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1:破滅のジェイク
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アーケイン。
かつて古の時代の支配者だった絶対強者達。
その生まれ変わり達が記憶と力を取り戻し始めたことによって、世界は再び戦乱へと突入した。
つまりはアーケイン達による支配地域の拡大競争の時代へと。
◇ ◆
大陸の中央エリアにある街、アルゴニア。
そこで冒険者をしている俺は、夕暮れの飲み屋で安酒を飲んでいた。
横では金回りの良さそうな男が高い酒を注文しているところだ。
もちろん高いとは言っても、あくまでも庶民中の庶民である俺の感覚でだが。
「マスター、スモーキーくれ!」
「スモーキーは品切れだ。悪いな」
「おいおい、マジかよ!」
「アーケインのせいで流通が死んじまってるんだ。酒も食いもんも、遠い土地のやつは当分入ってこねぇだろうな」
「それでみんな安酒飲んでんのかよ」
男は店の中を見渡した。
確かに彼の言う通り、俺以外の客たちもみんな最安値の地酒を飲んでいる。
他の土地の物資は輸送費が上乗せされるので高い。
特にアーケイン軍の支配下となった地域の物資は殆どが接収されてこちらにまで流れてこないため、さらに値段が跳ね上がっていた。
それこそ庶民にはとても手が届かないほどに。
(俺は単に金がないからだけどな)
俺は内心で少しだけこの状況を歓迎していた。
安酒を堂々と飲む理由になるからだ。
アーケインが世界を侵略し始めたのはここ数年の出来事だ。
だがこの街でしがない冒険者をしている俺は、その前からずっと貧乏で、安酒しか注文できなかった。
周囲が高い酒を飲む中で自分だけ安酒を飲んで馬鹿にされるよりは、今の方が気楽に飲めていいと思っていた。
「ちっ! なんだよアーケインの野郎ども!」
「おいおい、下手なこと言わないでくれ。アーケインの耳に入ったら俺の店ごと潰されちまう。この街にはまだ来てないとはいえ、支配地域は近くまで広がってるんだからな。あいつらに文句を言うならよそでやってくれ」
男は言葉をつまらせると、仕方なくみんなと同じ安酒を頼んで椅子に座った。
しかしその直後、慌てた様子の男が店に飛び込んできた。
「大変だ!アーケインの奴らがこの街にも来やがった!」
その言葉を聞いて、酒を飲んでいた男達は顔色を変えた。
もちろん俺も。
「アーケインが……。こんな時間にか?」
しかし俺はそう言った直後に考えを改めた。
(いや、むしろこの時間だからか。戦えそうな奴は大半が酒を飲んでる時間帯だからな)
夜は夜勤の兵が見張りをしているし、他の連中も酒が抜けて来る頃だ。
冷静に考えてみればこの時間帯は間隙になっているように思えた。
「数は? この街を襲うんだ。相当な大規模なんだろう?」
「いや、それが、十人ぐらいしか……」
「何? たったそれだけか?」
「舐めやがって!」
俺はその話を聞いて最悪の事態を想像した。
つまり単独で軍団にも匹敵する戦闘力を持つというアーケインがこの街に来ている可能性を。
冒険者というのは底辺の職業ではあるが、それなりの危機回避能力がなければ、中年に差し掛かる年齢まで現役を続けることはできない。
しかし他の男達はそうは思わなかったらしい。
「十人ならいけるんじゃねぇか?」
「むしろ余裕だろ!」
「よし! アルゴニアが他と違うってことを思い知らせてやろうぜ!」
「そうよ!」
(おいおい……)
酒と興奮で赤くなった顔のまま、男達は店の外へと出ていった。
「お前は行かないのか? ジェイク。こっちもあいつらのおかげで商売にならねぇからな。追い返してくれたなら今日の飯代はタダでいいぜ?」
「タダか……。よし、行くよ」
貧乏な俺にとって、タダ飯は魅力的だ。
