【R18】王太子と月の末娘の結婚事情

巴月のん

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13)アンドロイドも困惑する聖女旋風

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ディア様はスピカ様の予想通りふくれっ面になっていた。スピカ様が何を言っても無反応でもぐもぐとデザートを食べ続けている。それにしてもよく食べられるなぁ、ディア様は。

「ディア、身体の方は大丈夫か」
「大丈夫なように見えますか」
「・・・・・アメジス、ディアのコップにおかわりを」

命じられたアメジスがスピカ様の横で拗ねているディア様のコップにお茶を注いだ。ディア様は狭量な方ではないので、私達に対しては普通に対応してくれる。無反応なのはスピカ様に対してだけだ。そういう意味では理性的な方ではあるのでほっとしている。

「このデザート、美味しいだろう? 明日な、これを作った方がザン兄と一緒に来られるんだ。ディアも会わないか?」
「・・・・・・ザン兄って、確かブラパーラジュの王子様だったよね?」

やっと口を開いたディア様にスピカ様は解りやすく笑顔になった。ディア様は相変わらずスピカ様の方を見ていないが、まぁ話せるだけマシということなのだろうなとパルは無言で見つめていた。

「そう。ブラパーラジュの第二王子であるザン様のことだな。これを作った方はその第二王子の妃であるアリア様で、本当にいろいろ頼み込んで作ってもらったんだ」
「アリア様って、聖女の!?」
「ああ。昨日、君の機嫌を損ねたことを話したらおもし・・・・・・いや、興味を持ったらしくて」
「一体何を話したんですか!」
「あー、うん。とりあえずそういうことで明日に来るんだが、どうだ」
「・・・・・・・」
「俺とディアの関係については全部話してあるから気を遣う必要もないぞ」

そういうことならとディア様は頷いていらっしゃったが、その後はひたすら無言でいたから許したわけではないと察した私達は触らぬ神たたりなしと、給仕に徹した。大変だったのは当のスピカ様だけである。そして、私はというと、ザン様やアリア様とは初対面になるので後でアメジスに話を聞いておこうと決めた。

「アメジス、ザン様やアリア様のことについて教えてくださいませんか」
「ああ、そうか。君は初対面になるんですね」
「はい。世間上での評判は聞き及んでおりますが、詳しいところまでは・・・・・」

一応データは入れておきましたと暗に告げると、アメジスは腕を組みながら言葉を選ぶように口を開いた。毎度思うんですが、お互いアンドロイドのわりには人間じみてますよね。

「アリア様については詳しくは存じ上げません。ですが、ザン様はスピカ様に対しては気さくな態度を見せていますね。普段は魔王と恐れられているので気難しそうな様子に見えるんですけどね。ただ、アリア様に関しては心が狭いとスピカ様に聞いたことが」
「そうなんですか?」
「ええ。今回も必死に頼み込んでやっとアリア様を連れてきてくれることになったとスピカ様が喜んでいたので相当なことだと思いますよ」

なるほどと頷いていたら、仕事が終わったスピカ様が戻ってきた。二人で一礼したら何を話していたと聞かれたので説明してみるとスピカ様は納得とばかりに頷いていた。

「ああ、なるほどな。確かにザン兄はアリア様を連れてくのを渋ってたな。アリア様は自動車にのりたい、汽車見たいとかなり乗り気だったが」
「・・・・・アリア様はこちらに来たことが?」
「いや、ザン兄から話を聞いていたらしいよ。それにアリア様はもともと異世界から来られた方だからな、自動車や汽車については詳しいし」
「――そうでしたか。それで、ディア様と会わせた方がいいと判断されたのですね」
「ああ。少しでも彼女の負担軽減になればと思ってな」
「スイーツでの機嫌取りの方が大きい気もしますが」
「・・・・・わかっていても言うなよ、アメジス」

時々抜けているスピカ様だが、こんなんでも一応は一国の王となる身だ。
せめてディア様が機嫌を直してくださらないと、スピカ様が使い物にならない気がいたします。

私の頭をべしっと叩いたのはアメジス。不満を表明してみれば、アメジスはため息をついたまま、隅っこを指さした。

「パル、せめて誰もいないところで呟きなさい」

指さした奥にはぶつぶつと座り込んで落ち込むスピカ様がいた。

「・・・・・・今度からそう致します」

それ以外に私が何を言えましょうか。ええ。というか、口に出てたんですね、気づきませんでした。そして、スピカ様が落ち込んでいるのを引きずっていくアメジス様、慣れてらっしゃいますね~。さて、ディア様を休ませなくてはなりません。

おやすみなさいませ。

今日はディア様も落ち着いたらしく、昨日のように拗ねた態度ではなくなったのでほっとしました。スピカ様への視線は相変わらず冷たいがそれはしょうがないことでございますね。

「ザン様やアリア様が来られるんだよね? 私、会話が上手い方じゃないんだけど大丈夫かなぁ?」
「スピカ様がおっしゃるには公式の場以外では気さくな方のご様子。万が一の時はスピカ様に任せておけばよろしいかと」

落ち着いた色合いのワンピースを着たディア様の髪を結わえて三つ編みにしたところで会話を終えた。スピカ様は準備のためにティールームへ先に向かったので、ディア様もティールームに繋がる渡り廊下を歩き始めた。庭に植えられた花を見てほっこりされているディア様の後ろで相打ちを打っていたら声が聞こえてきた。

「今日はいい天気ね」
「はい」
「あ、みーつけた。ディアちゃんだよね?」

気配を一切感じなかったことに驚くと、ディア様も警戒しているのか、目を細めている。声がした方向をみてみると、肩までかかった長い黒髪が印象的な女性兵士が立っていた。まるで異世界から伝わった黒曜石のように真っ黒な目に髪の毛。めったに見られないその色はディア様と全く同じ色。

「私と同じ・・・・・・色?」

ディア様が驚かれるのは当然だ。ディア様の故郷ではディア様以外に黒髪黒目の方はいないとお聞きしている。

パルとしては黒髪黒目という些細な問題よりも、ディアの身の安全の方が大事だった。ゆえにディアの前へと立ちふさがったが、彼女は動揺するどころか考え込んでいる様子を見せた。

「うーん。あっ、そっかそっか。誰かに似てると思ったら、アメジス君だ! あなたもアンドロイドなのかしら?」
「えっ、は、はい」
「そうなんだ。いい護衛さんだね。そうそう、自己紹介が遅れたね、私はアリア。ブラパーラジュから来た第二王子妃です♪」

目の前で優雅にお辞儀をして見せたその兵士に私たちが驚きの声を上げたのは当然のことといえよう。

「てへっ☆」
「我が妃が申し訳ない。アリア、あれほどうろちょろするなと」
「いいじゃない。ディアちゃんだって気楽な方がいいでしょ。ね?」
「え、えっと」

アリア様に話しかけられて困惑しているディア様を前に、スピカ様がため息をつきながら紹介を始めた。

「こちらがブラパーラジュの第二王子、ザン様。そしてその妃がそちらにいらっしゃるアリア様だ」
「今日は非公式できているので気楽にしていただいて結構です。というか、そうしてもらわないとわが妃の失礼が目立って・・・・・アリア、少し落ち着いてくれませんか!」
「――はーいはーい、おとなしく座ってまーす」
「時に確認だが、ディア様には転生の知識があると聞いている。それは事実でしょうか」
「あ、はい。その、アリア様も異世界の方、だとか」
「ええ。スピカ様から聞くに、あなたも私と同郷のようね?」
「じゃ、アリア様も日本生まれですか?」
「ええ。高校生の時にこっちに召喚されたの。いろいろいろいろとあったけれど、最終的には聖女として働いているわね」
「・・・・・・・・・ザン兄?」
「いろいろとあったんですよ、そういうことは聞かないのがマナーというものです、スピカ様もいずれはわかることでしょう。だから詳しくは聞かないでください、お願いですから」
「ザン兄、今更猫かぶっても仕方がないと思うよ」
「黙ってください」
「聖女・・・・・・では、どうして今日は兵士姿でいらっしゃったのですか?」

ディア様が口にしたとたん、アリア様が楽し気に立ち上がり、ディア様の腕を引っ張って立たせた。慌てるスピカ様をよそにアリア様はディア様の右腕を高くつきあげて叫ばれた。

「それはね、これからディアと一緒にお忍びデートに行くためよ♪」
「え? えええーーーー????」

ディア様の絶叫が響く中、スピカとザンは顔を見合わせてため息をついた。―――なるほど、アメジスがやっぱりとつぶやいているあたり、予想はされていたんですね。それで、私にディア様の着替えを用意しろとおっしゃったわけですか。 


何より、アリア様の性格が予想以上に明るくて・・・・・・全くついていけません。
――――とりあえず、私はどうしたらいいんでしょうか、マスター!!



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