18 / 25
18)アメジスとの別れ
しおりを挟む力が失われていく。
もうこの身体を動かせるのもあとわずか。
本体に戻らなければ。でも、その本体も浸食されてしまっている。
‥‥‥もう、無理、なところまで、きていますね。
――スピカ様の傍にいられて本当に良かった。
これで我が主も安心されることでしょう。彼女との約束のために、ずっと彼の成長を見守ってきました。そして、叶うならば最後までお傍にいたかった。
ですが、そろそろ私も限界が来ています。でも、スピカ様のことは心配いらないでしょう。
貴方の跡を継ぐ聖女様がスピカ様のお傍にいてくださるのですから。
どうか、我が主のためにも、スピカ様をお願いいたします、ディア様。
***
「マスター、ここでお待ちしておりますので」
父の執務室の前の廊下でそう言ってきたアメジスに頷いたスピカはそのまま扉の奥へと入った。
ディアの必死の説得により、渋々と自国戻ってきたスピカは真っ先に父親である国王との面会を願い出たのである。机を挟んで向かい合っていたスピカは執務机の上に封筒をおいた。
「父上、まずはこれを見てください」
封筒の中身はディアから預かった検査結果だ。それを手にしてざっと確認した国王は顔を上げてスピカに口を開いた。
「それで?」
「否定しないことということはその結果が正しいと受けとめてもいいのですね?」
「―――お前が自分の出自に興味を持つとは思わなかったぞ」
「実際、持っていませんでしたよ」
「あの娘か。なるほどな」
どちらかというとディアが率先して調べていましたからとスピカが言えば、王は立ち上がり、窓の方へと近づいた。彼の視線は窓に映る湖に向いている。
「本当の母親についてはもうわかっているようだな」
「ネイティフェラ正妃でしょう」
「うむ。このことを知っているのはほんの一握りゆえ、お前も明かしてはならぬぞ」
「貴族たちに狙われるからですか」
「貴族どもがネイティフェラを煙たがった理由、今ならわかるであろう?」
「ええ、“異世界の知識”を持っていたからですね。実際、ディアも襲われています」
「その通りだ。お前も今ならわかるだろうが、ネイティフェラは転生者でもあったのだ」
「しかし、そうだとしたら何故、王妃は俺を狙ったのですか」
「かつて正妃も何度か狙われた。そのたびに王妃は邪魔をするなと貴族たちを叩き落してきた」
「‥‥‥敵のふりをして守ってきたと?」
―――双子ということもあり、彼女達はとても仲が良かったぞ。
「現に、わしと正妃が結婚するときなぞ、あれに何度も恨み言を言われたものよ。もっと異世界のことを聞きたかったのに、ずっと一緒にいたかったのにとな」
「まさか、父上に対する態度も演技とかいいませんよね?」
「演技だぞ。王妃との関係ははっきりいえば同志に近い。王妃も俺と同じでネイティフェラを愛していたからな。だからこそ、あれはお前を見るたびに複雑だと口にしていた」
執務室を出たスピカは無言で自室へと戻るために廊下を歩いていた。廊下で待機していたアメジスはその後ろをついていく。扉が閉まったのを見たスピカはアメジスに目を向けた。
「――何故、俺に言わなかった」
「何をでしょうか」
「知っていただろう、俺の出自を」
お前は父上から譲り受けたアンドロイドで、それをさらに改良した。そういう意味ではずっと俺の傍にいたことになる。前のプログラムデータは処理できても、それをAIが自分の意思でソレを止めていたならば復元できる。つまり、アメジスは自分の出自を知っていたことになる。
「マスターには言わないようにと口止めされておりましたので」
「‥‥‥誰に?」
「それはお答えしかねます」
スピカは眉間にしわを寄せるが、アメジスはそれを気にした様子もない。――それを見たスピカは質問を変えた。
「父上もお前に正妃の死の原因を聞いたが一切答えなかったと聞いたが、それは本当だな?」
「はい、おっしゃるとおりでございます」
「何故?」
「それが我が主の望みでしたから」
スピカは瞬時に気付いた。父上からの命令でさえ答えなかったこのアメジスが主と呼ぶ者がいることに。そして、それと同時に、アメジスの目の奥の紫色に白色が混じるのが見えた。
「アメジス、どうした。その目は…‥」
「すみません、マスター。もう自分もそろそろ限界のようです。やはりパルを作るように進言したことは正解でしたね。叶うなら、もう少しだけ見て居たかったのですが」
「アメジス?」
「データのバグ発見。本体の損傷率82%に向上したため、危険と判断し、本体との接続を解除。その後、再起動を試みます。これにより初期化されるため、新たにデータ入力が必要となります…‥‥接続解除開始……」