というわけで俺もまたアーケイン軍を迎え撃つために店を出ていった。
◇ ◆
「おらおら! どけどけ!」
街の入り口では男達が声を張り上げていた。
「喜べ愚民ども! 今からこの街はアーケインの一人、『南のリリア』様の支配下にしてやる!」
「何だと?! 勝手なこと言いやがって!」
俺が到着すると、既に言い合いが始まっていた。
(なるほど、確かに敵は十人しかいないな)
敵の話を信じるなら、奴らは大陸の南方を支配するアーケイン、『南のリリア』傘下の兵達のようだ。
彼らはリリアのマークが描かれた旗を掲げている。
「十人でなにができるっていうんだ! みんな、やっちまえ!」
集まった街の男達は既に三十人以上いる。
しかもさっきの男が人を集めに街の中を走り回っているから、これからまだまだ増えるだろう。
自分達の勝ちは揺るぎないと判断して、街の男達は畳み掛けるように仕掛けた。
リリア兵達も引く様子はない。
夜の暗闇に松明だけが輝く中、乱戦が始まった。
しかし……。
「こ、こいつら、強いぞ?!」
人数では三倍もいた街の男達は、あっさりと最初の十人が倒されてしまった。
「ふん! 中央のぬるま湯に浸かりきった坊っちゃん達に負けるかよ!」
「くそっ! みんな、同時に仕掛けるんだ! いいか、一対一になるじゃないぞ?! 必ず複数で仕掛けるんだ!」
「ジェイク! お前も見てないで手伝え!」
「え? あ、ああ……」
俺は嫌な予感がしながらも、言われるがままに参戦した。
剣を抜きを、斧を持った他の男と一緒に一番近くにいた敵に斬りかかる。
「うおおおお!」
「遅い! 隙だらけだ!」
しかし攻撃は読まれていたらしく、俺は強烈な蹴りを腹部に食らって後ろに吹き飛ばされた。
確かに敵は俺達よりも強いみたいだ。
地方は魔物が強いというから、きっとその影響だろう。
「げほっ……」
剣を振り上げた直後に食らったせいで、俺はちょうどいい具合に呼吸を妨害されてしまった。
そして他の男達も同じように制圧されていく。
「ふん! 格の違いがわかったかお前達! おい、見せしめに一人殺してやれ!」
「わかったぜ!」
リリア兵は倒れている俺に狙いをつけると、剣で襲いかかった。
明らかに心臓狙いだ。
(こ、殺される!)
俺は逃げようとした。
しかしまだ呼吸が整っていないせいで起き上がれない。
このままでは死ぬ!
そう思った俺は、敵に対して咄嗟に手の平を向けた。
すると――。
ボンッ!
爆音。
魔法など使えないはずの俺の手の平から赤い閃光が放たれた。
それは俺を殺そうとしていた男の胴体を貫き、その全身を文字通りの灰へと変えてしまった。
「……え?」
突然の事態に、敵も味方も固まった。
そしてもちろん俺自身も固まった。
静寂。
「な、なんだ今の? 魔法か?」
「いやでも……、あんな魔法あったか?」
熱波で敵を攻撃する魔法は存在する。
しかし貫いた相手の全身を灰に変えてしまう魔法など、誰も知らなかった。
本当に見たことも聞いたこともない。
その時、リリア兵の一人が異変に気がついた。
「おい! あいつの額を見ろ!」
俺の方を指差して驚いた顔をしている。
確かに謎の魔法を放ったのは俺だから、俺を指差すのは不思議なことじゃないが……。
でもいったい、何に驚いているんだ?
「額? ……あっ!」
周囲の視線が俺に集まる。
しかし自分の額を確認できない俺自身は戸惑うだけだ。
(なんだ? 俺の額がなんだっていうんだ?)
「そ、その額に浮かぶ紋章はまさか!」
どうやら俺の額には紋章が浮かんでいるらしい。
後で鏡を見てみよう。
……ここを無事に切り抜けられたら。
「それはまさか! リリア様が絶対に敵に回すなと言っていた『破滅』の紋章!」
「間違いない! 『破滅』の紋章だ!」
なにやら物騒な連中がさらに物騒なことを言い始めた。
(破滅の紋章? おいおい、俺の体大丈夫か? 今度は俺の体が灰になるんじゃないだろうな?)
「つ、つまり、お前が五人いるアーケイン最後の一人にして、最強のアーケイン、『破滅のジェイク』!」
リリア兵が騒ぐのを聞いて、周囲がざわめき始めた。
「アーケイン? ジェイドが?」
単独で軍団にも匹敵する戦力を持つと言われるアーケイン。
奴らは俺がそうだと思ったらしい。
……いや、全く身に覚えがないんだが。
というかなんでこいつらは俺の名前を知ってるんだ?
単に同姓同名か?
だがこれはチャンスだ。
単純に正面から戦えば勝ち目がないのはもうわかっている。
さっきの魔法を使えれば勝てそうだが、出し方がわからない。
となれば……。
「ふう。全く、しがない冒険者ごっこを楽しんでいたっていうのに、まさかこんな形で邪魔されるとはな」
「ジェイク……。じゃあお前、本当にアーケインなのか?」
「ああ。黙っていて悪かったな。おい、お前達」
「な、ななな、なんだ!」
俺をアーケインだと思いこんだ敵は、ビビりまくっている。
これならなんとか誤魔化せそうだ。
「俺のことを知らなかったようだから今回は見逃してやる。それとも今の奴みたいに灰になるか? だがわかりきった無駄死にはオススメしないぞ?」
「そ、それは……」
「どうする? 『南のリリア』を連れてくるか? 同じアーケインとはいえ、結果は見えてるがな」
実際はどうなんだろう?
『破滅のジェイド』って『南のリリア』より強いのか?
本当に来られたら終わるな。
その時は速攻で逃げよう。
「くっ……。お前ら、撤収だ! 畜生! 覚えてろよ!」
わかりやすい捨て台詞を吐くと、リリア兵達は走って逃げていった。
「……ふう」
俺は敵の姿が見えなくなってからため息をついた。
直前まで酒を飲んでいた影響もあって、疲れがどっと押し寄せてくる。
なんだか一生分の度胸を使い果たした気分だ。
「ジェイク、お前……」
「ああ、話は明日にしよう。もう疲れた。帰って寝るよ」
俺はとにかく早く寝たかったので、さっさと話を切り上げて家に向かった。
貧乏な俺にお似合いの粗末な借家だが、今は極楽のようにも思える。
俺は剣と鎧を放り投げると、そのままベッドに倒れ込んだ。
そう、世界がとんでもないことになっているのも知らずに。
◇ ◆
翌朝、目を覚ました俺は体を洗おうと外に出ようとした。
安い借家に風呂なんてついていないから、共用の洗い場を使っている。
しかしドアを開けた瞬間――。
「ジェイク様!」
「キャー! ジェイク様が出てきたわ!」
「……は?」
家の前で俺を出迎えたのは、年頃の女達だった。
みんな、三十代後半の俺よりも年下に見える。
十代から二十代ぐらいか?
一番年上でも二十代半ばぐらいじゃないだろうか?
「いや、あの……、え?」
俺は戸惑った。
生まれてこの方、こんな風に女に囲まれた経験はない。
それもこんな器量良しの美人揃いとなれば尚更だ。
「これはいったい――」
「ジェイク様!」
俺が事情を聞こうとした瞬間、美女達の奥から身分の高そうな男が前に進み出てきた。
女達がそれに合わせてサッと左右に割れる。
俺の記憶が確かなら、この男は確か――。
「この街の領主、ナルザークと申します」
「え、領主様?」
俺の前に跪いた高齢の男は、この国でもかなり位の高い貴族だった。
古代における世界の支配者アーケイン。
その中でも最強だった男、『破滅のジェイク』。
俺がその男の生まれ変わりで、他のアーケイン同様に力と記憶を取り戻したという噂は、たった一晩で街中に広まってしまっていたらしい。
いや、街中どころか街の外にまでも。
この世界の人々にとっては俺はもう、完全に『破滅のジェイク』だった。
かつて古の時代の支配者だった絶対強者達。
その生まれ変わり達が記憶と力を取り戻し始めたことによって、世界は再び戦乱へと突入した。
つまりはアーケイン達による支配地域の拡大競争の時代へと。
◇ ◆
大陸の中央エリアにある街、アルゴニア。
そこで冒険者をしている俺は、夕暮れの飲み屋で安酒を飲んでいた。
横では金回りの良さそうな男が高い酒を注文しているところだ。
もちろん高いとは言っても、あくまでも庶民中の庶民である俺の感覚でだが。
「マスター、スモーキーくれ!」
「スモーキーは品切れだ。悪いな」
「おいおい、マジかよ!」
「アーケインのせいで流通が死んじまってるんだ。酒も食いもんも、遠い土地のやつは当分入ってこねぇだろうな」
「それでみんな安酒飲んでんのかよ」
男は店の中を見渡した。
確かに彼の言う通り、俺以外の客たちもみんな最安値の地酒を飲んでいる。
他の土地の物資は輸送費が上乗せされるので高い。
特にアーケイン軍の支配下となった地域の物資は殆どが接収されてこちらにまで流れてこないため、さらに値段が跳ね上がっていた。
それこそ庶民にはとても手が届かないほどに。
(俺は単に金がないからだけどな)
俺は内心で少しだけこの状況を歓迎していた。
安酒を堂々と飲む理由になるからだ。
アーケインが世界を侵略し始めたのはここ数年の出来事だ。
だがこの街でしがない冒険者をしている俺は、その前からずっと貧乏で、安酒しか注文できなかった。
周囲が高い酒を飲む中で自分だけ安酒を飲んで馬鹿にされるよりは、今の方が気楽に飲めていいと思っていた。
「ちっ! なんだよアーケインの野郎ども!」
「おいおい、下手なこと言わないでくれ。アーケインの耳に入ったら俺の店ごと潰されちまう。この街にはまだ来てないとはいえ、支配地域は近くまで広がってるんだからな。あいつらに文句を言うならよそでやってくれ」
男は言葉をつまらせると、仕方なくみんなと同じ安酒を頼んで椅子に座った。
しかしその直後、慌てた様子の男が店に飛び込んできた。
「大変だ!アーケインの奴らがこの街にも来やがった!」
その言葉を聞いて、酒を飲んでいた男達は顔色を変えた。
もちろん俺も。
「アーケインが……。こんな時間にか?」
しかし俺はそう言った直後に考えを改めた。
(いや、むしろこの時間だからか。戦えそうな奴は大半が酒を飲んでる時間帯だからな)
夜は夜勤の兵が見張りをしているし、他の連中も酒が抜けて来る頃だ。
冷静に考えてみればこの時間帯は間隙になっているように思えた。
「数は? この街を襲うんだ。相当な大規模なんだろう?」
「いや、それが、十人ぐらいしか……」
「何? たったそれだけか?」
「舐めやがって!」
俺はその話を聞いて最悪の事態を想像した。
つまり単独で軍団にも匹敵する戦闘力を持つというアーケインがこの街に来ている可能性を。
冒険者というのは底辺の職業ではあるが、それなりの危機回避能力がなければ、中年に差し掛かる年齢まで現役を続けることはできない。
しかし他の男達はそうは思わなかったらしい。
「十人ならいけるんじゃねぇか?」
「むしろ余裕だろ!」
「よし! アルゴニアが他と違うってことを思い知らせてやろうぜ!」
「そうよ!」
(おいおい……)
酒と興奮で赤くなった顔のまま、男達は店の外へと出ていった。
「お前は行かないのか? ジェイク。こっちもあいつらのおかげで商売にならねぇからな。追い返してくれたなら今日の飯代はタダでいいぜ?」
「タダか……。よし、行くよ」
貧乏な俺にとって、タダ飯は魅力的だ。
というわけで俺もまたアーケイン軍を迎え撃つために店を出ていった。
◇ ◆
「おらおら! どけどけ!」
街の入り口では男達が声を張り上げていた。
「喜べ愚民ども! 今からこの街はアーケインの一人、『南のリリア』様の支配下にしてやる!」
「何だと?! 勝手なこと言いやがって!」
俺が到着すると、既に言い合いが始まっていた。
(なるほど、確かに敵は十人しかいないな)
敵の話を信じるなら、奴らは大陸の南方を支配するアーケイン、『南のリリア』傘下の兵達のようだ。
彼らはリリアのマークが描かれた旗を掲げている。
「十人でなにができるっていうんだ! みんな、やっちまえ!」
集まった街の男達は既に三十人以上いる。
しかもさっきの男が人を集めに街の中を走り回っているから、これからまだまだ増えるだろう。
自分達の勝ちは揺るぎないと判断して、街の男達は畳み掛けるように仕掛けた。
リリア兵達も引く様子はない。
夜の暗闇に松明だけが輝く中、乱戦が始まった。
しかし……。
「こ、こいつら、強いぞ?!」
人数では三倍もいた街の男達は、あっさりと最初の十人が倒されてしまった。
「ふん! 中央のぬるま湯に浸かりきった坊っちゃん達に負けるかよ!」
「くそっ! みんな、同時に仕掛けるんだ! いいか、一対一になるじゃないぞ?! 必ず複数で仕掛けるんだ!」
「ジェイク! お前も見てないで手伝え!」
「え? あ、ああ……」
俺は嫌な予感がしながらも、言われるがままに参戦した。
剣を抜きを、斧を持った他の男と一緒に一番近くにいた敵に斬りかかる。
「うおおおお!」
「遅い! 隙だらけだ!」
しかし攻撃は読まれていたらしく、俺は強烈な蹴りを腹部に食らって後ろに吹き飛ばされた。
確かに敵は俺達よりも強いみたいだ。
地方は魔物が強いというから、きっとその影響だろう。
「げほっ……」
剣を振り上げた直後に食らったせいで、俺はちょうどいい具合に呼吸を妨害されてしまった。
そして他の男達も同じように制圧されていく。
「ふん! 格の違いがわかったかお前達! おい、見せしめに一人殺してやれ!」
「わかったぜ!」
リリア兵は倒れている俺に狙いをつけると、剣で襲いかかった。
明らかに心臓狙いだ。
(こ、殺される!)
俺は逃げようとした。
しかしまだ呼吸が整っていないせいで起き上がれない。
このままでは死ぬ!
そう思った俺は、敵に対して咄嗟に手の平を向けた。
すると――。
ボンッ!
爆音。
魔法など使えないはずの俺の手の平から赤い閃光が放たれた。
それは俺を殺そうとしていた男の胴体を貫き、その全身を文字通りの灰へと変えてしまった。
「……え?」
突然の事態に、敵も味方も固まった。
そしてもちろん俺自身も固まった。
静寂。
「な、なんだ今の? 魔法か?」
「いやでも……、あんな魔法あったか?」
熱波で敵を攻撃する魔法は存在する。
しかし貫いた相手の全身を灰に変えてしまう魔法など、誰も知らなかった。
本当に見たことも聞いたこともない。
その時、リリア兵の一人が異変に気がついた。
「おい! あいつの額を見ろ!」
俺の方を指差して驚いた顔をしている。
確かに謎の魔法を放ったのは俺だから、俺を指差すのは不思議なことじゃないが……。
でもいったい、何に驚いているんだ?
「額? ……あっ!」
周囲の視線が俺に集まる。
しかし自分の額を確認できない俺自身は戸惑うだけだ。
(なんだ? 俺の額がなんだっていうんだ?)
「そ、その額に浮かぶ紋章はまさか!」
どうやら俺の額には紋章が浮かんでいるらしい。
後で鏡を見てみよう。
……ここを無事に切り抜けられたら。
「それはまさか! リリア様が絶対に敵に回すなと言っていた『破滅』の紋章!」
「間違いない! 『破滅』の紋章だ!」
なにやら物騒な連中がさらに物騒なことを言い始めた。
(破滅の紋章? おいおい、俺の体大丈夫か? 今度は俺の体が灰になるんじゃないだろうな?)
「つ、つまり、お前が五人いるアーケイン最後の一人にして、最強のアーケイン、『破滅のジェイク』!」
リリア兵が騒ぐのを聞いて、周囲がざわめき始めた。
「アーケイン? ジェイドが?」
単独で軍団にも匹敵する戦力を持つと言われるアーケイン。
奴らは俺がそうだと思ったらしい。
……いや、全く身に覚えがないんだが。
というかなんでこいつらは俺の名前を知ってるんだ?
単に同姓同名か?
だがこれはチャンスだ。
単純に正面から戦えば勝ち目がないのはもうわかっている。
さっきの魔法を使えれば勝てそうだが、出し方がわからない。
となれば……。
「ふう。全く、しがない冒険者ごっこを楽しんでいたっていうのに、まさかこんな形で邪魔されるとはな」
「ジェイク……。じゃあお前、本当にアーケインなのか?」
「ああ。黙っていて悪かったな。おい、お前達」
「な、ななな、なんだ!」
俺をアーケインだと思いこんだ敵は、ビビりまくっている。
これならなんとか誤魔化せそうだ。
「俺のことを知らなかったようだから今回は見逃してやる。それとも今の奴みたいに灰になるか? だがわかりきった無駄死にはオススメしないぞ?」
「そ、それは……」
「どうする? 『南のリリア』を連れてくるか? 同じアーケインとはいえ、結果は見えてるがな」
実際はどうなんだろう?
『破滅のジェイド』って『南のリリア』より強いのか?
本当に来られたら終わるな。
その時は速攻で逃げよう。
「くっ……。お前ら、撤収だ! 畜生! 覚えてろよ!」
わかりやすい捨て台詞を吐くと、リリア兵達は走って逃げていった。
「……ふう」
俺は敵の姿が見えなくなってからため息をついた。
直前まで酒を飲んでいた影響もあって、疲れがどっと押し寄せてくる。
なんだか一生分の度胸を使い果たした気分だ。
「ジェイク、お前……」
「ああ、話は明日にしよう。もう疲れた。帰って寝るよ」
俺はとにかく早く寝たかったので、さっさと話を切り上げて家に向かった。
貧乏な俺にお似合いの粗末な借家だが、今は極楽のようにも思える。
俺は剣と鎧を放り投げると、そのままベッドに倒れ込んだ。
そう、世界がとんでもないことになっているのも知らずに。
◇ ◆
翌朝、目を覚ました俺は体を洗おうと外に出ようとした。
安い借家に風呂なんてついていないから、共用の洗い場を使っている。
しかしドアを開けた瞬間――。
「ジェイク様!」
「キャー! ジェイク様が出てきたわ!」
「……は?」
家の前で俺を出迎えたのは、年頃の女達だった。
みんな、三十代後半の俺よりも年下に見える。
十代から二十代ぐらいか?
一番年上でも二十代半ばぐらいじゃないだろうか?
「いや、あの……、え?」
俺は戸惑った。
生まれてこの方、こんな風に女に囲まれた経験はない。
それもこんな器量良しの美人揃いとなれば尚更だ。
「これはいったい――」
「ジェイク様!」
俺が事情を聞こうとした瞬間、美女達の奥から身分の高そうな男が前に進み出てきた。
女達がそれに合わせてサッと左右に割れる。
俺の記憶が確かなら、この男は確か――。
「この街の領主、ナルザークと申します」
「え、領主様?」
俺の前に跪いた高齢の男は、この国でもかなり位の高い貴族だった。
古代における世界の支配者アーケイン。
その中でも最強だった男、『破滅のジェイク』。
俺がその男の生まれ変わりで、他のアーケイン同様に力と記憶を取り戻したという噂は、たった一晩で街中に広まってしまっていたらしい。
いや、街中どころか街の外にまでも。
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嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
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