな、馬鹿な……」
「言っただけならいいけれど、もし肌を許したとなれば……もしかして王太子はディアを利用しようとしているんじゃ」
「それはダメよ!なんとしても取り戻さなければ」
「……私達も一度ぐらいは会わなきゃならないわね…スピカ王太子殿下に」
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