スピカの目の前で、アメジスの目が白に染まったのと同時に突然数字の羅列が並んだ。身体が硬直したかと思うと痙攣し、目の中に浮かび上がった羅列がスロットのように激しく回りだす。
「アメジス!?」
「ディア様を‥‥‥どうか、手放、され、ませんように…‥」
彼の目に数字とメモリが表示されるのを確認したスピカは思わず慟哭した。
赤ん坊のころからずっと傍にいた。悲しい時も悔しい時も楽しい時もすべてを共有してきた相棒のような存在。
その彼が本当に最後なのだ。アメジスとの思い出をもう共有することが叶わなくなるのだと実感したスピカの目から涙が零れ落ちた。
「なぜだ、答えろ、アメジス!」
「…‥‥‥ほん、体の、あん、ごう…は、パル、に、託し‥‥マ‥‥ガガガ……あり、ガ、トウ・‥‥」
―――アメジスの声が小さくなったかと思うと、彼の口から無機質な放送が流れ出る。
呆然とするスピカの耳にこびりつくアンドロイドの声はそれまでのアメジスの声と全く違っていた。
『――本体との接続解除成功、確認OK、これより初期化を開始……』
***
申し訳ありませんが、どうやら、ここまで、のようです。
―――『アメジスト、この子をお願い。どうか、私の分までこの子の成長を見届けて。私はもう同じ間違いを犯したくないの』
はい、なんとか自我が残る限りお仕えさせていただきました。
我が主、私は貴方の傍にはいけませんが、ここから城を見守りましょう。
もう、自我も消えますし、遠隔操作できる力も、ないですが、それでも、ずっとここにいます。
―――パル、後は任せましたよ。
私が先代の聖女にお仕えしたように、今度は貴方が聖女にお仕えするのです。
それが我らが女神の本来の望みなのですから。
今は、女神さまが壊れてしまって、本来の役割を果たすことはかなわない。
それでも、聖女を守ることこそが女神さまのためになる。
女神さまが壊れたことによって力を失った我々は人間たちを助ける見返りに器を要求した。
聖女を守れるだけの城とアンドロイドを、そして文明の機器を発明させた。
我らは人間が作りし機械やアンドロイドに憑依することで生き永らえたモノ。
遥か昔は精霊と呼ばれていた我々の仲間もほとんどいなくなってしまった。
ディア様‥‥どうか、我々の女神を、そして、仲間を、助けてください。
そして、スピカ様を 。
11
あなたにおすすめの小説
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました
美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?
「地味ブス」と捨てられた私、文化祭の大型スクリーンで王子様の裏の顔を全校生に配信します
スカッと文庫
恋愛
「お前みたいな地味女、引き立て役にもならないんだよ」
眼鏡にボサボサ頭の特待生・澪(みお)は、全校生徒が見守る中、恋人だった学園の王子・ハルトから冷酷に捨てられた。
隣には、可憐な微笑みを浮かべる転校生・エマ。
エマの自作自演により「いじめの犯人」という濡れ衣まで着せられ、学園中から蔑まれる澪。
しかし、彼女を嘲笑う者たちはまだ知らない。
彼女が眼鏡の奥に、誰もが平伏す「真実の美貌」と、学園さえも支配できる「最強の背景」を隠していることを――。
「……ねぇ、文化祭、最高のステージにしてあげる」
裏切りへのカウントダウンが今、始まる。
スクリーンの裏側を暴き、傲慢な王子と偽りのヒロインを奈落へ突き落とす、痛快・学園下剋上ファンタジー!
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
【完結】モブのメイドが腹黒公爵様に捕まりました
ベル
恋愛
皆さまお久しぶりです。メイドAです。
名前をつけられもしなかった私が主人公になるなんて誰が思ったでしょうか。
ええ。私は今非常に困惑しております。
私はザーグ公爵家に仕えるメイド。そして奥様のソフィア様のもと、楽しく時に生温かい微笑みを浮かべながら日々仕事に励んでおり、平和な生活を送らせていただいておりました。
...あの腹黒が現れるまでは。
『無口な旦那様は妻が可愛くて仕方ない』のサイドストーリーです。
個人的に好きだった二人を今回は主役にしてみました。
【完結】仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが
ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。
定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない
そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる